転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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断罪されない令嬢


第十三話

 リリアは激怒した。いつものことである。そして勢いのまま目の前のこんちくしょうをぶん殴ろうと胸ぐらを掴み拳を振り抜こうとした。いつものことである。

 が、その直前でああそうだこれいつもと違ったと思いとどまった。ギリギリであった。

 

「ど、どうした!?」

「…………いえ、大丈夫です」

 

 令嬢らしからぬ勢いで距離を詰めようと一歩踏み出し突然止まったので、生徒会全員が何だこいつという目で彼女を見ている。そんな視線を無視しつつ思い切り深呼吸をすると、リリアは改めて生徒会長を見た。ついでに副会長も見た。

 普段はツリ目気味であるもののパチリと可愛らしい雰囲気を醸し出す瞳が細められている。そのおかげで、今の彼女はぶっちゃけ人相が相当悪かった。齢十三にして、五つ近く上の生徒会連中に怖いと思われるほどに。

 

「説明を、聞かせてもらえますか?」

「え? あ、ああ。……いや待て。それはつまり疑惑を否定するということでいいのか?」

「何で肯定しなきゃいけないんですか」

「いや、それは、事実だったのならば」

「事実じゃないから言ってるんですよ! いいから説明! してください!」

「うお!? わ、分かった」

 

 何この娘怖い。生徒会のほぼ全員がそう思った。生徒会長は真正面から見ていたのでビビった。副会長のみ驚きはしたが踏み止まった。

 会長が咳払いを一つ。そうして、机の上に置いてあった報告書を手に取った。リリア・ノシュテッド公爵令嬢が、どうやらクラスメイトである教国の留学生ルシアーネを虐めているらしい。そういう匿名の投書が生徒会へと多数送られたのだとか。

 

「デマじゃないですか」

「それを確認するためにここに来てもらった。投書によると、君はルシアーネ一年生を人目につかない場所で殴り飛ばしていた、と。……殴り飛ばす?」

 

 改めて見てみるとこの文章なんかおかしくない? 生徒会長はもう一度それを見たが、間違いなく殴り飛ばしていたという一文が記されている。そこは令嬢なのだから普通は叩くとかビンタとか、精々暴力を振るっていたとかそういうのじゃないのか。

 

「ま、まあいい。ノシュテッド一年生、これは事実か?」

「人目につかない場所って、ひょっとして中庭の端っことかですか?」

「ん? そこまで具体的には書かれていないが、心当たりが?」

「……ルシアさんとそこで模擬戦してました」

 

 は、と生徒会全員が素っ頓狂な声を上げる。公爵令嬢が何をどうすると中庭で模擬戦するのだ。大体そんな視線をリリアへと向けた。

 そうしながら、そんな名目で彼女に暴力を奮っていたのではという疑惑が生まれる。

 

「模擬戦、模擬戦ね……。君は公爵令嬢だ、他国の留学生とはいえ、身分の差はある。それをいいことに反撃を出来なくさせて一方的に攻撃をしていたということは?」

「それは模擬戦じゃなくてただの虐めじゃないですか」

「だから虐めの疑惑が立ってるって話なんだよ!」

「会長、落ち着いて」

 

 思わずツッコミを入れてしまった生徒会長を副会長が宥める。どうどう、と抑えながら、この人見た目ほど冷静じゃないのであまり挑発しないでくださいと彼女はリリアに言葉を紡ぐ。そのつもりはなかったのだが、結果的にそうなったらしいのでリリアは素直に謝罪した。

 ちなみにムダ知識はああつまりこの生徒会長メガネで誤魔化してる俺様タイプだな、と評した。間違いなく主人公のかませなのだろうと辛辣である。尚、現在主人公は不在だ。

 

「それで、どうなんだ?」

「どうって言われても。普通に模擬戦ですよ。わたしがルシアさんにアッパーカット叩き込んだら、空中で体勢立て直されて踵落としされたりとか」

「普通……?」

「一応聞いておきますけれど、貴女もルシアーネさんも女の子ですよね?」

「失礼な」

 

 割と順当に育っている、とリリアは思い切り胸を張る。しっかりとボリューミーな膨らみが強調され、十三歳にしちゃかなりでかいなと思わず呟いた会長が副会長にしばかれた。

 咳払いを一つ。副会長が彼女を見ながら、それを証言してくれる人はいますかと問い掛ける。

 

「……ルシアさん本人、だと駄目ってことですよね?」

「そうなりますね」

「わたしのメイド、も身内判定で駄目ですよね?」

「そうですね」

「…………」

「いないのですか?」

 

 す、と副会長の視線が鋭くなる。話していて彼女がそういうことをするような性格ではないと何となく分かりはしたが、自覚なく行っている可能性もなきにしもあらず。彼女の言い分が本当かどうかはきちんと裏付けを取る必要がある。そういう判断での発言であったが、リリアはぐぬぬと何とも言えない表情を浮かべるのみ。

 

「え、えっと。ラケル・カルネウス辺境伯令嬢なら」

「カルネウス、というと。ギルド管理局局長のご令嬢? ……それは」

「え? 駄目なんですか!?」

 

 この流れだと多分あれの名前出さないとマズい。ムダ知識がそんなアドバイスを貼り付けてきたので思い切り突っぱね、リリアは親友であるラケルの名前を出したのだが。どうやら考えたくはないがムダ知識が割と正解を出していたらしい。生徒会長が副会長に言われ、ああこれかと別の投書が書かれた報告書を手に取った。

 

「ノシュテッド一年生は、ギルドに強引に働きかけ、ルシアーネ一年生を危険な依頼へと参加させた。そういう話が出ている」

「それわたしも参加しているんですけどぉ!」

「だからこそ、です。自分は安全な護衛を付け、彼女だけが危険な状況を作り出していたのでは、と」

 

 なまじっかリリアがラケルの名前を出してしまったことで、こちらの投書の方向にも飛び火をしてしまったらしい。こういうことかぁ、と彼女は心中で肩を落とし、ムダ知識のそれを渋々ヒントの棚に押し上げた。

 

「ギルドのことを誇りに思っているラケルが、そんな信用と信頼を地に落とすようなことするはずないじゃないですか……」

「彼女の人となりをこちらは知らないからな」

「じゃあ今知ってください。ラケルはそんなことしません!」

 

 会話の記録をしている書紀以外の、半ば観客になっている生徒会面子はこう思った。この娘容疑者の自覚あるのかな、と。

 あるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 勢いで捲し立てたリリアは、そのまま勢いで自分の潔白を主張する。思わず頷きかけた副会長は、いや違うと頭を振った。

 

「と、とにかく。今の貴女の主張だけではこちらとしても無罪放免に出来ません。いえ、まあ、貴女がそういうことをしそうにないというのは何となく分かりましたが」

「だったら」

「だとしても。こちらも学院の擬似的なものとはいえ生徒側の管理者に相当しますから、もう少し生徒への納得が必要になります」

 

 そういうわけなので、と隣の会長に目配せする。これだな、と三つ目の投書が書かれた書類を手に取り、眺め。

 何だか急にお粗末になったなと眉を顰めた。

 

「えー。ノシュテッド一年生はルシアーネ一年生を噴水に落とした」

「あ、はい」

「認めるのかよ!?」

 

 ざわ、と生徒会がざわめく。これまでの流れなんだったんだと言わんばかりに突然自白した公爵令嬢を、何だか得体の知れないものを見る目で眺めた。当の本人は平然としており、何か変なことを言っただろうかと首を傾げている。

 

「つ、つまりだ。おま、君は虐めの事実を認めるわけだな?」

「え?」

「噴水に落としたんだろう?」

「この間二人揃って走り回ってて、その時に二人で落ちました」

「……んん?」

「最初にわたしがバランスを崩して落ちて、ビッショビショになりやがってやがりますね、ってルシアさんがこっちを見てたんで、そのまま手を引っ張って一緒に」

 

 嘘を言っているようには見えない。見えないが、それは魔導学院に入学した子女の行う行動ではないのではなかろうか。むしろ就学前の幼子がはしゃぎまわってやるような。

 幼い、には見えないな。改めて視線をリリアの顔より下の部分に向けた生徒会長は、再び副会長にしばかれた。

 

「入学したばかりの少女になんて目を向けているんですか」

「いやまあ……そうだな、すまん」

 

 五つ年下というだけならば、十三と十八というだけならばそこまでではあったが、彼は生徒会長である。公爵令嬢をそういう目で見ていい立場ではない。ついでいうと彼もきちんと貴族令息であり婚約者もいる。アウトである。

 ともあれ。そのことについても証人を用意できるのならばしたほうがいいと副会長が述べると、リリアは何とも言えない顔をした。これまでのことを踏まえると、ルシアは駄目でエルも駄目、ラケルは二軒目の嫌疑がかかりかねないので迷惑がかかりそう。となると彼女の出せる選択肢で残っているのは。

 

「グレイくんは毎回いるわけじゃないからその辺の証人にはなりにくいし。……うぅ……」

 

 何でいつも一緒にいないんだ、と理不尽な怒りをグレイに向ける。口にしたらだいぶ誤解されそうなそれだが、勿論リリアなので深い意味は欠片もない。ついでにグレイがちょくちょく集まらない理由は彼女に勝つための訓練をしているからである。徹頭徹尾自業自得であった。

 

「……証人、います」

「だったら最初から言えば――」

「カイル・レオ・アルムグヴィスト第二王子なら、その辺見てたと思います」

 

 むせた。いきなり飛び出た名前が名前なので、生徒会長が思わずゲホゲホと咳き込んでしまう。マジかよ、と彼女の顔を見たが、非常に不服で嫌そうな顔をしているだけで、嘘をついているようには見えなかった。むしろ真偽より表情のほうが気になる。

 どちらにせよ、王国の第二王子の名前を出したからには、冗談でしたでは済まされない。逆に言えば証人としてはこれ以上無いほどの保証だ。出来ることならば今すぐ確認を行いたいが、ぶしつけに呼び出すわけにも。

 

「呼んできます?」

「は?」

 

 そう思っていた生徒会に、リリアがそんな提案をする。今なんつったお前という目で彼女を見たが、変わらず疑うなら呼んでこようかという述べるのみだ。顔は変わらず非常に嫌そうなままであったが。

 

「い、いや、それは不要だ。第二王子が証人だというのならば、後でこちらから確認を取る」

「それだとわたし容疑者のままじゃないですか」

「いや、さっきも言ったが話していて君がそういうことをする人間じゃないのは分かった。これは副会長が言ったように生徒へ説得力を持たせるためだ」

「それならいいんですけど」

 

 いまいち納得しきれていないリリアを見て、生徒会長は溜息を吐く。こういう言い方はしたくないが、と前置きすると、彼女を真っ直ぐに見た。

 そもそも、誤解されるような行動を君が取ってしまったことが原因とも言える。そう述べて、いやそれもちょっと理不尽かなと自分で反省した。

 

「そこですよね……」

「あれ?」

 

 てっきり何か反論が来ると思っていた生徒会長は、思った以上に素直に受け止めて項垂れるリリアを見てちょっと焦った。言い返されたほうが、まあそうだよな、で終わらせられたのでこの展開はむしろまずい。

 

「こればっかりは直せなくて……はぁ、ルシアさんの言葉遣いとかよりよっぽど深刻ですよぉ……」

「……会長、どうするんですか」

「俺ぇ!? いや、まさかこんなマジ凹みされるとは」

 

 副会長に脇腹を殴られる。意外に痛かったそこを擦りながら、あー、だの、うー、だの唸りながら彼は頭をガリガリと掻いた。そうしながら、さっきのは言い過ぎだし実際はそこまでではないから心配するなと謎フォローを開始する。

 

「でも実際投書来てるんですよね?」

「それは、まあ。実際目撃者がそれなりにいたってことだからな」

「そうですよね――って、え?」

 

 ちょい待ち、とリリアが顔を上げる。目撃者が結構いたとはどういうことだ。そう問い掛けると、生徒会長は言葉の通りだと返した。似たような投書が複数存在したからこそ、今回の調査になったのだと続けた。

 

「中庭の端っこと噴水はまあ、百歩譲って分からないこともないんですけど……ギルドで危険な依頼受けてるって情報は何でそんな?」

「ん? ……言われてみればそうだな。副会長」

「件数自体はこれが一番少ないですが、複数の投書があります、そのどれもが、街で偶然目撃した、ということですけど」

 

 よくよく考えれば、街で偶然目撃しただけで何故危険な依頼だと分かったのか。最初と最後に挟まれていたおかげで何となく流してしまっていた。非常に苦い顔を浮かべた副会長は、浅慮でしたとリリアに頭を下げる。

 

「しかしそうなると、一体これはどういうことになるんだ?」

「悪戯、というには随分とたちの悪いものですし」

 

 ターゲットが公爵令嬢、しかもかつて悪評が大きかった人物だ。どうしても何かしらの意図を勘ぐってしまう。観客の生徒会も、何だか厄介ごとの匂いを感じ取り眉を顰めていた。

 一方のリリアであるが。どうやら生徒会長も副会長もそのまま自分の敵になるような感じではないので若干拍子抜けしていた。お約束にきっちりとピースがはまるのはやはりムダ知識のソースの大半であるサブカル系物語くらいなのだろう。あっという間に前世系由来のそれの信頼度を地面に叩きつけ、その状態から投書の方は凄くいい感じに物語の陰謀くさいけどなという反論を食らい慌てて持ち上げる。そうだ忘れてた、というか今の話題の中心それだった。

 順当に考えればターゲットはリリア。そしてその名を汚すのが目的ではないかと推測はできる。出来るのだが、しかし。

 

「……わたしの評判、とっくの昔に酷いことになってますし」

 

 ムダ知識を得てからの生活で別の評判は立ったが、悪評を打ち消したわけではないのだ。だから、今更一つ二つ増えたところでそう大した違いはない。だからそれそのものが目的ではなく、それによって生まれる結果が何かしらに関係してくるはずだ。そこまでを考え、リリアは思い出した。

 ラケルとルシアが、知らないほうがいいと言っていた話を。

 

「ルシアさんのほうが目的? ……でも、ラケルはそっちじゃないって言ってたし」

 

 教国が聖女に不祥事を起こさせようとしている。それの仕込みではないかと一瞬考えたのだが、あの時の二人の会話がこれだったのだと気付き、ラケルが否定していたのも思い出したのだ。

 

「待って。逆なら」

 

 王国の最上位貴族が聖女に無体を働いた。それを大々的に宣伝して教国が王国に決定的なマウントを取ろうとしているのならば。

 これだ、とリリアは手を叩く。ムダ知識も、いい感じに敵が浮かんできたとご満悦の評価だ。初っ端からスケールデカすぎやしないかと思わないでもなかったが、まあ自分のようなツンデレお嬢様チョロインにはそれくらいの規模でないと張り合えないのだろう。そんな無駄な自信を抱きつつ、結論付けたそれを彼女はしっかりと抱え込む。

 

「あの、すいません。わたし、そろそろ戻ってもいいですか?」

「え? ああ、すまなかった。今回の件は生徒会が責任を持って誤解を解いておこう」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

 ぺこりと頭を下げ、リリアは生徒会室を出る。扉を閉めると、彼女はそのまま出来るだけ早足で目的の場所へと向かった。秘密の場所、というほど隠れてはいないが、あまり人の来ない学院内のカフェテラスの一角。そこへと足を踏み入れると、彼女を出迎えてくれたのはいつものフルメンバーではなく二人のみ。やっと来たんですねお嬢さまと軽い調子で喋るエルと。

 

「……何でよりによって」

「ははは、ごめんね。ラケル嬢とルシア嬢は来ていないよ」

「…………」

「そこまで露骨に嫌そうな顔をされると傷付くな」

「嘘つき。絶対そんなこと思ってないくせに」

 

 先程証人として渋々、本当に渋々名前を出してしまった第二王子、カイルであった。

 

 

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