転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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ファンタジーでヒロイン沢山となればバトルは付きもの(偏見)


第三話

 カイル・レオ・アルムグヴィストは王国の第二王子として生を受け、国王である父、王妃である母、七つ歳の離れた兄に愛されて育った。そこに偽りは何もない。

 だが、幼い頃に自覚した自身の中身は『嫌な奴』であった。あれだけ愛されているにもかかわらず、自分の本質は捻くれていた。ただ、自覚したことで、素の自分を出してしまえば嫌がられるということも同時に学んだ。思うがままに発言を、行動をしてしまうと相手を不快にさせてしまうのだろうということを幼いながらに覚った。

 だから彼は、そのことを知っている父と母、そして兄など極一部の、その人達がいる時以外は自分を抑え込むようになった。相手を出来るだけ不快にさせないようにと気を付けて生活するようになった。

 そのおかげで、今度は人の顔色ばかり伺う気弱で情けない人物だと噂されるようになったが、素の自分を見せてさらなる悪評を受けるよりは余程良かった。

 

「……やってしまった」

 

 だというのに。リリア・ノシュテッドとの小さなお茶会で、彼は思い切り素の状態で彼女に接してしまった。彼女の言葉に感銘を受けたのかといえば別にそういうわけでもなく、初めて言われたというほどでもなく。思い付きで喋っているのがバレバレの、何ともお粗末な説得とも説教とも言えないものではあったのだが。

 

「いや、でも。あれは仕方ない」

「何が仕方ないんだ?」

「うわ、兄上」

 

 ううむと唸りながら王城の廊下を歩いていたカイルの背後から声。振り向くと、彼の兄であるスヴェンが従者を伴って立っていた。いつもの癖で取り繕おうとしたカイルは、しかし先程のことを思い出しもう無駄かと諦めたように力を抜く。

 それを見たスヴェンが目をパチクリとさせた。周囲を見渡し、誰もいないなどというわけでもないことを確認し。

 

「何かあったのか?」

「……まあ、ちょっと」

 

 あはは、と苦笑する弟を見て、ふぅんと口角を上げた。確か今日の彼のスケジュールは、婚約者候補である公爵令嬢とのちょっとしたお茶会。成程成程、と下世話な予想を立てたスヴェンは、面白そうにカイルの肩を叩いた。

 

「気に入ったのか?」

「まあ、そうといえば、そうなのかな」

 

 歯切れの悪い返事が来る。これはもう少し詳しく聞いたほうが面白そうだと判断した彼は、即座に場所のセッティングを手配した。

 そうして座ってお茶を飲みながら続きをと相成ったのだが。カイルが開口一番に言った言葉がこれである。

 

「ケンカを売られた」

「は?」

 

 飲もうとしていた紅茶を零しかける。どういうことなの、と怪訝な表情を浮かべたスヴェンは、もう少し詳しく頼むと弟に述べた。もとよりそのつもりだったので、彼は今日の、あの場所での出来事を覚えている限り詳細に語って聞かせる。

 その結果、兄が頭を抱えた。

 

「いやまあ、子供のやることではあると思うけれど」

「公爵令嬢だけどね」

 

 そこだ、とスヴェンが苦い顔を浮かべる。確かにノシュテッド公爵が娘にダダ甘なのは有名だが、それとこれとは話が別。そう思いたいが、のびのび育てましたと自信満々に言いそうだと以前会話した公爵の顔を思い出し彼は再度溜息を吐いた。

 

「しかし、まさかそんな噂通りだとは」

「あ、それはちょっと違うな」

「ん?」

「確かに考えなしだったし、思い付きで行動している感じではあったし、傍若無人という意味ではそうなんだけど」

 

 ボロクソに言いながら、カイルはリリアの姿を思い出す。あれは噂になっていたそれとは方向性が違った。我儘というよりは、お転婆。

 

「少なくとも、僕は好きだな」

「……へぇ」

「見てて面白いからね」

「…………へー」

 

 一瞬でも恋の波動を感じ取ったのが間違いだった。そんなことを思いつつ、スヴェンはほんの少しだけ口角を上げる。まあ、似た者同士は案外相性が良かったりするからな。口には出さずに、とりあえずは弟が取り繕いにくくなった原因を作った公爵令嬢を褒めておこうと彼は思った。

 

 

 

 

 

 

「あれは駄目ですね」

「とうとう王子を駄目扱いし始めたよこのお嬢さま」

 

 はぁ、と溜息を吐きながらリリアはエルの淹れてくれた美味しい紅茶を飲む。本当に何でこんな無駄に万能なのだろう。そんなことを一瞬思ったが、今までの自分の行いのせいだということに気付いたので考えなかったことにした。他に担当の従者が居着かないんだからそりゃ全部の担当回ってくるよね。

 

「ねえ、エル」

「どうしました?」

「今更だけれど。どうしてわたしのメイドを続けているんですか?」

「お給料いいからです」

「……そうですか」

 

 聞いた自分が馬鹿だった。そう結論付けかけたリリアは、いやちょっと待てと思い留まる。そんな理由だけで自分みたいな傍若無人のメイドを続けるのだろうか。事実、他の自分付きの使用人はポンポン辞めていったのに。

 彼女に刻まれた、前世由来とかいう胡散臭いムダ知識がグルグルと回りだす。そういえば失念していた。お嬢様のお付きの万能メイドとか、結構いい感じにサブヒロインの条件を満たしているのではないか。唯一のネックは歳であるが、はてさて。

 

「エル」

「はいはい」

「あなた、今いくつなんです?」

「十三ですよ」

「成程、十三ということはわたしと同年代が主人公だとしても十分範囲な――十三!?」

 

 二度見した。失礼だなこのお嬢、という目で見ているエルを無視して、彼女をまじまじと見やる。あまり気にしていなかったが、改めて見ると確かに若い。艷やかな黒髪と、整った顔立ち。ハリのある肌はそれを裏付ける。

 だが、喜怒哀楽でコロコロと表情を変えるくせに、肝心の中身を見せないようにしているその在り方や、大抵のことは一人でやれてしまう万能ぶりなど、とても十代前半がやれるようなものではないものを身に付けているのも事実だ。

 万能メイドという字面に騙されたのかもしれない。ひょっとしてメイドをしているだけの、何か全く別の存在の可能性が浮上してきた。

 考えられるのは、人外の存在だ。魔物と呼ばれる存在は野生動物に近いレベルなので論外としても、中・上位の幻創種である精霊、最上位の悪魔や神獣などは人に紛れ込んでいてもおかしくはない。刻み込まれたムダ知識がそう訴えかけている。

 あるいは、幼い頃に様々な技能を叩き込まれ、目的遂行のために闇夜に紛れるような存在かもしれない。その場合暗殺のターゲットは恐らく自分だ。

 どちらに転んでも現状の自分では持て余すこと請け合いである。

 

「ねえ、エル」

「さっきからそればっかりですね。何です?」

「これからも、わたしのメイドでいてくれますか?」

「お給料くれるなら」

 

 それでも手放すことはしない。この盛り方だと場合によっては敵の可能性があるので、目の届かないところにいられると危険だからだ。あるいはそんな適当な建前を取っ払って、いないと不便だし最近はこの軽口がないとちょっと寂しいと思っているからとぶっちゃけてもいい。兎にも角にも、リリアにはエルが必要なのだ。

 

「よし、じゃあ話を戻しましょう」

「話題ぶっ飛ばしたのもお嬢さまですけどね」

 

 エルの言葉を無視し、リリアはこの間の小さなお茶会のことを思い出し不機嫌そうに唇を尖らせた。何が気弱だ、何が情けないだ。口は悪いし思い切り煽ってくるしで全然違う。

 

「私思うんですけど。あれがカイル王子の素なんじゃないですかね」

「だとしたら相当捻くれてますね」

「……そっすねー」

「なんですかその目は」

 

 それは勿論お嬢さまと似ているからですよ。とかそんなことを言った暁には夕食どころか三食抜かれかねない。なんでもありませんよ、とエルはひたすらとぼけた。

 それで、カイル王子の分析をしてどうするんですか。そんな言葉を続けた彼女に向かい、リリアはそこですと指を立てた。性格はとりあえずどうしようもない奴だという判定を下しておくとしても、それ以外の部分が未だ未知数。噂通りだと考えるのは早計に過ぎる。

 

「まあ実際が実際でしたしね。噂なんか当てにならないってなっても不思議じゃないですけど」

「ええ。……その手の主人公がいないこともないのだけれど、王道かといわれるとちょっと」

「何一人でブツブツ言っちゃってんですか」

「こっちの話です」

 

 覚醒タイプではなく、実力を隠していた系だ。既にそのポジションはノーラがいるのでキャラ被りが甚だしいのだが、物語のようにきっちりと全員別タイプというようにはならないのだろう。そんなことを結論付け、リリアは一旦その辺りを置いておく。

 今問題なのはカイルが本当にそうかどうかだ。実際は口だけのへっぽこの可能性だって勿論あるし、その場合キャラ被りもないの一安心だ。ついでにいえば彼が主人公である確率もぐっと減る。その場合、彼女の知識による立ち位置通りならばまだ見も知らぬ主人公(仮)にチョロインすることになるのだが、本人はその辺深く考えていないのかもしれない。

 

「どうやったらその辺りの確認出来るんでしょうか」

「まあ、いっそこないだみたいに直接会って確かめたら、なんて」

「成程。その手がありましたか」

「え……? 本気で言ってます?」

 

 

 

 

 

 

 王城の一角には練兵場が併設されている。近衛騎士の鍛錬や、王族の勉強にも使用されるその空間で、一人の少女が仁王立ちをしていた。言わずもがな、リリア・ノシュテッドである。その傍らにはもはや野次馬に徹することを決めたエルと、そして何故か呼び出されたノーラがいた。

 

「エルさん」

「どうしました、先生」

「何故に私はここにいるんでせう」

「何でもお嬢さまの記念すべきデビュー戦なので、先生にはぜひ観戦して欲しいとかそういう理由らしいです」

「場所的に王城関係者ですよね!? デビュー戦はもっと軽い人からにしましょうよ、その辺のごろつきとか」

「……この人も大概だなぁ」

 

 公爵令嬢がゴロツキとやりあう場面は大分異質である。わざわざ相手にするために捕まえて来たら間違いなく危険人物であるし、町中で遭遇して戦う羽目になっていたら公爵令嬢ってなんだっけとなるからだ。

 尚、エルの感想はこの人『も』、である。リリアがノーラの影響を受けていないかと言えば嘘になるが、彼女がアレなのは紛れもない本人の気質だ。

 ともあれ。前回のお茶会とは違い、今度はリリアが待っている立場で、やってくる側なのがカイルだ。待たせちゃったかな、と軽い調子でやってきた彼を見て、彼女はふんと鼻を鳴らした。

 

「ははっ。随分と嫌われたなぁ」

「自覚あるなら気を付けてください」

「君が言うのかい?」

 

 やれやれ、と肩を竦めたカイルを見て、リリアはやっぱりこいつ嫌いと顔を顰めた。そしてそんな二人を眺めていたエルは、似た者同士って反発する時はとことん反発するんだよなぁ、と呑気なことを考えている。ノーラは緊張でガチガチだ。

 

「り、りりりりりりりリリアさん!? え? デビュー戦ってまさかカイル様と戦う気ですか!?」

「そのまさかですけど」

 

 ノーラの意識が一瞬飛んだ。が、すぐさま持ち直し、いやいやいやと物凄い勢いで手をぶんぶん振っている。リリアはそんな彼女を見て心配いりませんと笑みを浮かべ、カイルは逆に怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「彼女は?」

「わたしの先生です」

「……有名な人?」

「いいえ。そういうのを嫌がる人なので」

「リリアさんからの評価が重い!? 私ただの貧乏下級魔道士ですよ!?」

「……思い切り恐縮しているけど」

「真の強者は実力を隠すものですよ、カイル様」

 

 ドヤ顔でノーラの説明をするリリアを見ていると、本当にそうなのかと思ってしまう。が、カイルの目にはそこまでの実力者には見えない。魔道士としてのランクを示すブレスレットは下級であるDだが、見た感じ中級程度は問題なく突破できる実力は持ち合わせているだろう。そう評価は出来るが、それだけである。リリアの口振りだと大魔道士もかくやといったレベルに感じてしまうのだが、本人自体も否定しているので間違いないだろう。

 まあいいや。そんな風に割り切ったカイルは、じゃあ早速手合わせしようかとリリアに述べた。当然と拳を打ち鳴らした彼女は、合法的にぶっ飛ばせるとワクワクしている。彼女の中では既にカイルは主人公ではない。だから別にチョロインすることにもならないだろうから好きにやっていい。そういう結論である。

 

「本当に変な人だね、君」

「カイル様ほどではないと思いますけど」

 

 唇を尖らせながらそう述べるリリアを見て笑みを強くさせたカイルは、しかしそこで動きを止めた。そういえば、と後ろを振り返った。

 彼と同年代らしき一人の少年が、不機嫌さを隠そうともせずに立っている。何で自分がこんなことを、と言わんばかりのそれを見て、カイルは先程とは別の笑みを浮かべた。

 

「ねえ、リリア嬢」

「なんですか」

「ここまで来ておいて何なのだけれど。君は本当に戦えるのかい?」

「失礼な」

 

 またバカにした、とリリアの表情が険しくなる。それを見て満足そうに頷いたカイルは、ごめんごめんと明らかに謝っていない謝罪をした。当然彼女の十字マークが増える。

 

「今からカイル様をぶっ飛ばして証明してあげますから、安心してくださいね」

「ははは。それはちょっと困るな。僕がぶっ飛ばされちゃったら確認出来ないからね」

 

 そう言って彼は少年の隣に立つ。何を、と怪訝な表情を浮かべる少年の肩を叩くと、そういうわけだからと背中を押した。

 

「カイル王子?」

「グレイ。ちょっと彼女の相手をしてあげてくれないかな?」

 

 は、と声を上げたのはリリアだ。こちとら目の前のいけ好かない王子をぶっ飛ばしに来ただけなのだから、関係のない相手を叩きのめしても面白くも何ともない。大体そんなような感じの言葉を、オブラートに包むことなく言ってのけた。間違いなくケンカを売っている。

 当然グレイと呼ばれた少年は明らかに怒りの視線を向けた。騎士として、公爵家として実績を上げている我が家を愚弄するのか、と彼女に食って掛かった。

 

「騎士? あなたアルデン公爵の?」

「グレイ・アルデン。騎士の鍛錬を受けているアルデン公爵家の人間が、ノシュテッド公爵家の我儘令嬢などに遅れを取るはずがないだろう」

「確かにそうですね」

「ふん。分かったなら――」

「つまり、あなたがただ弱いんでしょう?」

「なん、だと?」

 

 横でカイルが爆笑している。リリアとしては単純に思ったままのことを口にしただけなので、そのリアクションをされるのは面白くない。

 そもそも、登場から言動まで何から何までやられキャラなのだ。刻まれたムダ知識によると、大抵この手のキャラは初登場はボコされる役割である。その後は多数に分岐するので一概には言えないが、出発点は大体同じ。

 

「出来ればここで敗北した後に成長してくれるのが望ましいんですけど」

「机の上で勉強しただけで一人前になった気でいる箱入り娘が、偉そうに……!」

 

 リリアの呟きは当然のようにグレイへのさらなる挑発になった。もう許さん、と一歩前に出ると、数々の暴言をなかったことには出来んぞと彼女を睨みつけた。

 よし決まりだ。そう言ってカイルはもう少し下がる。ちゃんと言うだけの強さを見せてよね、と二人に刺さる挑発をするのも忘れない。

 

「とりあえず、この人を叩きのめしたら次はカイル様ですからね!」

「はいはい」

「どこまで人を馬鹿にして……!」

 

 グレイが射殺さんばかりにリリアを見る。カイルから視線を戻した彼女は、そんな彼を真っ直ぐに見た。心配しなくても、始まったら余所見はしませんよ、口角を上げた。

 

「なにせわたしは、共に立って進む系チョロインですから」

「訳の分からないことを抜かすなっ!」

 

 あーあ、というエルの横では、まあ王子よりはデビュー戦としては多少マシかな、とノーラが一人唸っていた。恐らくこの場で一番変人なのは彼女である。

 

 

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