マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
俺がマチに続いて2番目の合格者となった後、次の合格者はなかなか現れなかった。
プロのハンターであるマチが受験生として参加していたせいで、試験官の受験生に対するハードルが上がっていたのかもしれない。
あるいは、ホットチョコロボというヤバい食べ物を口にしたせいで、試験官たちの味覚に何かしらの影響が出てしまったという可能性もある。
それでも料理上手なトルテあたりなら合格できそうな気がしていたのだが、彼女はクララとの争いに忙しかった。
毒のあるフルーツが美味い派のトルテと、毒なしフルーツしか認めない派のクララの戦いは熾烈を極め、いままさに決着が着こうとしている。
トルテの手札は、たったの一枚。
ハートのクイーンだけだ。
それに対して、クララは二枚。
クローバーのクイーンと、ジョーカーがそれぞれ一枚ずつ。
トルテは「むむむ」と言いながら、クララが持つ二枚の札の内、どちらを引くべきか頭を悩ませている。
案ずるより産むが易し、という言葉がある。
案ずるというのは、心配するということを意味する言葉。
つまり、『女性が出産する前は色々と心配になってしまうが、やってみると意外とそこまで難しいことでもない』ということである。
悩むよりもさっさと出産してしまえ、というアドバイスなわけだ。
こういった出来事というのは、出産以外でも頻繁に発生する。
色々と悩んだりしてどうしたらいいか不安になることもあるが、実際にやってみたら思いのほか簡単だったりすることもある。
だから、深く悩まずにとりあえず思いついたらやってみる、くらいの気持ちでいた方が良いのかもしれない。
トルテもそんなに考えずに、適当に選んでしまえば良いのに。
俺がそう思ったタイミングで、トルテは「えい!」と言いつつ、クララが持っていた右側の方のカードを引いた。
それは、クローバーのクイーン。
これでトルテはあがり、クララの手にはジョーカーのみが残された。
ババぬき勝負はトルテの勝利となったわけだ。
やっぱりな。
色々と考えるよりも、さっさとやってしまった方が良いのかもしれない。
今後、俺に何かしら決断すべき時が訪れたら、悩まずにさっさとやってしまおう、という気持ちになった。
クララに勝利したことで、無事に毒のあるフルーツを使用できることになったトルテは、ものすごく美味しそうなケーキを作ったものの再びメンチからNGを出された。
毒が入っている時点でダメだということが理解できていないのはなぜなのだろう。
やはり、少しくらいは頭を使った方が良いのかもしれない。
そんなわけで、3人目の合格者が出ないまま時間が経過していく。
ちょうどクララがどこかで買ってきたチョコロボをそのまま出してNGにされたところで、試験官であるメンチは「
第2次試験の合格者は2名。
というのは流石に厳しいというマチオルタの判断により、救済措置がとられることとなった。
再度別の試験を行い、それに合格すれば2次試験に合格となる。
既に合格判定を受けていた俺とマチについては追加の試験は免除される。
そんなふうに決まった。
他の受験生たちが再試験を受けている間、俺とマチは個室を与えられ、そこで待機していることになる。
もしマチが仕掛けてくるならばこのタイミングだろうな、と思った。
俺が仲間を連れてきていること、ポンズが俺にNTRれたこと。
それらを既にマチは気づいているはずだ。
よって、確実に俺を倒したければ、仲間がいない今を狙うのが最適なはず。
もし逆の立場だったら俺だってそうする。
タイマンで相手に勝つ自信があるならば、他の受験生が介入できず、試験官による監視もない今のタイミングがベストだ。
だからこそ、あえて俺は迎え撃つという選択をとろうと思う。
当初、俺はマチとの勝負を判定勝ちに持ち込むつもりだった。
最終試験までの評価でマチを上回ることで、マチより先に負け上がりトーナメントに出て、彼女より先に合格する。
一見、完璧に思えるこの作戦だが、本当に成功するかどうか不安になってきたのだ。
現時点において、俺は試験官からの評価が明確にマチより上であると断言することができなかった。
仮にマチの評価の方が上だった場合、最終試験でマチが俺より先に合格を決めてしまうかもしれない。
あるいは俺とマチの評価がほぼ同じだった場合、俺の対戦相手としてマチが選ばれるという可能性だってある。
何も準備をしていない状態で、マチとタイマンをして勝てるかと言われると、正直あまり自信がない。
大人と子供では基本的な身体能力が違いすぎて流石に不利だ。
それに俺の能力はあくまでも受動的に発動するものであり、どうしても相手の行動に依存してしまう。
彼女と一対一で戦って勝利するためには、最低でも何らかの罠を仕掛けておきたい。
例えば、着ている服を脱いでタオル一枚だけを身に着けるというのはどうだろうか。
うっかり彼女が指を引っ掛けたりして俺からタオルを剥ぎ取れば、同時に彼女の身に着けているものを奪い返し、強制的に全裸にすることができる。
いきなり全裸になって動揺しない人間などいないだろう。
精神的に優位に立った状態で戦えば、俺にも勝ち目があるかもしれない。
最終試験で使うのは難しい作戦だが、この個室ならば存分に実行できる。
というか、よく考えてみると、これまで原作世界線通りに最終試験において負け上がりのトーナメントが行われる前提で作戦を立てていたが、こちらの世界線では違う試験内容となるかもしれない。
第1次試験の段階で原作世界線とは展開が少し変わっており、第2次試験の段階では試験官と課題の両方が原作とは異なっていた。
もしかすると、最終試験は原作とは全然違うものとなる可能性もある。
そうなった場合、マチに確実に勝つ方法などなくなってしまう。
やはり、ここでマチを返り討ちにした方が良いかもしれない。
案ずるより産むが易し。
俺は悩むよりも、ヤることに決めた。
とはいえ、無理はしない。
最悪の場合は逃げることにしよう。
たとえマチに勝つことができなくても、致命傷を避けながら時間稼ぎをするくらいはらば出来ると思う。
追加試験が終わるまで逃げ切れば、トルテたちの力を借りて、逆に相手を追い詰めることが可能なはず。
とりあえず作戦はこんな感じでいいだろう。
俺は服を脱ぎ、タオルを腰に巻いた状態で待機する。
その後、しばらく待っていたものの、マチが襲ってくる気配はない。
少々待ちくたびれたため、俺はベッドの上に寝転んで休む。
これはきっとマチの宮本武蔵作戦なのだ。
あえて決闘に遅刻することで、相手を精神的に揺さぶる。
そういった策略に違いない。
これに引っかからないようにするためには、まず平常心を保つことが重要だ。
いつ相手が来るのだろうと考え続けて精神を消耗しては相手の思うツボだ。
可能な限りリラックスしておかねばならない。
さらに、こうやってベッドに寝転ぶなどして余裕のあるフリをして見せることで、お前の作戦など全然効いてませんよ的なアピールを行い、逆に相手の精神にダメージを与えることができる。
そう、これは一見ただ寝ているだけのように見えて、実際はマチの精神攻撃に対するカウンターとなっているのだ。
マチに対する精神的カウンターをはじめて数分が経過した。
ここでようやく待ち人が現れる。
入口の扉の鍵が外側から開けられ、和服ピンク髪スパッツ女が部屋に入ってきた。
マチだ。
いや、マチオルタかもしれない。
マチとマチオルタは変装して互いに入れ替わっているので、マチに見えるということはマチオルタのはず。
しかし、相手を襲撃する時にまで変装をしたままなのかという疑問もある。
試験官も受験生もいないなら変装は不要だし、自然体の状態の方が、戦いに集中しやすいはずだ。
というか、こうやって俺に悩ませるのが作戦なのかもしれない。
俺はそんな敵の作戦を打破すべく、彼女がマチなのかどうか確かめることにした。
まずは彼女の前に立ち、じっくりと観察してみたところ、なんとなくマチオルタっぽい気がした。
次にミルクの有無を確認してみる。
出ない。
ということはマチオルタだ。
俺は確証を得るために時間をかけて入念にチェックした。
どうやら本当にマチオルタであるらしい。
俺からチェックを受けていた彼女は額に手を当てながら、深いため息をついた。
彼女は「そんなに母親がほしいのか」と呟いた。
親なんて無責任でロクなものじゃない。
だから、弟として管理される方が幸せだ。
マチオルタはそんな感じの説得をしてきた。
俺はチェックを行いつつ、一応は彼女の話を聞いておく。
だが、もとから母親を諦めるなどという選択肢はない。
マチオルタは再びため息をつく。
「姉さんと戦うなら、気をつけな。本当に殺されるよ」
彼女はマチの恐るべき計画について話してくれた。
マチは状況によっては、本気で俺をヤるつもりであるらしい。
ヤって俺の体を自分のものにする。
すると、魂の器である体を奪われた俺は強制的に相手の体を奪いその中に魂を入れることになるだろう、という作戦らしい。
相手のお腹の中にある新しい体を奪い、俺は再びハッピーバースデー。
赤ん坊になって再教育を施されるのだという。
ある程度の年齢まで成長した段階で俺が言う事を聞かなかったら、再びヤられて、赤ん坊になる。
この繰り返しだ。
かつてマチが言っていた『循環』という言葉はこれを意味するのかもしれない。
『魔女の若返り薬』や『長寿食ニトロ米』という単語が頭に浮かんだ。
肉体を若く保つ手段がある以上、俺はこの無限ループから逃げられない。
原作世界線において主人公のゴンは、自身の肉体を相手に勝てる年齢までレベルアップさせることで勝利するという荒業を使った。
マチのこの作戦もある意味でそれと似ている。
俺がマチに勝ち得る年齢まで成長する前に、強制的にレベルダウンさせて、保護管理下に置き続けるわけだ。
「それを回避する方法も一つだけあるよ。あたしがあんたの体を回収すればいい」
マチオルタが俺の体を回収すれば、たしかにマチの産み直し無限ループに嵌ることはないだろう。
だが、そうすると魂を入れる器がマチオルタの体になってしまうのではないか。
マチオルタを乗っ取ることになるのか、あるいは二つの魂が一つの体に同居することになるのか。
やったことはないので不明だが、これが成功したとしても、一つ問題が出てくる。
それは、マチをママにできないという点だ。
マチオルタはマチの妹。
妹になるくらいなら、まだ弟の方がマシではなかろうか。
「そうじゃないよ。あたしも姉さんと同じことをすればいいんだ」
マチオルタは、俺のタオルを手に取りながら、そんなことを言った。
原作主人公のゴンは、父親の従妹であるミトさんをママにしていた。
つまり、親の従妹はママにできる。
であるならば、親の姉もママにできると考えるのが自然なのでは?
マチオルタをママにしつつ、マチもママにできる。
これって最強なのでは?
「あんたの料理を食べて『慈愛』というもんが少しわかった気がしたよ。親っていうのも実は案外悪くないのかもしれない」
案ずるより産むが易し、という言葉がある。
これは、色々と悩んだり計画を立てるよりさっさと出産してもらった方が簡単だ、という意味だったような気がする。たぶん。
ゆさゆさゆさと大きく体を揺さぶられる。
意識が浮上し、目を開けると、既にマチオルタはいなかった。
では眠っていた俺を起こしてくれたのは誰だろうか。
ここに木馬ちゃんはいない。
となると……?
俺の隣にはチョコロボが寝ている。
その姿を見た瞬間、俺は気づいてしまった。
俺を起こしたのは、チョコロボだ。
昨日、サインした書類。
よく思い返してみると、一枚目の書類よりもほんのわずかに重かった気がする。
その重さの違いは、なにか、だ。
きっと、一枚目の書類に何文字か書き足してあったのだろう。
そのせいで数文字分のインクの重量が書類の重量に追加されていたわけだ。
書き足されていた文字はおそらく『カルト』ではなかろうか。
俺はトルテだけでなくカルトとの婚姻にも同意した扱いとなり、チョコロボの所有権がカルトと共有された。
その結果、カルトは紙を操る能力でチョコロボを操作できるようになったのではないだろうか。
カルトがこの部屋を監視していて、チョコロボを操作することで俺を起こした、という仮説だ。
それを裏付ける証拠もある。
集中して感覚を研ぎ澄ましてみると、なにかから見られているような気配を感じたのだ。
俺の勘はよく当たる。
ヒロインなどの仲間と別行動する展開をどう思うか教えてください
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ずっと一緒にいるほうが好き
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男には一人になる時間も必要
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一人プレイでも複数プレイでもOK
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短時間なら可
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特にこだわりはない