転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない 作:負け狐
依頼で向かった先のグリズリーベアーをさくっと討伐し、ついでとばかりにさりげなくルシアのアピールを行った帰り道。キースは彼女の正体が教国の聖女だと知って目を見開いていた。そうしながら、だからか、と何となく今回のアレコレを納得した。ラケルが問題なしと判断した理由を、終わってから知ったのだ。
ともあれ、何だかんだでリリアがよくつるむ相手との顔見せはほぼ終わった。改めて考えてみると意外と交友関係狭いなと思わないでもなかったが、そこはまあこれまでの行いが原因なので仕方ない。もしムダ知識を刻まれず悪役令嬢街道を邁進した場合、媚びを売る取り巻きだけ増えて友人など皆無であっただろうことを考えると、むしろ恵まれすぎているほどだ。当の本人はそのことを知る由もないのだが。
「んー」
「どうしたですか?」
「いや、その。わたしひょっとして友達少ないんでしょうか、って」
だから結局、そうは思っても割り切れずにこんなことを口にしてしまうわけで。ルシアはそんな彼女の言葉を聞いて、暫し考え込む仕草を取った。そうしながら、別に問題ないのではという結論をはじき出す。
「別に多けりゃいいってもんじゃねーですし」
「それはそうですけど。少なすぎてもなぁって」
「あたしこの学院での友達リリアさん繋がりしかいねーですよ?」
しれっとそんなことをぶっちゃける。え、とリリアが彼女を見たが、別段その事を気にしている様子もない。笑顔でリリアを見つめると、そういうわけだから、と指を立てた。
「気にしやがらなくてもいいんじゃねーです?」
「そうですかね……」
ううむ、と首を捻る。そういえば入学前にも似たようなやり取りを皆としたんだったと思い出し、あれから何も変わっていないことに軽く凹んだ。凹んだが、しかしそのついでにその時の彼ら彼女らの言葉も思い出した。
「ルシアさんも、みんなと同じこと言うんですね」
「そりゃそうですよ」
迷いなく返す。そうですか、と呟いたリリアは、ならば気にしないでおこうととりあえずその悩みを棚に上げた。
そうした辺りで教師がやってくる。視線をそちらに向けた彼女はそこで動きを止めた、え、と素っ頓狂な声を上げた。
「今日からみなさんの魔導学を担当させていただくノーラです。よろしくおねがいしますね」
「ノーラ先生!?」
思い切り見覚えのある人物が教壇に立っているので、思わず叫んでしまう。その声に反応したノーラは、リリアを見付けると笑顔でヒラヒラと手を振った。
では、とノーラは教科書の指定のページを指し示し、講義を始める。大半の生徒は既に家庭教師などから習っていた範囲なのでそこまで集中することもなく、彼女の言葉を右から左へ聞き流しているようであった。
その一方でリリアは久々のノーラの授業でテンションが上がりまくっている。改めて、来た道を振り返るがごとく、彼女のその説明を余すこと無く染み込ませていった。
そうして初日の講義が終わる。授業終了と共に、リリアは立ち上がるとノーラへと駆けていった。教室の生徒達は何事だと彼女を目で追っていく。ルシアは物理的に追いかけた。
「先生!」
「こんにちはリリアさん。お久しぶりですね」
「はい! 学院の講師になったんですね」
「おかげさまで。昇格試験も受けられるようになりましたから」
魔導学院の講師になるには最低でも中級魔道士の資格がいる。金欠で初級を続けていたノーラは入り口にすら立てなかったが、ノシュテッド公爵令嬢の家庭教師を行うことによって色々と蓄えが増えたので、思い切って応募してみたのだ。
などという、彼女のかいつまんだ説明を聞きながら、リリアは内心高揚していた。大した実力の無いように見える教師は実は最強の魔道士。これだ。なにがこれなのかさっぱりだが、ムダ知識由来のいつものアレで、ノーラの肩書が更新されたらしい。毎回毎回この人はそういうポジションにつかないと気が済まないんですね。うんうんと一人納得しながら、ノーラに向かって彼女はおめでとうございますと祝いの言葉を述べた。
「ありがとうございます。でも、リリアさんの家庭教師が出来なくなるのは少しだけ寂しいですね」
「……っ! わたしも、わたしもノーラ先生にもっと最強への道を」
ガシリと彼女の手を掴み、リリアはそんなことを述べようとした。が、ここ教室だったと思い出し言葉を止める。深呼吸をし、すいませんでしたと頭を下げた。
「あはは。えっと、ところで、そっちの人は新しいお友達ですか?」
「え? あ。はい、そうです」
毎回毎回リリアの繋がりを最初は眺めるポジになるルシアを、彼女は自身の隣に移動させ紹介する。ルシアーネという名前を聞いて、ああ貴女が、とノーラは一人納得したように頷いた。
「なんというか、流石はリリアさんですね」
「よく分からないですけど、ありがとうございます」
そんなこんなで休み時間も残りわずか。ノーラが教室を出ていくのを見送ったリリアは、そのままの勢いでグリンとルシアに向き直った。そうして、彼女が自分の家庭教師を務めていた女性で、凄い実力者なのだと捲し立てる。
「へー。まあ確かに、何というか変わった人だったですけど」
「わたしの説明聞いた人みんなそう言うんですよね」
どうしてだろう、と彼女は首を傾げる。そりゃこんなんの家庭教師をずっと続けてた人とか変人扱いされても仕方ないでしょうに。イマジナリーエルが呆れたように述べていたが、リリアのイマジナリーではないので彼女に伝わるはずもない。
そんなリリアの姿を見て、ルシアは思わず笑ってしまう。つい先程の会話を思い出し、彼女の悩みを思い出し。
「リリアさん」
「はい?」
「やっぱ、気にする必要なんざねーじゃねーですか」
「え?」
「リリアさんの繋がり、すっげー貴重ですよ」
なんて贅沢な悩みだ、などと軽口を叩きたくなってしまった。
だが時として、そんな贅沢品から外れたものが必要になる状況も当然ながら存在するわけで。
「……はい?」
入学してから一ヶ月も過ぎた頃。新入生もそこそこ学園に慣れてきたタイミングであろうそこで、リリアは一人の生徒に呼び止められた。見覚えのない顔だが、制服のタグを見る限り上級生。一体何の用だろうかと首を傾げていると、少し時間をもらいたいと言付けをされる。別段断る理由もなかったので、分かりましたと彼女は頷いた。
「リリアさん? どーしたです?」
「いえ、何だかよく分からないんですけど、呼び出しをもらいました」
「……告白的なやつです? それとも決闘?」
「え? どっちも違うんじゃないですかね……」
んん? と訝しげな表情を浮かべるルシアに、リリアは少しだけ考え込みながら返答する。彼女が考えているような雰囲気ではなく、極々普通に連絡事項を伝えられただけのような感じであったからだ。だが、それがかえってよく分からなさを増していた。
「一応、ラケルに相談しておいたほうがいいんでしょうか」
「そーしやがったほうが絶対いいです」
善は急げ、とばかりにラケルのクラスへ向かう。教室を覗き込むと、それに気付いたのか美しい銀髪の美少女がこちらを見て微笑んだ。そうしながら、教室内で話すのは得策ではないと判断したらしく席を立ちこちらへとやってくる。
「どうしたの?」
「あはは。いえ、ちょっと」
先程の呼び出しのことを告げる。ふむ、と短く頷いたラケルは、視線をルシアに向け、そしてリリアへと戻した。間違っていたらごめんなさい、と前置きをする。
「この一ヶ月、貴女がクラスで一番仲が良かったのはルシアさん?」
「勿論」
「ルシアさん。貴女はどう?」
「リリアさん以外とはぶっちゃけ大して話してねーです」
「そうよね」
確認事項、といったふうのその返しに、二人は揃って首を傾げた。そんな二人に、正確にはリリアに、その言付けを言いに来た生徒の特徴を尋ねる。そこまで印象に残ってないんですけど、と頬を掻きながら、彼女はそういえば制服のタイの色が違ったと言葉にした。
「成程。……概ね予想通りね」
「分かったですか?」
「それを話す前に。ルシアさん、貴女とリリアが普段やっていることをもう一度教えて頂戴」
「普段やってること? ラケルさんも別に知ってやがるやつですよ?」
指折り数えながら、学院の広場でこっそり模擬戦をしていることとか、街に出てギルドの依頼を受けていることとか、噴水で騒いで揃ってビッシャビシャになったことなどを語る。そうよね、そうなのよね。彼女のをそれを聞きながら、ラケルは苦笑しつつ顎に手を当てた。美少女の考える仕草は非常に様になっており、ルシアがやってもここまでしっくりはこないだろう。リリアは論外である。
「秘密ということにしましょう」
「え?」
「教えたとしてもリリアでは対処は無理よ」
「……え?」
「こちらで動いて、リリアは自然体でいてもらった方が幾分か風通しも良くなると思うわ」
「…………えぇ」
何かすっげぇ馬鹿にされている気がする。そんなことを思ったリリアであったが、ラケルがルシアにも同様の説明をしているのを聞いてああ何だ自分だけじゃなかったと安堵した。
そこ安心する場所じゃない。ムダ知識によるクレームが飛ぶ。それを認識して我に返った彼女は、そのままムダ知識の無駄にサブカル寄りの宝庫を漁ることにした。ひょっとしなくてもこれ物語の展開によくあるやつなのでは、と。
とりあえず該当一件。タイの色が違う上級生は、何らかの特別な所属の可能性がある。具体例としては生徒会。そしてそれが正解だった場合自分は生徒会から呼び出し食らったということになる。
「わ、わたし問題児扱いされた!?」
「あら、気付いたのね」
「そこ秘密にする必要なくないですか!?」
「仕方ないでしょう? 恐らく貴女の想像しているものと私の予想とは少し毛色が違うもの」
「ラケルさんの考える問題児はリリアさんの予想とちげーんですか? ……あ。え? マジです?」
「……ルシアさん。私貴女のこと誤解していたわ。聡明なのね、凄く」
「間接的にわたし思い切り馬鹿にされてません?」
まあ脳筋ツンデレお嬢様とかそういうポジションだししょうがなくね。ムダ知識による判定を蹴り飛ばしながら、リリアは彼女に食って掛かる。グレイやカイル、キースに続き、親友たるラケルも最近自分に容赦なくなってきてないだろうか。そんなことをちょっぴり考えた。エルは最初からなので論外である。
「リリア。貴女はその場のひらめきで対処する方が成功率が高いわ。あれこれ余計な考えは雑念になるもの」
「単純ってことですよね」
「ネガティブに捉えないの。地頭の優秀さと、咄嗟の判断力が飛び抜けているからこそよ。長所を使わない理由はないわ」
「むー……。うまく言いくるめられている気がします」
とはいえ、評価されているのは間違いない。多少不満げながら引き下がったリリアは、じゃあその辺の話は聞かせてもらえないんですねと問い掛けた。首を縦に振られ、はぁ、と小さく溜息を零す。
だが、生徒会に目を付けられているというのはとりあえず確定事項でいいのだろう。現状それさえわかっていれば、向かう先での驚きは多少軽減される。そのことを理解し、彼女はまあいいやと結論付けた。
「リリア。貴女一人で大丈夫よね?」
「元々わたしが呼び出されてますし、そのつもりでしたよ」
「そう。じゃあ、ルシアさんは借りてもいいわね」
「そっち担当するですか? ついてくだけついてったほうがよくないです?」
「言わされている、に変換される可能性があるわ。懸念事項は潰しておきたいの」
「…………っ!? これひょっとしてあたし側です!?」
「流石に穿ち過ぎ、だとは思うわ。調べたけれど、向こうは積極的にそこまでの活動はしていない」
蚊帳の外である。なんのこっちゃと首を傾げたリリアは、半ば投げやりにムダ知識を探し始めた。とりあえず何かしらが起こっているのは間違いない。そんな自分でも分かっている一文が掘り出され、思わずそれを引き千切りたくなる。
「だからこそ妙なの。そもそもルシアさん、貴女の認知は――あ」
ラケルが弾けるようにリリアに振り向く。彼女の名前を呼び、一応聞いておくけれどと問い掛けた。
ルシアが聖女である、ということを吹聴しているか、と。
「え? してないですよ。だってルシアさん嫌がるし」
「……ふぅ。そうよね、貴女はそういう人よね。だとすると、ふむ」
「生徒会です?」
「流石にそこまで愚かではないと思いたいけれど」
「……あ、ひょっとして生徒会長か副会長が何か企んでるって話になってますか?」
ば、とラケルとルシアがリリアを見た。しまった話し過ぎた。思わず頭を押さえながら、ラケルは苦い表情を浮かべる。そうだ、彼女は単純で脳筋だが頭は悪くない。情報を与えられればこちらの考えを予想することだって容易だ。だから単純にこれは自分のミス。打てば響いてくれるルシアという存在に、つい口が軽くなってしまった。
「……知らないほうがいいってそこの部分だったんですね」
「正確には少し違うけれど、まあいいわ。これ以上は聞かないで頂戴」
「分かりました」
学園のストーリーで対立する存在としてお約束。それが生徒会だ。それさえ分かってしまえば、リリアとしてはこれからの展開にそこまで驚きはない。少なくとも本人はそう思っている。そういうものだと身構えれば問題ないのだ。個人の感想である。
ともあれ。随分と話し込んでしまったが、これからのやることは分かった。授業が終わった放課後に、生徒会室で悪の生徒会(リリア視点)と対峙するのだ。
そう決意して、リリアは一人で生徒会室へと向かう。指定された場所はそこではないが、どうせ目的地はそこだろう、と高を括っていたのだ。実際カフェテリアで待っていた生徒会であろうその上級生は、こっちだと彼女を件の場所まで案内していく。生徒会室に呼び出された、という状況を作りたくなかったのだろうとリリアは思っていたが、いざ実際彼について歩いていると余計に目立つ。どうやら目的はその逆、生徒会に連れられ生徒会室へと向かう公爵令嬢をイメージ付けたいのかもしれない、と彼女はそんなことを思った。
そうなると、ますます生徒会長か副会長が悪者である可能性が増してくる。実際は一年生が生徒会室に一人で向かうのは難しいだろうという配慮だったりもするのだが、知らぬは本人ばかりだ。
「失礼します」
そうして辿り着いた生徒会室。中に入ると、一斉に視線がこちらを向く。まあ予想通りだったので別段動揺はしなかったが、それが向こうには疑念を植え付ける原因になったらしい。一部の生徒会が彼女を見て怪訝な表情を浮かべた。
「……成程。つまり君は、理由を知っていてここに来た、というわけだね」
「いえ、さっぱり」
本音である。が、この状況ではそらっとぼけているようにしか見えない。生徒会の面子の表情がますます険しくなった。
ふう、と生徒会長が息を吐く。かけていたメガネを外し、布でレンズを拭くと、改めてリリアへと向き直った。それならば話は早いな、と呟いた。
「リリア・ノシュテッド一年生」
「はい」
「君にはクラスメイトのルシアーネ一年生を虐めている、という疑惑が立っている。そのことについて、話を――」
「はぁ!?」
なんじゃそら、と言わんばかりに目を見開いたリリアを見て、生徒会長もまた困惑した表情を浮かべた。ちらりと横の副会長を見ると、演技の可能性も捨て切れないと難しい顔を浮かべたままだ。ノシュテッド公爵令嬢は幼少期傍若無人の限りを尽くし、ある時をきっっかけに人が変わったように様々なことをやり始めたという噂がある。どちらかが演技、あるいはその過程でそういう腹芸を見に付けたのならばこの程度は造作も無いだろう。そう判断した副会長の意見を小声で聞いて、成程そうかと生徒会長も頷く。
掠ってもいないほどの大間違いであった。