転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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思いつくまま勢いで書くため間が空きました。


第十六話

「……はぁ」

 

 グレイから聞いた話でリリアの気持ちが軽くなるかと言えば、勿論そんなことはないわけで。お前は何かから遠ざけられているのだと判明して納得するのならばそもそも彼女はこんな立ち位置になっていない。

 

「そもそも。これわたしストーリーに関係ない人になってませんか……?」

 

 ストーリーってなんじゃい、と言ってくれる人もいないので、現在の彼女はムダ知識をベースにぼやきまくりである。ほんの少し前まで今回は自分がメイン回なのだとか抜かしていた前世系ムダ知識は、あっさりと手のひらを返してお前はモブなんだよと結論付けてきた。これが己の脳内ではなく周囲を飛び交うタイプであったり、あるいは自分とは異なる意識を持っていたりするタイプだったのならば遠慮なくシバいたのだが、いかんせんリリアの知識でしかない。その知識によると前世の記憶に塗り潰される系の物語も多々あるらしいので、そういう意味では彼女は助かったともいえるのだが。

 リリア・ノシュテッドがそんな殊勝なことを考えるはずもなし。

 

「どうやったらこの脳内知識ぶん殴れるんでしょうか……」

 

 結局こうなる。そのうち記憶が飛ぶまで己の頭を殴りかねない物騒な思考をし始めたリリアであったが、廊下を歩き人も増えてきたのでそれを引っ込めた。いけないけない、と気合を入れるように頭を振った彼女は、表面上は何もなかったかのように振る舞う。

 本人基準で、である。すれ違う生徒達は、何だかあの子落ち込んでるな、とか、何か思いつめていそう、とか。そういう感想を抱いていた。

 

「ん?」

 

 そんな悩んでいるのバレバレ令嬢は、しかし向こうが騒がしいと立ち止まった。己の進行方向だ、このまま行けばその騒がしさとぶつかるだろう。厄介事に巻き込まれる可能性もあるので、出来れば避けて通るのが賢い。

 当然リリアは賢くないので、構わず進んだ。様子を見るだけ、とかそういうレベルではなく、遠慮なく突っ込んでいった。誤解のなきように言うが、賢くないというのは知識が足りないとか頭の回転が遅いとかそういう意味ではない。むしろ彼女は知識は豊富であるし頭の回転は早い方だ。

 それでもその評価なのは察して欲しい。

 

「何があったんですか?」

 

 ノータイムで突っ込んだ。躊躇という単語を知らないのかというレベルで彼女はその騒ぎへと足を踏み入れる。

 その声を聞いた騒ぎの中心部にいた人物は、視線をその場にいた別の相手からリリアに向けた。そうして、見覚えのない顔なので怪訝な表情を浮かべる。何か用だろうか。そう、彼女に尋ねた。

 

「いえ、何か騒がしかったので」

「はあ、そうですか。まあ、そちらには関係ないので」

 

 リリアが声を掛けた相手は、どうやら見る限りそこそこの貴族なのだろう。彼女を一瞥すると、そんなことを告げた。そりゃそうだとムダ知識も同意していたが、当然のことながらリリアがそれで引き下がるわけもない。一応、そうですね、と頷いてはいたが、変わらずその場に立ったままだ。

 

「でも、ここで騒いでいると邪魔なんですよ。どいてくれませんか?」

 

 もう少し歯に衣着せた方が。周囲の野次馬は皆一斉にそう思った。確かにそうなんだけど、と内心頷きながらそう思った。

 言われた相手、男子生徒はその言葉に少し気分を害したようで、顔を顰めながら溜息を吐く。ガリガリと頭を掻きながら、そうは言っても仕方がないだろうと彼女を睨んだ。普通の貴族子女はそんな攻撃的な視線を受けると気が強くとも多少は怯むものなのだが。

 やんのかコラ、とばかりにリリアは睨み返した。不良漫画のメンチ切り合いみたいになってる、というムダ知識の評価に彼女は内心首を傾げつつ、じゃあ理由を教えてもらおうと一歩踏み出す。男子生徒の方が怯んだ。

 

「そ、そこの平民がこちらを馬鹿にしたんだ」

「平民?」

 

 指差した方に視線を向ける。床に座り込んだままの男子生徒と、それに寄り添う女子生徒。向こうと比べるとあまりこの手の服を着慣れていないその様子から、彼の言葉が間違っていないのだろうと推測できた。出来たが、リリアにはその辺りがよく分からず首を傾げる。平民って言う意味あったっけ、と。

 

「まあ、学生なんですからそういうこともあるんじゃないですか?」

「は? 平民が貴族である俺を馬鹿にしたんだぞ」

「ですから、別に喧嘩はよくあることですよ?」

 

 ねぇよ。野次馬が思わずツッコミを入れかけたが、踏み止まった。この魔導学院は一応由緒ある学び舎だ。今でこそある程度門戸を広げているため貴族平民問わず入学しているし、昔ほど厳しくなくなったので素行不良な人物もそこそこ在籍しているものの、本来は貴族子女が通う場所である。流石にそんな場所で喧嘩がよくあることのはずがない。

 

「何を言うかと思えば。これはそんなものじゃない。貴族を侮辱したことに対する罰だ」

 

 そう、貴族と平民の格差を述べる男子生徒を見て、リリアは首を傾げていた。この学院は元々貴族子女の学び舎、旧態依然のそういう考えを持った人物がいても不思議ではない。野次馬もまあそういう類の人ならよくあることだよな、と半ば納得しているところもある。

 だが、リリアはそれがむしろ分からなかった。割と日常的にキースやエルにボロクソ言われているからというのも勿論そうなのだが。

 

「どういうことですか? 気に入らなかったら別に身分とか関係なくぶっ飛ばすでしょう?」

「は?」

 

 そもそもリリアはムカつくと言う理由で第二王子に喧嘩を売る少女である。平民とか貴族とか、そんなものは彼女の中には関係ないのだ。皆等しく気に入らなかったらぶん殴る相手である。

 

「だから、それ喧嘩ですよねってわたしは言ったのですけど」

 

 そして、それで向こうが反撃してくるのも当然織り込み済みなのだ。何がどうなるとこんなのに育つのか。エルに聞いても、ノーラに聞いても、そこは皆一様に口を噤んで視線を逸らす。そうしながら、自分じゃない、と主張するのだ。

 

「それで、この人何をしたんですか? そちらに付き纏いながらしつこく挑発でもしました? 一時間くらい」

「するかっ! そんなことしたら殴られるに決まってるだろ」

 

 座り込んだままの生徒が立ち上がり思わずツッコミを入れた。視線をそこに動かしながら、だから言ったんですけどとリリアは平然と返す。何だこいつ、と平民の男子生徒は若干引いた。

 一方のリリア、おかしいなと首を傾げた。自分がエルにキレた経験から導き出した答えだったのに、何が間違っていたのだろうか。そんなことを思いながらううむと彼女は腕組みをし悩みだす。

 イマジナリーエルが、いやそこまで頭おかしいことやってませんからね、と必死で抗議していたが黙殺された。

 

 

 

 

 

 

「成程」

 

 そういうわけで平民の方の男子生徒から話を聞いたのだが、どうやら余所見をしていてぶつかってしまったらしい。自分からぶつかりにいったわけでもなく、勿論向こうが悪いと思いもしなかったので極々普通に謝罪をしたのだが、どうやらそれが向こうの貴族の男子生徒には気に食わなかったようで。

 

「そんなに腹の立つ謝罪だったんですか?」

「そうだ」

「……それは仕方ないですね」

「待って、ちょっと待って。多分あんたの想像してるのとはぜんぜん違うから!」

 

 ヘラヘラと笑いながら謝っているのにこちらを挑発してくるエルを想像し、自分なら晩飯抜きにするしなぁと納得しかけたリリアへと声が掛かる。ついでにイマジナリーエルも首を横に振っていたが、勿論彼女は知ったことではない。

 ともあれ、男子生徒は彼女に述べた。余所見をしていた、申し訳ない。そんな感じの言葉を告げたのだと説明した。念の為に貴族の生徒の方に向き直ると、特に否定することなくフンと鼻を鳴らしている。

 

「それが失礼だというのだ。平民が貴族とぶつかっておいて、その態度はふざけているとしか言えないだろう?」

「え?」

「ん?」

 

 堂々とそう言いきった貴族生徒に向かって素っ頓狂な声を上げたのは勿論リリアである。そうなの、と言わんばかりに首を傾げ、周囲を見渡し。

 ああそういえば昔の自分はそんなこと思っていたな、と懐かしい気持ちになった。

 

「ごめんなさい。わたしはそこを既に通り過ぎたので共感できません」

「は?」

「貴族だから、平民だからって考えるのもいいんですけど、そういうのをあからさまに態度に出すのもみっともないって思うようになったんです」

「……馬鹿にしているのか?」

「どうしてですか?」

 

 思い切りお前はみっともないよって言ったよ! 野次馬の気持ちはほぼそれであったが、口にはしない。巻き込まれるのは嫌だという感情と、何だか面白いことになってきたかもしれないという紛れもない野次馬根性の混ざりものだ。

 ちなみに皆失念しているが、先程の発言とこれを組み合わせると、彼女は貴族だからとか平民だからとか関係なく気に入らなければ態度に出すしぶっ飛ばす、である。余計にたちが悪い。

 

「そもそもだ! どこの令嬢か知らないが、わざわざこの俺に口出しをすること自体が失礼だとは思わないのか?」

「どうしてですか?」

「ふざけているのか? 俺はこれでも伯爵家の血筋を持っている。それ相応の家柄なのだ」

「はあ」

 

 それがどうした、と言わんばかりのリリアを見て、伯爵家だという貴族の生徒は更に機嫌を悪くさせた。王国での伯爵家は確かにそこそこの爵位であるが、ぶっちゃけピンキリ。あの金欠で昇級試験を受けられなかったノーラですら伯爵家である。なのでただ単に伯爵家というだけではそこまでの威光にならず、彼女の反応はある意味当然ではあるのだ。

 だが問題はそこではなく。

 

「……あれ?」

 

 彼の言葉を思い返し、気付いた。これひょっとして自分の顔知られていないのでは。目を見開いたリリアは、キョロキョロと視線を彷徨わせた後、平民の男子生徒で視線を止めた。ちょっといいですか、と声を掛けた。

 

「わたしのこと知ってます?」

「え? い、いや、知らないけど」

「ごめんなさい、私も」

 

 男子生徒と、その隣にいた女生徒が述べる。その答えに暫し動きを止めていたリリアは、ああそううことかと肩を落とした。そして同時に、どうりでこちらに話が回ってこないわけだと理解した。

 自身がツンデレお嬢様チョロインとしてメインを張るための土台が出来ていなかったのだ、と結論付けたのだ。だからこそラケル達の動きが把握できず、向こうに参加出来ていなかったのだと納得した。

 

「そういうことだったんですね」

「な、何が?」

「おい、一体何の話を」

「あ、ごめんなさい。名乗るのを忘れていたのを思い出したんです」

 

 そう言って伯爵家の生徒に向き直る。何を言っているんだという表情の彼に向かい、リリアはスカートを軽く摘みカーテシーを行った。

 そうしながら、自身の名前と、そして家名を口にする。

 

「リリア・ノシュテッドと申しますわ」

「――は?」

 

 ざわ、と一瞬でその名前が周囲にも広がった。ノシュテッド、それはつまり王国の四大公爵家の一つであり、単純な立場だけでいうならば、この学院では第二王子カイルの次に偉い貴族の子女の一人だ。

 そして同時に、かつての噂で非常に評判の悪い令嬢でもある。我儘を才能と家柄でゴリ押しする傍若無人な悪逆令嬢。成長して多少控えるようにはなったが、傍若無人は変わらないまま。直接交流していない者達の評価は大体そんなもの。

 

「え? あ、え?」

「……よくよく考えたら、これでどうにかなるんですかね?」

 

 ムダ知識が若干の後押しをしたのでやってみたが、彼女としては自分の名前と顔が一致してもらえれば事件に巻き込まれるだろう程度の浅い上に沸いた考えしか持っていない。この先の話であり、今この瞬間どうなるのかは完全に頭から抜け落ちていた。

 そんなタイミングで予鈴がなる。昼休みもそろそろ終わりだと告げるその鐘の音を聞いて、ちょうどいいやとリリアは伯爵家の生徒を見た。先程までの態度を一変させ、彼はビクリと怯えたように肩を跳ね上げる。

 

「もう時間ですから、終わりにしません?」

「は、はい! そうですね」

「……?」

 

 一体どうした、と彼女は首を傾げたが、生徒はそのまま逃げるようにその場を後にしてしまったので疑問は晴れないままである。そりゃあこっちの方が滅茶苦茶偉いが、それでもそこまでか、と思ったのだ。

 まあいいや、と彼女は振り返った。視線の先には、どこか怯えたような平民の男子生徒と女生徒が。

 

「そういうわけなので。喧嘩はこれで終わりということで」

「え? あ、は、はい……」

「何だかさっきと反応違いすぎません?」

「い、いえ……その、公爵家の方ですし」

 

 おっかなびっくりそう述べる男子生徒に、リリアは少々不満げな表情を浮かべた。自分がそういう態度をされるのは別にいい。ついでにいうならば最初の態度のままでも別にいい。彼女はそういうタイプだ。そういうタイプになってしまったから、問題はない。

 

「そう思うのなら、向こうの人にもやったらよかったじゃないですか」

「え?」

 

 彼女がされるのは、問題ないのだ。ただ、そことは違う部分で、リリアは気に入らないように目を細めた。

 

「伯爵家のあの人には普通の態度で、公爵家のわたしにはペコペコする。そんな風なら、それは向こうだって馬鹿にされたって思いますよ。……んー、まあ、あの人の態度はわたしとしては微妙でしたが、それを踏まえてもどっちもどっちですね」

 

 軽い調子でそう言いながら、リリアは細めた目を二人に向ける。忘れてはいけないのは、彼女の目は通常時ならツリ目気味ではあるもののパチリと可愛らしいものだが、細められると途端に人相が悪くなることだ。ましてやそんな状態で見られでもしたら間違いなく睨んでいると判断されるということだ。

 当然平民の生徒二人もそう思った。公爵令嬢が、不機嫌そうにこちらを睨んだと思ってしまった。

 

「も、申し訳ありません!」

「何でわたしに謝るんですか?」

「え、それは、公爵令嬢様を不快にさせてしまったから……」

「いやだからそれやるのなら最初から向こうにもやってくださいよ。余計な時間使っちゃったじゃないですか、もー」

 

 他意はない。リリアにとっては普段の会話である。というかぶっちゃけ何も考えていない。彼女の中では本当に口にした言葉以上の意味もなく、また不快さもない。加えるならば、普段はエルがいるし、そうでなければラケルなりグレイなりカイルなり、そしてルシアなりがいるのでその辺を汲み取って話を続ける。

 だが、今回はリリア一人。そして彼女のことを分かっている人物もここにはいない。

 

「――ひっ」

 

 だから、そのまま踵を返して去っていくリリアを見ても、生徒達は恐怖しか覚えなかった。ザザザ、と野次馬が割れるように彼女の進路を開いていく。

 

「んー。顔を知られるというのは結構重要かもしれませんね」

 

 一人呟きながら教室へと戻るリリアは知らない。呑気に自分のメイン回への展望を考えながら歩いている彼女は知る由もない。

 リリア・ノシュテッドは昔の噂通り、人を人と思わぬ傍若無人の悪逆令嬢である。今回の騒ぎが噂となって広まり、そんな土台が出来かけていることなど、これっぽっちも。

 

 

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