マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
『チョコロボ』という名前の『チョコ』という部分は、チョコレートという食べ物に由来している。
このチョコレートを作るためには、ギリシャ語で『神の食べ物』とも呼ばれるカカオという植物の果実が必要となる。
カカオ豆、すなわちカカオの実の中にある種子を発酵・焙煎させた後、砂糖やミルクを加えるなどの工程を経て、チョコレートは完成するのだ。
つまり、チョコレートを使った甘い料理であるならば、第2次試験の課題である『果物を使ったスイーツ』という条件を満たすことができるだろう。
俺は、負けるわけにはいかない。
どうしても、俺は母が欲しいのだ。
チョコロボ、俺に力を貸してくれ。
俺は、他の受験生たちが料理するのを見ながら、手の上に乗せたチョコロボの体を振ってみる。
最初にチョコロボと出会った頃、この中にどんな素晴らしいチョコレートが入っているのか、俺は気になって仕方がなかった。
しかしながら、一度開封してしまったら、すぐに食べないと悪くなってしまう。
かといって、次にお菓子を買ってもらえるのがいつになるか、わからない。
もしかすると、もう二度と買ってもらえないかもしれない。
そう思うと、ただのお菓子でさえ食べるのがもったいなく感じてしまった。
そこで俺は、食べることなく中のお菓子を実感するために、時々だが箱を振るようになった。
箱の中でお菓子が音を立てるのを聞くだけで、少しだけ心が満たされるような気持ちになった。
俺はお菓子を持っているんだ、そんな満足感が味わえるだけで嬉しかったのだ。
前世のストレートチルドレン時代には、お菓子など一度も食べる機会はなかった。
そして、今世ではミルクばかりの生活を送っていた。
初めて手に入れたお菓子。
もう二度と手に入らないかもしれない特別なもの。
他の人にとっては取るに足らないただの安菓子かもしれないが、俺にとっては大切な宝物だった。
だが、そんな宝物も不変ではない。
毎日、箱を振って音を確かめて幸福を感じていたところ、ある日いつの間にか音が鳴らなくなってしまった。
おそらく俺の手の熱などで箱の中のチョコレートが溶けてしまい、それが冷えて固まって、一つの大きな塊になってしまったのだと思われる。
箱の中に入っているお菓子であっても、外部からの影響により変質する可能性があるわけだ。
たまに手のひらから伝わる熱だけで、それほどの変化があるのだ。
であれば、もし念能力者によって大量のオーラを注がれ続けたら、どのような変化が起こるのだろうか。
朝に目覚めてすぐオーラを注ぎ、昼間も修行を一緒に行う気分でオーラを纏わせ、夜に寝る前にもうっかり箱を潰さぬようにオーラで強化する。
俺が3歳の時にマチオルタに買ってもらってから、現在9歳に成長するまでの約6年間、ずっと俺のオーラに触れてきたチョコロボ。
彼女は、もともと市販品のチョコレートであったわけだが、現在でも本当に『ただのチョコレート』と呼べるのだろうか。
俺は、試験の推移を見守りながら、チョコロボとの最後の時を過ごす。
何度チョコロボの体を振っても、あの懐かしいお菓子の音を聞くことはできなかった。
だが、そのかわりに『いままでありがとう』という誰かの声が聞こえたような気がした。
多くの受験生たちが、果物を手に入れて調理場へと戻ってきている。
彼らは思い思いに、それらを調理し、自分なりのスイーツを作っている。
いまも一人の受験生が、『カットフルーツの盛り合わせ』を作って試験官の二人のもとへと運んで行った。
「うーん。果物の選択は悪くないんだけど、もうちょっと料理に工夫が欲しいわ。流石に適当に切っただけじゃね。ということで、やり直し」
試験官であるメンチを満足させのは、なかなか難しいらしく、まだ合格者は出ていない。
そんなメンチの評価を聞いた後、偽マチは無言のママ『×』というマークが描かれた札を提示する。
残念ながら、今の受験生は料理を作り直さなければならないようだ。
そこへ、今度はトルテが料理を持って行った。
「名付けて、『トルテのスペシャルフルーツパフェ』。絶対においしいよ!」
花嫁修業として料理をがんばっていたらしいトルテ。
そんな彼女が作り上げた豪華なパフェは、とても美味しそうな見た目をしていた。
様々なビビッドカラーの果物により飾り付けられた色鮮やかなそのスイーツは、外見だけならば百点に近いだろう。
「こんなもん食えるかっ!? これ全部、毒だろうがっ!」
「はぁ? 別に毒くらい食べれるでしょ。むしろピリッとして、アクセントになるはずだもん」
「そんなわけあるか!」
残念なことに毒を普段から摂取しているトルテとは違い、一般人はあまり毒による味付けを好まない。
とはいえ、料理の腕は確かなようなので、もう一度、毒のない果物を使えば、次は合格できるだろう。
もっとも、氷の部屋を作るために能力を使った反動により俺の隣で眠ってしまっているクララが目覚めれば、毒のある果物など使えはしないだろうが。
そして今度は、ローブで身を包んだ受験生が、巨大なケーキを運んできた。
それは、まるで天空闘技場のように高く積み重ねられたケーキを、たっぷりの白いクリームでデコレーションした、ウェディングケーキだった。
基本的に、クリームというのは、生乳から作られる。
この場所で、あれほど大量の生乳を用意することができる人物など限られている。
しかも、あの料理の完成度。
一目見ただけで只者ではないと理解できる。
彼女はおそらく、俺の母になるかもしれない女性に違いない。
会場の他の受験生たちも皆、自分の作業の手を止めて、審査の様子を窺いはじめた。
もしかすると最初の合格者が出るかもしれない、そんな期待や不安が彼らからは感じられるような気がした。
「この料理は……! ねぇ、よかったら、そのフードとってみてくれない?」
メンチのそんな提案に対し、ローブ姿の受験生は素直に応じた。
その顔は、料理の審査員の一人として座っているマチ=コマチネを名乗る女とそっくりであった。
ここで、ようやく俺にも確信が持てた。
一応、ほんの少しだけ、試験官のマチが本物だという可能性も俺は追っていたのだ。
ミルクの香りが感じられないことから、ほぼ偽物だという感覚はあったのだが、俺の嗅覚を誤魔化す方法がないわけでもない。
しかしながら、あそこまでマチと顔が似ている人物など、マチオルタ以外にはいないだろう。
よって、試験官を務めているマチがマチオルタで、受験生として参加しているマチ顔の女が本当のマチ=コマチネなのだろう。
料理の腕前から考えてもこのような内訳である確率が高そうに思える。
「あら、あなたって、もしかして……」
「そこの試験官の女とは、姉妹ってことになってるよ」
「やっぱり! 先輩には弟さんがいるって聞いてたけど、妹さんもいたのね」
メンチが、受験生の顔を見て期待の表情を浮かべた。
なにしろ、プロの美食ハンターの妹なのだ。
きっと腕が立つ料理人に違いないと考えるのは、そうおかしなことではないだろう。
実際、いま運ばれてきたケーキは、見た目という一点だけでも、他の受験生たちのものとはレベルが一段階以上違っているように見えた。
あの試験官の前に置かれたウェディングケーキという料理は、本来ならば結婚式で提供される料理である。
俺を倒すための刺客にウェディングドレスを身に着けさせたり、課題の料理にウェディングケーキを選んだり、やたらと彼女は結婚関係のものにこだわっているように感じる。
まるで、結婚を司る女神であるヘラのようだなとも思い、少し背筋が震えた。
ヘラといえば、兄弟であるゼウスと結婚した女神であり、義理の息子であるヘラクレスに狂気を与えた恐ろしい神でもある。
なんとなくだが、俺とは相性がよくないような気もした。
そんな女神のような美しい受験生が作り上げたウェディングケーキは、白一色であった。
普通は、イチゴなどの果物や花の形の飾りなどを使ってもっと華やかにすると思うのだが、そういった類のものは見受けられない。
特に今回の課題は『果物を使ったスイーツ』である。
果物を材料として使わなければならない以上、見た目をよくする意味も含めてケーキの上に飾り付けた方がいいような気がする。
見える位置に果物が無い以上、ケーキの中に入っていると考えるのが自然だ。
ケーキを切った時に見える断面から彼女がどんな果物を使ったのかわかるだろう。
そう思っていたのだが、切り分けられたケーキを見ても、フルーツらしき形状のものは見えなかった。
確認のために、こっそり近づいて俺もケーキを切ってみたのだが、やはり断面にフルーツは見られない。
このケーキはどうやらスポンジとクリームだけで作られているらしい。
「あらら、果物は使ってないの?」
試験官であるメンチも俺と似たような感想を持ったらしい。
そんな疑問に対して受験生のマチは「食べてみればわかるよ」とだけ答えた。
メンチは「それもそうね」と言った後、フォークを使ってケーキを一口サイズに切り、口へと運んだ。
「ふあぁぁぁんっ!」
その瞬間、彼女は甘ったるい声をあげて、自分の肩を抱きながら、恍惚とした表情を浮かべた。
「入ってくる! トロピカルフルーツがあたしの中にっ! 入ってきちゃうぅぅ!」
そんな喘ぎ声を聞いた瞬間、俺は会場を見渡した。
すると、ほぼ全員がメンチを凝視している中、調理場の端の方でローブ姿の受験生が数人倒れているのが見えた。
俺はその受験生たちに近づくと、その内の一人のローブの内側に素早く入り込んだ。
俺の体が子供サイズだからこそできる技である。
ローブを着ていた人物は、驚くべきことに、闘技場の受付のお姉さんだった。
彼女の豊満な胸に顔を埋めて嗅覚を働かせると、まるで南国のフルーツであるバナナのような香りが漂ってきた。
間違いない。
マチは、フルーツ味のミルクを料理に使ったのだ。
自分の弟子や関係者にフルーツを大量に摂取させ、濃厚なフルーツ味のミルクを用意したわけだ。
とはいえ、たった数人でウエディングケーキのクリームを用意するなど非常に困難。
ローブ姿の彼女たちは、疲労困憊となり、ここで倒れていたのだ。
実際にお姉さんたちの生乳を確かめてみたのだが、彼女たち全員を合わせても数滴ほどしか残されていなかった。
このように味方の戦力を使い捨てにしてまで得られた究極のケーキ。
そんなものを口にしてしまったメンチは、一旦、お色直しをするために控室へと戻っていった。
俺はお姉さんの生乳を舌の上で転がしながら、無意識の内に身体がこわばり硬くなっていくのを感じた。
流石はマチ。
相手にとって不足なし。
お色直しをしているメンチの姿を録画しながら、俺はビクビクと武者震いをした。
プロハンターがこんな至近距離から撮影されても気づかないとは、よほどあのケーキによる衝撃が強かったらしい。
だが、最悪の場合でも、この映像を使えばメンチの票を回収し、試験通過くらいは勝ち取れるだろう。
後は全力で挑むだけだ。
料理バトルや料理チートなどの展開についてどう思うか教えてください
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好き
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あまり好きではない
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どちらともいえない
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マンネリ化して飽きた
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ミルクやNYOTAIMORIが出れば許す