マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
少し先の未来を見ることができるとしたら、一体どうなるだろうか。
どのように相手が攻めてくるかわかるので、身体の位置をずらして受けるダメージを軽減できる。
どのように相手を攻めればどんな反応をするかわかるので、的確に相手を追い詰めることができる。
普通に強い。
何の対策もしなければ、一方的にダメージを受け続け、限界まで削りきられてしまうだろう。
あっという間に天国行きだ。
正直に言って、万全な状態でもあまり戦いたくない相手だ。
なんだかんだと騒ぐトルテたちを静かにさせるために僅かながら体力を消耗してしまった以上、なおさら彼女と戦うのは避けたい。
まだ巫女さんと組み合って数十秒しか経っていないが、状況はかなり厳しい。
こちらの攻撃は、予知能力により察知されてしまっているのだと思われる。
彼女は攻撃の当たる位置を調整することで、上手く衝撃を逃がしているようだ。
ダメージを与えられている感覚があまりない。
彼女が浮かべている余裕のある笑みからも、俺の推測が事実だろうということがわかる。
そしてそれとは反対に、俺が受けたダメージは決して少なくない。
どこに攻撃を受けるとダメージが大きくなるのか、彼女は予知により事前に知っているのだ。
まだ俺がダウンしていないのは、彼女の未熟さによる影響が大きいだろう。
彼女の動作には、時々ぎこちなさが混じる。
おそらく、これは実戦経験の圧倒的な不足によるものだ。
予知により『どう動けば良いか』がわかっていても、それを実行する際にどうしても不慣れさが現れてしまうわけだ。
もしも彼女が百戦錬磨の達人であったならば、一方的にやられていたかもしれない。
そんな彼女の唯一の弱点である経験不足も、俺との実戦を通してどんどん補っていっているわけだ。
ここで意地を張る必要はない。
こんな茶番などすぐに終わらせてしまおう。
何を考えて彼女が襲ってきたかは不明だが、それに俺が付き合ってやる義理もないだろう。
俺は彼女の思惑など無視して、『天国』へと向かうことにした。
相手に『勝つこと』と『負けないこと』は決して同じではない。
彼女は俺に勝つ気まんまんらしいが、そもそも俺はここでの勝敗などどうでも良いのだ。
自分が『天国』まで到達できさえすればそれで満足であり、彼女に勝利宣言をされても全く悔しくない。
「ざんねんでした、あたしからは逃げられないよ」
もうすぐ『天国』に辿り着くというところで、ネオンによってガッシリと掴まれてしまった。
予知能力で、俺の考えを先読みしていたのだろう。
それに加えて、足元の状態の悪さも影響した。
俺はうっかり足を滑らせたりしないよう体勢の維持に集中しなければならなかったのだ。
本気で突っ込めば『天国』へと到着していたかもしれないが、確実さを求めて失敗してしまった。
「さあ。もう一回、最初からだね」
せっかく『天国』の扉へと近づいていたのに、再び最初の位置関係に戻されてしまった。
彼女は一体、なにがしたいのか。
俺が戦略的撤退をすれば、彼女は勝利を宣言できるだろうに。
もしかすると、時間稼ぎが目的なのだろうか。
俺をこの場に釘付けにすることで、タイムオーバーを狙っている可能性がある。
それをやれば彼女自身も不合格となるが、マチは問題なく試験を通過し、俺とマチの勝負はマチの勝利となる。
そんな計画を企んでいるのかもしれない。
だとしたら、なおさら時間を無駄にしたくない。
彼女との戦いはなるべく早く終わらせなくては。
俺は彼女の攻めの勢いを利用したり、こちらから攻撃を放った時の反動を上手く使ったりして、もう一度『天国』の付近へとやってきた。
「ちょっと待った! そこでストップ!」
しかしまたしても、あと少しという状況で足止めされてしまった。
どうやら彼女は俺の戦略的撤退を認めないつもりらしい。
「どうしてこんなヒドイことするの、おねえちゃん! って顔してるわね。理由、知りたい?」
ネオンはまるで俺の思考を読んだかのような発言をする。
俺に嫌がられている自覚はあったらしい。
なんてイジワルなおねえちゃんなのだろうか。
「あたしには未来が見える、って言っても誰も信じてくれないんだもん。『手品みたいに仕掛けがあるんだろう』とか『そうなるように誘導しているんだろう』ってね。だからあなたに信じてもらうために、能力を実演してみることにしたの」
俺は彼女が未来予知に関する能力を持っているだろうということを事前に知っていた。
だが、俺以外の人間からすれば、いきなり現れた少女が「私には未来が見えます」と言ったとしても本物の予言者だとは思わないだろう。
そういった自称予言者というのは、基本的に全員が偽物であるからだ。
それに、『彼女が予言した内容が必ずしも起こるとは限らない』というのも信憑性を低くしてしまう。
もしこの後『悪いことが起こる』と言われれば、半信半疑であってもそうならないように注意するだろうし、その結果として悪いことを未然に回避できるかもしれない。
それとは逆に『良いことが起こる』と言われれば、状況を楽観して本来なら成功することに失敗するかもしれない。
彼女が未来を見て、それを誰かに伝えた瞬間、その未来が訪れなくなってしまう可能性があるわけだ。
これは電化製品と非常によく似ている。
たとえば、プリンターなどの電化製品が故障して動かなくなったとする。
このプリンターという機械には、印刷しようとしている書類の重要度が高いほど故障しやすくなるという機能がついている。
よって、故障した場合はすぐに対策が必要となる。
そこで、それをどうにかしてもらおうと他から人を呼んでくると、なぜかその途端、プリンターは何も問題が無かったかのように動き出すわけだ。
この時、再び動き出す確率は、呼び集めた人数に比例するということがよく知られている。
問題を解決すべく集まった人々の前で、やっぱり大丈夫でしたと頭を下げて解散してもらわなければならない。
正直に見た通りのことを言っただけなのに、なぜかつらい思いをすることになる。
彼女の予言もそれと同じだ。
他人に見た未来のことを知らせた瞬間、それまでと状況が一変する可能性がある。
しかも、大勢の人に教えるほどに変化する確率が大きくなってしまう。
そして、予言したことが起こらないことで不満げな顔をする人々から、何か嫌なことを言われることもあったかもしれない。
それに、仮に予言が的中したとしても問題の解決とはならない。
俺の予想になるが、彼女は『自分の周囲』の未来しか見えないと思われる。
そうなると彼女が予言できるのは『自分の周囲で発生すること』のみだ。
自分とは全く関係ない場所で起こることを予言すれば、未来が見える証拠となるかもしれない。
ところが、身近な場所のことばかりだと、単なる偶然だとかヒマを持て余した金持ちの娘のイタズラだと思われてしまう確率が高くなる。
現状の俺とネオンの勝負を客観的に見たとしても、達人のおねえさんによって子供が手玉に取られているようにしか見えないのではないだろうか。
彼女はまさにカッサンドラだ。
予言をしても信じてくれる人がほぼいないことに苦しんでいる巫女さんなのだ。
俺の天敵。
彼女の予言を無視したら、大変なことになってしまうかもしれない。
あるいは、俺自身が無意識の内にそんな制約をつけてしまっている可能性もある。
俺は『天国』の手前と最初の状態を十往復ぐらいしながら、そんな推測をした。
とはいえ、彼女を突破することが出来ないというわけではない。
彼女にも少なからず弱点は存在する。
一つ目の弱点は、見える範囲が狭いことだ。
彼女自身の「自分の未来が見える」という発言が本当ならば、自分から遠く離れた場所のことは予測できないことになる。
遠くで起きること、見えない場所で起こることに彼女は対応できない。
二つ目の弱点は、彼女はあまり先の未来までは見えないのではないか、ということだ。
俺は彼女が予知系統の能力に適正があることを最初から知っている。
にもかかわらず彼女は、俺が他の人間たちと同じように予知能力のことを簡単には信じないと思い込んでいる。
もしも彼女がある程度まで先の未来を見ることができるなら、俺とのやり取りの様子などから、俺が彼女の予言者としての能力を疑わないと気づくはずだ。
よほど彼女の察しが悪くない限り。
つまり、彼女はせいぜい数秒から数分単位の直近の未来しか見ることができないのではないだろうか。
あるいは遠い未来は見づらくて、近い未来の方が見やすいとか。
トルテとクララが着ているような子供用のウエディングドレスが事前に用意してあったことから、俺はネオンがかなり遠い未来まで自在に見ることができると考えてしまっていた。
だが、マチはトルテが試験を受けることをもともと知っていたのだ。
よって、最初からトルテを花嫁に勧誘するつもりで、ドレスを複数種類準備していたのではないだろうか。
トルテは成長期だ。
その成長がかなり早かった場合を想定して、クララの着ているような大きいサイズのドレスが用意されていたという可能性は十分にある。
試験官であるマチオルタが協力すれば、試験会場に複数のドレスを運びこんでおくことも不可能ではないはずだ。
そう考えると、ネオンは『遠い未来までは見えない』か『見るのが苦手』という仮説が有力となってくる。
であるならば、『自分が敗北する未来を見たが、その時には既に全てが手遅れ』という状況を作れれば良い。
敗北することを知って、すぐにそれを回避しようとしたとしても、絶対に対策が間に合わない『詰み』の状態。
それを用意できれば俺の勝ちだ。
さらに十回ほど『天国』の直前まで迫ったり戻ったりしながら、俺は色々と作戦を考えた。
「どう、信じる気になった? ……あれ? あたしの声、聞こえてる? もしかして、おねえさんにイジワルされて泣いちゃった?」
俺は無心で彼女の容赦のない攻撃に耐えていた。
あとちょっとで『天国』というところまで何度も到達したのに、彼女の妨害によってそれらの希望は全て絶望へと変わった。
俺は『天国』へ向かうことを諦めていないフリをして、このやり取りをひたすら繰り返す。
彼女は俺に逆転の策が存在しないと勘違いしている。
そのまま、勝負が決まる瞬間まで油断していてくれ。
俺は勝機が生まれるのをひたすら待ち続けている。
早く、早く生まれてくれ。
神様仏様木馬様チョコロボ様、俺に逆転するための、勝つためのチャンスを。
「
そんな俺の願いが通じたのか、突然、ネオンが天を仰いだ。
「あぁ、見える! うそっ! 球体の中に白いオタマジャクシが入って……!」
ネオンは敗北の未来を見て、どうにかしようと考えているのかもしれないが、もう回避することは不可能だ。
オロオロしているネオンの後ろには、いつの間にかアルカとトルテが立っていた。
流石は暗殺者、気配を隠すのが上手い。
アルカたちの手には半分に切られたメロンが乗っており、白いプラスチック製のスプーンがそこへ突き刺さるところだった。
そのメロンには強い毒があって危険なのだが、暗殺者にとっては美味しいスパイスのようなものなのかもしれない。
なぜ、アルカとトルテがここに現れたのか。
それは、俺の懐にいるチョコロボが呼んでくれたためだと思われる。
原作世界線において、カルトは『対象者に自身の操る紙をくっつけることで、その周囲の音を拾う』というような能力を使っていた。
きっと俺とカルトの共有物である紙製のチョコロボが『カルトの操る紙』と判定され、聞こえてくる音によって、カルトはこの場の状況を知っていたのだろう。
あるいは、ナニカが原因でチョコロボが人間を召喚する能力を使えるようになったという可能性もあるが、それは少し突拍子もないアイデアな気がする。
よって、アルカとカルトがチョコロボを通して音を聞いており、救援に来たと考えるのが妥当だろう。
なんのことはない。
チョコロボを最初に排除しなかった段階で、ネオンは敗北していたのだ。
アルカは俺の顔を見て一度頷くと、ネオンのことを指さして言った。
「キャラ被り、だめっ」
そう言われてみると、アルカの服は和風で、どこか巫女さんっぽい感じもする。
第2次試験の時は別の服を着ていたので気づかなかったが、たしかに彼女たちの服装は少し似ているような気もする。
もしかすると、アルカは救援に来てくれたのではなく、キャラが被っているのが許せなかっただけかもしれない。
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