マチをママにする程度の能力   作:まだ名前はありません

36 / 36
依頼する程度の能力

勝敗が決まるのはもっと先だと思っていた。

 

まさか、こんなタイミングで決着をつけることになるなんて想定外すぎる。

 

 

 

 

喉の中が急速に渇いていき、背中には嫌な汗がにじむ。

 

 

一体なにをしにここに来た。

そんな言葉を投げかけようとしたのだが、口が渇き過ぎて言葉がでない。

 

 

ダメだ。

動揺していては、勝てる勝負にも勝てなくなってしまう。

 

 

 

まずは落ち着いて冷静に状況を分析しなくては。

 

 

そうだ、ミルクのことを考えればいい。

 

美味しいミルクを想像するだけで、大量のよだれがあふれてくる。

 

口の渇きをこれで相殺すれば、会話も可能となるだろうし、こちらが緊張していることを隠すことも可能だ。

 

 

 

 

「本当はアンタが寝るまで待つつもりだったんだけど、気づかれたなら仕方がない」

 

 

 

俺の口の中が完全に潤う前に、向こうから仕掛けてきた。

 

マチと俺の周囲が大量の糸により覆われていく。

 

一瞬どう対応するか悩んだせいで、逃走するタイミングを失ってしまった。

 

 

 

このまま逃げ出そうとしても、糸の壁を破壊する間にマチに捕まってしまう。

 

現状で一番生き残る確率が高いのは、一撃入れた後に全力で逃げるという作戦だろう。

 

 

殺すなら頭か首。彼女からはそう教わった。

 

つまり、頭と首への攻撃は警戒されているはずであり、他の場所を狙った方が上手くいくかもしれない。

 

 

そんな俺の予想は当たった。

 

胸を狙った俺の攻撃は防がれることなく無事に通った。

 

しかし、肝心のダメージを与えてひるませるという作戦は失敗に終わる。

 

当身した瞬間、ミルクのことが頭に浮かんで力が抜けてしまったのだ。

ここは腹を狙うべきだった。

 

 

 

 

「捕まえた!」

 

俺の放った一撃は受け止められ、そのまま彼女に抱きしめられる形となってしまう。

 

これでは逃げられない。

というよりも、逃げようという気分にならない。

ずっとこのままでもいいと思ってしまう。

 

 

俺が大人しくなったことで、マチは勝利を確信したのだろう。

これまでの経緯を饒舌に話しはじめた。

 

 

「お腹を空かせたまま死ぬのはかわいそうだろう? だから、寝ている間に最後の晩餐をあげようと思ったのさ。でも、まぁ起きていても問題はないか」

 

あふれ出てくるミルクを舐めながら、俺は静かに彼女の話を聞く。

 

 

 

「少し危ないやつらにアンタたちの情報を流した。もし勝負を諦めるなら今が最後のチャンスだよ」

 

 

マチの発言を聞く限りでは、マチオルタの警告は本当だったと思われる。

 

俺を死と再生の無限ループ状態にすることで自身の管理下に置くことがマチの目的なのだろう。

 

 

一方的に頼られる庇護者の立場よりも、姉という管理者の立場となって弟を管理することを彼女は望んでいる。

期待され一方的に評価を受ける立場より、管理し評価を行う立場の方が楽であることに疑いようはない。

 

 

もし人々から頼られて彼らを導かねばならない存在となったりしたら責任感などから大きな不安を感じるだろう。

だが、人類を管理する立場になったと考えれば少しだけ気持ちが楽になる。

 

 

どれほど偉大で崇高な政治家だって必ず堕落し、人間を単なる家畜か何かだと考えるようになる。

それはある意味当然で、そもそも人間には一定数以上の人間の期待を背負うほどの強靭な精神など備わっていないのだ。

 

 

これが人間の限界だ。

人を管理するだけの数字として置き換えなければ、プレッシャーに押し潰される。

だから、堕落した政治家か最初から堕落している政治家しか残らない。

人間には人間を管理することはできても、人間を庇護することなどできはしない。

 

唯一、母親という存在を除いて。

 

ようするに、どれだけ偉大な指導者でも押し潰されるような重責にすら負けないママはさらに偉大であるわけだ。

 

 

 

 

「いやだ。諦めない」

 

そんな大いなる存在を諦めるには、まだ早すぎる。

俺が人間である限り、自分から手放すことなどできはしない。

 

 

「強情だね。死ぬことになるよ」

 

真剣な表情でマチが忠告してくる。

 

これは単なる脅しではないだろう。

やはり危険人物を上手く誘導して、そいつに俺を仕留めさせようとしているのだと思われる。

 

そして、その人物の正体はヒソカに違いない。

俺の予想は当たっていたようだ。

 

だが、俺はやつの注意をそらす方法を一応は思いついている。

流石のマチでも、これは予想外だろう。

 

彼女が勝利を確信して油断している隙に、最終試験で最速合格を決めてやる。

 

 

「俺は死なない。絶対に勝つ」

 

「あっそ。……少しは頼もしくなったみたいだね」

 

 

 

 

 

夕闇に溶けるようにしてマチが去っていく。

 

 

俺は地面に寝そべっている木馬ちゃんの隣に座り込み、作戦の成功率を高めるにはどうすれば良いか必死で頭を働かせる。

 

あそこまで言った以上、できるならば作戦を成功させて、彼女を驚かせてやりたい。

 

 

 

 

しかしながら、何も良いアイデアが思いつかず、ただ時間だけが過ぎていく。

 

何の成果も得られない状況に飽き、だんだんとまぶたが重くなってくる。

 

 

 

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

いつの間にか俺は眠ってしまっていたらしい。

周囲は既に真っ暗だ。

 

少しずつ意識がはっきりとしてくる。

 

 

 

寝ている間に、なんだか変な夢を見た。

 

 

 

 

その夢の中では、ハンター試験に合格するために忍者がオモカゲと戦っていた。

 

 

ハンター試験の課題としてA級賞金首と戦うなどとは荒唐無稽な話だが、おそらく寝る前に考えていた内容が混ざり合ってしまったのだと思われる。

 

 

忍者は忍術で分身を生み出すことで二人に増えたり、その分身を吸収して一人になったりしていた。

 

それに対してオモカゲは、人形を自分に取り込んでパワーアップすることで忍者を圧倒していた。

 

 

そこへ援軍として夢の中の俺が現れ、なぜか団長を吸収してパワーアップするという謎の技を披露する。

 

残念ながら団長にはそんな便利な機能はないと思うのだが、所詮は夢の話なので深く考えるだけ無駄だろう。

 

 

 

 

あと三日と少々。

 

それまでにゴンたちは『纏』を習得できるのか。

 

たぶん厳しいだろうと思う。

 

間に合わなかった場合は作戦を実行する際の危険度が高くなってしまうが、マチに大見得を切った以上、諦めるという選択はしたくない。

 

 

 

 

様子をうかがうために三人のもとへと戻ると、案の定彼らの修行は上手くいっていなかった。

 

オーラを体の周囲にとどめる技術である『纏』。

これを行うときの感覚は人によって異なるので言葉で伝えることは不可能。

 

つまり、言葉ではなく本人の経験を思い出させれば良い。

 

 

 

俺は「小さかった頃の気持ちを思い出してみるといいよ」とだけ言った。

 

イメージは胎児とそれを保護する羊水。

あるいは大地に住む人類とそれを抱える水の星。

 

一度感覚がつかめてしまえば、もう忘れることはない。

あとは練度を高めていくだけだ。

 

もっとも今回はそれほど長い時間はないわけだが。

 

 

 

 

 

 

ミルクしか飲めない俺は三人からの晩ご飯の誘いを丁寧に断り、彼らのもとから離れる。

 

カルトたちと連絡を取るためにポケットからチョコロボを取り出して、やっぱりやめてもう一度しまった。

 

夜に連絡したら迷惑かもしれないし、明日の昼まで待とう。

 

 

 

俺は川で軽く水浴びをした後、木馬ちゃんの隣で眠る。

 

マチが夜襲を仕掛けてくるつもりなら、先ほど寝ているときがチャンスだったはず。

 

やはり今回は直接手を下す気はないらしい。

 

ピエロに対する恐怖感も薄れた。

これは俺が狩られるだけの立場ではなく、相手を狩る側になったことによる影響が大きいだろう。

狩る場合も狩られる場合も、ピエロと戦うということ自体は一緒なのだが、なんとなく狩る側でいる方が気持ちが楽になる。

 

一方的に頼られる存在がつらいのと同じように、一方的に狩られる存在であるのも精神的にキツいのだ。

 

 

 

水浴びをしてさっぱりし、緊張から解放されて少し安心したせいか、また眠くなってくる。

 

木馬ちゃんに寄りかかって目を閉じると、どんどん意識が薄れていく。

 

普段、家で寝るときには服など着ないため若干の違和感を感じるものの、それ以上に眠気が強い。

 

 

 

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

寒さで目が覚める。

なぜかわからないが、俺は全裸になっていた。

 

 

寝る前に余計なことを考えたせいで、睡眠中に脱いでしまったのだろうか。

あまりの寒さに思わず俺は抱き枕を抱えこむ。

 

 

周囲はまだ暗く、月も隠れている。

暗殺者でもなければ、何も見えないだろう。

 

 

すぐ隣で何かが動くのを感じる。

同時に甘いミルクの香りが俺の鼻をくすぐる。

いつの間にかクララが帰ってきていたらしい。

 

血の匂いは感じられないため、大きな怪我はしていないと思われる。

 

 

アルカとカルトは上手くやってくれたようだ。

 

そう言えば、依頼料はいくらくらいになるのだろう。

しっかりと払わないといけないな。

 

 

そう考えたところで、俺が抱えていた抱き枕がもぞもぞと動きだした。

 

 

よく思い出してみると、俺は抱き枕など試験に持ってきていなかったような気がする。

 

だとすると、この抱き枕は一体何なのだろうか。

 

俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

 

 

「ねぇ、服かえしてよ」

 

真っ暗闇の中から、そんなアルカさんの声が聞こえてきた。

 

 

まさか暗殺者を抱き枕と勘違いしてしまうなんて。

 

俺はクララに怪我をさせないように頼んだだけだったのだが、おそらくサービスとしてクララを俺のもとまで連れてきてくれたのだろう。

 

しかし、到着したときに既に俺は眠っていた。

 

依頼料の回収ができなくなったことで、代わりに俺の身ぐるみを剝がそうとし、『トロイの木馬(トロイ・ホース)』による反撃を受けた。

 

俺が寝ている間に、きっとこんな感じのことがあったのではないだろうか。

 

 

 

とりあえず、奪ってしまったものを返却し、依頼料を渡さなくてはならない。

俺が持っているお小遣いで足りると良いのだが。

 

 

普通に考えて、代金を払わない依頼人からの仕事など受けようとは思わないだろう。

このままだとピエロから逃げる際の手伝いを受けてもらえなくなってしまう。

 

 

「えっと、いくらくらいお支払いすればいいでしょうか?」

 

「養育費のこと? いらないよ? それよりも服かえして」

 

なんだかよくわからないが、今回は無料サービスにしてくれるらしい。

依頼料のかわりに服を返すだけでいいようだ。

 

ラッキーだな。

 

 

今回の依頼料が浮いたことで、だいぶ余裕ができた。

これで次の仕事も頼むことができる。

 

 

「実は、もう一つお願いしたい仕事がありまして……」

 

俺が依頼の概要を説明すると、アルカさんからはOKの返事をもらえた。

 

 

「夫婦割引で特別に安くしておいてあげる」

 

初回無料サービスに続いて、なんかよくわからない割引までしてもらえた。

 

たぶんトルテのおかげだろうし、彼女には感謝しなければならないな。

 

 

 

 

 

 

これで、作戦が失敗しても、逃げることくらいはできる。

 

後顧の憂いはなくなった。

 

あとは時を待ち、ピエロに挑むだけだ。

会話描写について好みを教えてください

  • 会話は多いほうが好き
  • 少ないほうが好み
  • ほどほどが一番
  • 特にこだわりはない
  • 声や音を出せない展開が好き
  • むしろ大きな声を出してほしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

東家長男は全力でお兄ちゃんを遂行する(作者:全力で遂行するタイプのお兄ちゃん)(原作:魔都精兵のスレイブ)

▼東家って何となく呪術の禪院感あるよね?▼という疑問から抽出された結果、クソ強お兄ちゃん生やしたらあの家系丸く収まるのでは?という発想からこの小説が生まれました▼性格改変タグは念の為です▼


総合評価:1638/評価:8.74/連載:4話/更新日時:2025年12月29日(月) 09:00 小説情報

モンスターハンターかと思ったらHUNTER×HUNTERだった…(作者:レイトントン)(原作:HUNTER×HUNTER)

ここが新大陸ちゃんですか。▼え、暗黒大陸? 知らん……何それ……怖……


総合評価:41010/評価:8.77/完結:76話/更新日時:2025年02月07日(金) 11:00 小説情報

転生したら虚だった件(勘違い)(作者:奴隷貸出中)(原作:魔都精兵のスレイブ)

仮面をつけた怪物、荒野のような世界。成る程、BLEACHだな!


総合評価:3190/評価:7.99/連載:17話/更新日時:2026年05月17日(日) 13:09 小説情報

糸使いは大抵強キャラ(作者:色埴うえお)(原作:呪術廻戦)

原作を知らない男が呪術廻戦の世界に転生。▼左半身の不随という天与呪縛を授かった代わりに得た力を、自分や家族、一族の為に使って過ごしていたらある日突然村が焼かれる羽目に。▼その時出会った五条悟に誘われるまま男は呪術高専へ。▼よくあるオリ主加入もの。転生は有ってないようなもの。▼乙骨と同期で呪術廻戦0の時期にスタート。▼主人公は糸使いなので強キャラです。


総合評価:10636/評価:8.37/連載:15話/更新日時:2026年02月16日(月) 17:00 小説情報

とある転生者の受難日記(作者:匿名)(原作:七つの大罪)

これは、ひょんなことから転生した男の、ありとあらゆる苦難が綴られた日記である。


総合評価:15002/評価:9.12/連載:23話/更新日時:2026年05月08日(金) 19:07 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>