マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
「オレはさ、奪うのは好きだけど奪われるのは嫌いなんだよね。君と同じでさ」
幻覚の男はあまりにもリアルだ。
まるで本当の人間であるかのように。
「だからさ、せっかく集めたコレクションを奪われるのなんて、絶対に嫌だった。盗られるくらいなら自分で消費しちゃえ、って思った」
コレクション。
それは男にとっと相当に大事なものらしい。
「俺の本のページ、全部白紙になってたろ? 何もなくて不思議に思ったよね? あれさ、オレが使わせてもらったんだよ。この体を作るために」
念能力者にとって『発』というものは
その『発』の情報を誰かに知られるだけで命取りになるほどに重要とされている。
にもかかわらず、『発』そのものを奪われてしまうというのは、命を奪われるということに限りなく近い。
ただでさえ、念能力者という存在は希少なのだ。
そんな選ばれた才能ある人間の命とほぼ等価なものものを一体何人分、あるいは何十人分集めたのだろうか。
強い死後の念が、この世に一つしかないそれらの貴重品たちを全て、混ぜて雑ぜて交ぜる。
そうして、一つの人の形をしたものが作り出された。
一つの頭と十二本の脚を持つ蜘蛛は、十字教における救世主とその弟子である十二使徒を暗示しているという。
頭が救世主であり、脚が使徒たちだ。
十字教において救世主は神と同一視される。
そして、その救世主は断罪されて一度殺された後、再誕したのだという。
様々なものを混ぜて混沌を作り出し、そこから再臨した救世主。
それは『混沌の神』に他ならない。
「それがあなただと?」
「そう、俺はクロロ……だった男、クロロ=ゴーストとでも名乗ろうか。よろしく」
男が手を差し出し、握手を求めてくる。
「わかりました。ですが長いので団長と呼ばせてもらっても?」
俺がそう提案すると、男は好きにしろとばかりに肩を竦めた。
とりあえず、彼について色々と聞こうと思ったのだが、それを手で制された。
「残念だが今は時間がない。飛ぶぞ、その馬の翼が消える前に」
団長の推察によると、俺には『自身に血などの体液を流させた相手に対しその液体量に比例した時間だけ飛行能力を与えてしまう』能力があるのではないか、ということだった。
時間経過により天馬ちゃんの翼が消えて木馬ちゃんに戻った時、その効果は消滅する。
それが団長の推測だった。
もし本当にそうだとすると、敵に切られて
クソゲーである。
まぁ、だとしても関係ないか。
もう誰にも何も奪わせなければいいだけだからな。
「それよりも、急ごうよ。君、身分証もってないでしょ? どうやって試験会場までいくつもりなの?」
そう言われた瞬間、俺は背筋が冷やりとするのを感じた。
やばい。いままで俺はマチのハンターライセンスの力に頼ってきた。
たしかに、このままでは飛行船にすら乗れはしない。
当然、試験会場にもいけない。
不戦敗となってしまう。
「いこう。目的地はヨークシンだ」
団長に促されるまま、一緒に天馬ちゃんに騎乗してベランダから空へと舞い上がった。
「あ、本は消さないでね。オレの姿も消えちゃうから。オレからは見えるけど、言葉が通じないと不便でしょ」
到着したのは廃墟だった。
「団長、ここが試験会場なの?」
どう見ても、ただの廃ビルであり、参加者らしき人影は全くない。
それどころか、見るからに治安が悪そうな場所なのに、粛清すべき不良の影すら見当たらない。
つまらない場所だ。
「はぁ? オレが試験会場なんか知ってるわけないじゃん」
俺は無言のまま、そこそこの念を込め団長の足を蹴ったのだが、逆に俺の方が痛みで転げまわるはめになった。
「バカだなぁ。オレが受けたダメージは本体である君にも還元される。ちょっと考えればわかるだろう?」
俺にコレクションを奪われるのは嫌だから、自分の新しい体を作るのに使った。
ただし、その結果、その存在自体が俺のもの、守護霊的なものとなった。
守護霊がダメージを受ければ、それは本体にも還元される。
そういう仕組みのようだ。
俺は団長への報復を諦め、どうしてこんなところに来たのかを尋ねた。
「ここにはコレクションが隠してあるんだよ。君に貸してあげようと思って」
彼が壁に蹴りを入れて穴を空けると、その中に金庫のようなものがあるのが見えた。
俺は次からは蹴らずに殴るように注意した後、その金庫の中身を見せてもらうことにする。
「ほら、いいナイフでしょ。こっちのベルトも貸すから、持っておきなよ」
俺は言われた通りに、ベルトを腰に巻きつけ、そこにやたらとスタイリッシュなデザインのナイフを2本ほど差し込んでおいた。
「あとは……ほら、予備の身分証! これがあれば俺は船に乗ったりとか色々とできる」
「いや、背後霊だけ飛行船に乗っても意味ないだろ。本体の俺はどうしたらいいんだよ」
「どうしてもっていうなら、一時的に俺の事をパパって呼んでもいいよ」
どうせ増えるなら、パパよりもママが良い。
俺はそんなふうに感じた。
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