マチをママにする程度の能力   作:まだ名前はありません

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『マチ』という名前と『ママ』という単語が非常によく似ているということに気づいたので初投稿です。


旧時代
国を滅亡させる程度の能力


気がついたら、見覚えのないボロ小屋の中にいた。

 

しかも、身体が幼児サイズに縮んでいる。たぶん小学校にも入っていないくらい。

 

最初は何が起こったか分からず混乱してしまったが、周囲の様子を観察している内に現状を理解することができた。

 

 

 

間違いない。

これは日本の無形文化遺産である異世界転生ってやつだろう。

 

 

小屋にあった古新聞を見ると、まるでハンター文字のような未知の言語で書かれている。

地球のメジャーな文字にこんなものはない、と思う。たぶん宇宙人か異世界人の文字だろう。

つまり、地球とは別の場所に転生してしまったと考えるのが妥当だ。

 

 

 

そうと分かれば話ははやい。

 

早速、親に媚を売るとしよう。

 

 

 

常識的に考えて、この年齢の子供が一人で生きていくことは困難。

今まで俺の面倒をみていた親か保護者がいるはずだ。

 

 

ある程度まで体が成長するまでは、その人に頼らねばならない。

 

こんなボロボロの小屋に住んでいるような人物だ。

おそらく、あまり裕福ではないだろうし、生活にもそこまで余裕はないはずだ。

機嫌を損ねたりしたら、捨てられてしまうかもしれない。

そんなことにならないように、可能な限り媚びへつらっていこうと思う。

 

 

 

小屋の入り口付近に落ちていたガラス片を使って確認したところ、幸いにもこの新しい体の容姿は悪くないようだった。

黒色の髪と目は何となく日本人っぽい。

 

きっと母親は和風美人に違いない。というか、そうであってほしい。

 

小屋の中に女性ものの服や下着が置いてあったので、勝算は十分にあるだろう。

ただし、衣類のサイズが小さく下着とかのデザインとかも少し子供っぽい気がするので、もしかすると母ではなく姉かもしれない。

 

だが、それでも全然アリだ。

 

 

俺が着ている布の切れ端を縫い合わせて作られた半纏は、縫い目が非常に丁寧で、深い思いやりのようなものを感じる。

 

これらの情報から、俺の母か姉は、優しくて裁縫が得意な家庭的な女性だと推察できる。

 

 

勝ったな。

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方。

 

少しワクワクしながら和風美女の帰宅を待っていると、突然轟音が響き、地面が大きく揺れ、ボロ小屋が吹き飛んだ。

 

 

 

俺の顔を掠めるようにして瓦礫が超スピード飛んでいく。

 

今のが直撃していたら間違いなく死んでいただろう。

 

 

何が起きたか分からないまま、俺はその場を逃げだした。

 

背後からは悲鳴や爆発音のようなものが聞こえてきたが、振り返ることなく体力が続く限り走り続ける。

 

 

 

 

離れた場所から、ボロ小屋のあった方向をそっと窺う。

周囲には、大勢の野次馬が集まってきていた。

彼らの話を盗み聞きしたところ、どうやら何とかという不良グループのような連中が争っているらしい。

 

 

この辺りはスラム街で、想像以上に治安が悪いようだ。

新しい人生がベリーハードモードだと判明し、泣きたい気分になった。

 

 

 

騒ぎが収まるまでにかかった時間は、体感で二十分か三十分くらい。

 

少し前まで俺の住んでいた小屋は跡形もなく消え去り、ただの瓦礫の山だけがそこにあった。

瓦礫を掘りおこせば服くらいは見つかるかもしれないが、争いの勝者と思われる不良グループのメンバーがまだウロウロしているので近づけない。

 

戦利品でも漁っているのだろうか。

 

 

 

 

 

彼らの戦利品漁りは、辺りが暗くなるまで続いた。

 

その間、少し離れた場所から気配を消して様子を窺っていたのだが、俺の保護者らしき人物が現れることはなかった。

 

危険な不良グループに近づくのを嫌ったか、あるいは争いに巻き込まれて死傷してしまったか。

理由は分からない。

 

 

その日はゴミ山の上で眠り、翌日は夜明けから太陽が高く昇るまで小屋のあった場所を見つめていたが、それらしき人物は現れなかった。

 

普通ならばちょっと様子を見に来るぐらいしても良いはずだ。

 

 

 

一度、小屋があったはずの場所に戻り、その場に座る。

 

 

そのまましばらく周囲を見渡してみたが、どこにも人影はなかった。

 

 

 

 

 

俺は瓦礫を積み上げて小さな山を作り、手を合わせた後、立ち上がり、全力で走った。

 

 

走るのに疲れたら少しだけゆっくりと歩き、また走った。

 

 

 

日が沈み、暗闇で何も見えなくなったので座って休む。

 

疲れていたせいか、いつの間にか眠ってしまったらしく、気づいたら夜が明けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は、何か食べられる物を手に入れる必要がある。

 

幸運なことに、この辺りはリサイクル業が盛んであるらしい。

人の手は多いほど良い。

 

周囲の大人たちは、ゴミの中から使えそうなものを見つけ出して金に換えていた。

 

 

 

 

 

俺もそれをマネてみるが、なかなか上手くいかない。

 

慣れていないせいで手際が悪く、年齢のせいで身体能力も低いため作業スピードが非常に遅い。

そして、身体能力が低いということは、自衛能力が低いということと同義である。

 

 

「おい、そこのガキ。いいもの持ってるじぇねぇか。よこせ」

 

 

大人とは腕力が違い過ぎて、勝負にすらならない。

 

 

「ったく、トロいガキだな。さっさとしろよ!」

 

 

見るからに悪人っぽい男に殴られ、せっかく見つけた戦利品を奪われた。

 

 

 

力が弱いならば、それを数で補うという方法もある。

他の子供たちと手を組めば、大人にも対抗できるかもしれない。

 

しかし、住んでいた小屋を潰した不良グループの事を考えると、なんだかそんな気分にもならなかった。

 

 

 

 

働いて働いて奪われて。働いて働いて奪われて。

 

そんなことを続けている内に、いつしか俺はカモとして認識され、「トロいガキ」「トロいやつ」あるいは単に「トロイ」などと呼ばれるようになった。

 

 

俺は今世での名前を思い出せなかったので、開き直って『トロイ』と名乗ることにした。

 

別にトロくたって構わない。

 

 

 

『駑馬十駕』という言葉がある。

 

これは、足の遅い馬(駑馬)でも十日走れば足の速い馬が一日かけて走るのと同じくらい進むことができる、という意味だ。

 

能力で劣っていたとしても、コツコツと頑張れば追いつくことができる。

 

 

毎日、朝早くから暗くなるまで、休まずに体を動かし続ける。

 

お金も貯まるし、同時に体も鍛えることができる。まさに一石二鳥だ。

 

生き残りさえすれば、いつか必ず追いつける。

 

 

 

 

そんな生活をはじめてしばらく経った頃、不思議なことが起こるようになった。

 

 

 

その日、俺は全力で不良から逃げていた。

 

以前と比べて俺の体も一回り大きくなり、足が遅い大人からならば逃げ切ることができるくらいの身体能力を得ていた。

しかし、その日の追手は人間とは思えないほど足が速く、あっという間に捕まってしまった。

非常に運が悪い。

 

 

 

不良男に足蹴にされ、せっかく見つけたマニアに売れそうなお宝が奪われた。

 

それは、一本のビデオテープ。

 

 

 

パッケージとテープの中身が同じであるならば、犬とやっているやつのはずだ。

こんなものを欲しがるなんて、とんでもない変態野郎である。

せめて女と犬だったのならまだマシだった。

でもこれ男と犬だぞ。しかもデカいプードル。

救いようがない変態だ。

 

 

いったいどんな顔をしているのか見てやろうと思って顔を上げた瞬間、その変態は突然フラフラと体を揺らし、その場に座り込んだ。

 

その動きは、まるで酒にでも酔っているかのようだった。

 

 

アルコールを飲んだ後に運動をすると酔いが回りやすく危険である。

この変態はそんなことも知らなかったのか。

というか、酒が飲めるほど懐に余裕のあるやつが子供から物を奪うなよ。

 

最初はその程度の認識だった。

 

 

 

ところが、その後も同じようなことが何度も続けて起こった。

 

大人げない連中が俺から物を奪った後、フラフラと酒に酔ったような動きをして倒れるのだ。

 

 

 

俺は思った。

 

もしかして何か特殊な能力に目覚めてしまったんじゃないか、と。

 

年齢的に考えると中二病にかかるにはまだ数年は早いはずだが、この一連の出来事を単なる偶然だと考えるのも難しい。

たしか、ジョジョの敵キャラが使うスタンド能力に、手で触れたものを爆弾に変えることができるというヤツがあった。

それと同じように、触れた物体に何か影響を及ぼすスタンド能力的なものを使えるようになったのではないか。

 

 

そう思い色々と試してみた結果、俺は確かに特殊な能力に目覚めているようだった。

 

ただし、その能力は能動的に使えるものではなく、あくまでも受動的に発動するものだ。

発動条件は『誰かから何かを奪われる』こと。

自分の意志で相手に物を渡した場合は何も起きなかった。

 

能力が発動すると、俺から何かを奪った人間は強制的に酩酊したような状態となる。

 

そしてその効果は奪った物の価値に比例するらしい。

あのビデオテープを欲しがっていた変態の場合は、酔った後に倒れて頭を打ったくらいで済んだ。

意識を失ってはいたようだったが、普通に呼吸はしていた。

おそらく死ぬことはないだろう。

 

しかし、先ほど能力の検証中に俺が着ている服を脱がせた小児性愛者の場合は、急に全裸になりその場でぶっ倒れて完全に呼吸が停止した。

酔いが強すぎたのだろう。アルコールを摂りすぎると普通に死ぬからな。

 

まあ、当然の報いだと思う。

母か姉が作ってくれたであろうこの服は俺の命の次に大事なものだ。

許可なく触れただけでも万死に値する。

 

なぜ全裸になったかについてだけはよく分からなかったが、検証を続ける内に判明した。

 

俺の能力はただ簒奪者を酩酊させるだけではない。

奪われた物を奪還し、さらに相手の物を奪う能力も持つらしい。

 

たとえば小銭を数枚ほど巻き上げられた時は、明らかに盗られたよりも多い大量のコインや紙幣がその場に転がった。

ゴミ山から拾った雑誌を奪われた時は、大量の大人の本が現れて潰されそうになった。

 

 

ようするに、俺は何かを奪われると相手を酩酊させ、奪われた物および相手が持つ同じカテゴリの品を取り返すことができるのだと考えられる。

 

 

まるでギリシャ神話の『トロイの木馬』みたいだな、と思った。

 

かつてトロイという国の王子が、ギリシャにあるスパルタという国の王妃を奪い去った。

当然、それに怒ったスパルタ王たちギリシャ人は、王妃を奪還するためトロイに攻め込んだ。

 

戦いは何年も続いてなかなか決着がつかなかった。

そんな時、ギリシャ側の頭の良いやつがすごい作戦を思いつく。

大きな木馬を作りその中に兵士を隠れさせるというものだ。

 

ギリシャ軍が負けたふりをして撤退した後に木馬だけが残されているのを見たトロイの人々は、戦利品としてそれを持ち帰り戦勝の宴を開いた。

その夜、木馬に隠れていた兵士たちは、トロイの内部に味方を引き入れることに成功する。

酔い潰れた敵の兵士たちを倒し国を攻め滅ぼすことは簡単だった。

ギリシャ人たちは奪われた王妃を取り戻し、逆に敵側の王女などを戦利品として持ち帰ったのだという。

 

 

奪った相手を酔わせ、奪われたものを奪還し、逆に相手のものを奪う。

この流れが俺の能力と非常に似ている。

特殊能力には名前があった方が何となく格好いい気がするので、このスタンドっぽい能力を『トロイの木馬(トロイ・ホース)』と呼ぶことにした。

 

 

ちなみに、ギリシャ人の王妃が奪われた理由は、彼女が世界一の美女だったかららしい。

物語の王妃や女王などは大体美人であると相場が決まっている。

 

先ほど大量に降ってきた大人向けの本も、鞭を持った美人の女王様が表紙になっているものばかりだった。

変態ばかりだな、この街。引っ越そう。

流石に身の危険を感じる。

 

それに、俺の能力は少し目立つ。

 

突然、街中で人が全裸になったり大量の女王様の本がばら撒かれたりといった事件が連続して起きたら流石に不自然すぎるだろう。

 

しかも俺の能力は何かを盗られると強制的に発動してしまうのだ。

同じ場所に留まるのはどう考えても得策ではない。

勝手に俺の物を横取りし勝手に倒れた連中が報復しにくる可能性もある。

 

俺はすぐにこの変態の巣窟から立ち去ることに決めた。

 

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