ハイリヒ王国の訓練場にて。綺麗な満月が南を差し掛かっているこの時間は騎士団やメイド達は夕食を済ませた後だ。その為、訓練も終わっているこの場所は静寂に包まれている。
そんな静寂を破っているのは風の割れるような音と、誰かの息継ぎだ。刀を振れば風を斬るかのように周りに空気の移動が行われ、それが強くなればひとつの斬撃となり虚空を飛ぶ。
「ふっ!…ふっ!……はぁ…」
一心不乱に素振りをし続け、いつの間にか数えることすら忘れていた事に雫は気づいた。
…途中までは数えていたものの、雫の中で考えが纏まらずかなりの時間が経過してしまったようだ。
その状況でも型が崩れなかったのは彼女のストイックさの賜物と言えよう。だが、間違いなく集中力は途切れており、自主練の身に入らなかった事を彼女は反省した。
それもこれも、大体は一人の男のせいだと結論づけられるからだが…
思い出すだけでその後任された事までが着いてきて腹が立ってくるのだった。気を取り直して素振りをもう一度──
「はぁ…あいつ、今度会った時はそれまでの面倒事の数だけお見舞いしてやろうかしら」
だが、やっぱり彼女は愚痴を吐く。この1ヶ月で起こった事だけでも彼をタコ殴りにできるくらい数えられたからだ。
話は1ヶ月前に戻る。王国では勇者達に対する対応が目まぐるしく変化していた。
先ず、メンバーの度重なる減少。1名は死亡し、2名は脱走という事実に王国内では神の使徒への扱いが問題視されていた。
もちろん、指導者の指導問題が指摘されたりした。メルドがその一環で罰則を食らい退役にまで追い込まれたが、雫を初めとする多くが必死にそれを食い止めたため減給と反省書で済んだ。
まぁ、これも勇者の一声によって決まったようなものだが、これ以上ない指導者として尊敬する雫もこれには一安心である。
そして王国だけでなく、生徒の反応も極端に別れてしまった。
天之川を初めとする勇者パーティは、より一層訓練に励むようになった。中には甘い考えの者もいるが、全員が着実に力を伸ばしているのは確かだ。
一方で、それ以外の生徒たちの殆どは自室に引きこもってしまった。現在の王国はそれを容認しているが…その効果がどれだけ続くか分からない。
何故なら、生徒らの保護を約束させた張本人がここに居ないからだ。
また彼の存在が出てきたことで彼女はため息を吐いた。
「今は光輝を通じて彼らは保護されてるけど…時間の問題よね…」
天之川もいつ気が変わるか分からない。現在は彼らのメンタルも理解しているが、戦況によっては他も参加させようとする可能性がある。
せっかく、まだ自分達には選択の余地があるのに、ここでそれが潰れて仕舞えば死人が増えるかもしれない。それだけはどうしても防ぎたかった。
今でもあの時を回想するだけで唇を噛んでしまう。ベヒモスとたらうむソルジャーに挟まれた時の絶望。ベヒモスに何一つ与えられなかった無力感、ハジメが奈落へと落ちていく光景…
正直、こうして剣を振らなければ気が動転しそうなのは確かであった。もっと強くなって、あのような出来事は起こしてはならない。
香織も回復魔法の成長速度が誰よりも上がってきている。そんな彼女を支えるために、自分ももっと──
「雫様、そろそろ休憩されてはいかがでしょうか…?」
「ニア!…そうね、何かが足りないと思っちゃって」
またしても余計な雑念が入り込んでいたせいか、いつの間にか担当のメイドに声をかけられいることに気づく。
振り向くとニアがタオルを持ってきてくれていた。もう習慣となっていた雫の訓練で渡すタイミングを見計らっていたのだろう。
ありがたくニアからタオルを受け取って汗を拭いた。一気に湿り出すのを感じて、今日は一段と動かしていたようだ。
「雫様…恐れながら、ここ最近は根詰めすぎではないでしょうか?神の使徒であるあなた方が強固な身体であることは重々承知しているのですが…」
「ええ、ありがとう…そうね、実のところ私も集中が途切れているみたいなのよ。色々と考え込んじゃって」
「…それは、一之瀬様や、南雲様のことでしょうか?」
直ぐに雫の考えを読むあたり、やはりニアというメイドは観察力に長けている。それとも雫との相性が良いだけかもしれない彼女に少し驚く。
雫は彼女の問いに否定しながら答えた。
「私は…いいえ、私達が甘かったのは紛れもない事実。一之瀬君もそれを1番理解してここを出たんだもの、何も言えないわよ」
別れの時に生徒のことをさりげなくだが託されたのだ。みんなを繋ぎ止めるために相応の力を求めているが…八重樫道場のものが観れば揺らいでいると叱責ものだろう。
雫はそれに気づいていない。異世界という環境もあり、無意識に仲間を束ねる焦燥感に駆られている。そんな状態では少し休憩が必要なのも当然だ。
そのことに気づいたニアは何か手はないかと考える…と、何か閃いたようで、手を叩く。彼女なりに良い解決策があるらしい。
「…そうです、雫様!実は先日市場で──」
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「それで私達も呼ばれたんだね!」
「えぇ、お互い最近は気を張りすぎてたから、こんな時くらいはリラックスする必要があると思ってね」
場所は変わり、雫の部屋。香織との2人部屋でも広く感じる王城の個室だが、今は大変賑わっていた。キャッキャしながらベッドの上で香織は雫の話を聞きながらニアさんを見た。
そのニアさんはと言うと──
「し、雫様…てっきり私は1人でお飲みになるのかと…」
「そのつもりだったんだけど、帰りに香織達とばったり会っちゃったから。この際、友達とも一緒に楽しもうって」
「それは……分かります…が!」
肩を震わせながら、小声で雫に訴えていたが恐る恐る視線をテーブルの方へ向ける。そこには雫が部屋に向かう途中、ばったり出会った友人と言える存在がいた。
煌めく金髪と紺眼は異世界ならではの特徴であり、それを踏まえても美しい。何気ない所作や話し方から溢れ出る王族の風貌がまた彼女の存在を引き立てていた。
そんなお相手様に、たかがメイドの一端であるニアが平常を保てるはずもない。
「クビですか?私、メイドとして有り余る行為をしてしまった私はクビですか?そうですよね…メイドの立場で対等に立とうとしましたね…」
「ニア!?」
「ニアさん!どうしちゃったの!」
「アハハ…やっぱり私が着いて行ったのが間違いでした」
そう言いながら、ハイリヒ第1王女のリリアーナはどこか困った顔をする。ばったり会ったのは何も香織だけでは無い。丁度リリアーナが何時ぶりかの仕事を終えたところ雫と会ったのでそのまま誘われてきたのだ。
一国の王女…しかも自分を雫のメイドとして態々取り扱ってくれた姫が目の前に現れるのだ。ニアはガクブルしながら涙目になっている。
その姿にため息をついたのは彼女の上司で、メイドを総括しているヘリーナである。彼女はリリアーナの専属メイドでもあるため同行してきたのだ。
「ニア、メイドとしての務めを果たしたいのなら、リリアーナ王女に正しく接するべきですよ」
「は、はいぃ!」
「先が思いやられますね…」
再度、苦笑いする一同。雫達の立場は特殊な上、リリアーナから気軽に接してほしいと言われていたから軽いものの、確かにこれはニアが普通の反応かもしれない。
彼女を落ち着かせるために、この集まりを催した雫がフォローした。
「そ、それで?ニアの見つけた不思議な飲み物って何かしら?」
「はい!…こちらを実は市場の一角で見つけました新種の豆を独自の栽培魔法で育て上げた逸品のようです」
気を取り戻しながら、ニアは持ってきていた物を取り出す。しかし中に入っていたのは想像していた茶葉ではなかったのだ。
透明な容器の中に、濃い茶色の粉末が入っている。既に容器の外から香りが溢れていて、それは一部の人に懐かしさを与える物だった。
珍しい色にリリアーナは見開き、対照的にヘリーナは目を細める。
「リリアーナ王女、こちらは……」
「大丈夫よヘリーナ、それでニアさん?こちらはどのような紅茶になるのですか?」
「いいえ、紅茶ではありません…豆から抽出した飲み物…独特の苦味と風味、そこから落ち着いた味が見出されると聞きました…市場の方はそれをカーフェ?と呼んでいましたね」
「「……」」
「まぁ…それは試して見たいですね」
「苦味からの美味しさ…なるほど…」
ニアの言葉で興味を持ち始めているリリアーナ、へリーナに対し、雫と香織は思わず顔を見合わせる。
豆から抽出…苦味と風味……カーフェ?
「雫、それに香織も…どうかしたのですか?」
「いえ、その話…」
「聞く限りだけど、私達の世界にもある飲み物だと思って」
思わず反応してしまったのはそう、彼女の説明による飲み物が、どう考えても地球でもよく飲まれるコーヒーと類似しているからだ。
同時に、不安も襲いかかってくる。コーヒーは誰もが好む飲み物ではない。例に挙げると、久遠は甘口を未だに好んでいたりする。
確かに独特な苦味、そして落ち着く味がある一品だが…それが果たして異世界人の間にも通づる物なのか。
そんな2人の心配を他所に、ニアは売り手に教えて貰った方法で豆を通してお湯を注ぎ、全員分のカーフェをコップに注いでいく。
やがてカーフェ独特の匂いが全員に届き始める。不思議、でも落ち着いた香りに現時点でリリアーナ達は別に嫌悪することなく受け入れられている。
「それでは、皆さんもどうぞ…姫様もこちらを」
「ありがとう…これがカーフェですか…よく飲む紅茶と比べて色がとても濃いですね」
「えぇ…それにこの匂いも元の世界のと遜色ないようね」
では、と5人がそれぞれ口にした。新たな挑戦への一歩である。
ゴクリ……ふぅ…
「うぅっ、紅茶より全然苦い…ですが何でしょう、これはこれで癖になる味ですね」
「確かに…本来の紅茶と違い味が口に残る気もします。一息着きたい時にはこちらが欲しいですね…ここ1番の踏ん張りどころでも…」
リリアーナの初々しい感想に対して、ヘリーナは意外にも気に入っていた。少し、発言がブラック企業につけ込みそうなニオイがしたが、きっと初めての味にオーバーなだけだ。
雫達もカーフェの味が予想通りのものでホッとする。香織は少しミルクを足しながら美味しさを共有していた。彼女も舌は甘いらしい。
「雫ちゃん、これとっても美味しいよ!ちょっと苦いけど…」
「えぇ…異世界のコーヒーもあっちとは引けを取らないわね…って、優花が怒りそうだけど」
思い出すのは地球でのウィステリアという、園部優花の両親が営む外食店のコーヒー。
落ち着いたシックな店内とマッチしたコーヒーに引けを取らない…でも優花ならそんなことはないと張り合う姿をついつい想像してしまう。
そんな彼女は今、愛ちゃん先生を筆頭に別行動で王都から離れているのだが…今はその事も忘れるくらい、雫達はこの味に浸っていた。
リリアーナも一口飲んで、やっぱりの苦さに舌を出す。それに他も思わず微笑んで、空気が一層軽くなる。
結論からして、この世界のコーヒーは普通に受け入れられるらしいと分かったのだった。女子部屋で、ゆっくりとした時間が過ぎていく。
各々がカーフェを楽しむ中、雫がニアに振り返る。自分達の事を心配してくれた配慮に感謝したいからだ。
自分でもたとえ意識していても、誰かを失った喪失感や、不安は払われない。なるべく取り繕っていても自分の傍付きにはバレてしまっていた。
更にはこのような気遣いまで…改めて自分がやられていたか再認識できた。
今回みたいにリラックスして気分転換させるのも必要だとも思ったのだ。
「ニア…ありがとう。私も思いの外、気を張りつめすぎていたみたい。親友を支えたくて、知り合いを心配しちゃって、集中も切れちゃって…」
「雫ちゃん…」
香織の悲しむ顔は見たくない。久遠に責任を感じさせたくない…そんな思いが思いのほか雫自身にプレッシャーを与え過ぎていたのかもしれない。
アルタイルに言われた気負いやすい性格も再認識して、内心苦笑する。これでは本当に潰れちゃうじゃない…と。
香織の悲しそうな顔に大丈夫よ、と返しながら雫はニアに戻った。こんな時にニアにも心配させていたら、いざとなった時にベストなコンディションで戦えない。
こうしたオン、オフこそが彼女のモチベーションになるのだ。今回、それを肝に銘じた。
「──でも、こんな風に落ち着くのも大事よね。これを機にしっかりと休む事も考える事にするわ…だから、ありが──」
「うぅぅ──ー、雫さまぁぁぁあ!!」
「へ?…に、ニア?えっ?」
だが、言葉にする前に予想外の事態が起きた。いきなりニアが泣いたと思いきや、雫に抱きつくように倒してきたのだ。
思いもよらない出来事に雫も目を白黒させる。あれ、自分のメイドってこんなキャラだったっけ?
それは周りの3人も同じようで何事?と動けずにいた。
先に我に返ったのはへリーナだ。メイドを率いる彼女としての責務が帰らせてくれたのだろう。
「ニア!仕える者を抱き着くなど、メイドとして有るまじき行為ですよ!」
「嫌です!私ぜぇぇぇったいに雫様から離れないですからぁ!」
だがニアは驚くことに上司であるへリーナの言葉まで無視して雫を抱く手を離さない。それどころかガッチリと握る力を強めた。
普段の彼女とは全く見られないような態度に全員唖然としている。
そのまま彼女は怒涛のマシンガントーク…いや、マシンガン自虐を始めた。
「一之瀬様に仕えていたのに、いきなり何処か行っちゃってぇ〜!私の奉仕が間違っていたとか、仕事以上に接触しすぎたとかぁ!思っちゃって内心ビクビクしてましたぁぁ!」
「えっ?……あぁ、一之瀬君ね!そうよね、酷いわよね、確かにいきなり旅立っちゃったからね──」
「騎士としての道を応援してくれてたのに、あの時はクビばっかり考えてましたよ!剣を持って相手の首を跳ねる以前に、自分のクビが危険とか洒落になってないですもぉん!!」
「香織ぃ!助けてニアがおかしくなっちゃってる──!!」
コーヒー以上にブラックなジョークを泣き叫びながらニアは雫を更に抱きしめる。ミシミシと彼女の身体が鳴り始めた…流石、騎士の家計は伊達じゃないことが分かる。
香織がドードーと彼女の背中をさする。すると力が僅かに弱まっているみたいだ。メイドは馬なのか…?
それにしても摩訶不思議な…先ほどからは想像もつかないほど尺変したニアにリリアーナ達が心配になるくらいだ。
原因とも思われるカップに目を落として口を開けた。
「これ、本当に大丈夫だったのでしょうか…もしかして幻覚作用などの薬が…」
「それは…可能性としては低いかと。現にニア本人が全員に均等に注いでいましたので、効果は私達にも及ぶはず…」
「……もしかして──」
そんな中1人だけ、香織がハッと気づいた。
ハジメを知るために知識を溜め込みまくっていた香織はニアの症状に似たのを出している者を知っていた。カーフェ…つまりコーヒーを飲むことで起こるフィクションな症状。
それに全員の注目が集まる中、核心に迫った答えを口にした。
「いや…えっと、普通は有り得ない事だけど…多分ニアさん、カーフェに酔っちゃってるんじゃ…」
「「「えっ??」」」
「えへぇへぇ……雫さまぁぁ……」
バッと彼女を見れば、顔が妙に火照っている。呂律も回らないようで、雫を抱く姿はさながら主の上で気持ちよくなる猫のような…
間違いなく酔って情緒不安定になっているメイドのニアであった。
しかしここで果て?と疑問に思う。カーフェ…コーヒーで人は酔うのか。
何せアルコールなど入っているわけ無いのだ。コーヒーと同じ概念なら尚更、酔う理由が見つからない。
「香織、カフェインって脳を活性化させる作用あって、麻痺させる訳じゃないと思うのだけど…」
「うん、でも漫画とかでニアさんと似ている症状の人読んだことあるし…多分雰囲気もあって高いテンションなんじゃないかな?」
「ではニアさんはカフェイン?に酔う体質なのでしょうか…?」
「うん、そうだと思うよ…まさかここまでの反応とは思わなかったけど…」
その作品でもカフェインでハイになっていた…が、異世界でこのように泣き上戸にまで至るとは思うまい。
その本人は香織の話にも一切気にせず泣きべそをかいている。雫への力は少し収まったが、抱き枕のように抱えてしまっている。雫の表情が何とも言えない真顔になった。
部下メイドの変わりように、へリーナはカーフェを眺めながら考えていた。落ち着いた味とは引き換えに呼び寄せる高揚感と一時的な凶暴化…今一度検討し直す必要性が出てきた。
「これは他のメイドに普及させる前に確認を取らねば行けませんね。ニアのような患者が現れれば大問題ですよ?」
「アハハ……ニアさんみたいな反応は滅多にないと思うけどね…」
おそらく、ニアの症状も初めての味で少し弱みを吐きたくなったから…そんな理由だと思われる。現に彼女は自分が雫のメイドになってからの不安などを中心にないているからだ。
そのまま彼女は酔った口調でポツリポツリと言葉を垂らしていった。
「一之瀬様が行けないんですよぉ…私がこんな経歴を持っているにも関わらず優しくして〜…ヒックッ、姫様以外で騎士なんて応援してくれる人いなかったですからぁ〜」
「ニア……」
…久遠の脱退でニアも無影響とはいかなかった。むしろ、彼女が久遠への奉仕を頑張っていた分いなくなってしまったダメージは大きかったかもしれない。
だんだん、声の張りがなくなっていく。カーフェによるブーストの最高潮は過ぎたようで、後は心に溜まった感情をそのまま話しているようだ。
「雫様に取り繕ってくれたのも一之瀬様ですし…私これ以上彼に何が出来ますかぁ!勝手に出て行っちゃった彼に私はもう何も出来ないじゃ無いですかぁ!言葉を送ることくらいしか…グズん!」
そして感じているのは、もう彼に何もしてやれない責任。雫も感じている後悔と似たものだろう。自分以外に悩んでいる人がこんなにも身近にいたなんて。
どうやら自分はいつも以上に視野が狭くなっていたようだ。ニアとのシンパシーに雫は優しく、諭すように声をかけた。
「ニア、彼は絶対に帰ってくるわ…あんな奴だけど、本気の嘘は付かないタイプだからきっと、ね?」
「うぅ……雫様…」
「だからそれまでに出来る精一杯の事を考えましょう?確か貴方の紅茶を気に入ってたし、紅茶の腕をもっとあげるだけでも嬉しいと思うわ」
ニアの紅茶は絶品である。それは雫達の間でも周知されている。だが彼女の紅茶を最初に褒めたのは…彼女が始めに担当していた久遠だ。
その言葉が響いたか。ニアの握力が弱まる。エネルギー切れが近づいているらしい。
雫は笑みを浮かべて自身の気持ちも表に出す。これは、自分への言葉でもあるのだ。
「みんな心配してる…貴方の気持ちもよく分かる…だけど泣いてしまっても彼は帰って来ないわ。だから考えるのは彼が帰ってきた後に私達が何を出来るかだと思うの…だからニア、私達も頑張ろう」
「……はぃ…」
そのまま彼女の力が抜ける。すると少ししてスーぅーっと息が聞こえるようになった。どうやら眠りについてしまったらしい。
尚、勘違いしないでほしいがこれは一杯のカーフェにより起こった出来事であった。流石はカフェイン…魔法のような力を発現させる。
眠るニアに、今まで傍聴していたリリアーナがポツリとつぶやいた。
「ニアさんも相当こたえていたようですね…」
「はい、私も見落としていました…雫様、今度彼女に休暇を与えようかと思っているのですが…」
「えぇ、うんと取らせて…」
一回、彼女にも睡眠を取らせるべきかもしれない。前の専属メイドから朝から晩まで働いていたのだから。
周りはゆっくりと元の状態に戻る。もうカーフェはすっかり冷えていて、予想以上にイベントが濃い。
話題転換とまでいかないが、とリリアーナが始めた。
「それにしても、一之瀬さんは皆に想われていますね…まさかニアさんがここまでの態度を見せるのは驚きです」
「まぁ…でもそうよね。一之瀬君ふざけている割にはしっかりしているし、嫌いな奴はとことん嫌う反面、それ以外の人には良いから」
「極端だけど、そこが良いのかも…あっ、ハジメ君も負けてないけどね!やる時はやる男だから!」
香織はハジメへの熱い想いは最早周知の事実である(一名除いて)。それが早速彼女に現れていて、3人も思わず笑みをこぼした。
ハジメも久遠も、どちらもベヒモスに最後まで戦い続けていた。そういう意味では、2人には魅力的なポイントはあるのかもしれない。
そういえば、転移した時の生徒らの身柄の保証も彼が行なっていたと思い出す。
「一之瀬様は確かに…勇者様と似て非なるカリスマを持っている気がします」
「確かに…光輝ももう少しだけ落ち着きを持てば良いのだけど…龍太郎といい、男は単純だから」
…これは久遠も当てはまるが。彼の、特にゲームが関わるところとか、ゴスロリが関わるところとか、アルタイルが関わるところとか…
男とは、煩悩にまみれた単純生物である。
「雫ちゃん、私達も心機一転だね!」
「えぇ、彼が帰ってくる頃には私達に驚くぐらい強くなりましょう!」
そして2人がより一層強くなる想いを強めたのだった。残念なことに、ユリユリがファンなニアは御執心である。
尚、次の日そのニアと対面した際、「こんにちは、昨夜は途中で寝てしまったようで…理由が思い出せないのですが知っていますか?」と言われ、全員が冷や汗をかきながら首を傾げたそう。カーフェには一種の忘却作用もーー?
……メイドのストレスは案外我々の思う以上なのかもしれない。
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「ところで香織、その事前知識…何処で手に入れたの?私、そんなの知らなかったのだけど」
「え?確かハジメくんの趣味を研究してた時に、『心がピョンピョンする漫画の入門編だ』って一之瀬くんが──」
「……絶対1発は腹に入れましょう」
何、親友に変な知識与えてんのよ…悩みの種は一生残るようだ。
ちょいと補足…
ニア
→現、雫専属メイドであり、旧、久遠専属メイド。彼が去った事により意外とダメージが大きかった1人。彼女にとっての初めての対人メイド業が彼であったため、彼への対応が最善であったのか不安に駆られている。尚、久遠は彼女のさりげない対応やそつとない行動に助けられており、評価は上々。
白崎香織
→ハジメ君ガチ勢。彼の趣味を学ぶため18の暖簾も躊躇なく潜れるタフな子(当時15)。ハジメがバニー好きであることを風の噂で聞き、裏の者に情報を聞きに行ったところ「先ずはここら辺から…ウサギへの萌えを学ぶといいぜ?心がピョンピョンするから」と渡された。『ピョンピョン』の真偽は既読後も不明だが、ハジメの趣味が知れて成果あり。
やっぱり○ちうさって神アニメだよね。因みに○グ推しです。
ってかあの作品の中学生組全員可愛いんだよ…お巡りさん、私です。
この先欲しい要素は?
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バトル(肉弾戦)
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バトル(森羅万象などの頭脳戦)
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ラブコメ(もっとヒロインを前にだせ)
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ギャグ(ネタを増やせ)
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マミる(もっと血流そうぜ?頭とか)
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アルタイル(単純明快)