転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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ラブ、コメ……?


第十五話

「そういうわけなので、情報源は増えましたわ」

「成程。それは幸先が良いね」

「当たり前のように流してやがるですよコイツ……」

 

 合流したラケルはカイルに事の次第を説明していたのだが、当然というかなんというか、彼は驚くこと無く流した。というか、ジト目でツッコミを入れるのがルシアだけな時点で既に手遅れ感がある。

 

「いや、それは誤解だよルシアーネ嬢。僕だって驚いていないわけじゃない。でも、それよりも彼女の手腕を称賛しただけだよ。僕は性格は悪いけれど、彼女のように裏の根回しや悪巧みには長けていないからね」

「ふふっ。褒め言葉として受け取っておきますわ、一応」

「いや思い切り罵倒でしたよ」

 

 流すラケルとそこにはツッコミを入れるリリア。そんな面子を見ながら、そういうものなんですねと流すようにしたルシアもある意味大概である。勿論、そのやり取りを見て笑いを堪えているエルも相当に大概であるが。

 ともあれ。こちらの話は終わったと述べたラケルは、そちらの状況はどうなのかと問い掛けた。カイルは彼女のその言葉を聞いて暫し考え込み、どうしようかと視線を横のリリアに向ける。こちらで説明してもいいのだけれどと続けたが、リリアは当然のように拒否をした。こいつに任せたら有る事無い事増やされる。そういう考えである。

 

「そう。じゃあリリア。申し訳ないけれど、私達にも説明してもらえるかしら」

「勿論です。でも、まあ大体ラケルの言った通りになったんですけれど」

 

 そう前置きして、リリアは語る。生徒会にて自身がルシアを虐めているという噂が立っているので真偽を確かめるために呼ばれたのだと述べる。

 それをふむふむと聞いていたラケルは、ちらりとルシアを見た。難しい顔をして何かを考え込んでいるが、それ自体に憤っているようには見えない。予想の範囲内ではあったからだろうか。そんなことを思いはしたが、しかし彼女の性格上それでも心外だと言いそうであったのだがと続けて思う。

 

「とりあえず、リリアさんの言い分を向こうは聞きやがったのです?」

「そうですね。生徒会も所詮は噂で本当じゃないって考えてくれたみたいですけど」

「なら、いいですけど」

「……ルシアさん。一応言っておくけれど、生徒会に乗り込むのは無しよ」

「流石に乗り込むことはしねーですよ」

 

 状況が変わっていないのならば抗議ぐらいはしたかもしれないが。そんなことを続けながら、ルシアは頬を掻く。ここは流石に勢いだけで行動するとマズいと分かっているのだろう。感情を表に出すし思ったことはすぐ口にするが、その実根底はしっかりとしている辺り、成程教国が好みでなくとも聖女として置いているだけはあるとカイルも小さく口角を上げる。

 

「そういう部分はリリア嬢も見習って欲しいところだね」

「どういう意味ですか」

「そのままの意味だよ」

「喧嘩を売ってますよね?」

「ほら、そういうところ」

「このクソ王子っ……!」

「そういうところですよお嬢さま」

「失礼な」

 

 ギロリとカイルとエルを睨み付けながら、しかしリリアはふうと息を吐く。ここでこれ以上逆上したら思う壺だ。それを差っ引いても、ついさっき生徒会で見出した反省点をやっぱりそうだと再確認しかねない行動だ。吐いたそれを盛大な溜息に変化させながら、彼女はとりあえず話の続きを促すことにした。

 

「でもそうなると、あたしの出番はねー感じですかね」

「そうね。現状、ルシアさんが表立って行動する必要はないかしら」

「まあ、生徒会の最初の雰囲気からして、そういうの逆効果になりそうでしたしね」

 

 向かう前に二人が言っていたやつだろう。そんなことを思いながら呟いたリリアのそれに、ラケルはいいえと首を横に振る。あの時はまだはっきりと分かっていない状態の話であったが、確認をとった今は少し毛色が違う。そう続けると、彼女は指を一本立てる。

 

「少なくとも、今回の件は教国は関与していない」

「ああ、ルシアーネ嬢の随伴者達から聞いたんだったね」

「ええ。まあ、あわよくばという算段を持っていないとは言えないでしょうけれど、それはあくまでこの件を利用しようとしているだけ」

「あ、だからわたしの名前を出して評判落とそうとしている人達が出てきてるんですね」

 

 先程の不良をそそのかした連中のことだ。合流する前にカイル達が言っていたことがそのまま実行されていたことに若干の驚きを持ったが、まあそういうものだろうと辺に納得している自分もいる。ムダ知識でいうところの、お約束だ。メイン回だしまあ当然だろうという謎の自信もあった。

 

「まずは大元まで辿りましょう。追求するのはそれからね」

「でもそれだと、時間掛かったらマズいじゃねーです?」

「ええ、勿論。だから、並行してルシアさんにも動いてもらうわ」

「え? ラケルはさっきルシアさんが行動する必要はないって」

「表立っては、よ。つまり」

 

 ほんのちょっぴり、暗躍してもらおうかしら。そう言って笑うラケルは何とも可愛らしかったが、しかしどうしようもなく黒いように思えて。

 

「ああいう腹芸は敵わないなぁ」

 

 どこか面白そうに、カイルはそんな彼女を見てクツクツと笑った。

 

 

 

 

 

 

 それからのことである。学院での授業も一段落、昼休みとなったそのタイミングで、リリアは隣の席のルシアとお昼を食べようと声を掛けた。が、彼女はその誘いに困ったように微笑むとごめんなさいと謝罪をする。

 

「……そうですか」

「はい」

 

 言葉少なくそんなやり取りをすると、ルシアは一人で講義室を後にする。そんな彼女の背中を眺め、リリアは小さく溜息を吐いた。

 これで彼女はぼっちである。一人寂しく昼食が確定した瞬間である。ちなみにこれで三日目だ。

 

「購買で何か買ってこようかな……」

 

 ゆっくりと立ち上がると、リリアも講義室から出ようとする。その途中に、何やらヒソヒソと交わされている会話が耳に入った。避けられている、というよりも、逃げられている。公爵令嬢から、留学生で平民の少女が逃げている。はっきりと形になっていないそれではあるが、しかし確実に、ジワジワと広がっているようにも思えた。

 やはり噂は本当だったのか、と囁かれるようになるのも時間の問題。そんなことを考えてしまう程度には、着実に進んでいるようで。

 

「……本当に進んでいるんでしょうか」

 

 購買で買ったパンを食べながら、リリアはひとり考える。先程はそういう風潮になっていると考えたものの、実際入学から同じクラスにいた生徒達は「喧嘩でもしたのだろうか」程度に考えているきらいがある。講義によって違うクラスの生徒が混ざるので、そういう場合は想定通りだが。

 

「一段落したら、もう少しクラスメイトと交流したほうがいいかもしれないですね」

 

 あむ、と残ったパンを口に突っ込む。ついでに買った簡易水筒の飲み物をそのままがぶ飲みし、ぷはぁと息を吐いた。間違いなく公爵令嬢ではない。

 

「……お前はもう少し慎みをだな」

「あ、グレイくん」

 

 そんな彼女の眼前に影。ん、と顔を上げると、どこか呆れたようにグレイが立っていた。口振りからすると、先程のリリアの食事風景を見ていたらしい。

 

「別にいいじゃないですか。こんな場所で御飯食べる貴族子女はそうそういませんし」

 

 中庭の端っこである。以前リリアがルシアと組手を行った場所でもあり、人が来ることは殆どない。きちんと人の目がある場所では、流石のリリアももう少しきちんと貴族令嬢の振る舞いをするのだ。

 問題は気を許している相手だけの場ではあまりやらないことだが。そういうわけでグレイは貴族令嬢らしくしているリリアを見ることが最近は殆どない。

 やれやれ、と肩を竦めたグレイは、そのまま彼女の座っているベンチに腰掛ける。同じように購買で買ったらしいパンを袋から取り出すと、同じようにかぶりついた。

 

「あれ? グレイくんもここでお昼ですか?」

「……ああ。少し気になることがあったからな」

 

 口のパンを飲み込んでから彼は言葉を紡ぐ。視線を隣のリリアに向けると、それでどうなのだと問い掛けた。なんのこっちゃ、と首を傾げる。などということはせず、リリアは彼のその質問に、どうなんでしょうと苦笑で返す。大して変わらない気がしないでもない。

 

「正直なところ。釣り上げる前にわたしが干からびそうです」

「……そうか」

 

 どことなくシオシオしているリリアを見て、グレイは何とも言えない顔をする。こいつこの見た目で案外寂しがりやだからな。微妙に失礼なことを思いながら、彼女のツインテールとそれを結んだリボンを眺め。

 

「いや、見た目通りか」

「なんですか?」

「こちらの話だ」

 

 ウサギ、と呟きそうになったのを飲み込んだ。そうしながら、彼はこの中庭の端を改めて見渡す。先程も彼女自身が言っていたように、昼食どころかここにやってくる物好きもそうそういない。

 

「そもそもだ。釣り上げられないのは、こんな場所にいるからではないのか?」

「一人で食堂とか寂しいじゃないですか」

「……作戦失敗だな」

 

 はぁ、とグレイが溜息を吐く。そんな彼を見て、リリアは馬鹿にしやがったなと立ち上がった。が、彼は彼女に視線を向けると、仕方ないだろうと再度溜息を吐く始末。

 それを見て、リリアも勢いが削がれた。分かってますよ、とどこかふてくされたようにベンチに座り直す。

 

「大体ですね。わたし、そういう演技とか向いてないんですよ」

「だろうな」

「はっきり肯定されるとそれはそれでカチンと来ますけど。でもまあ、そうなんですよね」

 

 ううむ、と腕組みをして首を捻る。ルシアが避けている、逃げている。噂が真実であると補強するようなその出来事が広がれば、次の一歩だと件の犯人はノシュテッド公爵令嬢を本当に悪役の代表に仕立て上げんと接触してくるだろう。そういう算段で立てられた一連の流れであるが、それを成功させるには接触される人物がその手の腹芸を身に着けていることが大前提となる。つまり、適正がないリリアではそもそも土台無理なのだ。

 当然そんなことはラケルもカイルも、エルやルシアですら分かっているはずなのだが。しかしこの作戦に意義を申し立てられることはなかった。リリアなら大丈夫、と言われたのだ。

 

「わたしは案外そういう才能があって、これを機に開花する、ということも考えたんですけど」

「あまり言いたくないが……お前にはないぞ、その才能」

「分かってますよ! だからその憐れむような顔やめてくれません!?」

 

 こんちくしょう、と地団駄を踏んだリリアは、その拍子にヒラヒラしたスカートとちょっとたゆんとした胸部を見て慌てて目を逸らしたグレイを気にすることなく、先程よりも更にふてくされた表情で前を見た。だから、と言葉を続けた。

 

「多分わたしには教えていない何かがあって、それから遠ざけるためにさせられているんじゃないか。そう思うんです」

「当事者じゃないから、拗ねているのか」

「違いますよ! 何なんですかさっきから! グレイくんわたしのこと子供だと思ってません!?」

「え? いや、そんなことはないぞ」

 

 少なくとも見た目は。続けようとした言葉を全力で飲み込んだ。同い年の貴族令嬢と比べても平均以上に成長している割に中身がそこまで変わっていないので、彼としては時々非常に反応に困ることがある。が、それを馬鹿正直に言うと間違いなく拳が飛んでくるので自重するのだ。ついでにムッツリスケベの称号を得てしまうことも懸念している。

 ちなみにラケルもカイルも知っていて黙っている。エルも察している。

 

「それよりも、だ。だったら何なんだ?」

「え?」

「拗ねているわけではないなら、何なのか」

「……拗ねてませんよ」

「……そうか」

 

 拗ねているんだな。うんうん、と頷いたグレイに、だから違うんですってばとリリアは再度食って掛かる。ぐいぐい詰め寄ってくる彼女を押し戻しながら、だったら何なんだと彼は再度問い掛けた。だから拗ねてないんですってば、と叫ぶリリアを見て、ああこれ意固地になってるなとグレイはどこか諦めた目を向ける。何だかんだ七年ほどの付き合いになるのだ、そういうところは何となく分かる。

 

「拗ねてないもん……」

「そうだな。……その様子だと、自分でも分からないといったところか」

「むう……」

 

 図星だったのか、ふてくされたまま唇を尖らせたリリアはそっぽを向く。そんな彼女を見ながら、グレイはつい可笑しくて笑ってしまった。これは自分の勝ちだな、と心中で呟いた。直接口にすると今度は物理的に戦う羽目になるので言わない。流石に昼休みの時間でぶっ倒れるまで勝負する気はないのだ。

 

「ところで、リリア嬢」

「なんですか?」

「ここで俺も何も知らされていないと言ったら、どうする?」

「へ?」

 

 ば、と振り向いたリリアは、どこかしてやったりとなっている彼の表情を見て、ぽかんと間抜けな顔をする。そのまま目をパチクリとさせると、次の瞬間気の毒な人を見るような表情へと変化した。

 

「そうなんですか。グレイくんも、なんですね」

「待て待て待て。勝手に一人で結論を出すな。同類を憐れむようなその顔をやめろ」

「でも、何も知らないんですよね?」

「俺の出番は現状ないからな。詳細は聞いていない」

「じゃあ……あれ? 詳細は?」

 

 ぱぁ、と明るくなったリリアの表情がそこで固まる。何も聞いていない、という問い掛けの答えが、詳細は知らない。これは肯定というよりも、むしろ。

 

「……何を知っているんですか?」

「胸ぐらを掴むのやめろ。ちかい」

 

 再度詰め寄るリリアを押し戻し、グレイは疲れたように息を吐く。だからそういうところが反応に困るのだ。そんなことを思いながら、別に大したことは知らないと述べた。精々、先程の呟きを肯定してやることくらいしか出来ない、と続けた。

 

「さっきの呟き?」

「お前が拗ねていた原因だ」

「だから拗ねてなんか――はえ?」

 

 再度目をパチクリとさせたリリアが自身の言葉を思い出そうとするその仕草を見ながら、グレイはやれやれと息を吐く。こういう役割を自分一人に押し付けるのは正直どうかと思う。決して口には出さずに、彼は某辺境伯令嬢と某王国第二王子、ついでに某公爵令嬢専属メイドに向かって文句をぶちまけた。

 だって好きでしょ、リリアのこと。三人が凄くいい笑顔でサムズアップしている幻影が浮かんだので、違うそうじゃないとグレイは全力で否定をした。

 

 

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