転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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どっちかというとこっちが悪役令嬢


第十四話

「それで、どうしたの?」

「知ってるくせに」

 

 笑顔のカイルを見ながら、リリアは物凄く嫌そうな顔で答える。そんな彼女を見てはははと笑った彼は、結果は知らないからと抜かした。まあつまりどういう状況なのかは承知の上であるということだ。

 

「ラケル嬢やルシア嬢から、君が呼び出しを受けた話は聞いたからね」

「じゃあ別にいいでしょう」

「理由は二人の推測だったし、君がどうなったのかは分からないからね。一応言っておくけれど、これでも心配しているんだよ?」

「どうだか」

「信用ないなぁ」

 

 そう言ってもう一度はははと笑ったカイルは、まあ自分に言いたくないのならばと話を打ち切った。どうせ彼女には話すだろうから。そういう腹積もりらしいその表情を見て、こいつ追い出してから話そうかなとリリアは割と真面目に思い始める。

 

「お嬢さま、顔、ひっどい顔」

「失礼な」

「いやでもしょうがないじゃないですか。公爵令嬢としてアウトな顔してましたよ。いやまあ割と頻繁に令嬢としてアウトなことやってますけど」

「失礼な」

 

 ジロリとエルを睨むと、リリアは小さく溜息を一つ。先程の生徒会とのやり取りもあり、彼女は珍しく一旦気持ちを落ち着けるという方法をとった。

 どのみち、自分ひとりで考えても進めるかは分からないのだから、話しても構わないだろう。そう結論付け、彼女は先程までのやり取りを二人へと語る。自分がルシアを虐めているらしいという噂があり、その真偽を確かめるために呼び出されたのだ、と。

 

「二人の予想の通りだったみたいだね」

「原因とかその他諸々は違うかもしれないですけど。お嬢さま、その辺どうなんです?」

「その辺、とは?」

「それ仕組んだ犯人、誰だったのか」

「……それを相談するために来たんですけど」

「ということは、向こうの話ではその辺りはさっぱりだったのかな?」

「さっぱりというか。一応その噂の出処が怪しいっていう話にはなりましたけど」

 

 中庭や噴水の出来事は傍から見たらそうかもしれない、とならないこともないだろう。だが、ギルドで危険な目に遭わせている、という部分は明らかにこちらを陥れようとしなければ出ないものだ。

 わざわざ依頼を受けたリリアとルシアを追い掛けて、魔物と戦っている姿を確認した上で、リリアだけを器用に視界から外してルシアだけが危険な目に遭っているという認識を持ち、魔物や二人(追加でキース)に気付かれないようにその場を立ち去り生徒会に投書を送る。そんな人物が学院に多数いた場合は話が別ではあるが。

 

「お嬢さまじゃあるまいし」

「失礼な。というかですね、いくらわたしでも流石にそれはないですよ」

「実力と中身が合致しない、という意味ではまあ、リリア嬢はそうだろうけど。でも、リリア嬢は馬鹿だけれど愚者ではないからね」

「そうですね。申し訳ありませんお嬢さま」

「こき下ろすか持ち上げるかどっちかにしてくれません!? あ、いや違う。持ち上げるだけにしてくださいよ!」

 

 そういうところだよな、と二人はどこかほっこりした顔でリリアを見る。こいつら、と彼女の額に十字が浮かんだが、いかんいかんと頭を振った。ぶん殴るのはもう少し話が進んでからだ。

 

「まあどっちにしろ、噂を捏造したのがいるってことですよね」

「恐らくは、そうだろうね。確認出来たとしても、ギルドへと二人が通ったことと依頼を受けたことまでだろうし」

 

 今更だけど、メイドと第二王子が気安く喋っている時点でこいつらも大概だよな。ムダ知識が余計な茶々を入れてきたが、リリアにとっては本当に今更なので軽く脳内で流していく。二人の話を聞きながら、とりあえずその発生源を締め上げれば大丈夫だろうかと一人考えた。

 

「お嬢さま。多分それをやった大元締めないと余計な噂が追加されるだけだと思いますよ」

「え?」

「自分にとって不利な噂を流した、と君が誰かを処罰したら、ああやっぱりノシュテッド公爵令嬢はそういう人物だったのかとなるだろうからね」

「でも、ちゃんと犯人ですよ?」

「本当かどうかなんて関係ないのさ。重要なのは、傍若無人で知られている公爵令嬢が、自分勝手な理由で誰かを踏みにじったという事実だ」

 

 全然事実じゃない、とリリアは反論するが、カイルはどこ吹く風だ。紅茶を飲みながら、言っただろう、と彼は彼女をゆっくりと見る。

 本当かどうかは、関係ない。

 

「本当じゃなかったら事実じゃないじゃないですか」

「そういうのはラケル嬢が詳しい、というか専門だから僕からはあまり話せないけれど。事実と真実は、案外違うんだよ」

「意味が分かりません。事実だったら本当だし、真実でしょう? 嘘だったら違うじゃないですか」

「お嬢さまは素直な人ですからね」

「また馬鹿にして」

「今回のはそういうんじゃないです」

 

 割とガチトーンで返されたので、リリアも思わず黙る。はぁ、と溜息を吐いたエルは、前も言ったような気がしますけどと指を一本立てた。

 基本的にお嬢さまは腹芸に向いていない。はっきりきっぱりそう言うと、同意を求めるようにカイルを見た。うんうん、と頷いた彼は、どこか優しげな笑みを浮かべる。普段の人をからかうことだけの微笑みとは性質が違う、自然な笑みを浮かべる。

 

「僕は、リリア嬢のそういう真っ直ぐで素直なところは結構好きだよ」

「……褒めてます?」

「流石にこれに皮肉やからかいは混じってないさ」

「……じゃあ、ありがとうございます」

 

 若干納得いってないようであったが、リリアは素直にそう返す。そして当然、カイルもエルもそういうところだと笑みを強くさせた。

 ともあれ。彼女はそういう性格なので、先程の会話がどういうものかピンと来なくとも仕方ない。二人はそうリリアに述べて、とりあえず短絡的に犯人を捕まえるのは悪手だと続けた。

 

「じゃあ、どうすればいいんですか? 暫く放置?」

「それも一つの手だけれど。その場合、君の悪い噂が無闇矢鱈に広がる可能性がある」

「別に……今更ですし。わたしは気にしませんけど」

「僕達が気に入らないのさ」

「ですねぇ」

「え?」

 

 ここにはいない面子だってそうだ。ラケルもルシアも、グレイやキースでさえ、そうやって根も葉もない悪評でリリアが悪く言われるのは望まない。二人揃ってそんなことを告げると、彼女を真っ直ぐに見た。あれ、何だかいつもと雰囲気が違う。そんなことを思わずリリアが考えてしまうほどで。

 ひょっとしてメイン回来てるんじゃない? ムダ知識が弾き出した答えを聞いて、成程そういうことなのかと彼女は謎の納得をした。

 

 

 

 

 

 

 所変わって。ご協力ありがとうございましたと頭を下げたラケルは、隣にいるルシアと共にその場を去った。そうして今話していた人物に会話が聞こえない距離まで進むと、何かを考え込むような仕草を取りながら隣の少女へと言葉を紡ぐ。

 

「思ったよりこちらに協力的だったわね」

「です。あたしもぶっちゃけビックリです」

 

 教国の聖女が流石に身一つで来るということはないので、随伴の神官と聖騎士も当然いる。が、基本的に本人の自主性に任せているため、役割としては護衛ではなく手続き上必要な保護者のようなものだ。そういうわけなので、噂通りならば疎まれている聖女のことなど完全放置だと考えていたわけなのだが。

 今回のリリアの冤罪というか誤解というか、それの調査のために話を聞きに行くと、別段嫌がる素振りもなく普通に対応してくれたのだ。親しい、というほどではなかったが、それでも普通である。

 

「あの様子だと、教国側は関与していなさそうね」

「ですねぇ。あたしのこと嫌ってやがったわけじゃねーっぽいでしたし」

「まあ、教国の聖女という肩書の相手を『嫌っていない』レベルの時点で、随分と冷遇されているのは確かでしょうけど」

 

 それでも、積極的に害しはしないだろう。とりあえずはそれだけでも収穫は大きい。ラケルが調べた周囲の状況や噂の答え合わせも出来たので、こちらとしては大分前進出来たはずだ。

 

「とりあえず、教国が王国より優位に立つために公爵令嬢と聖女を利用とした、という線も外してよさそうね」

「教国は関係ねー、でいいんじゃねーですかね」

 

 ルシアの言葉に頷きながら、だとすると、とラケルは顎に手を当てる。今回のそれは聖女だからルシアが被害者枠にされたのではなく、リリアの近くにいた王国の高位貴族ではない人物、ということで選ばれただけに過ぎない。そう過程出来るわけで。

 

「……つまり、犯人はルシアさんを聖女だと認識していない」

「リリアさんに聞きやがってたやつですね」

「ええ。リリアは聖女のことを広めて回っていないし、ルシアさん本人も同じ。そして教国側も積極的に聖女を表に出していない」

 

 先程尋ねたことでそれは証明済み。なので、現状この王国で聖女ルシアーネを知っている人物は限られる。

 

「逆だったら分かりやすかったのだけれど」

「あたしのこと知らねーやつめっちゃいやがりますからね」

 

 前進したのはいいが、思い切り急ブレーキをかけられた気分である。ここはひとまず撤収して、向こうの状況の確認もしてみるべきだろう。そう結論付け、二人はそのまま普段集まっている人気のないカフェテラスの隅のテーブルを目指し歩みを進めた。

 進めながら、ラケルはふと足を止める。どうしやがりましたか、とルシアが尋ねたが、彼女は答えず、進行方向を切り替えた。何故かあまり人が来ないような校舎裏の道を選んで歩いていく。

 

「ラケルさん?」

「この方が近道だと思ったのよ」

「近道?」

 

 何言ってんだ、とルシアは彼女を見やる。どう考えても遠回りで、真っ直ぐ行くのより倍の時間は掛かるであろう距離だ。ひょっとして王国共通語と教国共通語、あるいは自身の田舎の方言で意味合いが違うのだろうか。そんなことを考えつつ、ラケルの後をついていく。

 そうして暫し歩みを進めると、目の前にあまり真面目ではなさそうな顔ぶれの生徒達が立ち塞がっていた。おや、と首を傾げ隣を見たが、ラケルは笑みを崩さず、目の前の連中を眺めている。

 

「ごきげんよう先輩方。よろしければ、通らせていただいても?」

 

 ペコリとラケルが頭を下げる。そんな彼女を見ていた不良達は、暫しの沈黙の後笑い出した。素直に通すと思っているのか、と嘲るように彼女に告げる。

 

「ええ、勿論」

「は?」

「私はリリア・ノシュテッド公爵令嬢の親友を自負しておりますの。――貴方達に命令をした自称彼女の取り巻きとは違って、ね」

 

 不良達は怪訝な表情を浮かべたが、しかしすぐに鼻で笑う。そんな口だけではなんとでも言えるものに騙されるわけがない、と。

 

「ぶっちゃけ向こうのほうが口だけって感じしやがりますけど」

「何か適当な証拠でも出したのでしょうね。学院で落ちこぼれてしまった愚者は、そんなものでも簡単に信じてしまうのよ」

「ほえー」

「馬鹿にしてんのか!?」

「ええ、勿論。尋ねなければ分からないなんて、自ら証明してしまったわね」

 

 気分を害した不良が叫ぶが、ラケルはしれっとそう返す。ド直球の挑発だ。こっちが大人しくしていれば調子に乗りやがって、とまあ至極当然のように不良共は更に怒りが増していく。

 

「ラケルさんラケルさん」

「どうしたの?」

「ここでこいつらぶちのめして犯人辿るですか?」

「それも一つの手だけれど。向こうの出方によってはリリアが罪を着せられる可能性があるわ」

「え? じゃあどうするです?」

 

 ルシアの疑問に、ラケルはクスリと微笑むだけで返答に代える。そうしながら、制服の胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出す。それをひらひらと掲げ、書かれている名前を口にした。

 瞬間、不良の一人の動きが止まる。え、と目を丸くさせ、そして彼女の持っている紙を見て顔を青くさせた。

 

「ええ。これは貴方の冒険者証の保証書。……最近、素行不良者の処罰をどうするかとこちらに話が来ていたの。保証人としても、何か大きな問題を起こす前にと考えたのでしょうね」

「……な、何が目的だ?」

「人聞きが悪いわね。私は何も頼まないわ。そちらが自主的に動いてくれるのならば、ありがたく受け取るだけよ」

「やべーくらい悪役やってやがるです……」

 

 クスクスと笑うラケルを見てルシアが思わず呟く。それが聞こえていたのか、ラケルは彼女の方を見て笑顔を強めた。

 そうしながら、追加でもう一枚、紙を取り出す。書かれている名前は違うが、書類自体は同じものだ。別の不良がげぇ、と叫んだ。

 

「私も、辺境伯の誇りである冒険者ギルドに泥を塗りたくはないわ。だからその辺りはきちんとしておきたいの」

 

 どうぞ、と不良二人が道を開ける。残っていた不良も仲間の進退が掛かっているのを覚ったのか、渋々道を開けていた。ありがとうございます、とラケルはそこを悠々と通り過ぎる。ルシアも若干引きながら彼女の後を追いかけた。

 

「ら、ラケルさん?」

「どうしたの?」

「あれ、よかったです?」

「ええ、勿論。彼らの顔を覚えるのが目的だったもの。これで新しい調査対象が増えたわ」

「……お、おう?」

「ちなみに、この書類なら魔術で作った偽物よ。言ったでしょう? 適当な証拠でも信じてしまうような愚者だって。……そもそも、私がこんな脅しのような要求でギルドの保証書をどうこうするわけがないのに」

「脅しって言いやがったですよ……」

「あら、ごめんあそばせ」

 

 クスクスと笑うラケルを見ながら、ルシアは思う。リリアと正反対だけれど、だからこそ親友をやっているのだろうな、と。

 なお。後日、やけにビクビクとしている不良が生徒達に目撃されるのだが、あまり関係ない話だろう。

 

 

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