マチをママにする程度の能力   作:まだ名前はありません

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合格する程度の能力

チョコロボの体は小さかった。

 

 

思い返してみると、チョコロボをはじめて手にしたのは、いまから6年前。

 

俺がまだ3歳のときだったのだ。

 

その頃は俺の体も小さかったので、相対的にチョコロボも大きく見えていたのだろう。

 

あんなに大きくて頼もしかったチョコロボが、すっかり小さくなってしまったように思えて、寂寥感に襲われた。

 

 

だが、そこで『がんばれ』という励ますような声が聞こえた気がした。

 

この応援のおかげで、俺は最後の勇気を振り絞ることができた。

 

 

 

 

俺は小さなチョコロボを、弱火で温めたミルクの上にそっと浮かべる。

 

 

チョコロボは、ゆっくりとしたスピードで熱いミルクに沈んでいく。

 

思わず俺は、未来から来たアンドロイドが溶鉱炉へと消えていく光景を幻視した。

 

なぜか俺には、チョコロボが親指をサムズアップしているかのように思えた。

 

 

 

 

出来上がったのは、少量のチョコレートミルク。

 

これに、何種類かのフルーツの果汁を加えて、味を調整する。

 

 

 

料理はこれだけで完成だ。

 

あまり材料や工程を増やして最高の食材(チョコロボ)の邪魔をしてはいけない。

 

 

余計なことをせずとも、きっと俺のチョコロボは勝てる。

 

一口味見をした瞬間、そんな自信があふれてきた。

 

 

 

 

 

お色直しを終えて、再び会場へと現れたメンチ。

 

危険を察知して、ケーキを食べなかった偽マチ。

 

 

そんな二人のもとへ、俺は完成した料理を運んでいく。

 

 

 

 

 

「ねぇ、もしかして……」

 

俺の姿を目にしたメンチは、何か言いたそうな表情で偽マチのほうを見た。

 

ある意味当然ではあるのだが、俺の容姿はマチに似ているわけだ。

 

彼女はそれが気になったのだろう。

 

 

 

「あたしの弟」

 

偽マチがそう答えると、メンチは「着替えもうないんだけど」と困ったような顔をした。

 

 

審査員が料理を試食するたびに服を交換する必要があるというのは、料理漫画では常識である。

 

だがここは料理漫画の世界ではないので、困ったことに彼女はその準備を忘れてしまったようだ。

 

 

そんなメンチの様子を見て、気の毒に思ったのだろう。

 

偽マチはどこからかウエディングドレスを取り出し、メンチへと手渡した。

 

着替えが必要になったときにはそれを使え、ということだと思われる。

 

 

 

 

この瞬間、偽マチが俺の敵であることがほぼ確定した。

 

きっと本物のマチは、俺への刺客にウエディングドレスを着るよう指示しているのだと思われる。

 

 

メンチが受け取ったドレスのデザインからは、ポンズが身に着けていたものと同じような雰囲気が感じられた。

 

おそらく、ドレスの作者は同一人物。

 

 

 

つまり、偽マチは俺を敗北させるためにマチが用意した刺客に違いない。

 

そう簡単には「合格」という言葉は出てこないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ、だ。

今更そんなことが判明しても、やることは何も変わらない。

 

 

「ホットチョコロボです。1993年に生産されたヴィンテージチョコロボ君を贅沢に使っております」

 

 

おちょこのように小さいグラスを二つ用意し、熱々のホットチョコロボを注いで、彼女たちの前に置いた。

 

それと同時に会場がどよめく。

 

 

 

先ほど一人目の合格者となった俺の姉を名乗る女が、巨大で豪華なケーキを披露した直後なのだ。

 

 

弟のほうは一体どんな凄い料理を作ったのかと気になって見てみれば、なぜか小さな市販の菓子を持って現れたわけだ。

 

同じ姉弟であるはずなのに、ギャップがありすぎて驚いているのだろう。

 

 

 

「どうぞご賞味ください」

 

 

 

俺はチョコロボの箱を見せながら、冷めないうちに味を確かめるよう促す。

 

二人はグラスを間近で眺めて、

 

 

「まさか、あの時に買ったやつをずっと大事にもってたわけ? ……あたしのこと好きすぎだろ」

 

 

ピンク髪の試験官がそう呟いた。

 

 

彼女はマチオルタだ。

 

いまの発言により、偽マチの正体は、マチオルタだと明らかになった。

 

俺にチョコロボを買ってくれたのは、後にも先にもマチオルタだけだから間違いない。

 

 

彼女のことが好きかどうかと言われれば、もちろん大好きである。

なにしろ、彼女は俺にチョコロボを買い与えてくれたのだから。

どう考えても、嫌いになるはずがない。

 

 

 

「チョコロボ君? これが、量産品のチョコレート? それは流石にありえない」

 

メンチは少し呆然とした様子で、ホットチョコロボを観察している。

 

どうやら彼女はチョコロボについてあまり詳しくないようだ。

 

 

そこで俺は、いかにチョコロボが素晴らしいのかを、一緒に過ごした経験を例に出しながら説明してあげた。

 

 

 

「6年……人生の約10分の1の時間を、ただの市販のお菓子の熟成に費やしたわけ? あなた、正気なの?」

 

しかしながら、俺の説明を聞いても、彼女はチョコロボの偉大さを全く理解できなかったようだ。

 

彼女には啓蒙が不足している。

 

 

仕方がないので、俺は彼女たちにつべこべ言わずにさっさと食べるように言った。

 

 

理屈なんてどうでもいい。

食べれば全てがわかるのだから。

 

 

マチオルタとメンチは、少し冷めてちょうど飲み頃になったホットチョコロボを口にする。

 

 

その直後、マチオルタは深く息を飲んで身を震わせ、メンチは二度目のお色直しへと向かった。

 

 

 

「料理には愛情が重要だと聞いたことがあるけど、あたしへの愛だけでこんな味になるなんて……どれだけあたしのこと好きなんだよ。こんなのもう夫婦だろ」

 

マチオルタは、あまりのホットチョコロボの美味しさで脳が混乱している。

 

 

そして、混乱しているのはマチオルタだけではないようだ。

 

 

再びお色直しから帰還したウエディングドレス姿のメンチは、大声で宣言した。

 

 

 

「なんていう愛情なの……文句なく合格っ! あたしの婿として合格よ! ドレスもケーキも親族も揃ってるし、さっさと式を挙げましょう!」

 

 

 

 

こうして無事に合格を勝ち取った俺は、会場の隅に座り、箱だけになってしまったチョコロボと向かい合った。

 

 

中身が空っぽになってしまった彼女に対して何を言えばいいのか色々と悩んでしまい、何も言葉が出てこない。

 

 

無言で見つめ合う俺たちのもとへ、誰かが近づいてくるのを感じた。

 

 

振り向くと、そこには俺より少し年上に見える銀髪の少年がいた。

 

 

「あんたのチョコロボ君への熱意、マジでスゲェよ」

 

彼はそんな言葉を告げると、調理場の方へと戻っていった。

 

 

もしかすると、今の少年はお菓子やチョコロボ君が大好きなキルア=ゾルディック君ではなかろうか。

 

俺のほぼ嫁であるトルテの兄であるかもしれない人物だ。

 

 

ようするに、彼は俺の義理の兄になるかもしれないわけだ。

 

仮にそうだとすると、俺は非常に賢く話が通じる義兄を得られることになる。

 

 

 

少しだけ嬉しい気持ちになった俺のところへ、今度は二人ほど気配が近づいてくるの察した。

 

 

それは、話が全く通じそうにない義兄たちであった。

 

 

 

 

何をしに来やがった、こいつら。

 

何でもいいから言葉を話せ。怖いんだよ。

 

 

 

 

大ギタラクルと小ギタラクル。

 

とっても怖い殺し屋、イルミ=ゾルディックの能力により顔を変えている正体不明の連中である。

 

 

俺は大きい方のギタラクルがおそらくイルミ本人だろうという程度までしか推測できていない。

 

小さい方のギタラクルは、イルミの弟たちか、あるいはゾルディック家の執事か。

 

 

もしイルミの弟たちだとすると、候補となるのはミルキ、キルア、アルカ、カルト。

 

キルア君っぽい人物は先ほど見かけたばかりなので、ミルキ、アルカ、カルトの内の誰か。

 

たしか原作世界線では、ミルキはあまり外出しないという話だったはず。

 

それにアルカは体内にガス生命体アイとかいう人類滅亡レベルのヤバいものを飼っているため、行動範囲は限られるのではないだろうか。

 

 

となると……?

 

 

 

 

必死に頭を回転させている俺の前で、二人のギタラクルが変装のために顔に刺していた針を引き抜いていく。

 

 

少し不気味なギタラクルの顔がビキビキと音を立てて変形していき、驚くほど美形な顔が現れた。

 

 

 

 

その美形の二人は、アルカとカルトと名乗った。

 

 

 

大ギタラクル、俺がイルミ=ゾルディックだと思っていた人物はアルカという名前らしい。

 

彼女とは話をするだけで命をとられかねないので、俺は小ギタラクルの方を注視することにした。

 

 

 

 

先ほどまで小ギタラクルだった人物は、いまは2Pカラーのトルテになっていた。

 

この性別不明の人物の名前はカルトという名前らしい。

 

トルテの髪や瞳の色を黒くしたら、このカルトとそっくりになることだろう。

 

 

 

そんなトルテによく似た容姿のカルトは、俺に一枚の紙を差し出してきた。

 

 

俺は思わず身構える。

 

 

原作世界線において、カルトは紙を操る念能力を持っていた。

 

つまり、これは何らかの攻撃かもしれない。

 

 

 

 

そう思ったのだが、その紙に書かれていた内容を読んで、危険は低そうだと理解した。

 

 

そこに書かれていたことは非常に簡単。

 

責任をとってトルテと結婚するように、あと子供とかも責任を持って育てて、こちらの必要に応じて派遣してくれ、というものだった。

 

俺がサインを書く欄もしっかりとついていた。

 

 

 

 

なるほどな。

 

完全に理解した。

 

どうやら、アルカとカルトは俺へのメッセンジャーとして送られてきたらしい。

 

目的は、暗殺者の才能があるかもしれない次代の子供の確保をすること。

 

 

 

最初はギタラクルたちが何を考えているか不明で怖かったが、相手の意図がわかると一気に安心できた。

 

 

 

 

ところが、突然、カルトが書類に書かれた『トルテ』という部分に横線を引き、その上に『カルト』と書き直してしまった。

 

意味がわからない。

 

 

 

「夫婦になったら財布は一緒って聞いたことがある。結婚したら、それも僕のものになるんでしょう?」

 

カルトは、空っぽになったチョコロボを指さしながら言った。

 

チョコロボの器は、紙製である。

しかも、俺が何年もオーラで強化し続けていたので、普通の紙とは比べものにならないくらい強靭だ。

 

もしかすると、カルトは自分の能力で操るための強力な紙製のものが欲しいのではないだろうか。

 

 

 

どう返事をすれば良いのか。

 

空っぽになってしまったとはいえ、チョコロボを渡すというのは受け入れがたいし、かといって告白を断るというのも失礼かもしれない。

 

悩む俺に助け舟を出してくれたのは、アルカだった。

 

 

懐から取り出した別の書類を俺に手渡してきたのだ。

 

 

きっとあれは予備に違いない。

 

そう判断した俺は素早くサインをする。

 

 

 

それを見届けたアルカは満足そうな表情で、カルトを引きずりながら会場に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

この場には、俺とチョコロボの二人だけが残される。

 

 

彼女と何を話すべきなのか、俺はまだわからないままだった。

 

 

だから、咄嗟に俺はアンパンマンというヒーローアニメに登場する『てんどんまん』の話をした。

 

 

てんどんまんは、頭が天丼で出来ている謎の生物である。

 

天丼とは、どんぶりの中に天ぷらが乗ったご飯を入れた料理のことだ。

 

よって、てんどんまんは頭のどんぶりに入っている天ぷらやご飯を食べられると、弱ってしまうわけだ。

 

 

でも、新しい天ぷらやご飯を詰め替えれば、彼は復活する。

 

 

 

チョコロボもそれと同じに違いない。

 

箱の中に新しいチョコを入れれば元気になるさ。

 

この際、チョコじゃなくてもチョコっぽいものとか、最悪の場合は黒っぽければ何でも良いかもしれない。

 

 

とにかく、なにかを入れておけば上手くいくだろう。

 

 

そんなふうにチョコロボを励ました。

 

 

いまはチョコロボの中を覗いても真っ暗闇で何も見えないが、ここに色々と入れてみれば、元気になるさ。

 

 

そんな俺の呼びかけに応えるように元気な『あい』という返事が聞こえた気がした。

 

 

ヒロインの強さについて、好みを教えてください

  • 強いヒロインに守ってほしい
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  • 昼間は勝てなくても夜に勝てればいい
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