転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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お嬢様とは所詮、拳と拳でしか分かりあえない不器用なもの


第七話

 さて、とエルは対面の二人を見る。片方は先程リリアの非殺傷の雷呪文とやらで感電していた赤毛の少年だが、派手に倒れた割にはピンピンしているのが気になった。彼女が配慮をしていたのは確かなのだろうが、そうでなくとも彼自身の能力の高さによるものの可能性がある。まあどちらにせよ自分が相手をするのはこちらだろうとエルは当たりを付けた。

 

「お嬢さま」

「なんですか?」

「そっちは任せていいです?」

「そっちってどっちですか」

「向こうのお嬢様」

「……別に、いいですけど。あの人戦えるんですか?」

 

 キースを一歩前に出させ、自身は様子を窺うように立っている彼女を、ラケル・カルネウスを見る。明らかに戦いに向かないであろうゴスロリドレスの彼女を見て、リリアは思わずそんなことを呟いた。

 が、即座にじゃあオメーのその恰好なんだよというエルのツッコミが飛んでくる。

 

「戦いやすいように誂えた特注バトルドレス試作品その二、知ってるでしょう?」

「知ってるから聞いたんですよ。向こうはギルドの元締めの令嬢、その辺織り込み済みに決まってんでしょうが」

「じゃあやっぱりキャラ被ってるじゃないですか」

「それこだわる必要あります?」

 

 はぁ、と溜息を吐いたエルは、もういいと会話を打ち切ってキースに視線を向けた。その眼光に思わず反応した彼へと、彼女は一気に駆ける。

 

「武器も持たずに何が出来る!」

「そっくりそのままそのセリフ返しますよ!」

 

 ちょいやー、と拳を繰り出したエルのそれをあっさりと受け流したキースは、決まってんだろと笑みを浮かべた。彼女へと一歩踏み出し、そのまま腹部に掌底を叩き込む。あいたー、という間抜けな声とともに、エルは後方へと吹き飛んでいった。

 

「こういう状況でも対処できるように、武術はしっかりと学んでるんでな」

「エル!?」

「余所見をしていて良いのかしら?」

 

 思わず目で追ってしまったリリアへ声。え、と視線を戻した時には、既に蔦が鞭のように襲い掛かるところであった。回避は間に合わない。

 

「わわわぁ!」

 

 無意識に魔装術で生み出した斧を振るう。盛大な音を立てて斧が回転し、蔦はズタズタに切り裂かれた。そのまま勢い余って斧は地面に突き刺さる。再度盛大な音を立て、地面が揺れるような錯覚を起こした。

 

「……うう、バカイル様のせいで不意打ちに耐性が出来ている自分が嫌……」

「言うほどカイル王子不意打ちしてませんけどね」

 

 起き上がったエルが彼女のボヤキを訂正し、再度その隣に立つ。思い切り殴りやがって、と腹を擦ってはいるものの、どうやら大したダメージは受けていないようであった。そのことでキースは思わず目を見開いていたが、ラケルは寧ろ当然といった表情を崩さない。先程の攻撃を防がれても、である。

 

「お嬢、やっぱりこいつら普通じゃないぞ」

「ええ、そうね。それが?」

「……勝てないだろ?」

「何を言っているのよ。冗談は休み休み言いなさい」

 

 勿論と言うべきか、キースの言葉にもまるで動じない。そんなことでは一人前には程遠いなどとダメ出ししつつ、彼女は視線を二人に固定させている。

 一方、そんな二人の方はというと。

 

「それにしても、エル」

「なんです?」

「どうして無事なの?」

「何か無事じゃないほうが良かったみたいな聞き方された」

「いや、無事に越したことはないですよ? やっぱり普通じゃなかったんだなぁって再確認するだけで」

「お嬢さま私のこと普通じゃないって思ってたんですね」

 

 やれやれ、と肩を竦めるエルをジト目で見ながら、それはそうだろうとリリアがぼやく。自分の専属メイドという立場で、大抵のことはやれてしまう万能ぶりの時点で割とその傾向はあった。あったのだが、今回のように人混みをすり抜けながら人を追いかけ、戦闘行為もむしろノリノリで始めてしまうところまでいくともうどうしようもない。

 彼女の中のムダ知識も、やっぱりこいつ人間じゃないんじゃないかな、という疑問を投げかけてくる始末だ。流石にそれは飛躍し過ぎだろうとリリアは脳内のそれを却下していたが。

 

「まあでも。そのくらいの方がわたしには丁度いいんですけど」

「わーい無茶振りさせる気満々だぁ」

「ちゃんとその時はお父さまに言ってお給金上げてもらいますから、そこは安心してください」

「お嬢さまだいすきー」

 

 というわけで、とエルはキースを睨む。何だこいつ、という表情を変えないまま、しかし彼は半身に構え拳を握った。ラケルはほんの僅かに目を細め、視線を彼女ではなくその横にいるリリアへと向けている。あのやり取りで一体何をやろうとしているのか。それとも、特に打ち合わせもなにもしていないのか。そこが不明瞭ではあったが、どちらのパターンでも構わないと口角を上げた。どのみちやることは変わらない。

 

「エル」

「はいはい」

「先手はもらいます!」

 

 地面に突き刺さっていた斧を引き抜く。それを横薙ぎに振るうかのように構えると、その先端に何やら光を収束し始めた。そしてそのまま、それを放り投げるように思い切り斧を振り回す。

 瞬間、七つの稲妻が撒き散らされた。

 

「なっ!?」

 

 距離を詰めようとしていたキースは急停止、即座にバックステップし、稲妻の着弾点から退避する。が、まるで生き物のように縦横無尽に動き回るそれは、どこが着弾点なのかがまるで分からない。

 

「キース。こっちに来なさい」

「お、おう!」

 

 ラケルに言われるがまま彼女の横に向かう。いつの間にか右手に持っていた短剣を眼前に掲げると、それを上空へと投擲した。三本の短剣は空中で三角形の頂点を形作り、それに合わせるように柱のようなものが生み出される。

 それが避雷針となり、稲妻はそこに吸い込まれた。が、抑えきれなかったのか、避雷針は弾き飛ぶ。

 

「ふざけた威力ね」

「防ぎきってから言われても嫌味にしか聞こえませんよ」

「あら、ごめんなさい。でも驚いたのは本当よ」

 

 今のは雷龍の魔術ね。そうラケルが尋ねると、リリアはそれがどうしたと思い切り不満げに頬を膨らませる。分かりきったことを聞くんじゃないと言わんばかりの態度だ。

 

「書物か映像でしか見たことがなかったものだから、少し驚いたわ。何故そんなものを?」

「何故も何も、先生に教えてもらった魔術の一つでしかないですよ。先生も別に何も言ってませんでしたし」

 

 リリアさんリリアさん、これ覚えません? そんな軽さで古書店を漁って見付け出した魔術を書かれているままに教えたのは先生ことノーラであり、リリアが使ってみせた時はこれでいつでも生で見れますねと笑っていたのもノーラである。この変人ぶりのおかげで、彼女のイメージはリリアの中で未だに覆されていない。

 

「……何者なの、その先生とやらは」

「私の自慢の、最高の魔道士です」

 

 ドヤ顔でのたまう。ラケルがちらりと視線をドヤ顔令嬢からエルに動かすと、物凄く苦い顔を浮かべているのが目に入った。微妙に判断が付かないが、しかし実際に物珍しい魔術を当たり前のように教えられ習得しているのは紛れもない事実。こうして無駄話に付き合ってくれているから余裕はあるものの、問答無用で構わず攻撃を続けられていたら少々危なかったかもしれない。

 そんなことを思いながら、ラケルは溜息とともにキースの尻を蹴飛ばした。

 

「いってぇ!」

「呆けていないで、ほら、向こうのメイドを止めなさい」

「え? まだやんのかお嬢」

「当然よ。まあ、心配しなくてもそろそろ来るわ」

 

 だから、と彼女が続けたので、キースは諦めたように視線を前に向けた。ラケルの指示に従い、エルが邪魔をしないように足止めを行う。合流されたり連携されたりしないように、出来るだけ引き離す。

 

「鬱陶しいクソガキだこと」

「そこまで歳変わんねぇだろうが!」

「え? そう?」

 

 声色が本気だったので、キースは思わず表情が固まる。彼の現在の年齢は十一、言うほど同年代と身体的な成長差があるわけではないので、目の前のメイドのその反応は本来ならば挑発でしかないはずなのだが。

 

「だったらお前はいくつなんだよ」

「もうすぐ十四になりますよー」

「そこまで変わんねぇじゃねぇか!」

 

 やっぱりただの挑発だったのか。そんなことを思いながらキースはラケルの邪魔にならないように距離を取る。それに合わせるようにエルもリリアから離れていく。

 

「……あれは、貴女の指示かしら」

「え? あ、あー、はい。そうですよ」

「ブラフを張りたかったら、もう少し自然に受け答えをすることね」

 

 そう言いながら、ラケルは短剣を数本取り出した。どこかに仕舞っていた、というふうには見えないので、リリアのように魔装術で生み出したのだろう。それを投擲し、数歩下がる。

 勿論リリアに避けるという選択肢は存在しないので、斧で短剣を弾き飛ばしながら間合いを詰めんと足を踏み出した。

 

「あ、れ?」

 

 踏み出し、そのまま思い切り倒れる。べしゃり、と轢き潰れたカエルのような状態になったリリアは、立ち上がろうと足に力を込め、そして再び倒れた。

 視線の先にはこちらを見下ろすラケルの姿が。表情に驚きはなく、予想と何もずれていないと言わんばかり。

 

「……あなたの、仕業ですか」

「他に誰がやるというのよ」

 

 呆れたような物言いに、リリアの額に十字が浮かぶ。今回は真っ先にエルがキレていたので控えめになっていたが、元々リリアの沸点は恐ろしいほどに低い。こんちくしょうと半ば気合で痺れている体を立ち上がらせた。

 

「何をどうやったか知りませんが、そう簡単に倒されると思わないでください!」

「そうね。あまりにも簡単に引っかかったから拍子抜けしていたけれど……そうこなくては」

 

 右手を一振り。そうして再び短剣を生み出したラケルは、それを再度投擲する。先程と同じであれば、これは弾くのではなく避けるほうが望ましい。そう判断したリリアは横に躱そうと足に力を込め。

 唐突にムダ知識からヒントが引き出された。このパターンは武器そのものがトラップか何かだ、と。

 

「このぉ!」

「へぇ」

 

 風の魔法を、斧を起点にして唱えた。投擲された短剣はそれにより吹き飛ばされ、ラケルの方へと戻されていく。それが何かにぶつかる前に、彼女は魔術を解除し短剣を消し去った。

 

「即座に対策を変えたわね。その機転は称賛に値するわ」

「…………そうでしょうとも!」

「何よ今の間は」

 

 ムダ知識由来のヒントが無かったら普通に避けて普通にもう一度痺れていたなんて言えない。言えないのでリリアは思い切り虚勢を張った。ラケルにはほぼバレバレだったのだが、しかしそうなると対処できた理由が分からず彼女は眉を顰める。

 

「まあいいわ。ある程度のことは分かったし」

 

 今度はこっちの番だ、と踏み出そうとするリリアに向かって短剣を投擲。地面を抉りながら急ブレーキをかけたリリアは、そのまま斧を地面に突き立てると思い切りバックステップをした。カンカンと音を立てて短剣が斧に弾かれ、しかし何も起きずに身構えていた彼女はあれ、と首を傾げる。

 

「時間よ」

「は?」

 

 ラケルは視線を自身の後ろに向ける。思わずそれを目で追ったリリアは、一人の老婆が呆れたような顔でやって来ているのを見た。誰ですか、と思わず口にして、老婆はガリガリと頭を掻きながら彼女へと頭を下げる。

 

「無駄に歳を重ねた冒険者ですよ、お貴族様。一応、そこのクソガキの教育係でもありますが」

「げ、オババ」

 

 その声に気付いたキースが振り向き顔を顰める。どうやら騒ぎは終わりのようだと判断したエルは、そこで動きを一旦止め、リリアの方へと足を向けた。

 

「お嬢。街で騒ぎを起こすんじゃない」

「あら、私は起こしてないわ」

「キースに命じた時点で同罪だよ。ったく、お館様がまた悲しむぞ」

「父様には根回し済み。規模も約束した基準に収めてあるわ」

 

 はぁ、とオババと呼ばれた女性は溜息を吐く。もういい、と話を打ち切ると、やってきたキースにげんこつを落とした。何でオレだけ、と嘆く彼に、オババはハンと鼻で笑う。

 

「お嬢を止めんかい」

「無理に決まってんだろ」

 

 追加のげんこつが炸裂した。沈黙したキースの首根っこを掴むと、オババはそのまま踵を返す。お騒がせしました、と振り返ると再度頭を下げた。

 そうして残されたのはリリアとエル、その目の前に立つラケルのみ。

 

「では、私も帰りましょうかね」

「え?」

「元々貴女の言葉一つで本当にギルドがどうにかなるなんて思っていないわ。噂の公爵令嬢がどんな反応するか見てみたかっただけ」

「え?」

「昔の噂と、最近聞いた話。それらを統合して、後は自分の目で判断したかったのよ」

「え?」

 

 わけが分からない。頭にハテナマークが浮いているリリアに向かい、エルがこっそりと耳打ちをする。何かお嬢さまがどんな人か知りたかっただけらしいですよ、と。

 それを聞いて再起動したリリアは、何でそんな回りくどいことをと眉尻を下げた。聞けば素直にいくらでも教えるのにとぼやいた。

 

「ごめんなさい。性分なの。……そこの従者の彼女の言う通り、こまっしゃくれた、可愛げのない子供だから」

 

 そう言って頭を下げ謝罪したラケルは苦笑する。それは先程までとは違い、どこか彼女の本音に思えて。

 だからリリアは思わず口にしていた。別にそんなことはない、と。

 

「それはそれで。何かこう、余裕を持った大人って感じでわたしはカッコいいと思いましたよ」

「カイル王子は?」

「あれはただ性格が悪い!」

 

 エルの呟きに全力で返した。こういう風に素直に説明するような性格じゃないし、そもそもあれは謀略とかそういうのじゃなくただの嫌がらせだ。ボロクソに貶しながら、だから目の前の彼女とは違うと力説した。

 

「そもそも冒険者ギルドの元締めのご令嬢ですよ。かっこいいじゃないですか!」

 

 ムダ知識が語りかける。これは間違いなくヒロインのポジションだ。あるいは主人公。後者だった場合チョロインポジである自分はどうなるのか若干不安だが、まあそこら辺は後に回そうとリリアは流した。

 ともあれ、そういうわけだからまあ気にしないで欲しいと彼女は笑った。あっけらかんと言い放つそんなリリアを見て、ラケルは思わず目を丸くさせる。

 

「……ふ、ふふふっ。ありがとう。ねえ、もしよかったらだけれど」

 

 リリア・ノシュテッド公爵令嬢の今日の成果。

 お友達が増えました。

 

 

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