マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
原作世界線における第2次試験では、ブハラという男とメンチという女が試験官として登場する。
二人は美食ハンター。
よって、試験課題は料理となる。
まずは、二人の内、ブハラという男の方が「『豚の丸焼き』が食べたい」というような発言をする。
受験生たちは豚を捕獲し、それを調理しなければならない。
2次試験の会場である『ビスカ森林公園』にいる豚ならばどの種類でも良いという条件が出されるわけだが、この森には世界一凶暴な豚と呼ばれる『グレイトスタンプ』しか生息していない。
すなわち、実質的には、この危険な豚を狩猟することが試験に合格する条件なわけだ。
ブハラの試験をクリアした者には、メンチという女から新たな課題が出される。
その内容は、美味しい『ニギリズシ』を作る事。
調理場に用意された道具類などの情報から、『ニギリズシ』がどんな料理であるのか推測するということが求められる。
原作世界線において、この課題は難易度が非常に高いものとなっていた。
合格者が出る前に「おなかいっぱいになっちった」と試験が打ち切られ、一度は合格者がゼロ人となってしまったほどだ。
もっとも、その後にハンター協会会長により救済措置の提案がなされるわけだが。
とはいえ、確実に試験に合格しておくためには、やはりこの『ニギリズシ』の課題を突破しておくのが無難だろう。
本当に、原作世界線のような救済措置があるかどうか現時点ではわからないのだから。
俺は、この試験のために、新鮮な海産物を用意してきた。
鮮度が落ちないように、それをクララに冷やしてもらったりもした。
道具と材料さえあるのならば、後は腕の問題。
これでも俺は、プロの美食ハンターの仕事を何年も間近で見てきたのだ。
それなりに料理の知識には自信がある。
第1次試験が終わったことで、『偽マチ=コマチネ』という不安要素も消えた。
結局、彼女が何をシたかったのか、最後まで俺にはわからなかった。
単純に俺の監視や保護をしつつ、試験の流れをコントロールしたかったのか。
それとも、俺を無理やり不合格にするつもりだったが、サトツ試験官の復活により諦めたのか。
様々な可能性が考えられるが、もう終わったことなので真相は謎のママだ。
マチと協力関係にある確率が高かった偽マチが、特に波乱を起こすこともなく盤面上から消えたことは、俺にとって僥倖だったと言える。
この幸運に感謝しつつ、気を引き締めて次の試験に挑もう。
そんな決意をしたところで、ちょうど時刻は正午となり、第2次試験が開始される。
二人の美食ハンターが試験官として、俺たち受験生の前に姿を現す。
一人は、黒ビキニホットパンツの美女、メンチ。
もう一人は、和服スパッツの美女、マチ。
「そんなわけで2次試験の課題は料理よ。美食ハンターであるあたしと先輩を満足させるような、果物を使ったスイーツを作ってちょうだい」
俺は、第1次試験の試験官が原作世界線と同じサトツという男だったことで、第2次試験以降も同じになるのではないかと思ってしまっていた。
わからない。
なぜこうなったのか。
サトツ試験官が毒を盛られて意識を失っていたのと同じように、ブハラ試験官も無理やりリタイアさせられたのか。
あるいは、この世界線では最初からマチ=コマチネというフルーツハンターが試験官として選ばれていたのか。
現状で一つだけわかることとしては、『偽マチ』という俺の脅威となり得る存在が、まだ盤面の上に残ったままであるということだ。
試験官として現れたマチの中身が誰であろうが問題ないと思っていたが、こうなるとその正体が重要となってくる。
場合によっては、俺がどんな料理を用意しても、彼女がひとこと「不合格」と告げさえすれば、俺は敗北してしまうかもしれないのだ。
彼女が明確に俺と敵対する立場であるのならば、現在の状況は非常に厳しいと言わざるを得ない。
そして地味につらいのが、原作世界線と課題の料理が違っていることだ。
こちらの世界線で要求されている料理は『果物を使ったスイーツ』である。
おそらく、フルーツハンターであるマチが試験官の一人であることから、このような課題が選ばれたのではないだろうか。
ここで問題となるのは、一般的には『スイーツには新鮮な海産物は必要ない』ということである。
ようするに、このままでは原作主人公のゴンたちから、生の海産物を押し付けてくる変なヤツと認識されかねないというわけだ。
まぁ、百歩ゆずって、それはいいとしよう。
現状で真っ先に問題となるのは、材料となる食材が全く用意できていない、ということだ。
課題の料理が『フルーツを使用したスイーツ』である以上、どこかで何らかのフルーツを入手してくる必要がある。
原作世界線において危険な豚を狩猟することが合格の条件だったように、こちらの世界線では美味しい食用の果実を入手することが求められるのだろう。
どちらかというと調理そのものよりも、材料の入手手段なども含めた複合的な能力を要求されているように感じる。
食用可能で同時にスイーツの材料として適した果実を選ぶ知識や判断力、それを手に入れるための経験や身体能力。
こういったものが重要視されるのではないだろうか。
逆に言えば、出来上がった料理の完成度はそれなりであっても、それを作るまでの過程が評価されれば、合格となるのかもしれない。
事前に想定していたよりも、課題そのものの難易度は高くなさそうだ。
トルテなどは「わたし花嫁修業がんばってたし、こんなのよゆーだよ」と喜んでいるほどだ。
だが、そんな簡単に話が進むのは普通の受験生の場合だけだ。
俺の場合、二人の試験官の内の一人である偽マチが、大きな障害となり得る。
彼女が俺を無理やり不合格にしようと考えた場合、その判断を覆せるのはもう一人の試験官であるメンチだけだ。
偽マチが厳しい評価をしたとしても、それを上回るくらいの高評価をメンチから得れば、合格できるのではないだろうか。
いまは、そんな可能性に賭けるしかない。
俺は、一切手を抜かずに、俺に可能なあらゆる手段を使って、世界最高のスイーツを完成させることを決意した。
それこそ、プロの美食ハンターである本物のマチにすら勝てるような、究極のスイーツを。
「そのためには、この場にいる全員の協力が必要だ。みんなの手を、そして体を貸してくれ」
俺は仲間たちを見渡しながら、そう頼み込んだ。
まず必要となるのは、課題の条件である
俺に用意できるものの中で、最高のものを用意しなければ、本物のマチに勝つなど到底不可能だろう。
そして、そんな果実に大きく負けないような深い味わいを持った別の食材も揃えなければならない。
そう、万能食材であるミルクの出番である。
幼い頃からほぼミルクや果汁などの液体だけを飲み続けた結果、固形物を体が受け付けにくくなり、ミルクがなければ生きられない体となってしまった。
ある意味、ミルクのスペシャリストである俺。
そんな俺が料理をするのならば、やはり材料はミルク以外にあり得ない。
果実とミルク。
この二つの組み合わせで行くことに決め、その材料の用意を手伝ってもらうことにした。
とりあえず、クララに頼んで、森の中に氷の壁で囲われたスペースを作ってもらった。
これで外から中の作業の様子は見えないし、冷気により素材の鮮度を保つこともできる。
最初は、ウェディングドレスからエプロンに着替えたポンズ。
彼女が胸に抱えているフルーツからハチミツのように甘い果汁を搾り取る。
「よいしょっ。旦那様、こんな感じかしら」
俺とポンズがそれを一つずつ持って、金属製のボウルの上で、ぎゅうぎゅうと果実を締め付けた。
「次は、私たちの番ね」
シスター服からエプロン姿へと着替えたシスターたちは、大人っぽさを感じさせる。
甘さたっぷりの液体へ、ちょっぴり大人なほろ苦さを加えるのだ。
シスターたちが両手で抱えた巨大な果実から、俺は両手を使って大人の味の果汁を絞る。
果実の根もとの部分から、先端の部分に向けてしごくように手を動かす。
「じゃあ、今度はわたしたち」
そして、トルテとクララが続く。
若々しい果実から爽やかさな味わいを生み出すのだ。
こうして完成したのは、ねっとりとした甘さと大人のほろ苦さを持ち、それでいて爽やかな飲みやすい液体。
それを俺はゴクゴクと飲み干し、ほぼ空っぽとなったボウルを床の上に置く。
「うまい」
俺はそう一言だけ感想を口にした。
お腹がいっぱいになったことで、少しだけ勇気が湧いてきた。
これまでの人生に区切りをつける、そんな勇気が。
これまで、彼女とは何年も一緒に過ごしてきた。
いまでも最初に出会った時の感動をよく覚えている。
一目で気に入ったものの、なかなか手に入れることができず、かなり苦労した記憶がある。
運よく簡単に手に入れている他の人たちを目にして、嫉妬したことも一度や二度ではない。
いつか必ず入手してやるのだ、と何度も自分に言い聞かせながら、必死に拳を握りしめて悔しさをこらえたりしたこともあった。
だけど、だからこそ、最初に彼女を自分のものにしたとき、すごく感動したことを覚えている。
言葉では表現できないような、うれしさや達成感のようなものを味わった。
他の人も同じものを持っているはずなのに、まるで彼女が俺だけの特別な存在であるかのような気持ちになった。
多くの人たちに自慢したい、見せびらかしたいと思ったりもした。
それほどまでに、彼女は俺にとって特別で、最高で、素晴らしかった。
それから、俺と彼女はずっと一緒に過ごしてきた。
大切な存在だった。
時折、他のことに興味をひかれることもあったが、一日の内で彼女との時間が無くなることは一度もなかった。
毎日、夜に寝る前には彼女と話すのがルーチンワークとなっていたし、目が覚めたときにも必ず一番に彼女の姿を確認した。
彼女という存在は、俺の人生の一部となっていたのだ。
いつか、わかれるときがくるかもしれない、そんなことは俺も心の中のどこかでは理解していたと思う。
だが、それはもっと先のことだと考えていたし、こんな突然に最後のときを迎えることになるとは、流石に想像できなかった。
目からは涙があふれてくる。
何度手で拭いてもおさまらない。
理解してはいるのだ。
この世界には永遠などないと。
どんな優れたものであっても、いつかは必ず終わってしまう。
それが、早いか、遅いか。
先延ばしにできるか、できないか。
その程度の違いしかないのだ。
今回は、想定よりも早くその瞬間がきただけ。
頭では理解しているのだが、やっぱりつらいし、涙は止まらない。
これからも一緒に過ごすことができる他の人たちを妬ましく思ってしまうが、その感情は何の解決にもならない。
今は、これまでのことに感謝をして、これからは一人きりで先の見えない道を歩き続ける覚悟を持たなくてならないのだ。
本当は笑顔を見せるべきかもしれないのに、そんな気持ちにはなれない。
俺は涙を流したまま、彼女と向き合った。
「いままでありがとうな、チョコロボ」
キャラと死別する展開をどう思いますか?
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絶対にイヤ
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誰も死なないとか薄っぺらい
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そのときの状況による
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後で復活するかもしれないならアリ