ハウリアは一族が家族だ。一族の絆とも言えるその言葉を強く表して居るのは、ネア・ハウリアの存在だ。
ネア・ハウリアと言う一人の少女は至って普通の家庭で生まれた。普通のハウリアのお母さんと、普通のハウリアのお父さん。普通の家庭で普通の女の子に育つ…そのはずだった。
少し違うといえば……二人がネアが顔も覚えていない頃にこの世を離れてしまったことだろう。父親は病気で、母親も後を追うようになくなったことに多くのハウリアが悲しんだ。
ネアの幼少期はそうして一人ぼっちの状態から始まった。両親の顔もよく覚えていない状態で。
と言っても、決して彼女は孤独ではなかった。ネアを育ててくれた家族も、彼女と一緒に育った他のハウリアの子供たちもいる。衣食住も問題なく、おはよう、お休みを交わせる相手もいる。
元気一杯のお姉さんで、みんなを笑顔にするシアお姉ちゃん、元気なシアに比べて少し大人っぽく落ち着いているラナお姉ちゃん、恋心が盛んで、常に恋バナが好きなミナお姉ちゃん、少しやんちゃで一歳年下のパル君……
シアの父親のカムもまるでお父さんのようにネアに接してくれた、他のハウリアたちもだ。ネアが一着を取れば喜んでくれたし、熱を出せば心配してくれた。
その関係は友達を超えた、一つの大きな家族とも言えよう。
一緒に遊び、一緒に学び、たくさん笑い、泣き、時には怒られて育った。その経験は何よりも充実していて、ネアにとって大切な記憶でもある。
その温かい家庭で育った彼女は、だからこそ時たま思ってしまった。本当の家族や友達を見ていると、何処か自分にないものを持って居るような気がして。
シアやミナは姉として接してくれるが、それは多分本当の姉妹の真似にすぎない。パルはひょっとして自分の友達かもしれないが、弟のような気もしている。
その中途半端な心がネアにとってほんの僅かな疎外感と、孤独を与えていた。
それは大きくなって行くに連れて少しづつ溜まっていった。心に浮かぶ本心も大きく、はっきりとしていく。
だが、彼女はそれを表に一切出さなかった。みんながネアに対して家族と接してくれるのはとても嬉しかったし、ネア自身もこの環境で育てて幸せだった。
ここでネアに小さな慣れ、が生じた。みんなに変わらない姿を見せる。そんな、慣れだ。
そしてこれはただの小さな我が儘……家族には隠していたいようなネアの本心だった。
そんなある日、彼女は他の部族の獣人と関わりを持つようになる。他の部族とハウリアの関係は思ったほど悪くはない。
強いて言うならばハウリアが温厚な故、部族の中では最も腰を低くしていたところか。それでも当時の関係は非常に良好であった。
ネアはそこで狐人の少女と仲良くなった。名前はフィアちゃんで、彼女自らネアの方へ寄ってきたのである。
そして二人はよく一緒に遊ぶようになった。普通に外で走り回ったり、家の中では木のおもちゃで遊んだりと。
当時のネアは心の中で飛び跳ねていた。初めての友達ができたのだ。自分には得ることができないと思っていたのに。
そしてその経験は彼女に心に空いていた孤独感を埋めるようで……その気持ちはこう思わせてくれるようになった。
「自分も、他のみんなみたいに普通の女の子をしている」
みんなに育てられて、みんなとは距離がある、そんなネア・ハウリアではない。
この生活に紛れもない本当の幸せを感じている……そうとまで思うようになった。
そうして数年が経ち、ネアは12歳になった。
普通の女の子の生活を満喫しており、無意識に調子にも乗っていたのかもしれない。
ある日、いつものように友達と遊んでいたら、フィアから秘密の共有が話題にあがった。
当時の秘密を友達に教えて、共有し合う。シンプルで、よく子供達が行いそうな遊びだ。別に内容はくだらないものでもいいし、大切なものでもいい。
当然、ネアはその遊びに喜んで賛成した。この遊びがいかにも「友達」のように感じたから。みんなのような遊びをねあもやりたいと思っていた。
普通の子でいられると思い、その欲に従ったのだ。二人はそれぞれ一つの秘密を言い合ってお互いに共有した。その日はその後も遅くまで遊んで別れた。
次の日、一緒に遊んだ。何げもない一日を過ごして、家に帰った。
さらに次の日。フィアに急用が入ったとのことで、一日家で過ごした。ネアはそれが少し寂しかった。
そして3日目の朝に──
「ハウリアには忌子が匿われていた!」
「ハウリアの一族は亜人族の面汚しだ!」
「ハウリアは長年同胞を騙し続けていた!」
……一族はフェアベルゲンを、故郷から追い出された。その日、私たちの一族は獣人の裏切り者と見出された。
急に生活が変わる。途中で帝国兵に出くわしたり、ライセンに行き着き魔物に襲われたり……食事なども時給調達となり、仲間の多くが傷つく。少しづつ、仲間たちは減っていき、居場所も追い込まれていく。
だが、ネアは強く生きた。どんな苦難でも嫌な顔せずに受け止めて一族と……家族と生き延びた。
大丈夫、まだみんながいる。シアが常にみんなを笑顔にしている。カムが一族の代表としてみんなを鼓舞してくれている。みんな、必死にこの場を生き延びようとしている。自分も、ここで死んではダメなのだ。
ネアは適応力の高い子だ……色んな人に助けてもらった彼女が身につけた技能と言ってもいい。この頃には場の雰囲気に馴染むことも、自分の本心を隠すことも息を吸うようにできるようになっていた。
だからこそ、彼女は場に適応した。驚くほど静かに、何もなかったように。
自分がこの騒動の原因である、魔力持ちの兎人族を明かした事実を、隠した。
「私のシアお姉ちゃん……ホントのお姉ちゃんじゃないけど、未来が見えるんだよ!凄いでしょう!」
……そんな事、言えない。言えるはずがない。もしかして他が原因でこうなったのかもしれない。
──本当は分かってるくせに
……沢山の仲間が、魔物に殺されて、帝国の人に連れ去られて……でもみんな笑顔で頑張ろうって励ましあって。そんなみんながいる。だから私も頑張って生きなくちゃ。
──それは全部あなたのせいでこうなったんだよ?
私は、ただ友達が欲しくて……それで、他の子みたいに、なれるかなって……
──だからみんなが困っても、苦しんでも、最初から違う君は許されるの?
こんなこと、誰に言えばいいの?家族なんかに言えない……
誰が、私の家族なのか、わからない。
──せっかくみんなが君の『家族』だったのに、自分から離れたじゃん
どうして?なんで私はこうなの?私はただ……ただ、普通の子になりたかっただけなのに。
──そう、ならよかったじゃん。君の行動でハウリアは死ぬ、子供たちもひとりぼっちになる。
──みんなが、あなたの「普通」になる
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「あぁぁぁ……ごめんなさい!……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
泣く。泣き続ける。大粒の涙を流して少女が許しをこいている。
その相手は死んでしまった同胞へか……疲れ果てて尚、彼女を支えた家族へか……あるいは両方かもしれない。
……あるいは俺か?そうであってほしい。ここまで頑張った俺をもっと労れ。
何はともあれ、ずっとこの調子で泣かれては困る。俺は何があってこうなったのかは知らないし……
アルタイルはスマホでダンマリだし……って、十中八九お前が何か吹きかけただろ!
なのにさっきからツーンとしやがって……だんだん腹が立ってきたな。
「おい、アルタイル。お前、ネアにかけた言葉を1から復唱してみろ。おら、言ってみろや」
『はぁ、余にくだらないことをさせるな。ただ彼女が逃げていた事実を披露したまで』
「その内容を教えろっつーの……全く、帰ってきたらお前しかいないし、何とかネアの叫び声に向かったら自殺しようとしてるし……おまけにこんな──」
ブスリ
そんな音と共に会話を中断された。まだいたのか、しつこいな。
……振り向くと毒持ちサソリが俺のことをぶっ刺してた。物陰に隠れてて気付かなかったようだ。
足が徐々に痺れ始めたが、そのままサソリを踏ん付けた。硬い装甲も貫通してグシャリと絶命する。
……こんなサソリトラップに落ちた俺らだが、ハジメのサバイバル道具も虚しく耐久切れだ。
なので俺はネアを肩車した状態で、大量のサソリに噛みつかれながら一匹づつ殺していったのだ。
こいつら、地味に頭が良くて上に上に登ってくるから大変だった。リニューアル技がなかったらネアも毒を受けていたかもしれない。
……俺?もちろん毒尽くしだよ。全身の痺れや体温低下など、洒落にならないダメージを受けたが、因子再生と根性で何とか乗り切ったよ。
マジでこういうのは懲り懲りだ。ちょっとばかしサソリ恐怖症になるわ。もう痺れが快感みたいなドM思考になりかけたわ。
……そしてほとんど片付けた俺だが、ネアはその間もずっと泣き喚いていた。こうして降ろしてからもごめんごめんと繰り返している。
もう、何が何だか……
……何が何だかって、俺はネアのことを何も知らない。正直、アルタイルに全部任せっきりだったとも言える。
あいつがネアの素質を面白がって、だから俺は同行を承諾したが、その後はあんまり話さずに訓練をさせていただけだ。
……あれ?これ、俺普通にダメなことしてるじゃん。最初の街とか、ダンジョンとかに手を回してて、仲間とのコミュニケーションをおろそかにしていた。
結果、なんで彼女が泣いているのか分からないのだ。というか、ネアが泣くほど精神がすり減ってたことすら気づかなかったし。
……そう考えると俺もダメダメだな。ちゃんとネアも……アルタイルのことも見ておくべきだった。ずっとアルタイルと一緒だったせいか、そういうことをおろそかにしていたのだ。
よし、それなら今からでもネアに何があったか聞かないとな。改めてスマホに向き合って今度は真剣に聞いた。
「アルタイル……教えてくれ。ネアには……何があった?」
『……』
「正直、俺はこいつがただついてくるだけって軽く見てた。でもこの旅で誘ったのも俺だし、あんまりネアを見ていなかった……だから頼む。何があったか知りたいんだよ」
『……はぁ』
ため息と共に、アルタイルはこちらの方を見た……気のせいか、その表情は暗い気がする。
そして彼女は話した。アルタイルにより推測されたネアの過去。彼女がハウリア一族で隠している罪を。
何故、ハウリアがこのように種族から追われる身となったのか。何故、ネアがこんなにも自分を責めているのか。
何で、彼女は自殺をしようとまで思い立ったのか。
『……そんなところだ。君もこの推理なら納得してくれると思うがね?』
「……」
……全部話を聞いたが、なるほど彼女の態度も納得だな。
この迷宮で時よりシアに見せていた顔は決して残念ウサギを見る視線じゃなかったってことか。それに他のみんなと離れて距離置いていたのも……
自分がハウリアのことを言いふらした本人だとバレてほしくなかったから?
自分の保身のために、俺らに着いてきた?
……だけどアルタイル、それは解釈違いってもんだぜ?
「だいたいは理解できた……けど、その推測まだ完璧ではないんじゃないか?」
『む?余の定説以外に彼女の過去を裏付けるものがあると?君がそこまで賢いとは思えないが』
「いちいち発言に荊を加えるなって……」
まぁ、お前らしいが。そう思いつつ俺ネアの方を振り向いた。未だに顔を埋めている彼女の状態はかなりまずい状態とも言える。
だが俺は思う。果たして私利私欲に埋もれるものは、あぁまでして自分のことを責めるのだろうか。
アルタイルからの抗議の声が入ってくる。
『まさか彼女に酌量の余地があると?自身のエゴに従った彼女へ他の解釈はないと思うぞ』
「まぁ、エゴって考えは悪くないが……お前が思うほど人間って真っ直ぐじゃないし、エゴも強くない」
彼女の過去の行動を振り返れば何となく分かってきた。本当に彼女のしたいことが。
まだ泣いている彼女の側で座り、ゆっくり話し始めることにした。
「なぁ……アルタイルからは大体の話は聞いたが……」
「……私のせいです……私が、みんなを死なせちゃったんです……我儘で、自分勝手で……卑怯で……グスっ、みんな……こんな目に合わせるつもり、なかったのに……!」
あー、これは予想以上に応えてらぁ……彼女自身、良心はしっかりとあるようだが持ち前の忍耐と適応力で耐えちゃったんだな。
そしてワールドクラスの論破で決壊しちゃったと。
まぁ、これはあいつの言葉にも多少の非はあるが……自分の気持ちに潰されたんだな。
だが、言葉によって自分の本心までうやむやにしちゃダメだぜ?
「……お前と初めて会った時、魔力の次反応で俺らは気づいた。もし、お前が集団を抜けるならずっと潜めていればよかったはずだ。なのにずっとつけたままだったよな?」
「…………ぁ……」
やっと俺のことを見てくれた。そのまま言葉を続ける。
「ハジメがハウリア一族と居合わせた時、ハイベリアは一体だけ。一方のネアはあの時、2匹に狙われてた。あれはお前がわざと引き付けてたんだろ?」
「……っ、違い、ます!あの時は……勝手に生き延びようと──」
「それに俺らについて来るのはかなりの悪手だったはずだ。アルタイルの訓練にもちゃんと従ってるし……本当の卑怯者はそもそも着いていかねぇよ」
だって俺やハジメのいるところなんて死亡率どれだけ高いんだか……危険度MAXに同伴とか狡猾な奴なら選ばずに単独で逃げる取ろう。
そう考えれば、だ。ネアの行動は一つの理由に絞られる。初めの日に彼女から感じたものは正しかったらしい。
「ネアはみんなに謝りたかったんだろ?だけどハジメの訓練だけだとみんなと同じ、ただのハウリアのままだ。だから、俺らに着いてきた」
「ちが……い……あぁ……」
「ここで力をつけて……たとえ鍛えられたお前の家族が危険に晒されても助けたいって思ったんだろ?」
「あぁ……うっ……うぁぁぁ……」
頭にポンと手を置くとネアはまた泣き始めてしまった。しまった、これ以上は泣かせるつもりなかったんだけどなぁ……
でも、結局そういうことだろう。
本当の悪なんてそうそう居ないんだし、獣人なんて特にそうだ。一族の絆が強いからコミュニティを大事にするし、守りも固める。
ネアの密告は確かに悪いが、相手も保身のために動いたんだろうな。魔力持ちが帝国にバレたら亜人族自体が標的にされてしまう。
そしてネアの密告も仕方がない気がする……家庭的事情は詳しく聞かんと分からないが、彼女は一人だったのだろう。
一人でいること……孤独であることは恐ろしい。みんなと違うってのも悲しい。
だから普通になりたい。みんなの景色を見たい。
ちょっと保身的になってしまうが、俺はそんなネアを見ているとつい慰めたくなった。
褒められたことじゃないのは分かってるが……
1人の辛さは俺もよく理解している。
だが、1つ加えるとネアは普通と同じくらい、家族も大切にしているのだ。誰よりも家族を知っている彼女だからこそ、誰よりも負い目を感じている。
それがネア・ハウリアだ。
「おうおう、泣け泣け……お前はアホで優しくて……誰よりも家族が大好きなハウリアだ」
「う……うわぁぁぁぁ……!!」
わしゃわしゃと髪を撫でると更に泣き出し、顔を俺の胸に埋めてきた。しばらくはこのまま、好きにさせておこう。
さてさて……落ち着いたら、こっからどうやって出るか考えないとなぁ……
ちょいと補足…
一之瀬久遠
→自分のネアに対する意識が低すぎた故に、今回の騒動が起きたと考えている。自身に責任の一端を感じるのは大袈裟だが、ネアの苦悩や過去はもう少し早めに気づいておくべきだったと思っており、また一つこの旅で何かを得られたと考えている。
ネア・ハウリア
→情報漏洩の罪でここまで追い込まれてしまった。まぁ、彼女の行動で2章の寄り道イベントが起きたのは過言ではないので相当なやらかしを踏んでいる。だけど久遠は彼女のことを責めなかった。彼女の優しさとそれ故の寂しさが起こしてしまった事故。彼女はこの時間は「普通」でいる。
ん〜?ネアの過去をこんなに重くするつもりはなかったんだけど…まぁ、久遠と一緒にいるうちにコミカルキャラになるだろうし、最初のインパクトが大事よー…ね?
ニアさんの設定はどっちに寄せる?
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原作(茶髪、メガネなし、小顔)
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今作(橙色、メガネあり、インテリ風)