マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
決着はついた。
勝利のためとはいえミルクオリゴを投げたせいか団長が何か言いたげな顔をしているが、鬼札を晒し続けるのは得策ではないので非実体化させておく。
団長が持っていたミルクオリゴが大地の引力に引かれて落下し、カランカランと大きな音を立てた。
引力とは、二つの物体の間に働く力のことであり、それらの物体の質量に比例する。
当然ながら、惑星が重ければ重いほど、大きければ大きいほど、大地と人間との間の引力はデカくなる。
この惑星は、とてつもなく大きい。
人間が住む土地の外に広大な暗黒大陸などと呼ばれる大地が広がっているのだから。
この惑星は、少なくとも木星と同じくらいの大きさはあるかもしれない。
太陽系において大きさ質量ともに最大の惑星である木星は、直径が地球の12倍、質量が地球の300倍はあるとされる。
おそらく地球の表面積とそう変わらない広さの土地が、メビウス湖という名の一つの湖の中に入ってしまうほどなのだ。
むしろ、そのくらいの大きさはあると考えた方が妥当だ。
そうであった場合、当然、重力も地球より遥かに大きくなければならないし、その大きな力から逃れることは地球の場合よりも困難である。
つまり、そんな重力にも負けない俺の吸引力はすごい。そういうことだ。
シスターがナイフを拾ってきてくれたので、礼を言ってから受けとる。
彼女は何ともいえない表情を浮かべている。
俺とトルテの勝負が衝撃的すぎたのかもしれない。
だが、あれは必要なことだった。
頭に血が昇るという言葉があるように、人間は頭部に血が集中しすぎると冷静ではいられないのだ。
だから、血を抜いて体全体の血液量を減少させた。
そして、地面に引き倒して座らせたのは、重力の作用を強めるためだ。
物体間に働く引力というものは、その間の距離の2乗と反比例する。
つまり、地表との距離が近ければ近いほど重力は大きくなる。
地面に座らせることで、惑星とトルテの脳の間の物理的な距離を縮め、脳内の血液が体側へ流れやすくしたわけだ。
俺の行動は常に極めて合理的なものばかりなのである。
そんな説明をしようとしたのだが、シスターはさっさといけというジェスチャーをする。
今回の狩りのターゲットはマチ。
当然ながらシスターの顔は知られてしまっているので、一緒にいるより、顔を隠して別行動とした方が都合がいい。
こちらの戦力を少なく誤認させることができるからだ。
とはいえ、守りを薄くするのも悪手である。
そこで登場するのがクララだかクーラーボックスだかという名前の冷気を操る魔法少女だ。
あらゆる危険な植物を枯れさせたりして、世界から毒を消滅させようと企む危険なやつだが、護衛の戦力としては十分使えるはず。
問題は俺が使いこなせるかどうかという点だ。
正直、これについてはあまり自信はない。
メインの護衛とするのは不安だが、トルテの補助をさせる程度ならば大きな問題はないはずだ。
その点に関しては、わざわざトルテが迎えに来てくれて助かったとも言える。
「で、問題なのはクララの方だ」
シスターたちと一度別れた後、トルテと荷物を背負い、勝手に先に船を降りたらしいクララを追いかけた。
「いい情報を手に入れてきたぞ。先ほど知り合いと会ったのだが、やつは一本杉という場所に向かうと言っていた。きっと近道があるんだ」
金髪幼女は、大きな木のある山を指さしながら言った。
一応、彼女はそれなり以上に優秀なようだ。
彼女がどこからか持ってきた情報は間違っていない。
原作でも主人公たちは、いま彼女が言った『一本杉』へと向かい、最終的には試験会場へ連れて行ってくれるナビゲーターと出会うことになる。
シスターたちにある程度調べてもらっているので、試験会場も判明しており、俺たちは直接そこに行くこともできる。
今回の場合、別にナビゲーターの場所へなど行かなくてもいいのだ。
だが、俺には一つだけどうしても気になることがあった。
だから一本杉に、というよりもその道中にある場所に向かうことにした。
「ドキドキ2択クイ~~~ズ!」
クララに荷物を渡して俺はトルテを担いだまま道を歩いていると、突然現れた謎の老婆が試験の開始を告げる。
本日、二度目となるドキドキ2択クイズである。
先へ進みたければクイズに挑め、1問のクイズが出題され、考える時間は5秒。
そういった意味合いの内容を老婆から伝えられ、早速クイズが出題された。
「母と姉のどちらかしか助けられない。①母②姉、どちらを助ける?」
この問題の解答は既に知っている。
①と②のどちらを選んでもいけない。
ただ『沈黙』しているのが答えなのである。
それを知っている俺からすれば、ただ黙っていればいいだけの簡単なクイズだ。
「……もし、①と②が同一人物かもしれないとしたら、どうすればいいと思いますか?」
だが、どうしても気になってしまい俺は出題者の彼女にそう尋ねてしまった。
「少し、話をしようか。ついてきな」
彼女の後をついていくと、一台の乗用車を停めてある車庫へたどり着いた。
「ドライブでもしながら話そう」
俺は助手席に座るよう促され、運転席のハンドルはどこからか取り出したサングラスをかけた出題者の女性が握る。
クララが荷物をトランクに入れ、トルテと一緒に後部座席に乗り込むのを待ってから、車は走り出した。
彼女は運転中、これまで自身が経験したことなど色々な話をしてくれた。
俺はほとんど話を聞くばかりであったが、車が停車するまでの間、会話が途切れることはなかった。
到着した場所は、一軒の特に珍しさも感じられないような食堂。
ここの店員に合言葉を伝えれば、試験会場へのエレベーターに乗せてくれるらしい。
「坊や、強く生きな」
そんな言葉を残し、女性は元の場所へと帰っていった。
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