マチをママにする程度の能力   作:まだ名前はありません

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予言する程度の能力

原作世界線において、ネオン=ノストラードという少女は、ノストラードファミリーというマフィアのボスの娘であった。

 

といっても、彼女自身がマフィアっぽい危険な仕事をしていた様子はなく、特別ヤバい女というわけではなかったように思う。

 

人体収集という少し特殊な趣味があるだけの普通の女の子で、珍しい眼球を買ってもらって喜んだりするなど、かわいらしいところもあった。

 

 

 

たしか、彼女は未来を予知できる念能力を持っていたため、占い師のような仕事をしていたはずだ。

 

よく当たる占いが評判となり、裏社会のトップに位置する者まで顧客となっていたようなので、その実力は折り紙付きである。

 

 

その占いによって様々なコネクションを得た彼女の父親は、たった一代で自らの組織を田舎の弱小マフィアから、裏世界でも一目置かれる存在にまで成長させることができた。

 

それほどまでに彼女の占いは優れていたわけだ。

 

 

きっと彼女は、古代ギリシャにおいて予言の神とされたアポロン神の加護を受けていたに違いない。

 

 

 

 

アポロンが力を与えた予言者として有名な人物の一人に、トロイの王女であったカッサンドラという巫女がいる。

 

 

カッサンドラは、トロイが滅亡することを予言したのだが、それを誰にも信じてもらえなかった。

 

その結果、彼女の警告を無視した人々によって、兵士を満載した木馬がトロイの内部に運び込まれることになってしまったわけだ。

 

あとは誰もがよくご存じの通り、トロイという国は滅んでしまう。

 

 

 

亡国の王女となったカッサンドラは戦利品として敵国へと送られ、その国の王の奴隷妻にされた。

 

しかも、王妃の手により王と一緒に殺されてしまうというオマケつき。

 

ギリシャの神々と関わるとロクなことが起こらないという典型的な例である。

 

 

 

 

 

それにしても、縁起が悪い。

 

俺と同じ名前の国が、予言者を信じなかったことで敵国に落とされているわけだ。

 

もしかすると、俺もネオンと名乗るこの少女の予言を無視したりしたら、陥落させられてしまうかもしれない。

 

 

 

 

彼女が余計な発言をする前に、口を塞いでしまおうか。

 

ちょうどここには、お口に突っ込むのに最適なフルーツランキング堂々の第1位であるバナナがある。

 

 

とりあえず、これを彼女に咥えさせよう。

 

 

 

普通ならば、初対面の女性にバナナを無理やり咥えさせることは悪いことだ。

 

 

 

しかしながら、彼女はローブを身に着けている。

 

 

 

 

 

このパターンは前にも見た。

 

 

帰納法で考えると、彼女はマチが用意した刺客の一人であるに違いない。

 

きっとローブの下にはウエディングドレス的なものを装備しているのだろう、というところまで予想ができてしまう。

 

 

 

 

 

第1次試験における刺客は、ウエディングドレスを着た蜂使いのポンズ。

 

第2次試験における刺客は、ウエディングドレスを着るよう言われたのに着なかった挙句、自主的に寝返ったワルい女マチオルタ。

 

そして、第3次試験における刺客が、ウエディングドレスを着た予言者であるネオンなのだろう。

 

 

 

 

つまり、彼女は俺の敵だ。

 

 

初対面の女性であっても、それが明確な敵であるならば、例外としてお口にバナナを突っ込んでも良いはずだ。

 

 

 

 

大義名分を得た俺は早速バナナの準備をする。

 

 

 

なぜか俺は行動を読まれにくいことに定評があるので、おそらく彼女もこの行動には対応できないだろう。

 

 

そう思った次の瞬間、ネオンが俺のすぐ目の前にまで移動し、こちらを見下ろしていた。

 

子供の俺では、おねえさんのネオンに身長で勝つことはできないようだ。

 

 

 

 

「ざんねーん。あたしの予知は必ず当たるの。『百発百中のネオン』とか『一撃必中のネオン』とか呼んでもいいよ」

 

 

変な二つ名を希望するネオンにより、バナナが掴まれてしまった。

 

 

 

「あたしの『発』は、少し先の自分の未来を見れるの。つまり一緒にいる相手の行動も、ぜーんぶ、おみとおし! ついでに弱点とかもわかっちゃう」

 

 

彼女はウインクをしながら、的確に俺の弱点へと攻撃をしてきた。

 

 

年齢のせいもあって俺の体は耐久力に難がある。

本当に弱点を知られているとしたら、少しマズい。

 

しかし、人間の弱点などというものは共通していることが多いので、単にカマをかけようとしているだけかもしれない。

 

俺は全然効いていないフリ作戦をして、相手の精神へカウンター攻撃を与えつつ、可能な限り自分の情報を渡さないようにする。

 

 

 

 

たしか、原作世界線における彼女の念能力は『天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)』というものだった。

 

占う対象の顔、名前、生年月日、血液型を知ることでその月に対象者に起こることを予知することができる、といったような感じの能力だったと思う。

 

 

ところが、彼女はいま『自分の未来を見る』と言っていた。

 

もしかすると、こちらの世界線では別の能力を持っているのかもしれない。

 

 

たとえば、能力の対象を自分だけに限定することで効力を高めている、とか。

 

もしも他人のことを占えるならば、俺の未来を見れば良いはずなのだ。

 

 

 

生年月日や血液型などの情報も、雇い主であるマチから聞けばすぐに判明するのだから。

 

それをしていないということは、やらないのではなく出来ないと考えた方が妥当ではないだろうか。

 

 

 

とはいえ、彼女の能力が厄介なものであることに変わりはない。

 

 

 

未来が見える相手と戦うなんて面倒だし、やってられない。

 

 

さっさと逃げさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

逃げ込む先は、もちろん『天国』ルートだ。

 

そもそも、俺はプロのフルーツハンターであるマチの仕事を何年も間近で見てきたのだ。

 

どのフルーツに毒があり、どのフルーツが美味しいのかなど、最初から知っていた。

 

 

 

ただ単純に、推理して答えを見つけた感じを装ったほうがなんだかカッコイイ気がするし、なんとなく試験官からも高評価を得られそうだから考察しているフリをしただけなのである。

 

 

この部屋の様子を観察するためにカメラやマイクが仕掛けてあるだろうし、とりあえず考えて結論を出したような雰囲気を出しておくか、という程度の作戦だったのだ。

 

 

現在のような襲撃者がいるという状況で、身の安全よりも優先して実行すべきものではない。

 

 

 

俺は素早く身を翻し、『天国』の扉に向かって走る。

 

 

 

 

 

そんな俺の行動を妨害するかのように、頭上からウエディングドレスを着た二人の刺客が降ってくる。

 

 

 

 

前方には刺客たち、後方にはネオン。

 

 

俺はネオンと新たな二人の襲撃者に挟まれてしまった形だ。

 

 

しかも、これにより数的有利が消失してしまった。

 

相手は三人、こちらは俺と木馬ちゃんとチョコロボの三人。

 

 

 

部屋の狭さのせいで木馬ちゃんが満足に戦えず、チョコロボは自力では動けない。

 

状況はかなり悪いようだ。

 

 

 

それを相手も理解しているのだろう。

 

彼女たちは全員が笑みを浮かべている、ような気がする。

 

 

後からきた二人は、ウエディングドレスにはつきものである白いベールによって顔が隠されているので、その表情はハッキリとは見えない。

 

 

だが、薄いベールの上からでもわかることはある。

 

 

いくら顔を隠していても、彼女たちの正体など俺にはおみとおしだ。

 

なにしろ、ベールの下には、非常に見覚えがある顔が見えたのだから。

 

 

 

 

ウエディングドレス姿の襲撃者たちはトルテとクララだ。

 

 

「トロピカルフルーツを味わえる、またとないチャンスだとその女に言われてね。君が悪いんだよ、私になかなか食べさせてくれないから」

 

 

「ごめんね、トロイ。こうやって悪いことしたらトロイにスッゴイおしおきをしてもらえるって、その女が言うんだもん。だから、トロイのフルーツ、もらっちゃうね」

 

 

飼い犬に手を嚙まれるという言葉があるが、まさに今のような状況のことを言うのだろう。

 

手だけではなく別のところまでパクリとされそうな気配もするので、現状はそれよりもさらに悪いかもしれない。

 

「ずるいと思っていたのだよ。君は会ったばかりの女に、『チ』ではじまる三文字のアレをご馳走していただろう? 本当は私だって欲しかったのに、君はくれなかったじゃないか」

 

「そのとおり! わたしだって、トロイから『コ』で終わるアレを食べさせてもらったことなんて、まだ一度もないのに! あのウエディングドレスの女、ずるいよ!」

 

 

 

『チ』ではじまり『コ』で終わる三文字の食べられるものとはナニか。

 

そんなものは『チョコ』に決まっている。

それ以外に条件を満たすものは存在しないだろう。

 

 

では、トルテが言う『ウエディングドレスの女』というのはダレなのか。

 

候補となるのは二人しかいない。

第1次試験で結婚を申し込んできたポンズ。

第2次試験の試験官であったメンチ。

 

そして、俺は試験中にチョコロボをメンチに食べさせている。

 

 

つまり、トルテとクララは、俺がメンチにチョコを食べさせたことを怒っているのだと思われる。

 

親しいはずの自分たちが味わったことがないものを、ぽっと出の女が簡単に与えられたことに腹を立てたわけだ。

 

 

その感情をネオンによって煽られた結果、彼女たちは刺客となってこの場に現れたのだろう。

 

ここで俺のフルーツを食べることでトルテとクララもその女と同じ立場になれる。そんな感じのことをネオンは吹き込んだのではなかろうか

 

 

 

 

もしかするとチョコ以外にも条件を満たすモノが存在し、それを俺がポンズだけに食べさせたことを不満に思っているという可能性もある。

ただし、そんなモノは今のところ思いつかないので、これは考えなくてもいいだろう。

 

 

 

「まずは邪魔が入らないようにしようか。白雪姫(スノーホワイト)!」

 

 

クララから放たれた吹雪により、頭上に空いていた穴が塞がり、部屋全体が凍りつく。

 

 

バナナが釘を打てるくらいカチカチに凍るような寒さが、部屋を真っ白に染め上げた。

 

 

これでは監視のためのカメラやマイクも機能しないだろう。

 

試験官に推理力をアピールするためのチャンスが失われてしまった。

 

 

もはや、こんな寒くて真っ白いだけの部屋に用はなくなった。

 

さっさと『天国』の扉へといきたい。

 

 

だが、そのためには、まるで壁のように立ち塞がる邪魔な幼女たちを何とかしなければならない。

 

 

 

 

 

真っ白い床の上を、真っ白いウエディングドレスを着た、真っ白い氷まみれの幼女たちが歩いてくる。

 

彼女たちの壁を突破しなければ、『天国』ルートに入ることは不可能。

 

 

 

「じゃあ、さっそくカチカチになったトロイのバナナ、たべちゃうね」

 

「まったく。ちゃんと私の分も残しておいてくれるのだろうな?」

 

 

どうやら彼女たちは二人がかりならば、俺に勝てると思っているようだ。

 

 

油断大敵。ある程度の実戦経験があれば、勝てそうだからといって気を抜くなど絶対にしない。

 

この状況で勝利を確信するなど、彼女たちが大人の世界を知らないロリだからこそ出てくる発想だろう。

 

未だ何ものにも染められていない真っ白な幼女たちが俺へと迫ってくる。

 

 

 

そんな俺たちをネオンは何もせず静かに見つめている。

 

ネオンとトルテたちは完全に利害が一致しているわけではない。

 

あくまでもトルテたちはイタズラしに来た程度の気分であるはずだ。

 

 

 

今の状況で俺をヤろうとしても、流石にトルテたちが邪魔をする。

 

そうなればネオンに勝ち目はない。

 

 

彼女は、事前に幼女用のウエディングドレスを用意できるぐらい予知が得意なのだ。

 

その程度のことは既に予見しているに違いない。

 

 

だからこそネオンは待っているのだろう。

俺とトルテたちがぶつかり合って体力を消耗するのを。

 

 

ゆえに今はトルテとクララにのみ集中すればいい。

 

ネオンが様子見をしている内に、俺は幼女たちの壁を乗り越えて、先へと進むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

俺は幼女たちの壁を突破して、『天国』へと辿り着いた。

 

 

とはいえ、暴力的なことは一切行っておらず、ある種の交渉をしただけだ。

 

 

 

俺はトロピカルフルーツが欲しいと騒ぐ彼女たちに、望み通り好きなだけ食べさせてやったわけだ。

 

彼女たちは、おなかをパンパンに膨らませ、白くなった床の上で寝転がり、氷などで全身が白く染まってしまっている。

 

着ていたウエディングドレスのスカート部分も滴り落ちた複数の種類の果汁により汚れてしまっているので、シャワーを浴びて着替えなければならないだろう。

 

 

まぁ、氷を融かして水でも作れば良いのではないだろうか。

 

 

 

 

戦わずして勝つのが最善である。

 

孫子もそう言っている。

 

つまり、俺は最善の行動をとったわけだ。

 

 

 

後はさっさと試験をクリアしてしまえばいい。

 

 

 

俺は『天国』のドアの取っ手を掴んだ。

 

 

 

 

 

その瞬間、背後から敵意を感じた。

 

 

ようやくネオンがその気になったらしい。

 

 

いつ彼女が来るのかずっと注意を払っていたおかげですぐに対応できる。

 

 

 

俺は即座にその場を跳び退いて、巫女さんと対峙した。

 

 

 

 

 

 

…………巫女さん?

 

 

 

「ウエディングドレスばっかりだと飽きるでしょ?」

 

 

原作世界線において、ネオンの侍女たちは和風の着物を着ていた。

 

ネオンはある程度は和風文化についても詳しいと思われる。

 

 

「どう? 本格的でしょ?」

 

 

白い衣。緋色の袴。

そして洋風の下着ではなく、ふんどしのような薄布を身に着けている。

 

間違いなく巫女さんだ。

 

 

 

 

予言者であり、同時に巫女でもある。

 

 

まさに俺の天敵のような存在が現れた。

 

 

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