「一撃必殺ですぅ!」
ズガンッ!!
「……邪魔」
ゴバッ!!
「うぜぇ」
ドパンッ!!
「飽きてきたなぁ」
ドゴンッ!!
シアの大槌が、ユエさんの魔法が、ハジメの銃が、そして俺の打撃がライセン大渓谷の魔物を蹴散らす。
こいつら、個々の力は雑魚同然だが数がとにかく多い。
「はぁ~、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」
洞窟などがあれば調べようと、注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。
「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」
「まぁ、そうなんだけどな……」
ポジティブシンキングのシアの言葉にハジメも賛同するが、それでも顔色が著しくない。やっぱりここで取っておきたい気持ちはあるのだろう。
ユエさんは別の問題が生じているようで──
「ん……でも魔物が鬱陶しい」
「あ~、ユエさんには好ましくない場所ですものね~」
「……一之瀬、お前も今もしかして不機嫌か?」
「まぁ、少しはな……森羅万象が試せねぇからな。その分、格闘術を鍛えられるのは儲けだが……」
ここは相変わらず魔力がめちゃくちゃ喰われる場所だ。ユエさんの愚痴の通り、なるべく魔法は行使したくないのに魔物の数が多いので効率が異常に悪いのだ。
かという俺もその対象に入っている。勿論、脚技があるのでそこはユエさん程鬼畜では無いのだが……
いや、ねぇ……マスケット銃の活躍が先程から一切出てこないのでストレス溜まるのも仕方がないだろ?
新たに作った列車砲も使用出来ないし……あれだ。新しい能力を使う機会がないと無性にイライラしてしまうやつだ。
ポ○モンで『ダイ○ング』を手に入れたけど、実際使う機会はチャンピオンになってからでそれまでは使う機会殆どなかった時の気持ち……
えっ、一部の人にしか分からない?
……まぁ、要するに新技が使えないことでストレス溜まるって事だ。
今は愚痴を聞いてくれる相棒も育成に勤しんでいるからなぁ。後ろをチラッと見てみると先程から変わらぬ光景が続いていた。
『その隙を逃すな。手を動かせ』
「……はぁ!!」
『油断しているじゃないか。それでは背後がガラ空きだぞ?』
「っ!……グッ……」
あっ、背後から魔物に吹っ飛ばされた。が、何とか手の剣を地面に突きつける事で体制を立て直した。
そのまま低姿勢で懐に潜り込み、敵に剣を振り上げる。
魔物は雄叫びを上げるが、その攻撃を避けることが出来ずに絶命した。お見事……無情にも魔物はまだまだやってくるんだけどな。
肩から息をしている辺り、あと数体で限界が来そうだなぁ……そんなことを思いながらも目の前から来る敵を踏み潰す。
どうしてネアを助けないのか……それはアルタイルからの指示だ。どんな風の吹き回しか、自らネアの指南役を立候補した。
元々は俺が何となく教えるつもりだったのだが、戦闘のいろは何て全く知らん俺よりも、そこら辺の経験もある彼女が良いと思った。
ここで承諾してしまったのが全ての始まりかもしれない。
一言で言えば、スパルタだ。
ハー○マン程の地獄ではないものの、ネアとアルタイルのマンツーマン方式は厳しいものだった。
身体で覚えるのが1番……その言葉と共にネアは単独でこの魔物の群れと戦うことになったのだ。
実は俺やハジメ達はそこまで距離をとっていないが、ネアは1人だけ魔物に囲まれる形で闘っている。
全方向から飛んでくる斬撃や体当たりを必死に交しながら、ハジメに手加減して作成してもらった剣を振るう……
アルタイル曰く、常に安定した集中力や緊張感を保つこと、柔軟な思考を付けて1人で乗り越える根性、更には制限された武器をどう使うかなど、覚えさせるのだそうだ。
いや、順序!普通はステップを踏んで1つずつやってくもんだろ……
それが一気に10個の課題を並行してやれだなんて……鬼以外の何者だろうか。
次いでに彼女からは『手助けは不要だ。それで死ねばそこまでの人材だったことだ』なんて言っている……
マジでネアの安否が心配になってきたんだが……
幸い、数十分後に魔物ラッシュは佳境に入り、ネアの命は守られた……本人はボロボロで戻ってきた途端に俺に倒れ込むように気絶したが。
こんな調子で大丈夫だろうか……取り敢えずハジメに簡易的なベットを用意してもらおう。
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そんなこんなで3日ほどこの調子が続いた。
迫り来る魔物を退治し、ネアが気絶し、野営し……正直ストレスも溜まる一方だ。
今は数少ない発散の時間……つまり飯の時間だ。目の前のフライパンで焼けてきた鶏肉を口に運ぶ……途端に肉汁と相方のトマトが口に広がり素晴らしいマリアージュを醸し出す。
うめぇ……異世界でもこんな飯が食えるとは。
ハジメ作、現代社会をゴリゴリ利用した調理器具やキャンプ用品がこの空間を非常に過ごしやすいものとしていた。
やっぱり錬成師ってチート職業だよなぁ。
ユエさん達も初めはこれら便利器具に驚いていたが、今となっては普通に使いこなしている。このまま現代の力でサバイバルしてやろうじゃないか!
……あっ、そういえばこの肉も試してなかったな。俺のオリジナル飯をアレンジで──
「……ん?一之瀬、そんな肉あったか?俺の出した鳥肉と違う気がするんだが」
「あぁ、俺の肉を混ぜておいた。ちょいと味の変化が欲しかったからな。お前もいるか?」
「へぇ、それじゃあ頂くか」
ハジメの皿にその肉を載せようとしたその時だった。白い手でガっと掴まれたと思いきや、ユエさんが糸のように細い眼差しで俺を見ていた。
「……ハジメ、待って」
「あ?ユエ、どうした急に」
「……イチノセ、これ……何の肉?」
そういえば言ってなかったか?……そうだったな。これ勝手に俺が入れたんだし。
何の肉かって?そりゃあ──
「見ればわかるだろ?奈落の魔物肉だ」
『……』
2人が一瞬のうちに沈黙した。おいおいどうした?まだ皿の上に乗せてねぇし、そろそろ置くぞ?
だが置こうとしたその時、ハジメのドンナーが炸裂する!金属の箸諸共、肉を吹き飛ばした。血肉の様に飛び散った肉が俺に付着する……
「おい、食べ物に対して失礼だぞ!」
「いやいやいや、魔物に敬意とかねぇから!殺意しかねぇよ!てか、なんつーもん出すんだよ!?確かに俺には毒耐性あるし食えないこともないが……それでもこんな所で態々食いたくねぇ!」
「えー?別に癖が強いだけで問題ねぇと思うんだがな……」
確かにデフォルトではゴムの味だ。あんなもの喜んで食うやつなどいないだろう。
だが、たとえ魔物であっても肉は肉だ。どうにかして調理すれば食用として使えるのではないか……そう思ってたのだ。
……結論から言おう。結構調理すれば味は改善される。
そのまま食えば食中毒待ったなしが、調理次第で問題なく食えるようになるのだ。この大発見をした俺を賞賛してくれよ。
特に焼く、煮るなどの工程は肉を柔らかくしてくれる。これによりゴムのような弾性も弱くなって味の癖も緩和されるのだ。
そしてそれにほかの食べ物を添えれば、より味が普通の肉と変わりなくなる。
だが、誰もが俺の食べ物を微妙な目で見る……食品ロスの大幅軽減に繋がるんだぞ?
「……イチノセって悪食?」
『まぁ、貧乏舌ではある。ここへ来る前は普通に消費期限を当に過ぎていた食物を食べていたし、大抵のゲテモノも数回で慣らしていたからな』
「そもそもゲテモノに慣らすって概念ねぇだろ……」
何おぅ!?てかアルタイルもそんなこと言うんじゃない。
まぁ、確かに?3ヶ月前の牛乳とかをレンジでチンしてシチューにしたり?一時期、昆虫食にハマって調理して節約してたり?
だがそれは世界規模で見れば普通にごくありふれた行為じゃん!
付着した肉を拭きながら俺は負けずと反論を続けた。
「いや、でもよ。あのまま何も手をつけずに腐らせるのもなぁって。食べ物に感謝の気持ちを持たなきゃ行けんし」
「いや、なら新鮮なうちに食えよ」
「それは……ほら、同じものを食い続けると飽きるじゃん?」
「すげぇタチの悪い性格だな!」
んー?俺の食生活ってそんなに変なのか?謎は深まるばかり……
そうして何度目か分からないハジメからのドン引きされた視線を受けていると──
「ハ、ハジメさ~ん! ユエさ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」
と、シアが、魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかのように大声を上げた。何事かと、ハジメとユエさんは顔を見合わせ同時にテントを飛び出した。俺やネア2人の後を着いていく。
シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。
相変わらず元気だな……その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。
「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」
「わかったから、取り敢えず引っ張るな。身体強化全開じゃねぇか。興奮しすぎだろ」
「……うるさい」
シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。
その指先をたどって視線を転じると……
「「「は?」」」
あっ、思わず呆けた声を出しちゃったじゃねぇか。
視線の先、其処には、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。
〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ”
えっと……何だこれ。新手の悪戯か?
いや、迷宮なんだよな?一応、解放者の試練という体なんだろ?このキラキラとしたフォントやら、口語調な体裁とかが遊園地の勧誘文句を彷彿とさせてくる。
……だが、どんだけ巫山戯ていても無下にはできない情報であることは確かだ。
「アルタイル、ここの迷宮に表記されてる名前、オスカーの手記にあったよな?」
『そうだ。そして名前もミレディで間違いないだろう』
「だよなぁ……」
ミレディって名前はこの世界では知られていない名前のはずだ。それが使われているってことは……多分ガチの迷宮なのだろう。
まぁ、ラッキーっちゃラッキーなのだが……この残念な文体を見る感じ、絶対に録な展開が待ちうけていないな。
何となくだが、トラップ多めでアスレチックみたいなステージもあるんじゃないだろうか。
そんな考えをしていると、早速それを裏付ける出来事が生じた。
「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」
『あっ、バカ、それは──』
同じことを考えていたハジメとの静止が間に合わず、不用意にシアが壁を押してしまった。途端に窪みの奥の壁がグルンと回転し、シアが裏側へと消えていった……
先程まで彼女がはしゃいでいたのもあり、一気に静かになる渓谷。同時に──
ヒュヒュヒュ!
これは……矢だな。デフォルトで強化された五感で視認することが出来た。矢のシャフトを指で丁寧に挟んで対処したら、その矢尻に毒が塗られていることに気づいた。
殺す気満々じゃねぇか……これ、残念ハウリア大丈夫なのか?
そして直後別の文字列が壁に現れる。タイミングよく、それはもう狙ったかのように。
〝ビビった?ねぇ、ビビっちゃった?チビってたりして、ニヤニヤ〟
〝それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ〟
「ウゼェ……典型的なガキ文書じゃねぇか」
『ふむ……この弁舌なら道化師と組ませて見たいものだな。或いは君とも相性がいいかもしれない』
「それは絶対やだな……てか、あれとコンビとか世の中腐り果てるぞ」
でも、アルタイルが言う道化師……築城院真鍳とならいい関係が結べるんじゃねぇだろうか。どっちも舌は達者のようだし、実力も分相応は持ち合わせているし。
何はともあれ、迷宮であることは確定した。本当に運が良かったな……これで2つ目の神代魔法手に入れられるチャンスが巡ってきた。
腕がなるな……ネアにとっても初迷宮となるから、彼女がどう立ち回れるかも気になるところだ。アルタイルの特訓がどう生かされるのか……
……あっ、ところで、その運を引き寄せてくれたハウリアと言うと──
「うぅ、ぐすっ、ハジメざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」
なんとも残念な姿で生きてはいた……まぁ、彼女の状態は酷かったと割愛しておく。何故かネアの、彼女に対する視線までもが残念そうになっていた。
シア、姉の尊厳を失いかけてるぞ……
ちょいと補足
一之瀬久遠
→言わずもがな、悪食である。あくまでも特定の食品に飽きてしまい、しかし捨てるのが勿体無い時に起こるのだが、普通に焼くなり煮るなりして平らげている。尚、異世界転移前では腹を壊さなくなっていた事から、ステータスに毒耐性でもあったんじゃないかと相棒は疑い始めている。
ネア
→アルタイルのスパルタを絶賛特訓中。ハジメのスパルタは実は受けておらず、見て真似たので基本的な技術は疎かにしていたので、そこを重点的に育てられている。ある意味ハウリア化しなかった本人は毎回、死と隣り合わせの生活に投げ出したい気持ちでいっぱい…だが諦めない。何故か?だってスマホの教官が怖いから。
あり得ない…ここまでサボっておいて俺、二日連続投稿している!?
ニアさんの設定はどっちに寄せる?
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原作(茶髪、メガネなし、小顔)
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今作(橙色、メガネあり、インテリ風)