ありふれた物語の森羅万象   作:RASっさん

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論文、疲れる…もう嫌だぁ!!

はい、すみません、更新です。11月中に一章を書き切るつもりだったのに…


第八話 自分の選択

「ハジメ……」

 

 あいつが……手を取ってくれなかった。いや、正確には取れなかったというべきか。

 右手で虚空を思わず掴む。何も無い空間にハジメの手があればどれだけ救われたことか。

 

 傍では香織が必死にハジメの所へ行こうと足掻いている。雫と天之川の差し押さえもものともしない。今にでも身を乗りだきてあの崖から飛び降りそうだ。

 

「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

「香織っ、ダメよ! 香織!」

 

 雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない。

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

 それは、光輝なりに精一杯、こいつの香織を気遣った言葉。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきでない言葉だった。それは香織には爆弾投下でしかならない。

 

「無理って何!? 南雲くんは死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

 そして遂には2人の静止も外れそうになる。

 ……正直、俺も今すぐここから飛び降りてもいいと思ってる。それほど俺はハジメを助けたい気持ちでいっぱいだった。だが香織みたいに人より慌てているやつを見ると自然とこちらが落ち着いてしまう。

 

 ……今はこいつを落ち着かせることからだな。暴れている彼女の前に立ち、崖への道を塞ぐ

 

「落ち着け、香織」

 

 今ここで何も俺に出来る事はねぇ……同時に彼女も奈落の底では無力だな。

 

「冷静になれ。階層が深くなるにつれて敵が強くなる……その論理通りに考えるとこの下にはベヒモスなんかよりやばい化け物がいる可能性がある。俺らが今から総出で飛び降りても全滅するだけだ」

「っ!!」

 

 頬に衝撃が走る。おそらくだが、彼女に思いっきり叩かれた。赤い紅葉がきっと俺の左にできている事だろう……が、落ち着かせるにはこうでもしなければいけなかった。

 

「気は済んだか?」

 

 その言葉で彼女もハッとする。そして大粒の涙をぼろぼろ流しながら、それでも俺を睨みつける。

 

 ああ、そうだ。そのままどれだけ俺を恨んでくれてもいい。だから決して死ににいくんじゃない。

 

「……だがハジメには生きる力がある。あいつの錬成の力があれば……身を潜めることができるのかもしれねぇ」

「……本当?」

「ああ。だから希望を捨てろとまでは言わない……ただここで癇癪を起こしても時間が過ぎるまでだ。今はあいつが残した俺らで無事に迷宮から出ることが先だ」

 

 ……正直、ハジメが生きている確証などない。この言葉だって、ただの方便にすぎない。

 だが俺はこれで彼女を安心させなければと思った。ハジメが残した命なんだ。昨日の話的に守る、守られるの関係が呆気なく破れて香織は動揺しているのだろう。

 

 だけどなんとか落ち着かせることはできたみたいだ。同時に彼女は雫の肩に体を倒す。限界まで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのだろう。

 

「雫、こいつ頼むわ……俺は先に行く」

「ええ……ねぇ、一之瀬君。大丈夫?」

「……平気だ」

 

 雫から声をかけられたが、曖昧な返事になってしまう……

 俺はそのままメルドさんに合図を送る。このまま居続けてもまずいから、ここから脱出しなければならない。

 

 メルドさんの叱咤と共に生徒たちはノロノロと立ち上がる。トラップとハジメの死によりすっかり戦闘続行の気を無くしてしまったこいつらは放っておいて、俺は前線にいる騎士団達の方へ行く。

 

「あっ……回復するよ!」

「……あぁ」

 

 途中で女子生徒の1人が足に回復の魔法をかけてくれた……珍しくまともな行動をする奴だな。

 みんなが落胆してどこか上の空の中、こいつだけやれることをしている姿に少しだけ好感……

 

 ……だけどそれに比べて俺は──

 

「クソが……」

 

 回復した足の感覚を確認しながら、未だに生き残っているトラウムソルジャーの群れと対峙する。

 見た目はただの骸骨で、攻撃も単調なのに、どうして倒せなかったのか不思議に思う。

 

 本当に……なんでこんな雑魚にパニクってたんだよ。

 

 クオン・リニューアル──膝蹴り飛

 

 頭を吹き飛ばす。ほら、ただの横蹴りでこのざまだ。みんなだってこんなやつに遅れとらないはずだ。

 なのにみんなトラップだから、数が多いからってこの世の終わりみたいな顔しやがって……お陰でこっちも目立たなきゃいけなかったし、ベヒモスへの加担も遅くなった。

 

 クオン・リニューアル──前蹴り砕

 

 あの勇者だってそうだ。自分にはできる、メルドさんを見捨てるわけにはいかない……そんな子供の理由で騎士団を邪魔して、結果壊滅させかけた。

 その後もベヒモスに最大の攻撃を放ったようだが、ゼロダメージ。相手と乗り切ろユダを把握しておくのは戦闘の常識だっつーの……

 

 結局あいつのやった事といえばあの後もまたパニクって壊滅しかけた生徒のカバーだ。もっと早く来てくれればどれだけ良かったか……

 

 勇者失格だろあんな奴。

 

 クオン・リニューアル──回転蹴り鋏

 

 あー、うざってぇ。

 

 そもそもトラップも4バカの不注意で起きた事だし、何より全員の意識が低すぎた。みんな自分をヒーローだと思い込んでいざとなったらあたふたして心底邪魔になる。

 こんなんだったらあいつを……ハジメを見習えよ。

 

 あいつ、お前らよりどれだけ頑張ったと思ってるんだよ。状況判断が早くて、実質1人でベヒモスを抑えて……

 

 ……俺なんかを助けて……

 

 

 

 

 クオン・リニューアル──踵……

 

『久遠。脚が上がらなくなっている。このままでは治療を受けた脚が再度使い物にならなくなるぞ』

「……」

 

 アルタイルの言葉で振り上げていた足を下ろす。その代わりに拳で無理やり頭蓋を壊してやった。

 気づけば身体のあちこちが痣だらけ立った。途中から俊敏による補正もかからなくなり、ただただ相手を蹴り続けているだけだった。そんなことにも気づかなかった……抜けてるなぁ、俺。

 

 バラバラになって死んでいく敵を眺めながら、思わず言葉をこぼした。

 

「……俺は守ってやれなかった。正直自分では死を覚悟していた……だが誰かの死に対する覚悟は全くなかった……」

 

 そう、結局俺も同罪なんだ。自分ばっかり殺生に対する覚悟とか、この世界で生きていくにはとか……自分のことばっかり考えていて、身近な存在のことを守れなかった……ハジメを殺してしまった。

 

 あの時もっと上手く立ち回りをしていたら……

 

 あの時足に力が入っていたら……

 

 あの時ベヒモスを無力化させるほどの力があったら……

 

『余は被造物だ。そして人間の身勝手さには愛想が着く』

 

 アルタイルはいつになく真剣にそう告げてきた。彼女は被造物であり、同時に創造主が感じ取った人間の黒い感情をこの上なく理解しているのだ。

 

『君は彼に情を入れすぎた』

 

 いきなりきついことを言うな……確かにハジメは広くいえば赤の他人に過ぎないかもしれない。

 だけど俺の大切な親友でもあったのだ。一言くらい言い返してやりたかったが、言い返す気力も湧かないのでそのまま聴き続ける。

 

『この世界で生き抜くためには駒が必要になる。今回の場合は生徒全員と騎士団の面々だ。君は全滅を防ぐ為に武器を使い、自分を使った。そして勇者という駒を使ってトラウムソルジャーを打破した……そしてベヒモスを2人で無力化した』

 

 そうだ……そしてその後ベヒモスが暴れて橋が崩壊……まさかの崩壊にハジメを失った。

 

『その結果1人の駒を失った程度で済んだ。本来ならば全滅は避けられない事態を加味すると──』

「そんなんじゃねぇよ!」

 

 ハジメは駒じゃない!

 ……だが、その時に何かが引っかかる。あいつは駒じゃない、確かにその通りなのだが……突っかかる何かに気を取られながらも俺はアルタイルに言い返す。

 

「俺は……あいつを失った事に腹立ててんだよ。あいつの事を守れる力があったはずなのに」

『であるなら、彼があの役を買った時点で君が止めるべきだったのだ。その代わり騎士団長当たりを失う事になったが……』

 

 それはそうだ。そもそもハジメにベヒモスはあまりにも相性が悪いのだ。レベル差も、実力も、全てに劣っていた……ただ錬成で足止めはできた。だから許したんだ。

 

 それに──

 

「ハジメが覚悟を決めていたんだよ……それに俺が茶々入れることができねぇ。だから……」

『彼を死なせたのだな』

「……あぁ。殺しちまった」

 

 アルタイルはふぅ、と溜息をつき、俺にゆっくりと話し始める。

 先程とは一変し、何かを思い出すような……懐かしむような、そんな口調だ。

 

『少し昔の話をしよう。余はかの戦い……エリミネーション・チャンバーフェスの時に白亜翔、ブリッツ・トーガー、カロン・セイガ、アリステリア・フェブラリーの駒を所持していた。全員余の、狂った世界に対する復讐に大いに協力してくれた……だが彼らには一切の信用などしていない』

「……それはあいつらが他の誰かの被造物だからか?」

『違う。そもそも彼らを護る必要がないだからだ。所詮、彼らが余に与するのも利害の一致に過ぎない。余の目的の魂胆であるセツナを陥れた世界への復讐など誰も賛同しないはずだ』

 

 ……アルタイルの目的は世界の破壊。一方味方の面々は理由は様々だが自分たちの世界への帰還が目的だった。その時点で彼らに対する信頼は一切置いていないのだろう。

 双方の目的にズレがあるのだから。

 

 アルタイルはそのまま続ける。

 

『余にとってセツナ以外の者は駒だ。その身を全うし、余の勝利に近づくための布石に過ぎない……君はどうだ?君にとって取捨選択を取るべき人間は誰だ』

「……」

 

 あの時、俺の取るべき行動。彼らを助けて、死人をなるべくに出させることか?

 いや、違う。俺は本当にする取るべき行動は……

 

「……ハジメだった。あの時は親友は守っていたかった」

『そうだ。だが君はその他大勢の命も優先した。所詮人間である君に守れる限度がある。君は先に彼の身を案じ、彼だけが最も生きる可能性の高い選択を取るべきだった。所詮学業でしか接点のない他人のことなどどうでもいいだろう?』

 

 あの時、ハジメを先に安全を確保させて居れば、天之川達をもっと早く連れ戻せたのかもしれない。

 メルドさんを失う可能性はあった……だがハジメと比べると奈落での生存率はベテランの彼の方が高いはずだ。

 

 俺は……強欲にも全員を助けようとしたあまり、1番守るべきだちを死なせてしまったのだ……

 

 今更ながら自分の甘ったれた思想に気づき、思わずその場で俯く。脚が一気に重く感じ始め、無駄に全身の感覚が研ぎ澄まされる。

 今回の俺の甘さが招いたわけか……はぁ……

 

「……ここが異世界だっていうことをどうやら俺はまだ甘く見ていたみたいだな。思考が平和人そのものだった」

『致し方ない。人間はつくづく甘いからな……まぁその皮肉にも余はその人間に敗れたのだがな』

「はぁ……アルタイル、王都に戻ったら即準備に入るぞ」

『そうとなると、目的は──』

 

「ハジメの捜索、そして救出だ」

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 王城の部屋の一つを覗く。そこには香織がいまだに気を失っている状態でベットに寝ていた。

 原因はハジメを失った事によるショック。いつ起きるのかはわからない。

 

 香織はどこかで俺を憎んでいるのかもしれない。実際ハジメは俺を助けるために錬成を使った。自分に使っていれば助かった可能性がある。

 

 だから、もし、ハジメが死んでいた場合……俺は香織からどんな罰でも受けるつもりだ。

 

「……だけど安心しろ。必ずあいつを連れ戻しにいくからな」

 

 ドア越しでそう言い残し、俺は部屋から遠ざかる。

 次に行くところとすれば……一応あの人に連絡くらいはしておこう。

 

 コンコン、とノックして、彼の返事を待つ。

 

「おう、誰だ?」

「一之瀬久遠……入ってもいいですか」

「久遠か。ああ、入ってこい」

 

 そうして扉を開けた。前にいるのは少しの間だけお世話になった騎士団長がいた。

 書類整理をしているようだ。多分、今回の騒動の報告書をまとめているのだろう。

 

「メルドさん、話があります」

「……言ってみろ」

 

 俺がこうするのをわかっていたのか、そのまま続けるように促してくれた。

 

「今日をもって、俺は王都から出て行こうかと思っています」

「……そうか」

 

 どこか暗そうに俯くメルドさんの言いたいことは何となく理解できた。指導者としてハジメを守れなかった責任、そして俺が出ていこうとしているのもハジメを探しに行くためだ。

 

 止めたくても止められない、だから返す言葉が見つからない……そんなところか。

 

「元々ここを出ていくつもりではあったんですよ?ただ、それが早くなっただけです」

「そうか。目的は坊主の救出だな?」

「はい……後は元の世界に帰る手段を探すことですかね」

 

 当初のプランは遠慮なく進めるつもりだ。そして俺の発言にメルドさんは反論せず、代わりに重々しく惜別の言葉を垂らす。

 

「……俺が言っても何もならない。だが謝罪させてくれ。君たちを我々の戦争に巻き込んでしまってすまなかった」

「いいですよ……その話に乗った俺らも大概ですし」

 

 もう今更という感じだ。寧ろ参加表明したにも関わらず、死亡者を出してメルドさんに責任の声が上がっているとか……マジで申し訳ない。

 

「準備はもうできているのか?」

「はい、少しだけコネを使って、みんなにバレないで逃げられそうです」

 

 何処かの姫さんが快く手伝ってくれるとのこと。案外俺よりもやってることがヤバいかもしれない……国のお偉いさんをコネって言うのもだんだん引けてきた。

 

 それで、此処を尋ねたのはただの別れのためではない。

 メルドさんに交渉……基、お願いをしに来たんだ。

 

「そして、メルドさんにお願いが少々……」

「なんだ?俺からできることは少ないかもしれんが」

「いやいや、結構ありますよ?」

 

 例えば俺がここを出てからのみんなの反応について、とか。

 ハジメが死んだことにより国も生徒らも全員敏感になっている。誰かをまた失うのではないかと。俺は遠慮なく出ていくけどな……

 

 その為、またパニックにならないよう手回しはしておかなきゃと思った。

 

「一つ目は俺が出ていった理由を伏せてもらいたいことですね……どうせ王城の偉い方は俺のことを目の上のたんこぶとか思っていますし。本当の理由は隠しておいてください」

「それは問題ないが……いいのか?この国の世界に対する発信力は大きい。君の肩身が狭くなるかもしれん」

「大丈夫です。むしろ上等ですよ」

 

 世界を敵に回しても俺はこの足を止めない。スマホの彼女がそうしたように。

 

 続いては……これもまた甘ちゃんかもしれないが、頼んでおこう。

 一応、雫や龍太郎達も心配だからな。彼らはこの出来事で一層気を引き締めてたのだろう……が、まだ足りない。

 

「そして二つ目は……生徒に対する覚悟ですかね?」

「……どういうことだ」

「単刀直入に言います。南雲ハジメは誰かの魔法で殺された」

 

 その言葉でメルドさんの顔が驚愕に変わる。ここで何故カミングアウトしたか……それは単にメルドさんだけに伝えておきたかったから。

 

 元々あの誤射は誤射じゃない……観察していたアルタイルから誰かが撃ったのは目に見えていたし、俺もそう思っていた。

 そもそも魔法は自然に起動が変わったりしない。

 

「彼はいろんな人からやっかみを受けていますから……当時近くにいた俺は見ました。明らかに魔法が誘導されて俺らに当たったんです」

「それは本当か!!だとしたら大問題だぞ!」

「はい……犯人も相当なクズですからね」

 

 炎の魔法……適性があるのは斎藤だったかな。だが魔法は適性がない=使えない訳では無い。あれくらいの魔法なら誰だって使える。

 

 ……まぁ、犯人は檜山だろうけどね?適正の風でぶっ飛ばさなかったあたり卑怯者感がさらに引き立っている。

 残念ながら追求することは出来ない。例えしてもはぐらかされるだけだし、ほかの目撃者もいない以上、安易に問い詰めることが出来ないのだ。

 

 だからせめて、メルドさんに注意しておく。

 

「生徒みんな、この世界で生きていく覚悟がない。死のやり取りに対する認識が甘く、異世界転移という幻想がみんなを自分勝手に振る舞わせている。だから指導を厳しく言ってもらいたい」

「……わかった。今回の原因は俺にもあるからな」

「流石に今回は俺らがいけないんですけどね」

 

 ってか俺もここから出ようとしているからな。

 

「俺からは以上ですかね。それじゃあ、短い間でしたが、お世話になりました」

「待て、久遠よ……お前は覚悟ができているのか?」

 

 その質問は俺のみを案じての事だろう……俺も最近まではそこを心配していたからな。

 だけど安心して欲しい。俺はこの世界で生きて行く……そこで起こる事や身に持って感じる事も全て受け入れるつもりだ。そして自分の守りたい者の為に俺は戦う。

 

「早速ですね……腹はもうくくりましたよ?俺はこの世界のルールに準じて、自分の大切な存在を守っていくことに決めたんで」

「……本当にすまない」

「だから平気ですって」

 

 さて、もうメルドさんに頼むことはないな……いや、待て。一つだけあったわ。

 出ていく足を止めてドアからひょっこり顔を出す。

 

「あっ、そうだ。もう一つだけいいですか?」

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ふぅ……」

『フッ、随分と疲れているな。やはり目上の人との会話は相変わらずか?』

「別につけてねぇよ……ただ事実を言ったまでだ」

 

 相変わらず目上の人に対しては畏まることが出来ない。自分の悪い癖だ……が、メルドさんは自分の見てきた大人の中で最も人格のある者だと思う。

 生徒達を全員纏めあげるのは大変だろうが、それは彼の腕を信じていよう。

 

 メルドさんの所を去り、後は彼処に行くか……と思っていた時だった。曲がり角でアルタイルの毒口を受けながら曲がろうとすると知り合いとバッタリ出会う。

 

「『あっ』」

「一之瀬君──……何をするつもりなの?」

 

 雫は俺を見て直ぐに顔を顰めた。そりゃあそうだな。俺、今寝巻きの姿でもなければ普段着でもない。完全に戦闘に行く服装、装備なのだから。

 このまま出ていこうとしたのが裏目だったか。いや、それでも雫がいるのは予想外すぎるんだけどな。

 

「お前は何でここにいるんだよ……」

「訓練帰りよ。ここで落胆している暇があったら少しでも強くなっていかなきゃ……って、話を逸らさないで」

 

 流石、彼女はみんなが生気を失っている中、未だに強い志でいた。多分香織のこともあって、自分がしっかりしなきゃと思っているんだろう。

 

 前に抱え込みすぎって言ったそばからこれだ……心配になってくる。

 雫は俺を見て、大方察したのか呆れた眼差しで告げてくる。

 

「ここから出ていくの?」

「……まあな。大体察しはついてんだろ?」

「ええ、南雲君のことね」

 

 まぁ、俺が出ていくとしたら十中八九それしかないだろうし。

 

「実際、一之瀬君は彼が生きていると思うの?」

「……正直厳しい」

『ベヒモスの段末からして、外的要因を除けば南雲殿は奈落で転落死しているのは間違いない』

「っ……そう」

 

 アルタイルからの厳しい観点に俺も顔が曇る。ハジメはあの奈落から落ちたのだ。香織に言い聞かせた時は生きている前提だったが、普通はあの高さからだったら死ぬのは間違いない。

 

 それでも、俺は探しに行かなければならない。あいつが生きている可能性が僅かにあるのならば……それに賭けるのが俺の務めとして十分な理由だ。

 

「止めないのか?」

「ここで止めても次の日とかに逃げるんでしょ?」

「ほー、よくお分かりで」

 

 うん、全然決めてなかったけど明け方とかにこっそり出ていたかもしれない。流石は八重樫家。道場にいる奴らが家族扱いなだけある。

 

「あいつがどうなったかだけでも知らなくちゃいけないから、何が何でも俺は向かうぜ……お前には迷惑をかけるかもしれないが」

「ええ、そうね。香織の事とか……光輝も絶対に貴方に反応するだろうし」

「あいつもう放っておけよ……」

 

 せっかく忘れてたのに、天之川はいつも突っかかってくるし、今回もどうせ過剰反応してくるのだろう。

 それにいちいち雫がカバーする必要も無い気がするんだけどな……

 

 止める気がないとわかったので、このまま彼女の横を通り過ぎる。暫くは会わないだろうし、ここで話せたのもラッキーだったかもな。

 

「香織には俺が探しに行っていることを伝えておいてくれ。それ以外には適当にはぐらかしで」

「はぁ……分かったわよ。でもこれだけは約束して」

 

 俺の目を見て、彼女ははっきりとこう答えた。

 

「ちゃんと生きて戻ってきなさい。これ以上死人が増えたら私も精神が持たないわ」

「はいよ、いつかは顔は出すから。あと、もう一つだけお願いが──」

「何?まだあるっていうの?最近私に抱え込み過ぎって言ったわよね!?」

「すまん、すまん……でもこれはお前にとって息抜きになるかもしれない話だぞ?」

「え?」

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ここともお別れか……」

 

 最後に向かったのは王城にある洗濯場だった。この時間は彼女は明日へ向けて皆の洗濯物を整理しているらしい。

 メイドってやっぱり大変な仕事だと思う。毎日俺らのみの世話とか普段は考えられないな。そう思いつつ、扉を開く。

 

「ニアさん、いるか?」

「はい、一ノ瀬様。どうかしましたか」

 

 そこにはいつもの様な明るさでニアさんが洗濯物を籠に分別していた。

 

 ここで言うのも気が引けるな……だけど覚悟を決めて俺は彼女に告げた。

 

「ここを出る事にした」

「っ!」

 

 その言葉でニアさんは驚愕を隠せずにいた。持っていた洗濯物をその場に落とし、慌てて拾い直すあたり、相当予想外の言葉だったんだな。

 

 なんかすまん……だが決めたからにはそのまま言葉を伝える。

 

「それでニアさんには同じ生徒の雫に受け渡す事にした……ってところだ。連絡はしとかなきゃなと思ってだな」

「そう……ですか」

 

 どこか寂しそうに俯いたが、直ぐに表情を戻す。顔に出すのはなるべく隠すように言われているのだろう。

 だけど問題ない。ニアさんの処遇がなるべく酷いものにならないよう、メルドさんに通しておいた。

 

 これなら彼女は「逃亡者」のレッテルダメージをなるべく受けずに済む。騎士団長の発言力は大きいし、生徒達の中で1目置かれている雫の所ならそこまで下に見られることは無いだろう。

 

 元より接点の少なかった存在だし、これくらいはしてあげないとね。

 

「じゃあ……短い間でしたが、世話になりました。今度またどこかで……」

 

 そのまま踵を返す。元よりニアさんにはこれを知らせるしか無かったからな……雫とは上手くやって行けるはずだ。あいつと仲良くなって、双方が楽に慣れればなぁと思う。

 

 ここから暫くは単独行動か……アルタイルが居るものの、どこか寂しくも感じる。

 

 すると後ろから彼女が声をかけてきた。

 

「一之瀬様」

「ん?」

「ご武運を」

 

 背中にかけられた声が意外なもので、立ち止まる。振り返るとニアさんは確かな瞳で俺を見ていた。

 涙を流していた。だがそれには別れを惜しむようなものでも無ければ、俺を蔑むような視線でもない。人を信じ、身を心配する……そんな感情が現れていた。

 

 ……まだ会ってから数週間のはずなんだけどなぁ。俺を買いかぶりすぎてるのか、それとも人が良すぎるだけなのか。

 

 でも……

 

「……おう。ありがとう」

 

 こんな言葉、受け取ったら気が少し緩んじまう……不思議と心地の善いものだった。

 

 彼女に今までの感謝を……様々な気持ちを込めて礼をし、俺は立ち去った。




ちょいと補足

一之瀬久遠
→彼にも取捨選択の覚悟、同時に何か話守り抜く覚悟をつけた。ハジメは奈落でユエと出会った時に自覚し始めているので、タイミングは久遠の方が少し早いかもしれない。アルタイルの言葉に動かされ、彼の道を歩み出す。

アルタイル
→フェスで経験した通り、彼女は元より孤独である。原作でもそれが故弱き者であり、弱き者の王様でもあると彼女の創造主から伝えられた。故に彼女は護るべき者に見切りをつけている。創造主が亡き今、彼女が守りたいものは、一体誰なのだろうか…

アルタイル陣営の面子(Re:CREATORS図鑑)

白亜翔
→『閉鎖区underground-dark night-』の主人公。ライバルの弥勒寺優夜に妹と親友を殺され、その復讐に心を燃やす熱血バカ。その優夜が現界していると聞き、アルタイル陣営にいたが、相手の数で圧倒され、さらに優夜本人から原作のネタバレを喰らったことで犯人は別のものだと知る。彼と敵対する理由も無くなったので人類側についた。

ブリッツ・トーガー
→『code・Babylon』の登場人物。主人公の相棒ポジであり、彼より人気であるがために現界された。元刑事で賞金稼ぎのイケおじ。殲滅機械へ化そうとした娘を自らの手で殺めた過去があり、その運命を作った創造主を恨んでアルタイルについた。だがフェスを開催する時に娘が蘇生され、創造主に思うところがめちゃくちゃあるものの、結果アルタイルを裏切る。個人的に人類側セコいな…と思ってしまったシーンでもある。

カロン・セイガ
→『精霊機想曲フォーゲルシュバリエ』の主人公。自身の物語で繰り広げられる世界に疲弊しており、世界を救うためにアルタイルに加担した。相棒のセレジアと敵対する関係になるものの、自らの意思を貫いて人類側を大いに苦しませた。これには原作ファンも歓喜で、リアルに描かれた(ことになってる)2人の心情のぶつかり合いは高評価であった。最期はセレジアの特攻で不意を突かれ、人類側が2人巻き込んで消し飛ばした。それでいいのか人類。

アリステリア・フェブラリー
→『緋色のアリステリア』の主人公。原作での脳筋ポジ。自らの騎士道を進み、色々と人類側に迷惑かけた脳筋。原作の人気投票で脳筋という理由でワースト2位に成り下がった脳筋。人類側の主人公のクソメガネの言葉で少しは考えるようになり、結果自分の意思で人類側につくものの、アルタイルにあっさりやられていった脳筋…本当に脳筋なんよ…《注》あくまでも個人的な意見です。因みに最終的な人気ランキングでは上位に上がりました。

 上の4体をもっと知りたい方は是非原作のアニメや漫画をチェックしてみてください。

 ってか上の4人の紹介だけで過去最高文字数の後書きになってしまった…ですがアンケートの結果、レクリを知らない方が多いとのことなので補足は必要だなぁ、と思いこの次第。 
 『Re:CREATORS』に関する本作の矛盾点などがあれば遠慮なく報告してください。こちらが大量の難癖と自己解釈でいい感じに直します。

 さてさて、今回は主人公久遠の覚悟の解ですね。アルタイルの一回り大人感も出せたかなぁと思ってたり。約3回にわたってシリアス回を書いて、私も糖分補給がしたくてたまらない状況…早くハジメと合わせたい。
 ですがもう少しだけ、それまでの過程が必要です。頑張れ!踏ん張れ、私!!

 それでは、また何処かで〜。

Re:CREATORSは皆さんどのくらい知ってますか?

  • 全く知らん
  • 名前くらいなら…
  • 水篠 颯太はクソメガネ(=知ってる)
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