マチをママにする程度の能力   作:まだ名前はありません

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トルテ視点です。


閑話 トルテの慧眼 (改)

トルテは賢い。

 

乳飲み子の頃から暗殺者としての英才教育を受けているのだから当然だ。

 

 

3歳だというのに、既に大人しか知らないような情報をいくつかは知っていた。

その中には、身体が小さいせいで今はまだ使えない知識もあるが、あと5年くらい経てばある程度は使えるようになってくるだろう。

 

 

賢いトルテにはその程度の未来は簡単に予測できた。

 

 

 

 

 

そんな賢いトルテにとって、全く理解できない存在と出会うのはそれがはじめてだった。

 

怪物ならまたくさん見てきたので知っている。

トルテの身近な場所に何人もいる。

彼らは表情を一切変えずにどんな残虐なことだってやってのける。

 

だが、トロイという怪物の存在だけは完全に未知であった。

 

他の怪物たちがは、トルテが苦しむのを見ても嬉しそうに笑うことはない。

微笑みながら褒めてくれることもない。

 

トロイだけだ。彼だけが特別だ。

 

 

 

 

 

 

 

トルテから見て、たしかにトロイは強かったが、瞬殺されるほどの力の差はないはずだった。

 

念の習得率に関しては、相手の方が上だった。

おそらく、かなり小さい頃から訓練したのだろう。

だが、それでもせいぜい3年ほど。

今はまだそこまで大きな差はない。

 

 

次に肉体を比べてみる。

互いに全裸なので、比較するのは容易だ。

 

トルテは繰り返し拷問などを受けることで、耐久力を向上させてきた。

体にはちょっと自信があったし、将来はナイスバディーになることを確信していた。

そんなトルテからして、トロイという男の肉体の強度は未知のものと言える。

 

一部の部位を除いて、特別に体が大きいとか何かの長さが長いといったことはない。

形状は同じなのに、強度が格段に高くなっているように思えた。

 

人体を壊す専門家であるトルテには分かった。

 

生まれた時から、ロイヤルゼリーを与えられる特別な蜂は女王蜂になることができ、肉体、寿命、繁殖能力などの様々な能力が他の蜂を上回るという。

もしかすると、彼もそんな存在なのかもしれない。

 

強く育成するためだけに、貴重な食材ばかりを大量に与えられてきたかのような。

 

 

 

 

とはいえ、技術に関してはトルテの方が上だった。

それは間違いない。

きっとトロイはこれまで基礎的な修行を多くしてきたのだろう。

 

 

トルテには確信があった。

勝てなかったとしても負けることはないと。

 

 

だが、気づいた時にはトルテは地面に倒れこむ最中だった。

 

下腹部に強い衝撃が走り、心臓の鼓動が上昇し、体温も一気に上がる。

 

 

 

一つだけ負けたことに対して言い訳をするならば、場所がトルテにとって不利だったのだ。

 

もし戦う場所が食卓のある居間ではなく、屋外であったのなら、もう少し長く戦えたはずだ。

はじめてみるトロピカルフルーツが気になって集中力が削がれることがなかっただろうから。

 

 

 

 

そんなわけで、他人を傷つけて笑う怪物をはじめて目撃し、自分が彼を喜ばせるために訓練してきたことをトルテは悟った。

今まで自分を傷つけてきた者たちの中に喜んでいる者など一人もいなかった。

でもトロイだけは違うのだ。

 

 

どうしても気になったトルテは、その彼について調べてみることにした。

 

 

 

将を射んとする者はまず馬を射よ。

トルテはまず、マチという女に接近してみることにした。

 

 

この女は普段、服を着ていない。

トルテは賢いのでその理由をすぐに理解した。

 

雌は好みの雄と接触すると下着を洗濯しなければならなくなると、兄の部屋の本によりトルテは知っていた。

おそらくトロイに食事を与える度に下着を洗濯するのが面倒なのだろう。

 

 

 

「ねぇ、あなたトロイとはどういう関係なの? 本当にただの親子?」

 

マチは少し考えるような表情を浮かべた後、簡潔に答えた。

 

「弟ってことになってるよ。母子だったら結婚できないでしょ」

 

兄妹は結婚できるのか。

それは良いことを知った。トルテとトロイも結婚できる。

 

トルテはまた一つ学び、少し賢くなった。

そしてなぜかわからないが、なんとなくこの女が将来、敵対者になるであろうという雰囲気を感じ取った。

 

 

 

 

トルテはトロイの能力の弱点について、いくつか予想を立てていた。

その内の一つが『交換』だ。

トロイから何かを奪うことはできないが、もしかすると交換ならば成立するのではないか。

 

たとえば、トロイの血管に針を刺し血液を抜き取ることで弱らせようと考えたとする。

だがそれをやると、奪われたことに怒ったトロイに反撃され、血液を大量に奪い返されてしまう。

 

しかし、血液と価値が釣り合う別のものをトロイに与えたらどうなるだろうか。

 

店で何かを買いものをする場合、商品と金を交換する。

その価値が釣り合っている限り、この行為を奪ったと表現することはないだろう。

 

つまり、マチという女がトロイにミルクを与え続けているのは、いつかトロイからミルクに類似する体液を抜き取るためではないか、そんな推察ができる。

 

 

トロイから体液を搾り取る際に、自分が別種の体液を流せば、奪い返されることはない。

あの女はそのことにどこかのタイミングで気づいたのだろう。

 

 

 

 

トロイは男だ。

トルテは賢いので、男からはミルクが出ないということを知っている。

これまでトルテは人間の男が切り刻まれる光景を何度か見たことがあるが、ミルクのような白い液体が男の体から出てくることは一度もなかったと記憶している。

 

 

となると、一番可能性が高いのは血液だろう。

ミルクは血液から生成されるのだから。

 

『授乳採血』

 

そんな単語がトルテの頭に浮かんだ。

 

ミルクをトロイに与えつつ、それと同量の血液を抜き取っていく。

 

 

普通ならば、抵抗するだろう。

口を閉じてしまえば、ミルクを無理やり飲ませることなどできない。

 

 

だが、そのミルクが中毒のような症状になるほど美味しかったら?

 

 

近年、流行し始めた赤子の麻薬(ベビードラッグ)という植物がある。

 

最近では複数の赤子の麻薬(ベビードラッグ)を組み合わせることで、より大きな効果を得られるという事も明らかになってきている。

 

赤子の麻薬(ベビードラッグ)は今もどんどん進化し続けているのだ。

 

 

そして、あの女はその植物たちの発見者であり、研究の第一人者なのである。

 

 

 

あまりにも状況証拠が揃いすぎている。

 

 

 

間違いない。あの女、ヤる気だ。

 

トロイから無理やり体液を搾り取るために、長い時間をかけてひっそりと準備を続けているのだ。

 

 

このまま赤子の麻薬(ベビードラッグ)の効果が上昇し続けた場合、トロイはその魅力に抗えるだろうか。

 

 

トロイに普段からミルクを常飲させることで、ミルクに対する抵抗感を薄め、同時に依存度を強制的に高めている。

 

赤子の麻薬(ベビードラッグ)なんてものばかり飲んでいたら、その内まともな判断などできなくなるかもしれない。

 

いずれ、魂を売ってでも快楽を得たいと思うようになるかもしれない。

 

 

そしてその時にトロイは対価となるミルクを与えられながら、逃げることも許されぬまま、ついには命の元となる液体を自ら相手に差し出し、昇天することになる。

 

 

それは、まさに『快楽と命の等価交換』だ。

 

 

 

トルテにはマチの姿が、息子に狂気を与える女神のように見えた。

 

 




誤字報告ありがとうございます。

【2回目】比較的、雰囲気が他よりマシだったと思う部分を教えてください

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