転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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学園編? プロローグ


第八話

 リリアが前世の知識だとかいう眉唾もののムダ知識を刻み込まれてからはや数年。これまでの傍若無人さが広まっていた時間と同じくらい今の彼女が定着し始めた頃。

 

「……入学、ですねぇ」

「どうしたんですかお嬢さま。いつも以上の間抜け面で」

「エル。いくらわたしでも怒る時は怒りますよ」

「いやお嬢さま割と年中怒ってますよ?」

 

 なんだとこら、とリリアが立ち上がる。ほらそれ、とエルが彼女を指差したので、怒りのボルテージが更に上がった。エルの今日の食事のメインディッシュは抜かれるらしい。

 それで気持ちを落ち着かせたリリアは、ぐへぇと項垂れているエルに向かって話を続ける。少し魔導学院について思うところがあるだけだ、と。

 

「一瞬で怒って一瞬で冷めるのやめません? いや冷めるなってことじゃなくて、怒るなって意味で」

「余計なことを言うからでしょう?」

「他の人に、ですよ。歳だって十二も越えてもうすぐ学院生なんですし、その調子だと無駄に敵を作りますよ」

「分かってますよ。今悩んでいたのがそれなんですから」

 

 そう言ってリリアは眉尻を下げる。自身はツンデレお嬢様チョロインではあるが、そのデレとチョロの部分は誰にでも発揮されるわけではない。あくまで主人公、あるいはそれよりは劣るが同じメインキャラやヒロイン達。そういった主要人物以外には大抵ツンが勝るのがお約束だ。

 わざわざお約束を世襲する必要あるのかというツッコミを入れる存在が生憎とどこにもおらず、ムダ知識はそれがお約束だからと後押しする始末。一応フォローするならば、彼女自身もしょうがないと諦めているがこれが良いことだとは思っていない。直せないだけだ。

 そもそもリリアの本来の性格が悪役令嬢なのだから至極当然とも言えるが、そんなことなど知る由もない彼女にとっては、熱しやすく冷めやすい己のこれは学院生活を送る上で目下の問題となり得るものであった。

 

「何だかんだお嬢さまの周りはその辺織り込み済みの人達ばっかりでしたしね」

「そうなんですよね。改めて思うと、物好きだなぁって思います」

 

 はぁ、とリリアが溜息を吐く。そんな彼女を見ながら、エルは柔らかい笑みを浮かべた。一回ラインを超えてしまえばただの面白い女の子だからだよなぁ。などと若干失礼なことを思いつつ、後は向こうも割と変人だからだろうと追加で失礼なことを考えた。

 

「とりあえず、学院で新たな変人を集めましょうよお嬢さま」

「そうで――今なんて?」

「後はそんなに不安なら、その物好きな面々に尋ねてみては?」

「ですからエル、今なんて言いました? 変人? 変人を集めろって言いませんでした?」

「やだなぁお嬢さま、頭の次は耳まで悪くなりました?」

 

 そう言ってケラケラ笑うエルにピキリと来たリリアは、エルの食事から飲み物を抜こうと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

「というわけなんですけど」

「無理だな」

 

 即答であった。学院に入る際の不安を話してついでに何かいいアイデアは無いかと聞いた結果がこれである。どういう意味だこらと詰め寄るのも至極当然であった。リリア基準である。

 

「それだよそれ! 公爵令嬢ってもっとこう、あるだろ?」

「失礼な」

 

 胸ぐらを掴みながら言っても説得力がまるで無い。この数年でそこそこ成長したおかげでツインテールのボリュームも増え、身長はそこそこ、体のメリハリは随分増したのだが、性格のアレさは微塵も変わっていないのが現状だ。だからこその相談なのだから当然なのだが、間違いなくこれでは無理であろう。眼前にいる赤毛の少年の言い分はもっともである。

 

「そもそもだな。こんな場所で聞くのが間違って――ぐぇ、締まってる締まってる!」

「あ、ごめんなさい」

 

 手を離す。ゲホゲホと咳き込みながら、問われていた相手は、キースはジト目でリリアを見た。そうしながら、先程言いかけた言葉を再度述べる。

 場所考えろよ、と。

 

「? 冒険者ギルドが何か?」

「公爵令嬢が! 学院に入る際の不安を! 相談する場所じゃねぇよ!」

「でも冒険者ギルドはなんでも屋ですよね?」

「言葉の意味自体は合ってるけど、そうじゃねぇよ……」

 

 盛大に溜息を吐きながらキースが項垂れた。彼も既に十五、ギルドの冒険者としてしっかりと活躍している年齢だ。危険な討伐依頼にも参加したことがある彼だが、それでも一番面倒な依頼はなにかと問われるとこれだと即答するくらい、彼女達関係には毎回げんなりしている。

 それでも拒否していない辺り、何だかんだ友情なり何なりがあるのだろう。

 

「あら、別に私はそのままで良いと思うけれど」

「ラケル!」

 

 横合いから声。視線をそこに向けると、リリアの友人であり冒険者ギルドの元締め補佐見習い、ラケル・カルネウス辺境伯令嬢が微笑みながら立っていた。肩口を少し越えた程度の長さの銀髪は変わらず美しく、ツーサイドアップの髪型もよく似合っている。ツリ目気味の鋭い瞳は、友人相手だからなのかどこか優しく見えた。

 

「こんにちはリリア。また今回は可愛らしい相談に来たのね」

「お嬢、さっきの見てたか? どこが可愛らしい相談だった?」

「可愛らしいでしょう? 学院での生活で、周囲のことを気にかけるなんて」

 

 優しいのね、とラケルは笑う。そうですかね、とリリアは照れる。

 あれ今のおかしくなかったか、と眉を顰めるのがキースだ。

 

「な、なあお嬢。お嬢も学院に行くんだよな?」

「ええ、そうよ。キースも従者登録はしておいたから、適当な用事で時々呼び出すつもりだけれど」

「いやまあそれは予想通りだからいいんだけど。……お嬢はその辺どうなんだ?」

「どう、とは?」

「だから周囲との関係とか」

 

 恐る恐る尋ねたキースに、ラケルは馬鹿ねと鼻で笑う。こちとらやがてギルドの元締めを継ぐつもりでいるのだ、その程度出来なくてどうする。そう述べてから、ああ勿論と言葉を続けた。

 

「気に入らない相手は弾くわ」

「やってること変わんねーだろ……」

「ええ、そうね。だから言ったのよ、可愛らしい相談だって」

 

 ほえ、と首を傾げるリリアに向かい、まあつまり誰でも似たようなことは考えるのよとラケルは語る。どのみち全ての人間と仲良くなんて出来はしないのだ、自分を知ってもらえた相手と、あるいは自分が望んだ相手と仲良くなれればそれで十分。

 

「その相手が少なくなりそうだから悩んでるんですけど」

「きっかけなんてどこにでも転がっているものよ。学院に入ってみたら杞憂だったで済んでしまったり、とかもね」

「……うーむ」

「ふふっ。そうね、まだ不安なら」

 

 もう少し違う相手に聞いてみたらいかが。そう述べて、ラケルは視線を動かした。ここからでは見えないが、その方向は間違いなく。

 

 

 

 

 

 

「無理だな」

「くぅ……」

「あ、耐えた」

 

 王城の練兵場。そこの片隅でグレイ・アルデンが先程聞いた言葉と同じフレーズを口にした。思わずキース相手と同じように掴みかかろうとし、彼との会話を思い出し踏み止まる。いやオレん時にもやれよ、いう尊い犠牲の存在しないボヤキは風に消えた。

 

「そもそも。お前は公爵令嬢なんだから、取り入ろうとする輩はいても排除しようとする者はそうそういないと思うが」

「そう、です? けど?」

「お嬢さま、不安なら頷くのやめましょうよ」

 

 ギルドの時はついていかなかったエルが呆れたように述べる。そんな二人を見て苦笑したグレイは、しかし言いたいことは分からないでもないと言葉を紡いだ。

 表立って排除しようとする者は確かに少ないであろう。だが、全くいないわけでもない。そして、えてしてそういう輩は、表立って行動せずに裏から段々とリリアの敵を増やしていく。

 

「お前はそのような手段には滅法弱そうだからな」

「どうしてでしょうか。遠回しに馬鹿だって言われている気がするのは」

「毎回最終結論を力押しに持っていこうとしているからじゃないですかね」

 

 エルのツッコミをあえて流しつつ、リリアはううむと考える。そう言われても、その辺りは性分なので仕方ない。ムダ知識を刻み込まれる前からの、自身のスペックでゴリ押ししていた頃から変わらないものだ。最近はムダ知識からのヒントが流れてくることでほんの少しだけ改善されたが。

 現に今も。まあツンデレお嬢様ってあんまり頭脳タイプなイメージないし、そもそも武器が斧な時点でパワー型カマセだし、チョロインポジとか役満だし。というムダ知識からのヒントがポンポンと浮かんでは消えている。数秒迷ったが、これヒントじゃないということに辿り着いたリリアは今のそれをヒントの棚からどかした。

 

「それで、お前はどうしたいんだ?」

「え? どうしたい、というと?」

「ただ敵を作らないようにすればいいのか? それとも、そこから先があるのか?」

 

 目をパチクリとさせた。それは盲点だったと手を叩いた。そんな彼女を見て、グレイは呆れたように溜息を吐き、エルはいつものことだと笑って流す。

 とは言うものの。その先とはなんぞやという疑問にぶちあたったリリアはううむと唸りながらひたすら首を傾げていた。そんな彼女を見て、これで自分より模擬試験は上なのが納得いかんとグレイがジト目で睨んでいる。

 

「リリア嬢を見ていると、勉強が出来ることと頭がいいことは全く別だと再認識させてくれるよね」

 

 ひょい、と乱入者が現れた。奇しくもシチュエーションはギルドでのラケルと同じような状態となったのだが。その乱入者、カイルを見たリリアのリアクションは天と地ほども違いがあった。薄い茶髪の、幼い顔立ちが少しずつ凛々しくなり始めたその少年を見た彼女は。

 

「げ」

「仮にも自国の王子を見た第一声がそれ」

 

 いつものことなんですけど、とエルは諦めたようにぼやく。グレイも慣れたのか、リリアがカイルを見て思い切り嫌そうな顔をするのを眺めながら、何事もなかったかのようにどうされましたかカイル王子と述べている。

 

「いや、偶然通りかかったら面白そうな話をしていたからね」

「偶然? 絶対に知ってて来たでしょうに。白々しいにもほどがあります」

「その方が良かった?」

「どっちも嫌ですけど、そっちの方が予想通りの行動なのでまだマシです」

「成程。でも残念、僕はそこまでして君の行動を把握しようとは思っていないよ」

「わたしが自意識過剰だって方向に持っていきたいんですね」

「だから誤解だよ。王城にある程度の身分の人間がやってくればこちらに情報が来るからね。僕の意思とは無関係に知ってしまうんだ」

「やっぱり知ってたんじゃないですか! このバカイル!」

 

 はははは、と笑うカイルと地団駄を踏むリリア。結局この二人の関係はいつまで経ってもこんな感じだ。最初は婚約者候補であったはずなのに、気付けばその辺りの話は有耶無耶になっている。その割にはカイルに婚約者はまだ確定していないのだが、まあこの性格だからしょうがないかとグレイが思ってしまうほどには、彼は自分を隠さなくなっていた。

 そういう意味ではリリアよりも彼の方が学院で敵を作るであろう。だが、それが問題にならないであろうこともまた事実。

 

「リリア嬢は僕のように取り繕うということが出来ないからね」

「わたしカイル様が取り繕うところ見たこと無いんですけど!」

「どうして君の前で取り繕う必要が?」

「だから! ……言われてみればそうですね」

「お前はもう少し考えて喋ったらどうだ?」

「何も考えてない奴扱いするのやめてくれます!?」

「実際考えてないよね」

「うるさいうるさいうるさーい!」

 

 ジタバタしながら叫ぶリリアはただ駄々をこねるクソガキである。が、いかんせん昔と違ってそろそろきちんと成長してくる身であるため、思春期に突入し始めている男子にはそこそこ目の毒な光景になるわけで。

 

「とりあえず落ち着け。……見えそうだ」

 

 タイツだから恥ずかしくないもんを割りと地でやってそうなリリアを宥め、おとなしくさせる。模擬戦でも最近捲れ上がるスカートに気を取られ吹っ飛ぶことがあるのに、会話中で同じことが起きたらこちらが持たない。少なくともグレイはそういう感じである。

 

「それで。リリア嬢は敵が欲しくないの? 味方が欲しいの? どっち?」

「……え?」

 

 カイルの言葉に顔を上げる。グレイを見ると、まあそういうことだと言わんばかりに頬を掻いていたので、彼女は目をパチクリさせると暫しその言葉を浸透させた。流石にその二つが同じじゃないかと言うほど回転は鈍くない。

 そして、その二つのどちらだと問われた場合、彼女が出す答えは一つだ。まあヒロインの一人として考えてもそうだろうというムダ知識の評価の後押しもある。

 

「味方が欲しいです」

「そう。じゃあ簡単だ」

 

 そう言ってカイルは笑う。ねえ、と横のグレイを見ると、そうですねと苦笑しているのが見えた。どうやら二人共に同じ答えに辿り着いたらしい。

 え、とリリアは首を傾げ、そして傍らのエルを見る。まあ結局そうなるんですよね、と肩を竦めているのが視界に映り。彼女の頭にハテナマークが増えた。

 

「え、っと? わたしの問題、解決できるんですか?」

「うん。簡単だよ」

「その結論なら、簡単だな」

「そうですよねぇ」

 

 三人が揃って頷いた。そうしながら、多分向こうの二人も同じことを言っただろうと彼女に述べる。

 別にそのままで問題ない。口を揃えてそう言うのを聞いて、リリアはポカンと間抜けな表情を浮かべるのであった。

 

 

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