トップアイドルのウマ娘がアグネスデジタルのトレーナーをやる話   作:けいI

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責任はとる

 

 

 私がさあ口説こう!と、意気揚々と一言話して5秒くらいで、突如として奇声を上げて倒れたアグネスデジタルちゃん。

 一度冷静になってもらおうと狙って言ったところもあったため、狙い通りといえばそうなのだが、これは少し効きすぎじゃないだろうか。

 崩れ落ちるように倒れるもんだから、一瞬殺してしまったんじゃないかと内心かなり焦ったのは内緒だ。頭を打たないよう受け止められたのは奇跡といっていい。

 

 まあ、周りにほかの子がいないのは確認済みだったので、トップアイドルが言葉巧みに生徒の心臓を止めた!なんて噂が立つことはないだろう。対処のために立ち会ったトレーナー、もとい私の兄弟にも口止めはしたし、このことが漏れる心配はないはずだ。いざとなったら兄弟にも情報操作を手伝ってもらおう。

 

 …なんかやってることがその筋の人っぽいのはなんでだろう。あれ?私救援に来たんだよね?

 

 もう一つ解せないのはその兄弟がさっきから目を合わせてくれないことだ。

 最初に現場についたときには「よく来てくれた兄弟!」なんて熱烈に歓迎してくれたのに。

 倒れたアグネスデジタルちゃんを迅速に運ぶのに協力してくれたから、助かったぜ兄弟!と声を掛けたら急にどもり初めて「き、恐縮です…」としか返してくれなくなってしまった。どうした兄弟。一緒に肩を並べた戦友じゃないか。今後もお世話になる予定だし、もっと交友を――って、まってどこいくのちょっと!おーい!

 

 …行ってしまった。トイレだろうか。お腹おさえてたし。いや、それにしては妙に私とアグネスデジタルちゃんの顔の間で視線が行ったり来たりしてたのが気になる。

 

 まあその問題は後においておくとして、今優先すべきはベットで苦悶と歓喜が入り混じった表情を浮かべて寝ている彼女のことだろう。

 

 目を覚ますまで待ちたいところだが、あいにくあまり時間はない。マネージャーがさっきから時間を気にしてせかしてくる。この後私はそれはもううれしくない仕事の嵐が待っているのだ。申し訳ないが声をかけて起こしてしまおう。

 

 「おーい、アグネスデジタルちゃーん。気持ちよさそー…いや一概に気持ちよさそうとは言えない顔して寝てるとこ申し訳ないんだけど、ちょーっと起きてもらえるかなー?」

 「…ぐぅ、うへへ、いやぁわたしなんてそんな……。」

 

 起きない。今度は肩を軽く叩いて呼びかけてみる

 

 「アグネスデジタルちゃーん。大事なお話があるんだけど―」

 「いやでもそれは私の信条がぁ…っ!。…すぅ」

 「…起きないね」

 「…起きないわね」

 

 ふむ、だめっぽい。しっかし寝てても面白い子だな。さすが私。見る目がある。

 

 「…リリー、もうそんなに時間はないけど、どうするの?起きるの待ってたら発表に間に合わないわよ?」

 「そうだよねー。うーん…」

 

 本当にどうしようか。今後のことを考えると予定をずらすのは避けたい。かといって、こっちをまた後日に回すのはもっと避けたい。他のトレーナーに取られるなんてごめんだからね。

 

 「…よし。ちょっとかわいそうだけど、落ち着くのを待ってる時間もないからね。後で謝んなきゃだけど…」

 「……なにする気なの?」

 

 いぶかしげにこちらを見るマネージャーににへらっと笑顔を向ける。

 

 「ちょっと強引に行こう」

 

 私はベットで眠るアグネスデジタルちゃんに近づき、鼻と口を抑え彼女の呼吸を一時的に止める(マネしないでね!)。

 …だんだん苦しくなってきたのか、顔が青くなってきた…もうそろそろかな?

 

 「――っぷはぁああ!し、しぬっ、死ぬかと思った!」

 

 そろそろ離すべきかと考えていた私の手を跳ね除けて飛び起きるアグネスデジタルちゃん。呼吸が荒く、肩で息をしている。

 さすがに強引過ぎた自覚はあるので、ゆっくりと息を整えられるようにと背中をさすってあげる。

 

 「よしよし、急にごめんね?大丈夫?」

 「あ、ああ。いえ、わざわざすみません。ありがとうございます。呼吸はだいぶ整って――」

 

 背中をさすっている存在が誰だか気づいたのだろう。こちらを見た途端感情が抜け落ちたような顔して呆然としている。顔色はまだ少し悪い。

 …え?生きてる?微動だにしないんだけど。さっきまでの荒い呼吸が嘘のように静かだが、うっすらと呼吸音が聞こえるので生きてはいるのだろう。ならよし。

 ここでもう一度口説いてもいいのだが、ついさっき彼女を運び込んだときにマネージャーにしこたま怒られたばかりだ。もっと相手を知ってからにしなさーい!って。

 なのでとりあえず、この子の考えとか行動とか理念とか信条とかコース適正とか得意な走法とか趣味とか家族構成とか友人関係とか、あと私が『最推し』らしいから『私のこと…どれくらい好き?』とか聞きたいんだけど…。

 うーん。さすがに難しいかなー?

 最低限危険がないことがわかればいいだろうから、せめてなんであんな狂気に侵されてたのかってことは聞き出したい。

 

 私がどうやってこの子の口を割ろうかと考えているうちにだんだん感情が戻ってきたのだろう。先ほど戻ったはずの顔色がすごい速さで青く染まっていく。…叫んだりしないよね?さすがに今人に来られると困る。いちいち説明とかしてらんない。

 

 

 

 …あぁ、そうだ。

 

 

 

 「きっ――」

 

 叫ぼうとしたその口を抑えるため、私は素早くその両手をつかんでベッドに押し倒し――

 

 

 

 

 

 叫ぼうとしたのであろうその唇を、覆い隠すように自分の口で塞いだ。

 

 

 

 

 

 「――?―――!!??――!!!???」

 

 自分の状況を今度はすぐに理解したのだろう。

 

 私を突き放そうとするその手を力づくで抑え、逃がさないように自分の体重を乗せて無理やり拘束する。

 

 私が普通の人間であれば間違いなく重症を負うほどの力だが、あいにく私もウマ娘だ。対抗するのは容易い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――!!!!!――――ッ!!――――――」

 

 

 

 

 

 

 「―ぅ―――っ――」

 

 

 

 

 

 …だんだん瞳から力が抜けてきた。もうそろそろいいだろう。

 

 私はゆっくりと唇を離し、見せつけるように口元を舌で舐める。

 

 

 

 彼女は混ざり合った二人の唾液を口元から垂らしたまま、再び先ほどと同じような呆然としたような顔を晒していた。

 唯一違うのは、顔が青ではなく真っ赤に染まっている点だろう。

 

 

 

 …うん。これでいい。

 

 

 

 隣をみれば、マネージャーがはくはくと口を開けたまま顔を赤くしたり青くしたりしている。両手を前方にさまよわせているのを見るに、止めるべきか迷ってはいたらしい。まぁ結局止められなかったあたり、さすがマネージャー。初心だね。

 

 でもまあこれでいろいろと話を進められるだろう。顔をアグネスデジタルちゃんへと戻し、未だ呆然としている彼女に向けてニヤリとした笑顔を向ける。

 

 

 「さて、アグネスデジタルちゃん。私と『おはなし』しようか」

 

 

 彼女の喉が、ゴクリと上下に動いたのが見えた。

 

 

 

 

 

 。。。。。

 

 

 

 

 

 

 「――そのあとの話は、すでにお二人が知る通りです…」

 

 そういって、彼女はその独白を締めくくった。

 

 

 …なるほどね。実に興味深い話だった。

 

 自称「普通のファン」を名乗る彼女にこの独白をさせるのはなかなか骨が折れる仕事だった。

 これは夢だこれは夢だって現実逃避を始めるもんだから。まさか自分のトレーナー生活(仮)の一発目の仕事が介抱とは思わなかったよ。いや、ほとんど自分のせいなんだけど。

 …いや、「夢と現実の境にメスを入れる作業」と言えばそれっぽいな?よし、今度から聞かれたらそう答えよう。

 

 最初はおっかなびっくりだった彼女も、話しているうちに緊張が取れてきたようで、思っていたよりすらすらと話してくれた。まあ私の顔を一切見ようとしないので、さっきのことは意図的に忘れて現実逃避しているっぽい。

 

 にしてもまぁ、腹がよじれるかと思った。まだ痛いもん。お腹も頭も。

 二人とも加減を知らんのかって言いたくなるね。マネージャーはハリセンどっから持ってきたし。まさか私のために持ち歩いてるーなんて言わないよね(笑)?まさかね。まさかまさかですよ。………嘘だと言って。私の平穏のために。

 

 マネージャーから一歩、心と体の距離を開けてから、改めてアグネスデジタルちゃんに向き直る。

 最推しに会えたんだからそりゃ喜ぶだろうと思ってみれば、なんともまぁ。…なんだ。…いやほんとに何だろう。筆舌に尽くしがたい感じの表情してる。例えるなら…そうだな、帰ってきた主人を迎えるために笑おうと思って泣きながら後ろ向いたときに背後にきゅうりがおいてあったときの猫の口に急にチュ○ルを突っ込む動画を見た注射直前のパグみたいな顔してる。つまりよくわからない。それどうゆう感情表してんの?

 

 まあいろんな感情が渦巻いているんだろうと雑に解釈してを声をかける。

 

 「話してくれてありがとうね。じゃあわかってるかもしれないけど改めて名乗ろうかな。アイドルのシルバーリリーフです!今は君のトレーナー志望かな!できれば――」

 

 途中で眩しそうに目を逸らそうとしたので両手で顔をつかんで無理やりこちらに向ける

 

 「できれば今度とも長い付き合いを頼むよ!」

 

 顔が近づいたことで先ほどのことを思い出したのだろう。視線が一瞬私の口元に行ったのがわかる。パグから赤面したインスマス面になった。…だからそれどうゆう感情なの。

 

 「と、トレーナー志望?私の?え?誰が?」

 「私、シルバーリリーフが、君の、トレーナーを志望してるの。ダメかな?」

 「だ、ダメっていうか…、え、でも、リリたん、アイドル…、いや、え?トレーナー?」

 

 なにやら現実が理解できていないようで、とぎれとぎれに単語をつぶやいてフリーズしてしまった。

 うん。大混乱だね。追い込んだ手前申し訳ないが仕留めにかかろう。

 

 「ひとつづつ整理しようか。まず、君にはトレーナーがついていない。そうだね?」

 「へ?あ、えと、はぃ。すみません」

 「ふふっ、謝る必要はないよ。むしろ、君にトレーナーがついてないことに感謝してるくらいなんだから」

 「ヒェッ…」

 

 私の笑顔にやられたらしい。奇声を放って震え出した。

 

 「次に、君はトレーナーについてほしい?」

 「え、え?え?」

 「君は、トレーナーが、欲しい?」

 「欲しいって、え、いや」

 「君がレースをするために、トレーナーは必要でしょう?欲しいよね?ね!」

 「欲し、いやでも、リリ――」

 「ね!」

 「は、はい」

 

 よし、やってることがほぼほぼ詐欺の手口だが、まあ幸せにするので許してほしい。

 

 「じゃあ最後だ!私がトレーナーじゃ、いや?」

 「あ、え、い、いやってゆうか、だってリリたんアイドルだしそもそもウマ娘――」

 

 「…私のこと、嫌い?」

 「好きです」

 

 かかった。即答だった。

 今のところこの上目遣いに勝てた奴はいない。マネージャーを除いて。私の必殺技の一つだ。

 

 「じゃあ問題ないね!ささ、ここにお名前書いてー。はいこれボールペン」

 「あ、いや、ちょっ、まって。今のは、ちがっ、くはないけど…!」

 「私のサインでもなんでもあげるから。お願い?」

 「書きました」

 

 うおう、ペン先が見えなかった。なのにめっちゃ綺麗に書くじゃん。え、私もその特技ほしい。頼んだら教えてくれるじゃろか。

 まあでもこれで目的は達成した。えへへ。

 

 「うん、上手に書けたね!えらいえらい。頭をなでてあげようね」

 「え、いやぁ。うへへ、それほどのことでも。うへへへへ」

 

 にちゃあっとだらしなく顔を歪めて、至福の表情で私の手を享受するアグネスデジタルちゃん。

 この子の表情すんごい良く変わるな。見てるだけでめっちゃ楽しい。おーよしよしかわいいねぇ。

 

 「…リリーが………詐欺師に………………どこで教育を………」

 

 一連の様子を見ていたマネージャーが何やらぶつぶつと生気の抜けた顔でつぶやいている。ほら、時間ないんでしょ。さっさとあの秘書さんにこれ渡しに行くよ。

 

 「じゃあアグネスデジタルちゃん――」

 

 いや、そうだな…これからパートナーになるわけだし…デジちゃん…いやネルちゃん?……デジちゃんかな。こっちのがしっくりくる。

 

 「うん。よし、デジちゃん!これから長い付き合いになるけどよろしくね!」

 「あっ…」

 

 私の手が頭から離れたことについ名残惜しそうな声を上げるデジちゃん。…なにこの子。超かわいいんだけど。持って帰っちゃダメかな…。いや、我慢だ。耐えろ私。

 これ以上ここにいると自分の欲を抑えられる気がしないので、足早に部屋を出る準備をする。準備といっても持ち物はほぼないので、やることは主にマネージャーを正気に戻すことだ。ほらいくよー。歩いてー。

 っとそうだ。

 

 「デジちゃん」

 「ふぇ?」

 

 何その返事。かわいい。

 

 

 「今日のことは、二人だけの秘密だよ?」

 

 

 ピシリ、といった様子で固まるデジちゃん。当然この場にはマネージャーもいるため二人きりではないのだが、まあ様式美、というやつだ。あとこっちの方が威力が高い。私がやるとなおさら。

 

 「じゃあまた来るから、それまでいい子に待っててねー!」

 「…え?ちょっと!リリー!?」

 

 正気にもどったマネージャーを連れて医務室を出る。行き先は理事長室だ。急がねばなるまい。途中で何人か生徒さんにすれ違ったが、私を見た途端硬直したり荷物を落としたりと忙しいそうなので、手を振ったりウィンクしたりといったファンサは最低限にとどめる。

 

 さあ忙しくなるぞー私!

 

 

 

 

 

 。。。。。

 

 

 

 

 

 その日、私は自分がどうやって自室にたどり着いたのかまるで覚えていなかった。

 

 呆然としたまま部屋につき、壁に飾られたリリたんのポスターをみて、

 

 ようやく、自分が何をしていたのかを思い出した。

 

 「っきゃあああああああああああ――――」

 「うるさい」

 

 あまりの情報量の多さに耐えきれず悲鳴をあげると、バシッと頭を叩かれた。振り向くとそこには同室のアグネスタキオンさんが――。

 

 「どうしようどうしようどうしようわたしどうしたらいい!?どうしたらいんだろうわかんないよぉぉぉぉ!」

 「うおっ、ちょっ。なにがあったか知らないが、少し落ち着きたまえ」

 

 思わずその腰にすがりついてまくし立てる私。いつもなら推しであるウマ娘に触れるなんて絶対にありえない暴挙だが、あいにく私の頭にはそれを考慮するだけの理性が残っていなかった。

 

 「わたしどうしたらいい!?どうすればいい!?どうつぐなえばいい!?」

 「もう少し冷静に話を――」

 「秘密だから言えないのぉぉ!!わたしファン失格だよね!?もう同志のみんなに顔向けできないどおすればいいのおおおおお!!!」

 「私の話を――」

 「このままわたし刑務所行きかなぁ!?禁忌を犯したものとして処刑されちゃうのかなぁ!?やっぱり自首した方がいいのかなぁ!?」

 「いったい何の――」

 「タキオンさんわたしどおしたらいいのおおおおお!!!!!」

 「落・ち・着・け」

 

 口に何か突っ込まれたかと思えば、一気に視界がぼやけてくる。

 

 

 

 …やっぱりこれ、夢だったんだなぁ。そうだよね。私が推しとキスするだなんて、絶対にありえないし。

 

 

 

 内心、これば夢であることに安堵しつつも、心のどこかで少し残念だと思う自分がいる。

 

 

 

 

 

 …夢だけど、やっぱりリリたん、可愛かったなぁ……………。

 

 

 

 

 

 

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