ありふれた物語の森羅万象   作:RASっさん

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 どーも、今回はかなりオリジナル展開がありますよー!



第九話 ツンデレか、正統派か

「ありがとうございます、姫さん」

「いいえ、一之瀬さんの気持ちを優先させたまでです。先日の事件も一ノ瀬さんの力あっての事ですから」

 

 王城の一角にて、内密に会っていたリリアーナ王女に感謝の言葉を贈る。今回は彼女の力を大いに借りることになった。

 

 まずは脱出経路。王城を最も把握している彼女の抜け道を使えば誰からもバレることなく脱出できるのだ。流石王城、絶対抜け道のひとつは存在する。

 そしてその先に何と馬車を用意してくれているという。行先はオルクスと指定されているので一気に時間が省けるわけだ。

 

「で、武器庫からはリストの品々をいただいたが、よかったのか?幾つかは実用性のあるものにも見えたんだが……」

「はい!どうせ王都の皆さんも使いませんから!あのまま誰も処分……利用しないのは悪手だと思いまして」

「本音ダダ漏れだな」

 

 そして武器だが、これまた新調することが出来た。前に行った時は全て使い切ってしまったからな……今回は長い度になるので少し多めに収納した。

 そして相変わらずのことだが、姫さんは圧迫されていた宝物庫のいらないものが消えて大喜びらしい……

 

 国の財産を俺は片っ端から使い、更にはぶっ壊しているので、罪悪感が半端じゃない……

 

「それじゃあ、俺はこれで。一応会ったことは秘密ってことに」

「ええ、わかっています。馬車は指定の紋章……こちらの紋章のある馬車にお乗りください。行き先をオルクスまでとされています」

「何から何までまじ感謝だ……」

 

 有能すぎるだろ、この人。こんな1人の高校生のためにやってくれるサポートが割に合わなすぎる……

 むしろなにか裏があるのでは、と思ってしまうほどだ。

 

「まぁ、王都が困った時暇だったら助けに行く」

「できれば確証持って来て欲しいですね」

「それは無理な相談だぜ?」

 

 まぁ、でも仮を返さなきゃなぁとは思う。うん、多分、いつか、きっと返すんで。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ここに例の馬車があるんだよな?」

『王女は君を信頼しているようだからな。罠ではあるまい』

 

 王城の地下から抜けて、到着したのは馬車が駐在している場所……地球でいうバス停みたいなところだ。そこには様々な行き先の馬車があり、王城である故引いている馬や大型の馬車が一級品だとは素人目でも分かった。

 

 夜遅い時間帯で、辺りは閑散としているものの、俺の目には豪華絢爛な貴族たちがこの馬車で乗ってくる光景が容易に想像できた。

 

 やっぱり王城ってすげぇ所なんだな……マジで姫さんとコネ作っといてよかった。

 

 そのまま無事に姫さんの指定した紋章の着いた馬車を発見することができた。運転手の方も粗方の事情は分かっているようで、俺をみかけると直ぐに馬車の準備に入ってくれた。

 

 待っている間、ふと魔力反応が引っかかった。アルタイルも同じのようで、スマホからバイブがなる。

 

『久遠、人の反応がする。これは──』

「生徒の反応か?」

 

 魔力量が若干少ない。ただ魔力が少ない騎士かもしれないが、これは俺達生徒の者だと思われる。どうやらその人もこの駐在所にいるようだった。

 少しだけ奥の方に顔を出し、その者の方へ進んでみる。

 

「あ……」

「……」

 

 やっぱり生徒の1人だった。黒いローブを身につけており、髪もボサボサだがそれが彼の特徴なので見慣れたものだ。

 それにしても、こんな時間帯に何で……って、出口の方へ向かっていこうとする。こいつもここを出ていくつもりなのか?

 

「おい、そっち行ったら王都の外だぞ?」

「……指図すんな。俺はここを出るんだよ」

 

 結構高圧的な態度でそのままどこかへ向おうとする。だがいくら王都がこの世界の中心の王国であろうと、近くの村まではかなりの距離がある。俺もオルクスへ行くには馬車じゃないとダメだと思ったくらいだ。

 

 それに1人でここから逃げても、直ぐに気づかれるだろうし……

 

「徒歩じゃあ絶対に追い付かれるぜ?現に俺もここにいるんだし」

「うるせぇ!!お前もわかってんだろ!ここにいても輝けねぇことくらいは!!」

 

 んー?何を言っているのか全然わからん。だが本人はかなり切羽詰っているようで、興奮が抑えられていない。

 何かあったのは予想できるが、それでも詳細が分からない以上、どうすることも出来ない……

 

 ……だけどこっから出ようとするのは正しいと思うよ、うん。

 

「あー、その、なんだ。続きはこの中でしないか?」

「……はぁ?」

「いや、俺も実は脱走計画立てて、今日出るところだったんだよ。運転手、ここ二人乗りOKか?」

「ホッホッ、勿論平気ですとも。送り先は変えられませぬが……」

「いや、それでいい。で、お前も来るか?」

 

 よし、同行者OKらしいな。そいつに判断を促すと、暫くは俺を疑うように目を細めていたが、自分でもここから徒歩では脱出不可能とは理解していたのだろう。

 

 態度は相変わらずのものの、少しは信じてくれる気になってくれたようだ。

 

「……本当に連れていってくれるんだな?」

「ああ、俺もその方が暇つぶしになるし」

 

 本当に、このまま寝るのも嫌だと思ってたし、アルタイル以外にも話す仲間がいるとこの旅も楽しくなりそうだ。

 彼は一瞬何か考えるように目を瞑り、直ぐに答えを出した。

 

「……分かった。俺も乗せろ」

「了解、それじゃあ、とっととここから出てこうぜ。運転手!」

「分かりました。それでは、行きますぞ!」

 

 元気な運転手だなぁ……ムチが振るわれ、馬が出発しだす。俺とそいつは馬車に向かいで座る形となり、こうしてオルクスまでの短い旅が始まった。

 

 俺は目の前に座っている、未だに暗い彼に向かってよろしくの挨拶をした。

 

「じゃあ、短い間だがよろしくな、清水」

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 馬車は少し揺れながらも、王都から離れていっているのがわかる。後ろを見ると王城がみるみる小さくなっている。ここに転移されて長い間いた場所ともおさらばだ。

 

 これから俺のこの世界での冒険が本格的に始まる。ついに俺はこの世界で生きていく事になるのだ。

 改めて考えてみるとたかが高校生が行うものではない。俺らはまだ未成年であり、格差社会の激しいこの世界で埋もれてしまう可能性だってある。

 

 だが覚悟を決めないといけない。俺は自分の守るべき存在を見誤らない。そんな時間でさえ、この世界では命取りとわかったのだから。

 

 ……でもそんなことより、今俺は熱くなっていた。

 

 相手の目を睨みつけ、次にどのような言葉の刃を与えるか必死に思考を回す。相手も殺さんばかりの眼光を俺にぶつけている。生きるか死ぬか、勝つか負けるか。

 

 互いのプライドをかけた戦いが始まっていたのだ!

 

 その内容は歴然。登場してから早20年。今でも受け継がれるこの永遠の戦いをここでもやるのだ。

 

「だから人権はア○カ・ラングレーの一択だろうがぁ!!」

「違う!唯一にして原点のヒロイン綾○・レイが一番だ!!」

 

 二号機と零号機の拳が交差する!

 

 社会現象を巻き起こしたあのシリーズ……俺らの世代平成ではフューチャー・チャンバーフェスがアニメの全盛期と考えれば、2000年前ではあれがアニメに革命を巻き起こした作品と言えるだろう。

 

 あのストーリーやロボットアクションはどのシリーズでも鳥肌もんだったぜ……何度観ても、誰が見ても良作だと思うはずだ。

 

 そして俺はア○カ派、清水は綾○派で議論を白熱させていた。どうやらこいつは正統派を譲らないようだ。

 

 だが俺はコードトリプルセブン並みに抗って見せる!

 

「分かってねぇな……確かに綾○はいい。段々と人間らしく、ポカポカしていくシーンもあるし、シ○ジの為に力をはっきする所とか需要しかない。だがそんな彼女に勝る胸!気荒くも情があるツンデレ気質!ってかツンデレの元祖だろうが!それでもお前は零号機なのか!」

「逆に言わせてもらう!あの二号機は確かに理想のツンデレ像かもしれない。名言もあっちの方が多いし、あんたバカァ!?は俺もゲー垢の名前に使っている……だけどそれは綾○が初めは無口だししょうがねぇだろ!寧ろどんどんシ○ジに心を開いてくあの関係が正統派所以の格だろ!!」

 

 ちゃっかり清水のゲームアカウントがバレた気がしたが気にしない。このまま引き下がると自分が綾〇を認めた気がしてしまい、何か納得できねぇ!!

 

 それは相手も同じようで、自分の意見を曲げるつもりは全くないようだ。

 

「そもそも、ア○カは三種類くらいいるじゃねーか!!お前全員人格違うけどちゃんと推せるのか!?」

「ったりめぇだろ!全員それぞれのキャラがあって3度美味んだよ!逆にお前はいいのか?途中で黒くなって愛するシ○ジとの関係が悲しすぎるあの後半とか!俺だったら泣いて自殺もんだぞ!」

「グッ……いや!だからこそ俺は彼女に身を捧げるんだ!そしたら綾○はきっと思い出すんだよ!主人公補正とかで!!」

 

 静かな旅路、静かに揺れる馬車、そして中で繰り広げられる推しの弁論。静かな度になるはずだったが、結果は汗びっしょり、喉も枯れ始めている。

 

 流石はオタクライバルと言ったところか……こいつはかなりの知識を持っており、それによる考察方法も現実的に、そして幻想的にと2パターン持っている。2通りの考え方で柔軟な考えを持つことが出来るわけだ。

 

 ハジメとは別タイプの、高圧的な弁論はこっちも熱くなってくる。彼に勝ちたいと思ってしまうのだ。

 

 そしてそんな俺たちをホログラムで、何やら今まで以上に冷ややかな目で眺める者が口を開く。

 

『貴様ら、凄く気持ちが悪いぞ……罵り合う人間を見るのは彼らの内心の体現かでいい気分のはずだが、何故か今の君たちからは何も感じない……寧ろ嫌悪感か?』

「いや、アルタイル。これめっちゃ重要だから。社会に必要なスキルだから」

「そうだ、アルタイルさん。俺らは己のプライドをかけて推しの戦いをしている。割り込まないでくれ」

『元より割り込むつもりはない……はぁ……』

 

 呆れた様子で肩をすくめる彼女も被造物だからなぁ……彼女を推しだと今も応援しているファンは居るはずだ。それもあり、あまりこういうネタは好きではないのかもしれない。

 

 ……が、俺は知っている。彼女が占領したスマホ、元々は俺の漫画、アニメのデータがたっぷり詰まったものなのだ。この3年間でこいつはそのデータを全て漁り、エ〇ァも含めて全部見終わっていることを知っている。

 

 はい、なので貴方にもクエスチョン!

 

「そういうお前はどっちなんだよ。一応読破もしてるし、アニメも映画も視聴したんだろ?」

「そうなのか?じゃあここではっきりさせなきゃな。こいつはどっちなんだ」

 

 2人の期待が集まる中、彼女は溜息をつきながらも淡々と答えた。

 

『……いや、余はマ○の八号機だが』

「「……」」

『中々、彼女の境遇や能力から余と似たようなものを感じた。他の者もそうだが、彼女はその中で随一世界に対する明確かつ現実的な思想を所持していたのも高評価だ』

 

 あー、うん。マ〇ね、色んな機体に乗っていてかっこいいもんね……そうだよな、別に主役が王道とか関係ないよ。大事なのは推しを思う気持ちなんだ……

 

 ……だが出来ればこの戦いを終わらせて欲しかった。

 

「はぁ……まぁお前ならそうだと思ったよ」

『フッ、君達のように被造物に対して思いを馳せるのも良くない。それとも余がいつか彼女らを限界させて見せようか?』

「うっ……」

「そ、それは……やめておく……」

 

 被造物を召喚し、現界させることが可能だったなそういえば。だがアルタイル見たいに被造物、創造主の関係を理解している者はともかく、自分が誰かによる創作と知らず、必死に毎日を生きているキャラクター達をたかが俺らの私情で呼び出すのは胸糞悪い。

 

 やっぱりそこには差があるのだ。2と3の次元の差、創作物が現実かの差が俺らに拒絶を与える。そう考えると俺がアルタイルと一緒にいられるのは奇跡に近いんだよなぁ……

 

 なんとも言えない空気に陥った中、話をそらすために清水がアルタイルのホログラムを眺めて愚痴をこぼす。

 

「はぁぁぁ……それにしてもなんでお前ぇが彼女と一緒にいんだか。うざってぇ」

「そういうお前も紹介したら鼻息すごかったぞ?」

『余も戦慄した……電源切ってやろうかと思ったぞ』

 

 先程の紹介の時の清水の変貌ぶりは凄かった。光のなかった眼に正気が戻ったと思いきや、凄い形相で彼女に詰め寄ってきた。そして案の定大量の質問と賛辞が口から滝のように出てくる。

 正直ら引くレベルだ。早口で、しかし聞き取れてしまうという彼のガトリングトークでアルタイルは死んだ魚の目で画面を閉じようとしていたくらいだ。

 

 一旦落ち着かせてから事情を話したわけなのだが、やっぱりこの嘘と思ってしまうような出会いと生活を羨ましいと思うようだ。

 

「だってあの大々的イベントのヒロインが生でいるんだぞ?伝説にもなってんだからな?それをお前は3年も一緒に隠していやがって……」

「まぁ、普通にいたらやばい存在だからな?よく考えたらマジで俺らの世界を滅ぼそうとしてたんだからな?」

「ふん、俺なら喜んで死ぬけどな」

「あっ、それには賛成」

「「……ガシッ!!」」

『そろそろ黙れ』

 

 清水、よく言った。俺お前のこと今すげぇリスペクトしてる。

 

 と、彼が顔を眩ませる。先程会った時のような顔で、ぽつりと呟いた。

 

「……俺も主人公になりたかった」

「あん?」

「俺もお前と同じオタクでさぁ……いろんなジャンルの漁ってきたんだけどよ、全部それぞれの世界があって、その中に行きたいなぁって何度も想像したんだよ」

「……」

 

 まぁ、そりゃあ誰でもなりたいだろうな。俺だってよく想像を膨らませたりして、その世界に自分自身を投影させたりして……こんな行動するだろうなぁって勝手にストーリー作って。

 

 ……だが現実は厳しい。実際魔法なんて使えるわけないし、空から少女がたとえ降ってきても自分と衝突して双方死ぬだろう。よっぽど外部からの出来事がなければ俺らは次元など越えられないのだ。

 

 そう、それも2次元側がこちらから干渉するか、呼び出すくらいのことでもなければ、だ。

 

「だけど家族はそんなの認めてくれなかった。特に兄がクソウゼェんだよ。いつも俺にそんなのなんのためにならねぇって……居場所なんて最初からなかったんだよ」

「そうか……まぁ、そうだな……」

 

 ……だけど俺らは2次元を憧れる。どうしても越えられない壁を憧れて、それに近づこうとして結果現実から逃げようとしているのだ。

 

 それは別に悪くないと思う。ラノベ作家やら、ゲーム作者は義務というものに追われながらも自分の素直な気持ちを全うしているだろう。

 しかし家族や知り合いはそれを異端だと思う。必要のないものだと思う。早く現実を見てほしいと思う。

 

 俺はまぁ……別に何も言われないが、清水はかなり酷くやられているようだな。本人もこんな性格になるのも無理もない。

 

「だから俺、この世界に来て嬉しかったんだぜ?だってここなら誰からも邪魔は入んないんだし、クソ兄貴や親からもおさらばだ。自分だけにしかない能力で、世界を救って……」

「……まあみんなそうはっちゃけてるだろうな」

 

 じゃなきゃ戦争に簡単に参加しようとは思わないだろうし……

 

 すると急に清水がドンとにだいを叩きながら叫ぶ。ビックリするなぁ……

 

「だけど現実はどうだ!主人公である勇者の肩書はあのクソに行きやがった!」

「あー、それは俺も思った。やっぱ顔なのかって」

「それに他のみんなもいい能力ばっかで!俺ももっといい奴が欲しかったのに!貰えたのは闇術師だ!」

「いいなー俺魔法適性なんてない……って聞いてねぇわこいつ」

『久遠、その言葉は余が言うべきだ』

 

 あー、うん。確かにさっきエ〇ァの話をしている時の俺らはアルタイルの言葉なんて通り過ぎて行ったな……

 突き刺さる視線を華麗にスルーし、清水の話を聞き続ける。

 

「俺は……主人公になりたかったんだよ……誰かに頼られて、誰かを守って、そして感謝されて……小さなことでもよかったんだよ。そしてこの世界ならできるって、買われるかもって!本当にそう思えたんだ!」

「ああ……だが現実は厳しかった」

 

 まぁ、ぶっちゃけラノベにあるストーリーに俺らが入り込んでも、平和に生きている俺らが勝手にご都合解釈して話をいい感じに美化させている。メインキャラだって死なせないだろうし、だいたい自分と戦う敵は殺られる運命だ。

 

 だけどそんなのが毎回上手く行くわけが無い。ここは特に、宗教の統一化やら、神を信じるやら、魔物と常時戦闘やらでファンタジーの中でもリアルさを感じるのだ。

 清水もそこら辺痛感したようで、力なく答えた。

 

「そうだよ……南雲は死んだし、自分も死にかけた。この世界は漫画やラノベのような展開は起こらないって……ここではあの創作は幻想だったって!自分は結局……変わることができないって……クソ……」

 

 そこには自分の夢がバラバラに打ち下された……そんな感情があるのだろう。こんな世界で夢見んなとは思うものの、誰でも夢がみたくなる状況でもあるのは理解できるので、どう返せばいいかわからんな……

 

「アルタイル、いつものセラピー頼む」

『余は被造物だ。人間の汚れ切った心など治して何になる』

「はいはい、要するに専門外ってことね……」

 

 まぁ、知ってる。というか主人公になりたいとかは誰もが思うことでも、それが出来ないからこそアニメが面白いという論理へと至るのだ。

 

 ……だが、主人公なんて誰が決めているのか。観客がいない世界で、誰が主人公になるのか。

 

「なぁ、清水。一つ思ったんだが、天之川の迷宮での行動、どう思った?」

「……使えねぇと思ったぞ。だって洞窟破壊して、トラップの時の立ち回りも下手で、なんか無駄にカリスマしか働かせてなかったし」

「辛辣だなぁ……でも事実だな」

 

 勇者、案外みんなからの評価が悪いな……メッキが剥がれるのも時間の問題だな。

 

 あの野郎がもう少し立ち回りを上手くやれば……って、違う。今回はそういうことを説明したくない。

 俺は清水に今回の魂胆を話す。

 

「あいつの行動はどう考えても主人公じゃない。そう思わないか?」

「……確かに天之川はその才能がない。だけど俺みたいな陰キャと違って顔もいいし、能力値高いし、何よりレッテルがある。格が違うんだよ」

「ほぉ……でもお前の意見は何れみんなも持つとは思わないか?」

「どういうことだ?」

 

 不思議に思う清水に俺はこの世界の現状を伝える。同時に俺たちみたいな生徒らの結末も。

 

「ここは異世界、平和な学校と違って弱肉強食の世界だ。あいつは地球では高スペックだが、頭がお花畑だ。ここでやっていけるわけがない。死ぬ日も近いかもな」

「……でもあいつが死んでみろ。きっと俺らみたいなモブも皆殺しだ」

「……本当にそう思うか?」

 

 俺はあくまでもこのままあいつらと一緒にいれば死ぬと言っているだけだ。天之川なんかに着いていると、あいつとこのまま覚悟を決めずに過ごしていたら、だ。

 

「だって俺ら、今こうして逃亡中じゃん?この世界は俺らを正確探知し、迅速に捕まえる技術が低い。しかも俺らは一般の野郎よりスペック高いんだぜ?上手くいけば1人で十分にやってけるんだよ」

「……そうかも……しれないが……」

 

 うーん……じゃあ話を変えてみるか。

 

「主人公ってなんで主人公だと思う?」

「はぁ?なんだよ、急に」

「いや、ただお前の主人公像が聞きたくてな」

「そりゃあ、世界を救って、周りにチヤホヤされて──」

「それに必要な覚悟ってどのくらいいるんだろうな」

 

 その言葉にハッとする清水。俺らの想像では出来事、行動があくまでも想像されているが、精神や覚悟はあまり感じない。それは実際に俺らはそれを感じたくないからだ。

 誰だって死にたくないし、怪我もしなくない。すると不思議なことに俺らの戦闘は大体完全勝利になってしまうのである。

 

「全員ピンチに遭って、それでも誰かを守りたい一心で戦って……何人かは命まで落として助けたり捨てるわけだろ?俺らには到底考えられないような覚悟だろうな」

「……つまり俺らは、主人公に慣れねぇって言いたいのか?」

 

 肩を下ろして清水は力なく聞く。だが諦めるのはまだ全然早いぜ?

 

「はっ、違ぇよ、寧ろ逆だ。今の俺らなら成し遂げられるだろ?」

「……」

「誰にもない力はある。助けの必要な奴もいる……ならあとは俺らの心の問題だろ?お前がここに乗って来た理由もそれがあるんじゃないか?」

「……違う、俺は、ただ逃げたくて──」

「だったら王都にいた方が良かったあそこならお前の身柄も確保してくれるし、衣食住も完璧だ。オタクは無くても、最低限の生活はできる。お前はここを出ようとしたのは……自分の技能に可能性感じたからだろ?」

「っ!それは……」

 

 言葉に詰まっているのを見るに、諦めていないよな?まだ自分の可能性をしんでいているな?主人公になりたい気持ちはそんな簡単に消えないのだ。

 

 ……確かこいつの魔法適性は闇。彼の黒い感情が反映されたのならこんな皮肉をやってのける神に文句言ってやりたいところだが……この能力って中々に強いんだよな。

 

 闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。所謂デバッファーだが、これって実は化け物能力なんじゃないかと思う……

 

「闇魔術は確か極めれば洗脳に繋がったな。広く言えばテイマーと同じ使役能力とも取れる……魔物とか洗脳すればお前のコマになるかもな」

『なるほど……君がここを離れる理由も理解できた。さながら人間のやることだ。強大な魔物を使役して承認欲求を満たしたいところか』

「うるさい!だからなんだて言うんだよ!俺だって主人公になりたかったんだから……あ──」

「ほーら、諦めてねぇじゃん。寧ろ頑張っちゃってるし」

 

 これで魔物の使役を成功させたら、どれだけ王都に貢献出来るか。愛ちゃんせんせーは食料問題の解決をしてくれるなら、こいつは魔物の攻撃をほぼ無力化することが可能になるのだ。

 

 もしかすると敵の戦力を大体自分のところに引き受けられるかもしれない。そして軍隊を編成……あれ、完全チートじゃねぇか。

 要するにこいつには全然主人公の才能があるというわけだ。今回出て行こうとしたのもその為だ。

 

「俺が言えたことでもないんだがな……主人公には誰だってなれる。自分の目標は持っていいし、それを実現させようとしてる姿勢もあればいい。だけどその本質を見失ったら歪んでいくぜ?自分である主人公像ではなく、誰かにとっての主人公であらねばならねぇ……そこを気をつけろよ」

「……そんなの、言われなくても……」

 

 言い返せないはずだ。何故ならお前がいちばんそれを理解しているから。ハジメの死で自分の幻想が本当にそれに過ぎなかったと分かり、全てを悟ったお前なら。

 ……だけど俺達は諦めないのだ。主人公はかっこよくて、憧れで、ヒーローなのだ。それは誰もがなりたいものであって、だけどそう簡単になるものじゃない。

 

 何故ならそれを決めるのは周り……観客なのだから。俺らが誰かを主人公と思うように、俺らは誰かにとっての主人公でなければ、それは叶わない。

 

 承認力と似ている……そう考えると俺らは人間だが被造物みたいな存在にもなれるってことだ。夢があるねぇ~。

 

 いい感じに話が纏まったので、再度静寂が訪れる。馬車は王都からもう見えないくらい離れており、【オルクス大迷宮】への到着もあと数時間ほどだ。

 

「……暗い話もやだな。そろそろ第二部と行きますか」

「あぁ?何話すんだよ」

「そうだな……チャンフェスの中で推しは?」

「セレジア」「アルタイル」

「「……ああん?」」

 

 さて、続きをやろうじゃねぇか!アニメや漫画に限界などねぇからなぁ!!

 

『はぁ……余は寝るぞ』

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「一之瀬様、清水様、つきましたぞ?」

「お、まじか……」

「思ったより早かったな……」

 

 本当に思ったより早く到着してしまった。夜中での出発だったのでいつの間にか日は昇っており、俺らが徹夜で議論していたことに気づく。

 

 結局この夜はその後ずっと推しのぶつかり合いで時間が過ぎていった。様々なジャンルで盛り上がったが、俺らの推しは尽く外れるのだ。全く合わん!

 それもあって大弁論に発展したんだけどな……多分今の俺らが団結すれば軽くディベートの大会とかで優勝できる。

 

 馬車を降りて辺りを確認する。まだ朝早いからか、周囲には人気が少なく、俺らを神の使徒とは気づかない。馬車も姫さんが気を利かせて紋章以外はそこらにあるような平凡な物と相違ない。マジで優秀。

 

 俺はそのまま運転手の方へ向いた。今日1日俺らを運んでくれたことを感謝するためだ。

 普段の仕事があるのに俺らをこんな遅く運んでもらって、しかもオタトークを一晩中聞かされる羽目になったからな……

 

「恩に着るぜ?運転手」

「いえいえ、私は王女様の命に従ったまでです……が、個人的感情ですが、ご武運をねげっておりますぞ?」

「ああ……そちらもご苦労さま」

 

 ……馬車が遠ざかってゆくのを他所に、俺は清水の方を向く。相変わらず表情は暗くてずっと何か考えているようだった。

 あっ、この際あれ渡しておこう……新たな友達を知った記念だし。

 

「ほい、お前に俺やっとくよ」

 

 因子収納で取り出し投げたのは小さな小袋と、一本の小瓶。見るからに危ない色の液体が見えるが……清水もそれに気づき顔を思いっきり顰める。

 

「これは……この国の金か……あとこれはなんだ?」

「ああ、なんか宝物庫で見つけた」

 

 宝物庫の奥を探っていたら、危険薬品類のところに偶然出て、たまたま見つけたものだとは決して言えない。

 姫さん曰く、あの中には自重をやめてできてしまった、もはや呪いとも呼ばれる薬、武器が多々あるって聞くし……

 

 まぁ、だけど説明書を見る限り、そこまでひどい薬ではなさそうだったから持ってきたわけだが。とはいえ、俺が使っても現状あまり意味がなかったのでこうして清水に渡したわけだ。

 

「魔力増強剤……一時的にハイになるけど、反動もでかい。具体的に言うと魔力がゼロになる……1日は」

「そんな麻薬みたいな奴渡されてもな……まぁ、一応もらっておく」

 

 説明文を読むに、正確には身体が魔力を一時的に全く適応しない状態異常になるとの事だ。まぁ、清水なら強力な魔物を使役するときにこれを使えばいいんだし、彼も結果その薬を受け取った。

 

 朝日が登り始め、それは別れの時を示唆しているみたいだ。ここで俺らは別々の道へ、別々の目的を求めて旅立つ。

 

「それじゃあ、お前はこれからどうすんだ?」

「……このままもう少し遠くの地に旅をする。闇術師としての腕も上げて……強い魔物を使役できるよう頑張るつもりだ」

「そうか……ま、俺らチートなんだし?お前もこの世界でやっていけるだろ?」

「当然だっての……ったく。本当にうぜえ奴だな、お前は」

 

 お前も毎回一言多いよ……って言ったらそのまま言い合いになりそうだから止めておく。全く、難儀な奴だぜ。

 このままこいつは本当に腕を上げて……黒龍でも使役してたら間違いなく英雄もんだけどな……竜騎士として成果あげたり?

 

 ……やっぱり天職によってなりたい自分がある奴ら羨ましいな……俺の森羅万象(ホロプシコン)が超警戒能力だから、下手に成果をあげるのも難しいんだよなぁ。

 

 だが、決して成果をあげることが主人公って訳でもないんだし、俺は俺のできる事をやっていこう。

 

 別れようとした時、彼から止められた。振り返ると何か言いずらそうに視線を俺から遠ざけている。

 

「……その、久しぶりに色々気にしないで話せた……今までこんな事で誰かと盛り上がった事なかったし」

「そうだな、お前いつもsiriみたいになってたし」

「お前ストレートすぎんだろ……」

 

 いやぁ、俺も積極的に話しかけたりはしてなかったが、お前になんか言ったら必要最低限の言葉でしか返してくれないし……ハジメですら会話が成立するくらいは返してくれるのに。

 だが、それも彼の性格なのだから仕方がない。自分から現実との距離を作ってしまっていたのだ……今日話して少し彼の人間性がわかった気がする。

 

 彼みたいな人間はそのままにしておくと暴走する恐れはある。誰からも認められない状態など、耐えられるわけないのだから。そう言う意味では、今すぐに愛ちゃんせんせーとかに渡した方が良かったかもしれない。

 

 それでも──

 

「まぁ、だから……ありがとう、一之瀬」

「……おうよ、また会おうぜ、幸利」

 

 見た感じ、こいつは大丈夫そうだけどな。

 

「そんじゃ、また何処かで」

「おう……またな」

 

 そして清水……幸利は次の街へ歩き出した。その背中は何故か王都で発見した時より高く、少しだけ自信が湧いているのを感じられる。

 

 ……さて、俺らも行くとするか。あいつとは逆方向へ走り出し、迷宮の入口を通り抜ける。

 

「っし、行くか!ハジメ探しの旅へ!」

『先ずは例の階層まで降りてからだな』

 

 そうだな……生きてろよぉ、親友。




ちょいと補足

一之瀬久遠
→意外と週刊雑誌は買ってから数ヶ月で捨ててしまう。それは単行本を選ぶタイプだからであり、全て電子版としてスマホに保存している。なので部屋は綺麗…その代わりにパソコンやグラボなどで溢れかえっている。因みに元々のデータは全てアルタイルのスマホに入っているため、何時でも閲覧は可能。その莫大な漫画はこの3年でアルタイルは全て読破している。

清水幸利
→原作ではもう少し後に愛ちゃんせんせーと共にブルックへ向かう予定だが、今回は先に久遠に連れていかれた。更に自分が主人公になるための責任を改めて考えるようになった模様。初めて出来たオタク仲間にどこか嬉しい気持ちがある中、それでも推しでは一生分かり合えないと思っている。

チャンフェス
→エリミネーション・チャンバーフェスの略称。「チャンフェス」「フェス」などと省力されていることが多い。

 はい、ついに原作から外れましたね。脅威の1万字オーバー…やばい、平均5000文字くらいで当初は考えてたんだけどなぁ…

 清水はオタクとしてはかなり高いレート帯にいると思うので、どんな形にしても生かしてあげたいのです…まぁ、酷い目には会うかもしれないですけどね。

幸利「おい、俺がヘッドショットされる未来は変わんねぇってのか?」

 うーん……まぁ、それはお楽しみに~

Re:CREATORSは皆さんどのくらい知ってますか?

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