マチをママにする程度の能力 作:まだ名前はありません
地球最大の宗教であるキリスト教が認めているのだから、民主主義的に考えれば『父と子が同一である』ことは人類の総意だと言っても過言ではないはず。
俺は彼女を少し甘く見ていたらしい。
グラビアアイドルのような肉体を持っていると知ってしまったせいで、彼女が戦闘のプロであるという事実を一瞬だけ忘れてしまっていた。
マチの攻撃が空振りした瞬間、俺は逃げるべきだった。
あの状況で本を手にする余裕など残されていなかったのだ。
あっという間に、俺の体はソファに念糸で固定されて、指一本動かせなくなってしまう。
このタイミングで即座に『
しかしながら、俺は躊躇してしまった。
俺は自分の能力について詳しく知らないせいで、使って良いのかどうか判断できなかったのだ。
原作キャラで言えば、ネオン=ノストラードの状況に近い。
念を覚える前に、いつの間にか発を作ってしまっていたわけだ。
当然、能力を発動するためにどんな制約があるかわからないのだ。
強い能力を作るためには、それに見合う厳しい制約と誓約が必要になる。
ルールを決めてそれを破ったら死ぬ等の条件を設けることで、念能力は強化することができるわけだ。
俺の能力には、ルールがあるのか、もしあったとしたらどんなルールが課されているのだろうか。
仮に何らかのルールがあったとすると、俺の能力はなんだか古代ギリシャっぽい感じなので、そのルールもそれに沿ったものである可能性が高い。
例えば、古代ギリシャにおいては泥棒のことを『壁を殴る者』と呼んでいた。
当時の家の外壁は薄かったので、泥棒は家の壁を殴って穴を空けて侵入していたからそうなったらしい。
したがって、俺が他人の家に許可なく侵入する場合、外壁を殴って空けた穴からしか入れない可能性がある。
もし暗殺者に用事があってゾルディック家を訪問する場合、普通の人は試しの門を開ければいいわけだ。
いくら扉の重さがニトンもあるとはいえ、念が使えればなんとかなるだろう。
ところが、俺の場合は、試しの門を殴って穴を空けなければならないかもしれないのだ。
普通に無理だ。
もしできたとしてもゾルディック家と戦争になるだろう。
また、古代のオリンピックの選手は全員が全裸で参加していた。
俺がもしスポーツをする場合、全裸にならなければいけない、みたいなルールがあるかもしれない。
その場合は、グリードアイランドというゲームをクリアするための必須カード『一坪の海岸線』を入手するのがほぼ不可能になる。
スポーツ勝負に勝たないとこのカードはゲットできないからだ。
服を着て出直せ、と言われてスポーツ勝負に参加させてもらえないだろうし、ゲームをクリアすることで得られる報酬も諦めねばなるまい。
そして、スパルタの兵士たちはいつも戦争の時にファランクスという陣形を使っていた。
これは、左手に大きな盾を持ち、その盾の右半分で自分の身を守り、残りの左半分で左隣の味方の身を守るという戦術だ。
もしかすると、俺が複数人で集団戦をする場合、必ず味方とファランクスを組まなければならないというルールがあるかもしれない。
原作の主人公たちが受けるハンター試験では、『多数決の道』という試練が存在する。
これは名前の通り、5人が多数決を行い、協力して困難な道を進むというものだ。
もしファランクスを組まなければ戦いに参加できないとなると、俺はこのルートを選択できなくなってしまう。
情報のない別ルートを選択しなければならず、難易度が上昇してしまう。
このように未来の知識という圧倒的なアドバンテージを捨てることで、俺は強力な能力を得ている可能性がある。
俺は木馬ちゃんのことを単なる能力というだけではなく、大切な仲間であり唯一の家族だと認識している。
彼女と一緒に戦う場合、大きな円形の盾をあと二枚用意しなければルール違反になる可能性もある。
一瞬、そんなことを考えてしまったせいで、判断が遅れてしまった。
動けない俺に対し、マチの一撃が振るわれる。
狙いは頸部。
かぶっていたフードごと首が切断され、宙を舞う。
首が胴体と離れてもほんの僅かな時間は意識を保つことができると聞いたことがある。
あれは本当だったようだ。
もしかすると念能力による強化が原因かもしれないが、もはやどうでもいいことだ。
俺の目に映っているのは、木馬ちゃんと首を失った俺の体、それに向かって落下していく本と母か姉から貰った宝物の服。
このままだと俺の宝物は血で汚れてしまうだろう。
そう思うとなんだか悲しくなった。
涙は出なかったが、代わりに首から何かが勢いよく噴き出た。
それは、光輝く翼を持つ馬であった。
かつて、ギリシャの英雄ペルセウスがメドゥーサを討伐した際、切り落とした首から血とともにペガサスが飛び出したという。
ペガサスというのは、翼がある馬のことで不死の象徴ともされる存在である。
おそらくあれが死後に強まる念とかいうやつなのかもしれない。
いけ! そのまま宝物を保護しろ!
俺の血と引き換えに宝を守れ!
そう願ったものの、なぜか雷のような光を放つ天馬ちゃんは俺の宝物ではなくマチの方へ向かって突撃した。
もしかして、かたき討ち的なことをするつもりなのだろうか。
そういうのは求めていないんだが。
しかも、なんか全然効いていないっぽい。
それどころか、マチは背中から光の翼を発生させており、パワーアップしているようにすら見えてしまう。
まるで、彼女自身が天馬にでもなったかのようだ。
母か姉から貰った大切な服はそのまま地面に落下していった。
なぜだろう。
俺にとっては、あの服よりも、俺の首を落とした彼女の方が大切な存在だというのだろうか。
メドゥーサを打ち取ったペルセウスは、その首とペガサスを自分の武器にしたのだという。
だから、その力は彼女の戦利品だとでも言うのだろうか。
そういったデメリット的な能力をつけることで、自身の能力を強化しているのかもしれない。
せめて、一太刀、彼女に突き入れなければ終われない。
そんな思いが頭の中に生まれた。
トロイの木馬とは、本来は、中に兵士を入れておくものだ。
その兵士が敵中に侵入し暴れまわる。
そういう存在のはずだ。
ならば、俺が木馬ちゃんの中に入るのが、正しい姿なのではないか。
そう思った瞬間、木馬ちゃんがバラバラに分離し、それぞれのパーツが、俺の体を包み込んでいく。
やれる。体の、首から下の感覚が戻っている。
全身の感度もかなり高まっている。
いまなら一太刀入れることも可能だ。
だが、長くは持たないだろうという感覚もある。
30秒くらいで、俺は果てて倒れ伏し、起き上がることはないだろう。
せめて肉体がもっと成長していれば、そんな後悔があった。
俺の顔を見たマチが、驚いた顔を浮かべる、まるで死人にでもあったかのように。
彼女の中では、俺は死んでいた存在なのだろう。
だから、迎撃が完全には間に合わなかった。
天馬と木馬が、叫び声を上げながら、激しく交わる。
俺の一突きが、彼女に突き刺さり、血をまき散らしながら暴れ狂い、そのまま俺は果てた。
この能力を『
俺は、命を最後の一滴まで絞り出し、死んだ……かと思った。
だが、なんとか今も生きている。
より正確に言うならば、一度は完全に死んだのだ。
しかし、マチママに産み直してもらうことで復活したわけだ。
キメラアント編で同じようなことやっている連中はいっぱいいるし、きっとそこまで珍しい現象でもないと思われる。
彼女が俺の体を奪ったため、死後に強まった『
なぜ俺の体を奪ったのか。
死体を埋めるためか。
人体収集家のように俺の死体が欲しかったためか。
それはわからない。
だが、結果として、体を奪われたことでその所有権を奪い返し、相手の持つ体を奪うことになったのではないだろうか。
もっとも、その場合、俺の体は完全に壊れていたので、魂が俺の体に入ってもすぐに死ぬだけ。
よって、相手の体を奪うことになると考えるのが自然だ。
つまり、本来は俺はマチの体を奪ってしまうところだったのだが、いくつもの偶然が重なって彼女は助かったのではないか。
『
誤字報告ありがとうございます。
助かりました。
【2回目】比較的、雰囲気が他よりマシだったと思う部分を教えてください
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