「トレーナー! はやくはやく〜!!」
時の流れは早い。この間まで正月だったのに、桜の季節は過ぎ去り、梅雨も来たのか来てないのか分からないまま気づけば夏。
「リッキー……元気だねぇ〜。わたしゃもう……ぶへっ」
「ええ!? ちょっとトレーナー大丈夫?」
砂浜に顔面からダイブしようとする私を、私の愛バであるコパノリッキーは抱きかかえた。
そのまま私とリッキーは、一度パラソルと共に設置されたチェアへと避難することにした。この暑さでは語れるものも語れまい。
「しっかし、もうさすがに慣れたもんだねー。こうして砂浜で遊ぶ時間まで取れるようになったとは」
「初めての夏合宿が懐かしいね。あの時はテレビ出演だとか取材だとかで、ぜんぜん走れなかったっけ……」
私たちにとって6回目の夏合宿である。リッキーは未だにトゥインクルシリーズで走り続けている。親しかったワンダーアキュートやホッコータルマエは既にドリームトロフィーリーグへと移行。正直リッキーも、昨年いっぱいで移行するのがベストだと考えていた。
しかし、最後の最後で彼女から直々に『もう一年だけ』と言われてしまった。私はトレーナーである以上、彼女の意志を可能な限り尊重すると決めた。
ダートチャンピオンである彼女も、もう全盛期ほどの走りはできない。盛者必衰はレースでも変えられない理で、リッキーも抗うことはできなかった。
「必死だったからねぇ。そう思うと、あの頃のリッキーはかなり子どもっぽかったな」
「ちょっとー。トレーナー? ……今は大人っぽくなった?」
「んー、せいぜい風水の嬢ちゃんってとこかな」
「え〜、なにその微妙な表現……及第点かどうかも分かんないよ」
「でも走ってる時のリッキーは、前も今もすごく綺麗だよ」
「ん……!? そ、それは照れるって……」
それでも、コパノリッキーの走りは人々を魅了する。私も含めて。努力、才能、そして極めつけの風水によるひと押し……これらが綺麗に揃っている彼女の走りは、誰もが真似できない唯一無二のものだった。
「さて、そろそろリッキーで遊ぶか」
「うん。君ね? と、だよね。で、じゃないよね。君が私で遊ぶと、風水に基づいた髪のセットとかお化粧の類とかその他諸々が崩れて困るんだよ?」
「ふふ……私は一向に構わん」
「いや私が! かまうんだよ!? もー、君の気運も良い方向にいくよう調整してるのに……」
「えっそうなの知らなかった」
「この話もう4回目くらいなんだけどなー?」
そろそろ可愛い点について話したい。シリアスでクールな感じの話もいいけど、やっぱり彼女の魅力は他にもあるのだ。
まずこうしてイジると適度に返してくれる。ボケればツッコミ入れてくれるし、ただとぼけただけでも面白おかしく返してくれたり。単純にすごく良い子なんだよね。
「でもそっか〜私の為に毎朝、しかも風水に基づいて上手く整えてくれてるってわけだ。良い子だね……よしよし」
「あっ…………って! 私の言ってたことちゃんと聞いてたのかな!? 頭撫でたら崩れちゃうって〜!?」
「まぁまぁ、そこまで緻密なものじゃないでしょ」
「そうだけど……ってそういう所は知ってるんだね、まったく」
更にこのビジュアルの良さ。艶のある栗毛はほんとよく手入れされてるし、ぱっちりとした目があまりにもキュート。しかも最初に遠目で見た時は、マヤノちゃんとかマーベラスちゃんに近い子なのかな? と思った。けど、この子どっちかと言うとお姉さん寄りの気質なんですね。
背もそこそこ高いし、ふわっとした雰囲気で話しかけやすい。そのせいか風水が世間に浸透したあとはかなりの人気者になって、メディアも盛り上がったしね。
そして私はれっきとした成人女性だけども、思春期の男子とそう変わらない思考をしているのだ。好きな子にはいじわるしたい、それが私。
今日も今日とて愛バを愛でるぞ。気合いを入れて……。
「ふふ……でもありがとね。リッキー」
「うん。君は
「リッキー……こんな所で言うのもあれだけどさ」
「うん? どうしたの?」
「私、リッキーのこと……」
「……え、ちょっとトレーナー?」
「ん……」
「え、えっ……んっ……♡」
頬を赤らめ目を閉じるリッキー。写真でも撮っておきたいところだけど、私には時間がない。この目にしかと焼き付け、私は……。
「……フゥーッ」
「ひゃあっ!?」
リッキーの耳に息を吹きかけたのだった。
「最高だったよリッキー……ごちそうさま」
「………………っ」
「…………リッキー?」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
「君ってやつはぁ〜っ……もう許さないからね!!!」
「あ、その……ご、ごめんなさーい!?」
「砂浜で私と勝負する気かな〜っ!!」
このあと滅茶苦茶追いかけっこした。