マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
ゴンたちと話をしていると、第1次試験の開始を告げるベルが鳴り響いた。
原作において、この最初の試験では、持久力などが試される。
試験内容は試験官の移動速度についていくこと。マラソンである。
俺は、この試験は木馬ちゃんに乗って移動すれば楽勝だな、などと楽に考えていた。
予想外の事態になったものの、なんとか原作世界線に近くなるように修正をすることができた。と安心していた。
だが、そんな俺の努力を無にするような事件が起こった。
なんと偽物の試験官が現れたのだ。
「これから第1次試験をはじめる。全員、あたしについてきな。遅いやつは失格だよ」
試験官は、マチ=コマチネと名乗った。
マチ=コマチネと言えば、プロのフルーツハンターとして有名である。
ハンター試験の試験官は、プロハンターが務めることになるので、本来ならばおかしなことではない。
だが、俺は知っている。
マチ=コマチネという女が、マチ=オルタナティブという名前で試験に参加していることを。
つまり、たったいま試験官として現れた女はマチであるはずがない。
それに、原作の世界線では、この第1次試験の試験官はサトツという男だったのだ。
これらの情報を合わせて考えると、マチと名乗っているマチの影武者が、本物の試験官を倒すなり買収するなりして試験官になりすましていると推測できる。
もし本来の試験官がサトツという男であった場合、買収されたという可能性は低いと考えられる。
彼はどちらかというと真面目そうな雰囲気の男性なので、そういった提案をマチがしても断るのではないだろうか。
そうなってくると、一番確率が高そうなのは『マチの偽物がサトツを仕留めて試験官の座を乗っ取った』である。
試験官であるプロのハンターは念能力者だ。
それを倒せるほどの実力があって、マチに成りすますこともできる。
そんな人物の候補はそう多くはない。
十中八九、偽マチの正体は、マチオルタだろう。
俺は今更ながら、周囲を見渡し受験者たちの顔を確認していく。
受験者たちの中に、マチ顔の人物がいれば、俺のマチオルタ偽試験官説を後押しする証拠となる。
反対に、マチ顔の受験者がいなければ、試験官は本物のマチであり俺の想像もできないような陰謀を企んでいる可能性が出てくる。
いない。
いない。
受験者の中からマチ顔の人物を見つけることはできなかった。
とはいえ、全員の顔をしっかりと確認できたわけでもない。
ローブのようなもので全身をすっぽりと隠している受験者が何人かいたのだ。
現時点までに得られた情報を合わせると、偽試験官はマチオルタであり、ローブの人物たちの内の誰か一人がマチであると考えるのが妥当だと思われる。
この状況で俺はどうするべきか。
偽試験官はおそらくマチと協力関係にあるか、少なくとも敵対はしていないと判断して良さそうだ。
ということは、偽試験官に近づいたりしたら危険かもしれない。
攻撃してきたり、罠に嵌めようとしてきたりするかもしれない。
本来であれば、俺は木馬ちゃんに乗った状態で、試験官のすぐ後ろを走っていく予定であった。
目的地にゴールした時の順位がはやい方が高評価を得られると考えていたためだ。
だが、罠が設置してある可能性を考えると先頭付近を走るのは危険すぎる。
ひとまずは他の受験生たちを先に行かせて、罠の有無を確認した方が賢明だろう。
その結果、特にそういったものがなさそうならば、ゴール付近で追い抜いてトップになれば良い。
俺はそういった作戦を伝えるべく、トルテとクララを近くに呼び寄せ、シスターたちには作戦変更のハンドサインを送った。
他の受験者たちがどんどん去っていくことに焦る気持ちもあるが、その気になればすぐに追いつけるのできっと大丈夫だろう。
俺は近づいてきた幼女たちの腰に手を回し、引き寄せる。
二人は「わっ」という驚きの声を出しつつも抵抗することはなかった。
こうすることで、俺はただ幼女とイチャイチャしているだけのショタにしか見えないはずだ。
まさか試験を攻略するための秘密の作戦会議をしているとは思わないだろう。
しかしながら、そんな俺の完璧な計画は、突然現れた一匹の乱入者により破られてしまった。
「毒っ!」
クララが叫び声をあげながら、氷で作られた爪を振るう。
その一撃は、俺たちに向かって飛んできていた一匹の蜂を叩きつぶした。
念による攻撃だ。今の蜂は襲い掛かってくる瞬間にオーラを纏ったので間違いない。
襲撃者の特定は容易だった。
今の段階で、この場に残っている受験生は、4人。
ちなみに、木馬ちゃんとチョコロボは受験生ではない。
よって、俺とトルテとクララ、その他にもう一人ローブで全身を隠した人物がいるだけ。
その人物が誰か、俺はある程度予測ができている。
原作世界線のハンター試験において、ポンズという蜂を操る美人さんが登場するのだ。
状況的に考えれば、ローブの人物はポンズであると思われる。
襲ってきた理由は不明だが、俺の勘だと、ロリを二人も侍らせる男に天罰を与えたかったとか、そんな感じだろう。
そんな俺の予測はほぼ当たっていたようだ。
襲撃者がローブを脱ぎ棄てると、俺の予想通りに、緑色の髪の可憐な女性であるポンズがウェディングドレスを着た状態で現れた。
「はじめましてね、旦那様。あなたの婚約者候補としてマチ師匠に選ばれた、ポンズよ。よろしくね」
なんか誤解を招く表現をされたせいか、両隣の二人から尻をつねられた。
だが、ほぼ嫁であるトルテはともかく、クララにそんなことをされる筋合いはないので、反対につねり返してやった。
そもそも婚約者などという話は聞いたことがないので、俺は悪くない。
俺の能力は奪われた時に発動するものであって、勝手に何かを与えられたりしても反応しないのだ。
「マチ師匠はね、旦那様の食事から繁殖まで、あらゆることを管理したいの。その方が安全だから。お願い、師匠を安心させてあげて」
そう言って彼女は、自分の胸のあたりをゴソゴソし、宝石がついた指輪を取り出すと、それを俺に差し出してきた。
なるほどな。
つまりはこういうことだろう。
まず、ポンズはマチの弟子なのだ。
なんか弟子をとる的な話を前に聞いたこともあったような気がするし。
数々の実績を残したハンターであり、天空闘技場でも華々しい活躍をするマチは同じ女性からも人気があった。
尊敬してお姉さまと呼ぶ女性ファンもいたほどだ。
そして、ポンズもそんなファンの一人で、マチに弟子入りをしたのではないだろうか。
その結果、優秀な成績を残したポンズをマチは俺の結婚相手の候補として選んだのだ。
ただし、それにあたり、一つだけ条件を出したのだと思われる。
ハンター試験で、俺を狩り、自分のものにしろと。
これにより、マチは俺に勝利できて嬉しいし、ポンズはマチの妹になれて嬉しい。
まさに、ウィンウィンの関係というやつだな。
「私は蜂を操れるから、高品質なハチミツも作っているの。最近はずっとハチミツばかり食べているわ。美味しいハチミツミルク、毎日飲みたくない?」
やっかいな相手だな。
俺はそう思った。
自分の利益を正直に話し、その上でこちらにも十分な利益を提供してくる。
かなり交渉に慣れている。
そして、彼女が準備してきた交渉条件も優秀であった。
ハチミツミルク。
実際に、彼女の特別なそれを堪能させてもらったが、強い甘さを感じさせる素晴らしいものだった。
美人でミルクをするのも上手な嫁。
たしかに最高だ。
だが、彼女の言葉で一つだけ受け入れられないことがあった。
「師匠にとって、親というのは子供を捨てる悪人でしかないの。そんなものにはなりたくないって、わかるでしょう? だから大人しく弟になってあげて」
母親とは、子供を愛し甘やかす存在である。
存分に甘やかすことさえできるのなら、未婚女性でも幼女でも高齢でも、どんな人でも母親になれる。
さらに言えばそれさえできるなら、漫画やアニメやゲームの中の人でも、フィギュアでもぬいぐるみでもポスターでも、声が出せなくても音声データのみでも人工知能でも、皆が母親となれる可能性を秘めているのだ。
逆に言えば、それができないやつは母親ではない。
そんな悪人を母親と一緒にした、母親というものを侮辱したこの女は俺にとって敵だった。
俺は彼女の襟を正した後、少し距離をとり、武器をかまえた。
いいだろう。
俺がお前に本当のママを教えてやる。
「トルテ、クララ、ファランクスだ!」
俺の指示に反応し、クララは氷の槍と盾を作り出した。
トルテは、左手首に巻いていた腕時計のようなものを操作し、小さな金属の円盾へと変形させる。
右手には銀色のペンのような形状のものが握られており、トルテがスイッチを入れると、その両端が伸びて短い槍になった。
俺もトルテと同じ装備を取り出す。
これらはトルテの兄が開発したものらしく、この前の誕生日に送られてきたのだ。
「俺は決して諦めない。そこをどいてもらおうか、ポンズ。結婚は受け入れるから、それで満足だろう?」
この世界では、複数の母親を持つことが許されている。
当然、一夫多妻も認められていると考えるのが妥当だ。
だから結婚自体は問題ないのだ。
発言の直後、俺の背中に二発の蹴りが同時に炸裂した。
その勢いを利用して、俺は走り出す。
「不束者ですがよろしくね、旦那様。でも口先だけじゃ信用できないのよね」
ポンズがウエディングドレスのスカートをめくると、中から何匹もの蜂が現れた。
ハチミツを集める働き蜂は雌なのだという。
彼女たちは、幼虫を育てるために頑張って花の蜜などを集めるのだ。
俺は母親になれるかもしれない存在に武器を向けることを悲しみつつ、決意を込めて相手を見つめた。
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