転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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ちょろっと謎小出し


第十話

 というわけで。入学式もクラスの顔見せも終わり、放課後。生徒達が思い思いの行動を行う中、リリアは早速ルシアを連れてラケルのもとへと向かっていた。ラケル一人だといいんですけど、とリリアがぼやいているのを聞いて、ルシアは少しだけ首を傾げる。

 

「よけーなやつでもいやがるですか?」

「余計というか、グレイくんとカイル様も一緒だとわたしが笑顔で紹介できないというか」

「よくわかんねーですけど、そいつらがいなければいいってことですか」

「グレイくんだけならまあ」

 

 ううむ、と難しい顔をしているリリアを見て、ルシアは何となく合点がいった。教室で話していた時に言っていた人物、恐らくそれが今話題に出た二人なのだろう。そして効く限りグレイ、というのは喧嘩仲間の方だろうと推測できるので。

 

「嫌な奴ってのがそいつなのです?」

「そうですよ」

 

 迷いなく即答する。王国の貴族や他国でもある程度の知識を持っている者ならば、件の人物が王国第二王子であることに気付いたのかもしれないが、いかんせん彼女の横にいるのは世間知らずの聖女だ。それも、箱入りだからという方向ではなく田舎暮らしだという意味で、である。急ピッチで詰め込んだ情報などすぐに結びつくわけがない。

 

「そんなに嫌なら会わなければいいじゃねーですか」

「あー、うー……わたしも、出来るのならそうしたいんですけど」

 

 歯切れが悪い。何があったのだろうと首を傾げ、考えても仕方ないので即尋ねる。そんなルシアの迷いなきバカ正直に、リリアも少し苦笑気味だ。まあある意味聖女らしいといえばそうかもしれないと思いながら、彼女はルシアに答える。基本的に向こうがちょっかいをかけてくる、と。

 

「おかげで何だかんだ一緒に行動することも増えて」

「嫌じゃねーのですか」

「嫌といえば嫌なんですけど、嫌なのにも慣れてきたというか。いや、相変わらず嫌なんですけどね」

「聞いててこんがらがってきたですよ」

 

 こめかみに指を当ててゆらゆらと揺れるルシアに、リリアはごめんなさいと謝罪する。ぶっちゃけ自分でもよく分かってないので、だいぶ支離滅裂な説明になってしまったのだ。

 まあ腐れ縁ということでとりあえず済ませておこう。そう結論付け、リリアはラケルのクラスの教室を覗き込む。既に生徒はまばらで、彼女の探している人物の姿も見当たらない。

 

「……ラケル、帰っちゃったんでしょうか」

「私がどうかしたのかしら?」

「うぉあ!?」

 

 背後から声。それに思い切り反応したのはルシアだ。見た目美少女らしからぬ叫び声とともに、思い切りバックステップし身構える。リリアは割と慣れたものなのか、よかった帰っていなかったと安堵の溜息を零していた。

 

「リリアの教室に行こうかとも考えたのだけれど、あなたのことだからこちらに来るかも、と思って」

「あはは、大正解ですね」

「後ろから声かけてくるのと今の説明関係ねーですよ……」

 

 驚きでゼーハー息をしているルシアが思わずツッコミを入れる。その声で彼女に視線を向けたラケルは、驚かせてごめんなさい、と頭を下げた。そうしながら、これは自分の性分なのでと付け加える。

 

「驚かすのが趣味なのです?」

「当たらずとも遠からず、かしら」

 

 そう言ってクスクスと笑ったラケルは、では改めてとルシアに向き直る。自身の名前と、所属を名乗る。

 

「ラケル・カルネウスと申しますわ。カルネウス辺境伯が娘にして、王国のギルド管理局局長……を、後々目指すつもりよ」

「ギルドのえれー人の娘さんなのですか。……あたしなんかがお話してやがるとまずいのでは?」

 

 げぇ、と視線をキョロキョロさせながらリリアに隠れるような位置へと移動する。リリアはリリアでそんな気にしなくても大丈ですよと彼女に声を掛け、ラケルもラケルでええその通りと頷いた。

 そしてそのまま、だって、と彼女は続けた。

 

「立場で言うのならば貴女の方が現状私より上ではなくて? 教国の聖女様?」

「うぇ!?」

「あれ? ラケル、知ってたんですか?」

「勿論。情報は何より重要な武器になるもの」

 

 そう言ってラケルは口角を上げる。彼女の口振りからすると、ルシアが聖女であるということを認識している生徒はまだそれほど多くはいなさそうであった。

 実際、聖女が学院に入学したということは大半の生徒が知っていても、顔と一致するかといえば話が別だ。同じクラスでかつ公爵令嬢であるリリアですらそうだったのだ、他のクラスの生徒の認知はもっと低い。だからこそ、それを知ることは現状武器になり得る、というわけである。

 

「ぶっちゃけあたしとしては知られてねーほうが気楽でいいです」

「……なら、聖女として扱わなくてもいいのかしら?」

「です。てゆーかあたし聖女向いてねーですし」

「それは何となく察せられるわ」

「バッサリいきましたねラケル」

 

 聖女というからには、当然それ相応のイメージが求められる。必然的にそういう振る舞いを強要されると言い換えてもいい。

 が。ルシアは間違いなくそれが出来ない。聖女というブランドイメージをまったくもって維持していないのだ。普通なら他国に留学などしてはいけないレベルだ。そしてそのことは本人が一番分かっている。

 

「ということは、噂は本当なのかしら」

「噂?」

 

 リリアが思わず問い掛け、しかし何やらきな臭いものを感じ取ったので眉を顰め会話を打ち切った。懸命ね、とラケルは微笑み、ルシアへと視線を向ける。彼女はよく分かっていないようで、頭にハテナマークを飛ばしていた。

 

「そうね。とりあえずは」

 

 場所を変えましょう。そう言ってラケルは踵を返した。リリアもルシアも、そんな彼女に大人しくついていく。

 そうしながら、リリアは何となくその場所に行くとどうなるかに予想がついてげんなりした。

 

 

 

 

 

 

「ほらやっぱり」

「どうしやがったです?」

 

 向かった場所にいた人物を見てリリアが思い切り顔を顰める。そんな彼女を見て、ルシアはコテンと首を傾げた。が、すぐに合点がいく。ああつまり、ここにいるのが例の嫌な奴なのだ、と。

 成程成程、とそこにいる三人を見た。一人は青みがかったような黒髪の少年。真面目そうな雰囲気、というか苦労人のオーラを感じる人物である。一人は綺麗な黒髪のメイド。自分達よりかは幾分年上だが、それでもまだ少女と呼んでも差し支えない年齢であろう。そして薄い茶髪の美少年。穏やかな雰囲気を醸し出しており、まるで王子様のようにも思えた。

 

「……いや、まるでっつーか、ほんもんの王子様じゃねーですか」

「こんにちは聖女ルシアーネ様。来訪の挨拶の時以来かな?」

「え? ルシアさんカイル様のこと知ってるんですか?」

「曲がりなりにも聖女が王国に留学するんだ。最初に王城で顔合わせくらいはするよ」

「めっちゃ緊張したです」

 

 その時のことを思い出して目が死んでいく。それを頭を振って散らしながら、ルシアはリリアへと向き直った。それで結局嫌な奴ってどいつですか。やはり思い切り直球で尋ねたので、傍らで会話を聞いていたグレイが紅茶を吹いた。

 

「そこのカイル様ですよ」

「……リリア嬢、お前というやつは」

 

 ゲホゲホと咳き込みながらツッコミを入れたグレイに対し、別に本当のことじゃないですかとリリアは気にしない。ラケルもまあそうでしょうねと流しているので、彼は諦めたように溜息を吐くとルシアへと向き直った。どうやら完全な初対面は自分くらいかと彼女へ名を名乗った。

 

「私もいるんですけどねぇ」

「……ああ、そうか。学院だから別行動だったか」

「ここで待機してたのにお嬢さまとセット扱いとか、私の扱い軽くないですかね」

「ルシアさん、ちなみにあれがエルです」

「扱い軽くないですかね!」

「後今ここにはいないけれど、ギルドの冒険者でラケルのお供のキースくんが混ざる感じですね」

「扱い、軽く、ないですかね!」

 

 そんな感じでいつものメンバーの自己紹介が終わり、先程ラケルが口にした噂の件へと話が進む。覚えてろよ、とエルは三下のような捨てゼリフを吐いていた。

 噂、という言葉を聞いて心当たりがあったのはカイルである。その話をしてもいいけれど、と言葉にしつつ、彼はリリアへと視線を向けた。何見てんだとばかりに目を細めた彼女を見て、まあいいかと彼は向き直る。

 

「俺はその噂とやらについてはさっぱりだが。まあ良いものではないんだろうな」

「あと多分聞いたらお嬢さまの機嫌悪くなるやつですね、カイル王子の反応的に」

「ははは。僕が悪いんじゃないんだけどね」

 

 微塵も自分が悪いと思っていない笑みを浮かべるが、まあ実際悪くないのでそこは仕方ない。仕方ないのだが、リリアにとってはなんかムカつく笑顔でしかないわけで。

 結局話す前に機嫌が悪くなったので、じゃあもういいかということとなった。

 

「それで、噂についてだけれど。……まあ、簡単な話よ。教国は新しい聖女が気に入らないから、何か不始末をしでかすよう願って王国に留学させた、という」

「不始末」

 

 ルシアが思わず呟く。視線を左右に向けると、何かもう手遅れじゃないだろうかと何かを悟った顔になった。

 

「現状その口調では何も問題は起きていないから、大丈夫じゃないかな」

「そ、そうです? リリアさんとのお話でいきなりやっちまったような気がしたですけど」

「た、多分大丈夫です。きっと」

 

 エルが思い切り疑惑の目を向けているが、リリアはそちらを見ないことでやり過ごした。やり過ごしたことにした。

 そうしながら、じゃあどういうのが不始末になるんでしょうかと皆に尋ねる。グレイはその問い掛けに、口調で誤解を受ける以外に何かあるのかと難しい顔をしていた。

 

「そうだね。口調のせいで誤解されやすいけれど、ルシアーネ嬢の地頭は悪くない。成績という点では問題ないだろう」

「となると、生活のトラブルが最有力かしら」

「王国のしきたりとか、そーゆーやつです? 確かにあたしその辺さっぱりわかんねーですね」

 

 たはは、と頭を掻きながら苦笑するルシアを見て、ラケルは大丈夫そうねと口角を上げた。駄目そうだと言ったら大丈夫認定されたことで、ルシアも思わず動きを止め目をパチクリとさせる。

 それに対し、分からないことをきちんと分かっているのならば十分リカバリーが効くと返した。

 

「自分の習慣ではこうだ、で押し通す方が余計な問題になるもの。……成程、確かに地頭は悪くないし、性格も素直である程度の柔軟性がある。トラブルがあっても最小限で済みそうね」

「そんな言うほどあたし大丈夫じゃねーですよ?」

「まあ、いざとなったらわたしもフォローしますし」

「一気に不安になりましたね」

「失礼な」

 

 エルの余計な一言を聞いて思い切り睨みつけたリリアは、ふんと鼻を鳴らしながら現状問題ないだろうと結論付けた。結論付けたのだが、何故かムダ知識が警告を促してくる。

 この手の話は導入部だ。ここから案外事件が広がっていくから注意しろ。大体警告をまとめるとこうなる。何言ってんだと思わないでもなかったが、さりとて無視していいほど軽くはない。彼女は渋々ではあるが結論を取り消し、注意を忘れないようにしようと思い直した。

 

「でも、なんでそんな教国はルシアさんを排除しようとしてるんですか?」

「ルシアーネ嬢が魔族の血が濃いからだろうね」

 

 カイルの言葉に、え、とリリアはルシアを見る。こくりと頷いたルシアは、髪を掻き上げ少しだけ尖った耳を顕にした。ついでに、と口を指で広げる。人族の犬歯よりも鋭い牙がそこに生えていた。

 

「ぶっちゃけ言葉がしっちゃかめっちゃかにしやがったのもその辺じゃねーかなって思うですし」

「……エル」

「はい?」

「訂正します。教国は碌でもない」

「不幸広げましたもんね」

 

 当事者以外にはなんのこっちゃとなるようなやり取りをした後、エルは視線をリリアからルシアへと動かした。まあだとしても、と呟きつつ、ちょっとした疑問を投げかけるように言葉を紡ぐ。

 

「火の神獣はそこら辺ノータッチなんですか?」

 

 神獣。精霊などの上位の幻創種より更に上の、最上級の存在。魔法で用いられる八属性の頂点に君臨する存在。その中でも、何かしらに所属しているものを指す呼称だ。ちなみに無所属は悪魔と呼ばれるが、呼び方の問題なだけで善悪で分類されていない。

 ともあれ。神獣の一体、火属性は教国所属だ。教国は勇者の血筋に重きをおいているので絶対者としては君臨していないが、それでもある程度の権威は持ち合わせている。

 

「ルシフェリアさまなら、確かあたしの名前が似てるっつー理由で割と気に入られてたです」

「……まあ、気に入ったからって何かやるような奴じゃないかぁ」

 

 考えてみればそうだ、とエルは一人納得したように頷くと、変なこと聞いてごめんなさいと頭を下げた。そんな彼女を見て、ルシアはブンブンと首を横に振る。

 

「気にしねーでください。というか、それで思い出したですよ。ルシフェリアさまがなんか言ってやがったです」

「何か、というと?」

「えっと、どうせなら派手に暴れてきやがれみたいなこと言ってやがったはずです」

「……気にせず好きにすればいい、ということでしょうか」

「だったらいいんですけどねぇ」

 

 溜息混じりのエルのその言葉に、カイルとラケルが同意するように頷いた。そうしながら、自分達ならともかく、彼女が神獣に見識が深そうなのが若干不可解で。

 

「まあ、リリア嬢のメイドだからなぁ」

「リリアのメイドだものね」

 

 何故か斜め上の納得をしてしまった。

 

 

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