まぁ、毎章に一、二話しか挟めない訳だし仕方がないけど。事前に「外伝二話」を読んでおくことをお勧めします。
あくる日。
その日は休日で、学校の学生達は各々の部活に勤しんでいた。それもあってか例の教室に対する意識が通常よりも小さい。
例え数週間前に神隠しと呼ばれる事件が起こったとしても、所詮は自分ら生徒の蚊帳の外での事件。時間も経てば自ずと警戒心は薄れてくる。現代社会での薄情な点の一つだ。
その為、絶好の異世界転移日和である。その教室から零れてくる青白い光が有ろうと、気づく人は誰一人いなかった。
閑散とした教室には3人が集まっており、来たる異世界転移の準備を手がけていた。
外で待機中の部下へ連絡をしながら、これから行うプランの確認を取り続ける元防衛省の
ケルト風衣装を身に纏い、教室中に非科学的な紋章の魔法陣を幾つも召喚する万里の追求者、メテオラ・エスターライヒ。
そしてそんな2人を見ながら机に座って呑気に駄菓子スナックを食べている凶悪殺人犯、
こうして3人が集まっているのは言うまでもない、築城院真鍳を名も分からない異世界へ飛ばすためだ。
真鍳が帰国すると聞いた後、直ぐに彼女たちは行動に移った。メテオラは異世界への転移プロトコルを、菊地原は周辺の対応と万が一のために異世界へ移動できる時の機動隊の編成など。
一刻も早く行方不明になったクラスの人全員を助けるため、大筋が完成するまで時間はそうかからなかった。
そして現在──
「フムフム…メテオラちゃんも難儀だね〜、折角ヒーロー引退したのに人助けなーんて」
「私は英雄などでは無い。この出来事は間接的にも我々被造物が現界してしまった事により生じてしまった残り火…それならそれを始末するのも私や貴方の務め」
「ふーん、まぁ確かに?こんなに面白そうな話、真鍳ちゃんもワクワクが止まらないよ♪」
鼻歌を流しながら足をブラブラと振るその姿はとても未知の世界へ行く前の人には見えない。被造物故の据えた肝と余裕だ。
その様子に流石の菊地原もため息をついてしまう。それを図太い神経と受け入れるべきか、傍若無人な態度と受け取るべきか…
メテオラは気にすることも無く作業を続ける。
因みに異世界転移の方法は至ってシンプルであり、メテオラが召喚先の座標を特定し、魔法で真鍳を送り出す方法だ。
此方にやってきた被造物を返す時と同じ方法であるのだが、今回はギガスマキナなどという大型ロボットが居ないため教室内で転移を行うことが出来た。
座標の特定は教室に残った魔力…これをメテオラは能力の1つであった召喚技術を応用させる。
幸い、残留した魔力をそのまま使うことで術式を起こすことは可能であり、時間は多少かかるものの無事に展開させることは出来る。
何重にも魔法陣が重なり、複雑化していく。だがメテオラはペースを緩めることなく淡々と魔法陣を作り出していく。
メテオラの世界での魔法は、意外とトータスとの魔法構築と似ている。それは小節に分けた言葉の具現化、通称言霊のようにして魔力が魔法へと変換されるのだ。
これが短縮化されるには無詠唱が必須となり、しかしそれに見合った集中力が必要となる。メテオラはそれを複数も展開しながら更に顕現させているのだ。
…端的にこの状態を還元すれば、化け物レベルの魔力行使である。トータスが異世界召喚をさせるなら、何も知識のなかった生徒たちよりメテオラ1人の方が断然彼らの戦争に役に立つはずだろう。
本人の意思を無視した場合のみに限るが。
何はともあれ、流石の万里を追求し続けた者の力は伊達じゃない。ゲームでの名に恥じぬ魔法センスである。
その力を他の2人も感心せざるを得なかった。特に真鍳ちゃんは興味深くしていながら内心では思考の歯車を回していた。
メテオラ・エスターライヒ…彼女がこの世界に残ることを決めた理由は転移魔法を展開するには自分が必要だから…である。同時にこの世界を愛しているからだと。
しかし本当にそれだけだろうか。
正直彼女の魔法のみの腕はアルタイルに匹敵する。攻撃魔法は皆無なものの、空間を利用した魔法のスペシャリストだ。
時間さえ掛ければ自身を転移させる魔法など作るのは難しくない。魔法とて、この世界で完璧になくなった訳では無い。世界には、それに似た魔法に手を出している団体はよく耳に入る。
しかしそれを一向にしないのは何故か…
この世界を愛しているから?勿論それはあるだろうが、それなら故郷から見守る手もあるはずだ。
寧ろこの世界に現界し続ける方が世界に軋みを与える可能性があるので尚更だ。
この世界の方が居心地いいから?彼女の性格からしてそれもありえない。彼女が私欲を優先することは滅多にないからだ。
では何故か──
それは「
同じ被造物である自分が未だに現界し続けている。私の創造主は既に死んでおり、帰るメリットなんて一切合切ないから。
それを賢者ちゃんは警戒している…世界を愛する者として、私という異分子を止める防波堤として残留している…
あんなサイコパス系最凶キャラを放っておくと何が起こるか分からない…
異世界へ飛ばそうとしたのも地球への脅威を少しでも減らせるからという思惑もあるかもしれない。
私は自分のやりたいことしかやらないのにね〜と真鍳は開き直るが、寧ろそれこそメテオラが警戒する最大の理由だろう。
そんな危険人物を異世界に送るのも、もしかするとこの世界を守るという意思が強い表れかもしれない…と考えるとこの賢者も中々の薄情者である。
何はともあれ、数時間後には魔法陣は完成しており、何時でも転移できる状態に陥っていた。いよいよ出発の時だ。
魔法陣の中心に真鍳が立つ。持ち物は学生が持つようなトートバッグのみという、異界へ向かうとは思えない装備だが、最低限の物は入っている。
メテオラとの接続を残す通信機や非常食、彼女が記した「異世界語マスターブック」など…
「この本、あっちの世界でも通用すんのー?」
「『追憶のアヴァルケン』での言語を始めとする様々な物語で創造された言語を詰め込んだ。これから行く世界でも数打てば当たる…かもしれない」
「ふーん、場合によっては実用性皆無だねー」
他にも真鍳が常時携帯している物も入っていたりして、彼女が最低限自炊なしでも生きられるようになっている。
メテオラが更に真鍳の前に立つと幾つか魔術を唱える。それに本人は抵抗しなかったが、かけられたと思われる衣服に目を細める。
「微弱だけど防御魔法…へぇ〜君がそんなサービスしちゃうなんて驚きだねぇ」
「仮にも異世界転移、あちらがいきなり現れる貴方に何をするかは分からかい…死なれては困る」
「あはっ、大胆な告白を受けちゃった♪でも真鍳ちゃんは気持ちだけ受け取っちゃうかなー?」
軽いジャブでメテオラの心は揺らがない…それに少し口をすぼめる真鍳。
菊地原が最終確認を終えたようで2人の側までやって来る。
「総員の配置が完了しました。人もこの時間帯なら見られることはないかと」
「ありがとう…築城院真鍳、貴方の準備は出来ているだろうか」
「モッチローン!早く転移しちゃってー楽しみであの電話からウズウズしてるんだから!」
本気でワクワクしている彼女に菊地原も呆れを通り越して笑うしか無かった。
神隠しにあった生徒を助ける手段が、よりによって彼女だとは…
だがメテオラの言う通り、あちらの世界が分からない以上最も可能性の高い方法かもしれない。そう言い聞かせて気を引き締めた。
メテオラが数小節詠唱し始める。転移魔法が開始されるようだ。
魔法陣が光を帯びながらゆっくりと回転を始める。
「──……貴方に具体的な指示はしない。生徒達の安否の確認、そして帰還の手段が存在するか通信機で教えてくれればそれでいい…対価は貴方が帰ってきた場合にのみ渡す事にする」
「ふむふむ…まぁ行くとこが面白かったら、それだけでも対価だもんねー♪」
光がさらに眩くなり、菊地原も思わず目を瞑ってしまうほどだ。本格的な転移が始まろうとしており、少しもすればこの世界から築城院真鍳は消えるだろう。
これから行くところにワクワクを抑えきれていない真鍳を見ながら、眩しい中メテオラは表情を変えず、しかしハッキリと彼女の目に言葉を放った。
「貴方が行く世界がどのような所であれ、私は介入できなくなる…不安はあるものの、それは承知の上。だから築城院真鍳、貴方の好きなようにして」
「………にゃははっ!」
直後、光は最大に達した。収まった時には魔法陣は雲散しており、魔法陣の焦げ跡以外には何も無かった。
転移魔法は成功したのか…実際のところそれすら分からないのだが、今は彼女を信じるしかない。
深刻な顔をしながら菊地原はメテオラに聞いた。
「彼女は…築城院真鍳は本当に連れて帰ってくれるのでしょうか」
「いえ、間違いなく連れて帰らない」
「……は?」
聞き間違いだったか?今この人否定した?目をパチクリさせて数秒、菊地原らしからぬ絶句でで聞き返した。
「ちょっと待ってください!それでは…彼女は誘拐された生徒を連れて帰って来ないのですか!?」
「恐らくは。前提として彼女は我々の期待を裏切り、驚嘆、呆然との驚を楽しむ道化師。我々の思惑には絶対に乗らない」
勿論、連れて帰る可能性はある。しかし彼女がただ連れて帰るかは、相手の出す内容がよっぽど面白いか、それとも相手がよっぽど面白い有様でいるか…ろくなものではない。
高望みなど、築城院真鍳にとっては裏切りの餌でしかないのだ。
それをメテオラは予想していた。彼女がもし、生徒たちの安否を知りたいのなら、その分の縛りの緩さを彼女に与えなければならない。
真鍳を自分の管轄外である異世界へ送り込む事態、彼女に自由を与えすぎているものだが。
「だから予め最低限の条件にしておいた…生徒の安否と帰還手段。何方も彼女の求めるシナリオになるべく反さないラインとした。これらは私達にとっても有益な情報となるから」
「成程…しかしこれでは益々私達に出来ることが狭められますね…もし、彼女が彼らへ何かした場合は──」
「そちらは転移してしまった彼ら次第だろう。それも踏まえて彼女には予め伝えておいた」
好きなようにして、と。
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「異世界へ〜〜〜到ぅっ着うぅ!!」
仮○ライダーに似たポーズを取りながら魔法陣の収束と同時に叫ぶ。世代はダブルだろうか。周りに誰かいたら困惑していたに違いない。
幸い、周辺に人らしき反応はなく、真鍳の登場は不発に終わった。
「ぶぅ──、誰も居ないなんて酷いなぁ、折角楽しみにしてたのに1人からなんて…面白くない」
そう言いつつ、辺りを見渡す。巨大な壁画と、その周りを大理石で敷き詰めた壁。円形のような土台に魔法陣の紋章が刻まれている…
そう、ちょうど久遠を始めとする生徒達が転移されたトータスの神山に飛ばされたのだった。メテオラの正確な座標指定の賜物である。
無論、そんな事を知らない真鍳は誰も居ないこの教会に不満たらしげであったのだが。
そのまま探検タイムへと彼女は移行した。転移部屋を出ると大きな通路へと続いていた。
そこへ足を進めると大きな講堂らしき場所へと出ることになり、そこには大きく神々しさ溢れる白像が立っている。
「成程ネー…この世界には立派な宗教があるんだ…いいじゃん、みんな1つの事に心髄しちゃってるよ」
ニヤニヤする顔にはその彼らを利用する算段が早速建てられていた。彼女の能力的に、何かを信仰し崇めている人は操りやすい。
信仰対象に心を置くあまり視野が狭くなり、狂乱とも言える感情の歪みがあるからだ。そんな人は単純な思考回路になっており、自分のシナリオ通りに動いてくれる。
最も、そんな単細胞ばっかりではつまらないのだが。でも一定数居てくれるだけでも扱いやすくて序盤では助かるのは事実。
白い女神像を眺めながら真鍳はこれからの事を考えた。この像からは不思議な『何か』を感じる。それが一体何なのかは分からない。
が、彼女では大方予想が着いた。そもそもこの世界に誰かが呼び出されたのだから、出した本人が誰なのかと疑問に思うだろう。
「ここへ読んじゃったのは悪魔かな?それとも神様…ポジティブに神でいっか。神様ちゃんがどんな理由でショーもない凡人を呼んだのかは分からないけど…」
この神様には予想出来ただろうか。まさか外部から誰かがやって来るなんて。
自分の庭に入って来るなんて。その侵入者が犬っころなんて甘い輩じゃない面倒くさい奴だなんて。
ニヤけ面が止まらない。その神の姿を考えるだけで想像が膨らみ続けてしまう。
最早この被造物にはメテオラから伝えられていた目的など忘れ去られていた。
それほどにこの世界から今までにない快楽を得ていたのだ。彼女な対価は、早速満たされ始めている。
「安心してよ…この真鍳ちゃんがちゃーぁんと、面白くしてあげるから…ね♪」
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「さてさて〜?こっから何処へ行こうかなぁ。どっかに異世界ガイドさんが居てくれれば良いんだけど──」
1番人が居そうなこの広間でさえ無人である。人という生命体が居ない──は流石に無いが、ここまで来れば怪しく思うのも仕方がない。
もしかしたら外部連絡が可能かもしれない…思い出したかのようにメテオラから与えられた通信機を使おうとしたその時だった。
「個体反応…何者か今すぐ答えなさい」
「おぉ、ガイドさん発見♪」
初めてのファーストコンタクトとなり真鍳ちゃんテンションが上がり始めた。
振り返るとそこには1人の修道女が彼女を見ていた。一見協会の関係者と思われるその姿に真鍳は歓喜するが、直後その雰囲気に警戒心を上げた。
いや、上げざるを得なかった。彼女から感じる殺気が余りにも透明で静かだったためだ。
優れた観察眼を持つ真鍳からは彼女の異様な本質を見抜くのは雑作なかった。その上での警戒心だ。間違いなく単純な戦闘力では負けている。
何処か冷たく機械的な声色でその女性は続けた。
「この場には主に認められた者しか通れません。あなたには〝魅了〟が掛けられていない…従って異教徒と見なし排除させて頂きます」
「わーお、いきなり飛んじゃったねー。話が飛躍しすぎて雲も突き抜けちゃいそうだね」
口調はそのまま、内に秘める警戒心もそのまま。
だが少しだけ安心した。心の中でニィっと嬉しそうに口が裂ける。何故なら目の前の女性が何者であれ──
扱いやすそうだと思ったからだ。
(恐らく彼女の『主』は後ろのダサい人…だからかなー?すっごい単純そう…性格も機械的で事実しか信じなさそうなタイプだし…にゃははっ!)
一瞬地球で出会った脳筋女騎士を思い出すくらい単純そうな彼女に勝機を持ち始めていた。
ここまでなら善は急げ、自分のステージに持って行くための準備に入る。
ペースはそのままで彼女に会話を始めた。
「ゴメンねー、私も気付いたらここに居たから出来れば初回は無罪放免にしてくれないかな?かな?」
「ここへ辿り着く時点で異端者と見なされます。過去にもそのような存在が居ることで主の盤面を狂わされました」
「ふーん、この世界って主が絶対なの?」
「主であるエヒトの元この世界は構成されています。主に下らない者…それは異端者です」
機械的…本当に機械的。質問を行えば必ずと言っても良いほど答えてくれる。
それは例え答えたところで相手が死んでしまうから、質問くらいの弁は与えてやろうという恩情かもしれない。
しかし今回はそれが命取りとなる。
(エヒトって神に心髄するこの子は操り人形ってとこだね…良いね良いねー♪交渉材料は『エヒト』で決まりだね♪)
「エヒト神?ってこのダサい格好した人?」
後ろの像を指さしながらそう質問する真鍳。その言葉に僅かだがピクリと眉が反応する。
ヒット…そうほくそ笑みながら煽り続ける。
「ふーん、見た目パットしてないオッサンなのに、どうして人はそんな人を崇めるのかねー…この世界にもあるよね人権?ある筈なのに縛られちゃってかわいそー」
「…主を愚弄する者…その罪は重い」
「残ねーん!真鍳ちゃんは口が軽いからへーきで悪口を言っちゃうんだ〜…人気の1つでもあるんだけどね♪っとと!」
全力で像の側まで跳躍する。直後彼女の立っていた位置に斬撃が走った。
真鍳の身体能力は仮にも被造物だ。普段の人間よりは遥かに高いステータスを誇る。しかしながら目の前の修道女には敵うはずもない。
彼女はその場から動かずに斬撃を放っていたのだ。見ればその右手には等身大の大剣が握られており、服が変化し始めている。
変身に驚きつつロマンに沿った展開に興奮する真鍳を他所に、彼女──神の使徒は修道女の姿から本来のワルキューレ風の甲冑姿へと変化した。
もう片方の手にも大剣を虚空から取り出しており、殺気の量も先程の尋常じゃない。
機械のような彼女にも主を悪く言われてキレているのかもしれない。
そのまま死刑宣告を行うがごとく冷酷な面持ちで口にした。
「我が名はゼノン…神の使徒としてあなたを葬ります」
「自己紹介どーも…だけど残念でした!君は私を殺すことが出来ない…それどころか私の命令無しじゃあ何も出来ないのさ!」
「愚かですね…主こそ私を、『神の使徒』作り上げた。あなたの命令で私を縛るなど不可能です」
「うん!うん!そーだね!そーだよねぇ!こんなちっぽけな嘘…だけど君も無知は良くないよ?……だってその嘘が嘘の可能性あるんだから」
分かりやすいその性格が仇となっちゃった…ね♪
彼女の異常な様子に何をするのか、ゼノンは一瞬気の迷いが生じた。仮にもここに現れた異端者だ。ここ数百年はない前例に計算の時間が数秒必要だった。更にふざけた言動の数々。
だが相手が悪すぎた。数秒与えるべきではなかったのだ…この女に。
「嘘の嘘……それはクルリと裏返る」
(っ!……こ、れは…)
カラン、と音を立てて剣が落ちた。決して彼女が油断したわけではない。完全に意識外の行動。
「ビックリしちゃったー?ねぇねぇ、今どんな気持ちよ、ねぇ!…あっ、ゴメーン喋れないんだったね♪」
「……」
現実を捻じ曲げる特殊能力であり、嘘の嘘を現実にしてしまう。相手が真鍳の『嘘』を『嘘』と認めていなければ発動できない上、それを言葉にしなければならない。
しかしそれを認めてしまった場合それは未知の効果を発揮させる。
ゼノンの身体が縛られているかのように固定される。動かそうと力を入れてもピクリとその場から動けないのだ。
(分解…再生……くっ、何も発動が出来ない…魔力さえ動かせない…?この力は…!!)
これは一種のパンドラの箱とも言えよう。彼女の嘘がまかり通れば、それは世界全てに影響するのだ。ねじ曲がった法則として。
ずっと晴れればいいのにと願えば世界は干からびてしまうし、水浸しになればと願えば洪水に見舞われる。
魔法だって消せるし、彼女の前では呼吸さえ許せなくなる。神代魔法にも匹敵する効力を持つその力はゼノンにも等しく降り掛かった。
たとえ彼女の分解能力を持ってしても消し去ることが出来ない、正体不明の力に抜け出せずにいるのだった。
彼女を見ながらカラカラと笑みを浮かべて真鍳は近づく。ゼノンは必死に解呪しようと分解を働かせようとするが、そもそも分解魔法を唱えることが出来ない。
「まぁ、喋る事は許すよ〜、色々聞きたいのはこっちだしね」
「────っ、あなたは…何を──」
「それを言っちゃったら面白くないじゃん!自分で考えなよ…神の使徒ならそれなりに脳ミソ詰まってるんでしょ?」
道化師は口を三日月にして笑う。神の使徒を前にしてケラケラと笑いながらも、その目は彼女の目に入っていない。
ここでゼノンは初めて彼女を「異常」と認知した。神の使徒は絶対であり、この世界では無類の力を発揮する。それを倒そうとするものは居ようとも、常に敵意を喰らっていた。
しかし目の前の彼女は何だ。自身へ謎の拘束をした後、まるで眼中に無いように他のことを考えている。それはつまり、神の使徒という存在を初めから敵としても認めてないようなもの。
強いて言うならば、玩具としか見られていない。初めてのその感覚にゼノンは大変不愉快かつ悍ましい気に囚われた。
真鍳はそんな感情を顔に出している使徒をチラリと見て、愉悦に浸りながら続けた。
「それじゃあ愉快な質問ターイムっ!真鍳ちゃんも色々と聞きたいことがあるからね♪テンポよく答えてねー」
魔力が回らず、神から授かった権能も使用できない。外部からの連絡も取れず、逃亡も不可能。彼女への反撃はおろか、彼女の命令でしか動けない。
最早、ゼノンは彼女の問に答えることしか出来ない人形となっていた。
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「フムフム……成程ねー大体分かっちゃったね…この世界の人も馬鹿だねぇ、籠の中でワチャワチャ楽しんじゃって」
粗方の内容を聞き、彼女なりの解釈はあるものの世界のあり方を理解した真鍳は使徒ゼノンを前にケラケラ笑い続けた。
「エヒトって神もさぁ、世界で戦争を起こすなんて粋なことするじゃん!真鍳ちゃん見直しちゃったよ…ニャハハ!」
いや、絶対分かり合えない、分かりあって欲しくない。思わずそう思ってしまうゼノン。自身の主が彼女に敗北する未来などはありえないと確信していても、それでも彼女とは関わって欲しくないと思っていた。
尚、この頃にはゼノンの状態は何故か空中に浮いていた。「この羽根モノホン?飛べる?」と軽く命令されるがままに。羽が一律のテンポで羽ばたきながら、一切動かない使徒は正直、誰から見ても滑稽である。
一連のことを聞き終え、満足したように真鍳はゼノンを下ろした。
「ふーん、じゃあ取り敢えず転移しちゃってよ…近くの街でいいから、早く地上を一目見たいからさぁ〜」
「っ…誰があなた等の命令を──」
「残念だけど、使徒ちゃんはこの真鍳ちゃんの命令しか聞けないんだから、諦めた方が身のためだよ♪君も早く大好きな主に戻りたいんでしょー?」
彼女の言葉が全てだ。その事実がどうしようもなく変えられないことにゼノンは歯噛みした。ここまで神エヒトへの敬愛と一生の忠誠がこのように侮辱されるのは彼女に初めての屈辱を与えていた。
しかし何もすることができない。限られた選択肢に従い、彼女は魔法を唱える。転移魔法の一種であり、定められた場所へなら自由に転移できる魔法は2人を包み込む。
辺りの景色が変わり、教会の内装も豪華絢爛なものから平均的な飾りへと変化する。
「っ……〝空間転移〟」
「うん?…おー、本当に転移しちゃってる…それで、何処に行き着いたのさ」
「ウルへ転移しました。教会が存在する場所で且つ信仰が高い場所ですから」
真鍳が出口から顔を覗くとそこは山ではなく、市街へと変わっていた。教会の前を通りゆく人々、止めなく聞こえてくる声。そして地球にはない自然の澄んだ空気。
彼女の目が煌めいた。本当に異世界の地上に到着したのだ。
だが、彼女の歓喜を他所に、役目を果たした使徒ゼノンは口を開いた。その声色からあからさまな不快が混じっている。
「異端者、早くその術を解除しなさい。主への愚弄、愚行は不問にしますが、報告はさせて頂きます」
「えーっ、いきなり指名手配スタートは困るなぁ…ってかさ、君みたいな使徒って他にも存在するの?」
「当然です。我々は主により造られ、無限ですから」
……いいこと聞いちゃった♪
正直に答えた彼女へ再度、真鍳の思考は冴える。大袈裟に手を広げながら道化師は舞台を整え始めた。
「君の愛は凄いねぇ…だけど、真鍳ちゃんが思うにの愛は偽物だね」
「……」
「だってそうでしょー、無限に同じような使途を神は続ける。本来、信仰って色んな人が1人の対称へ寄せるものなのに、それが全員同じだったら根本が違っちゃうよ」
彼女の言葉にかかる妙な説得力。巧みな使い回しとリアクションは観客に短絡的な思考と先入観を与える。それは神の使徒も同じ。
たとえ彼女の説明に穴があったとしても感情が優先されてしまう。
「要するに、その愛は偽物な訳。埋め込まれた信仰心とかただのプログラムみたいじゃん?」
プログラム…埋め込まれる…彼女の言葉の意味がわからない。
しかし、確実にそれはゼノンのプライドを刺激していた。煮えたぎる感情は顔にも現れ、ますます道化師の術中にはまっていく。
あと、一押し。
「そう…だから君の持つ神への敬意は全くもって愛じゃない…そもそも、エヒトって君の主何かじゃないからね♪」
「っ…ありえない、私の主はただ1人、エヒト様です。その名を汚すならば……名を……」
「まーた引っ掛かった」
指を鳴らしつつ、真鍳は冷めた目で彼女を、彼女だったものを見つめる。もう目の前への興味は幾分減ってしまったようだ。何せ、彼女の忠誠心は盲信にも近く、信仰の根源にそぐわない機械的なものだから。
そして真鍳は機械など、パターン化されている物なんかに興味を持たない。彼女は人間の感情が好きなのだ。
尤も、その相手はもう彼女に口を開かない。神の使徒であるなら即ぐに真鍳を襲い掛かるはずの彼女はその場から動かない。意志も、それどころか何も感じない。
パリン、と彼女のまとっていた鎧が分解されていく。羽も同じように散ってしまい、元の修道女の格好に戻っていった。
「へぇ、神の信仰を無くしたらその装備も消えちゃうんだー、本当に玩具に過ぎなかったんだね、使徒って」
「……」
「しかもこれ意識ある?あるけど動けない感じ?」
ツンツンとつついてみるが反応がない。眼光から光が完全に消えている。まるでスリープモードに入ったみたいだ。本当に彼女から生命体としての反応がない。
それは、運がいいのか悪いのか。真鍳は指をひと鳴らし。
神の使徒…いや、1人の修道女が床に倒れ込んだ。もう目線すら彼女に向けず、真鍳は改めて教会の外へ足を進める。
「ふーん…つまんないなぁ、操り人形ってやっぱり」
そんな言葉を残して、教会の外を改めて見てみた。先ほどの彼女に比べ、街の人々からどれだけ生命が、活気が溢れているか。皆が皆、何のために身を焦がし、感情を持ち、世界を過ごしているか。
あぁ、そんな彼らの中にどれだけ醜い思想や脆い弱さが隠れていることか。
地球とはまた違った感性のみんなはどれほどの反応を見せるか。暇つぶしだけにはなってくれないことを祈るばかりだ。
「さてさてー!遂にこの真鍳ちゃんの大冒険が始まるわけだしー…今回はなんと異世界!科学技術なんて無くても魔法がある!素晴らしいワールドだとは思わないかねぇ諸君!」
誰に言っているのか。真鍳はそれでもステップを踏みながらワクワクを抑えられずにいた。姿がウルの街の群衆に消えていく。
「異世界人とか、ケモ耳とか、エルフとか?良いね良いね!ワクワクが止まらない──彼らの絶望の顔とかも面白そうだなあ、ニャハハ!」
この世界は変わっていくだろう。あるいは勝手に変わるのかもしれない。1人の狂人によって。
彼女の面白い世界に。
「それじゃあ始まりの街でぇ、早速スタートっ!」
━━━━━━━━━━━━━━━
「………」
誰もいない教会の中で、修道女は目を覚ます。起き上がれば其処は見知らぬ世界。自分が何故ここにいるのか、何のためにここへ参上したのか。
自分が何者かすら、空白のように思い出せない。
彼女はあたりを見渡し、出口の扉を見つける。ここに居続けても何も始まらない。
寧ろ、ここに居続けると何か違和感を感じる。それは不思議で、何処か気味の悪い感覚だ。
自分の心に正直に、彼女は外へ足を踏み出した。道化師による気まぐれで、名も無き修道女の新たな運命が幕を開ける。
ちょいと補足…
メテオラ・エスターライヒ
→今回、真鍳を送り出した理由は二つ。異世界へ送る際の戦闘で彼女が最も生き残れる存在だから…そして、この世界から彼女を追い出すためである。築城院真鍳がいる現在の被害はこの先の未来を考えた場合、人類の脅威に匹敵する。その為メテオラは、この世界の守護者として送り出すことを決断した。生徒らと真鍳による将来的犠牲者を天秤にかけたら…まぁ、無理もない。
築城院真鍳
→もちろん、メテオラの思惑は透け透け…だがその上で承諾。何故なら転移する異世界の方が面白そうだからである。その証拠に早速一命を記憶喪失にしている。この先彼女がトータスで何を行なっていくのかはわからない。だが、敵対する人類と魔人族…それを上から眺める神…のんびりチェスをさせる程この被造物は出来ちゃあいない。
はいはい!2章完結!色々と長くなっちゃったけど一先ずは落ち着いたわけだ…まぁ、この先も進めますが多分中途半端なところで長期停止しちゃうかもしれないです…それでも気長に待ってくれれば幸いです〜。
ではでは〜
この先欲しい要素は?
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バトル(肉弾戦)
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バトル(森羅万象などの頭脳戦)
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ラブコメ(もっとヒロインを前にだせ)
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ギャグ(ネタを増やせ)
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マミる(もっと血流そうぜ?頭とか)
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アルタイル(単純明快)