転生悪役令嬢は、自分をハーレムもののツンデレお嬢様チョロインだと信じて疑わない   作:負け狐

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乙女ゲーでいうならヒロイン

ヒロイン?


第九話

「聖女?」

 

 いよいよ魔導学院へ入学する日が来た。期待と不安を綯い交ぜにした状態のまま、リリアは準備をし、馬車に乗り込む。下ろしたての制服はまだ着られている感を醸し出していたが、これからすぐに彼女に馴染んでいくのだろう。

 そんな道中で聞かされたワードがこれである。

 

「聖女というと、あの聖女?」

「どの聖女なのか分かりませんが多分そうですね」

 

 落ち着いた(本人談)ことによって御者を自分でやらなくてもよくなったエルは、リリアとともに馬車の中。改めてと学院でのことをおさらいしていた際に、彼女がそういえばと話題に出したのだ。何でも、教国の聖女がここ王国の魔導学院に留学してくるらしい、と。

 

「どうしてまた」

「そこら辺はよく分かんないですけど。まあでもあんまりいい噂は聞かないですねぇ」

 

 この大陸、この世界に存在する国の英雄の血をもっとも濃く継いでいると言われる大国は四つ。それぞれ簡潔に、王国、帝国、教国、皇国と呼ばれており、現状国同士の結びつきも仲も悪くない。もっとも、それは戦争をしていない、する気がないという意味であり、良くはないという間柄の国も当然存在する。

 その一つが王国と教国。人族の英雄をルーツの祖とする国同士ではあるが、いかんせん教国が自身の方が上だとマウントを取りたがる国家であることが災いしていた。実際教国発祥の地が勇者の故郷であるという言い伝えが残っているので向こうの主張は間違ってはいないのだが。

 

「教国ってどーも魔族軽視しがちというか、人族優遇というか」

「どちらの血も持ち合わせている人が大半の今の世の中で、人族の血が濃い人達でトップが纏められてるんでしたっけ」

「細かいなぁって思いません?」

「まあ、こだわりを持つのはいいんじゃないですか?」

 

 えぇー、とエルが顔を顰める中、リリアは表情を変えずに思考を巡らせる。ムダ知識がギュンギュン騒いでいるのだ。そういやぶっちゃけこれどうなん? バトルものだと敵側か? それとも味方側か? どっちでも美味しい展開だけど。

 うるさいと途中で思考を打ち切って、彼女はエルに向かって言葉を紡ぐ。それで不幸が広がっているわけではないなら、無闇に否定することもない、と。

 

「お嬢さま、どうしたんです? ここんとこの勉強のやり過ぎで頭変になりました?」

「失礼な」

「だって何かお嬢様っぽいこと言い出したから」

「失礼な」

 

 そもそも正真正銘のお嬢様だ。ジロリとジト目で彼女を睨むと、話題を戻すように咳払いをした。それでその聖女がどうしたんだ、と。

 

「いや、お嬢さまなら何かやらかすかなぁって」

「失礼な」

 

 こいつ自分が学院に入学したら自由時間増えるからって調子乗ってるな。寮生活ではメイドの夕食も抜けないので、リリアとしてはいつもの手が使えない。だからこそのエルのこの態度で、だからこそリリアもどこまでシメようかの塩梅を迷っていた。だって給料減らすと普通に裏切りそうだもの。そういう偏見である。

 

「はぁ。まあいいです。エルの処分はまたそのうち考えましょう」

「さらっとエライこと言いましたね」

「それで、その聖女はどんな人なんですか?」

 

 え、とエルが素っ頓狂な声を上げた。それを聞いて、彼女の顔を見て。リリアも何となく察する。こいつほんとにただ噂を聞いて話題に出しただけだ、と。

 溜息を吐いた。学院に着いたらラケルにでも聞いてみよう。そんなことを思いつつ、彼女は馬車に揺られながら視線を外の景色へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 入学式はつつがなく終わった。リリアにとっては横にエルがいないので余計なツッコミも入らない楽な時間だ。最近扱い酷くないです? と抗議をしているイメージエルを無視りつつ、彼女は教室へと足を進める。幸か不幸かカイルとグレイは別クラス。残念なことにラケルも別であった。つまりリリアは一人ぼっちである。

 

「……」

 

 入学早々恐れていた事態になってしまった。席に付きながら何とも言えない表情を浮かべているリリアは、まず状況を動かさねばならないと結論付けた。良い方向にしろ悪い方向にしろ、現状から動かねば無が続くのみだからだ。

 ではどうするか。ううむと考えた彼女は、ムダ知識を探ることにした。あの偏った情報量で果たしてどうにかなるのかという不安はあるが、無いよりはマシだ。そういう判断である。

 自己紹介で思い切りぶちかますとツンデレお嬢様チョロインだよな。発見したそれはボツでゴミ箱に捨てた。何だその「この学院はレベルが低いですわね。わたくしが稽古をつけて差し上げてもよろしくてよ」とかいう沸いたセリフは。多分ムダ知識がなかったら近いものを言っていたであろうことは放り投げ、よし次と知識をページを捲るように探していく。

 隣の席の美少女が実はヒロイン。多分これ該当者自分じゃなくて主人公だろうと思わないでもなかったが、しかし使えないわけでもないのでとりあえずはこれで行こうとリリアは拳を握った。そういうわけで隣を見た。

 美少女であった。ピンクブロンドが鮮やかな、翠の瞳の何とも可愛らしい少女である。思わずリリアも固まってしまい、いかんいかんと頭を振る。その拍子に立派になったツインテールがぶんぶん揺れた。

 

「こんにちは」

 

 笑顔で話しかける。リリアの声に反応した少女はこちらを向いて、一瞬のタイムラグの後こんにちはと笑みを浮かべる。果たして時間的にこんにちはでよかったのか、初対面だしまずは初めましての方が良かったのではないか。そんなことを考えてはいたが、とりあえず普通に反応をもらったのでよし。そういうことにした。

 では次だ、とリリアは今度こそ初めましてと挨拶をする。クラスメイトとしてよろしく。そんな感じのことを笑顔で、当たり障りなく述べた彼女は、どうだエルわたしだってやれば出来るんだと謎のドヤ顔を心で浮かべた。何言ってんですかお嬢さまと脳内エルが辛辣である。

 さて、肝心の相手はというと。肩口辺りまで伸ばしているピンクブロンドを揺らしながら、彼女は今リリアが言った言葉を反芻するようにコクコクと頷いている。その動作が何とも不思議で、しかしどこか天真爛漫な空気を持つ少女には似合っているように思えた。

 

「えと? 初めまして」

 

 それを終えた後、少女も口を開く。先程も聞いたが、彼女の声も見た目に違わず可愛らしい。先程のムダ知識ではないが、ひょっとしてこの娘本当にヒロインなのではなかろうかとリリアが思ってしまうほどだ。もっとも、その場合自分も同じ立ち位置なので同等なのだが。負けず嫌いが出たのか、彼女は一人言い訳をしていた。

 

「あたし、ルシア、っていうです」

「ルシアさんですか。よろしくおねがいしますね」

「はいっ。よろしくお願いしやがれです!」

「は?」

 

 今なんつった。可愛らしい声から何か凄いワードが飛び出したので、リリアは思わず動きが止まる。聞き違いかな、と目をパチクリしながら耳をトントンと叩き、そしてもう一度彼女を見た。

 笑顔である。うんそうですよね、やっぱり聞き間違いですよね。そう結論付けた。

 

「リリアさん?」

「あ、ごめんなさい。入学初日だからちょっと緊張しているみたいで」

「そうなんですか? えへへ、実はあたしもなのです。お揃いになってやがりますね」

「んん?」

「? どうかしやがったのですか?」

 

 どうかしてるのはお前の口調だよ。そんなムダ知識のツッコミが脳内を通り越して口からはみ出そうになったのを必死で抑え、リリアはゆっくりと深呼吸をした。そうしながら、ルシアさん、と彼女に声を掛ける。

 

「はい?」

「えっと……その……」

「……?」

「あなたの、喋り方は……独特? ですね?」

「あ」

 

 多分顔がひきつっていたのだろう。ルシアはリリアの顔を見て、一瞬にして顔色を変えた。しゅん、と眉尻を下げると、ごめんなさいと頭を下げる。

 面食らったのはリリアである。入学早々隣の少女に因縁つけて謝らせたみたいな構図になったからだ。

 

「ど、どうしたんですか?」

「……すっかり忘れてたですよ。あたしの喋り方はよくねーやつだって」

「いやまあ確かに良くはないかもしれませんけど。そこまで気にすることでは」

「うぅぅ……。大司教さまとか神殿騎士さまとかが散々抜かしやがったから、気を付けようと思ってたですけど……」

「そんな落ち込まなくても……え? 大司教? 神殿騎士?」

 

 明らかに嘗めた態度を取っているような口調で聞き捨てならないワードが飛び出た。王国にはそれに相当する人物はいない。司教はいるが大司教はおらず、騎士はいれども神殿騎士はいない。それらに該当する者がいる場所は王国ではなく、ここから離れた別の国、教国で。

 

「やっぱりあたしが聖女とかぜってー無理ですよ……」

「聖女!?」

 

 言ってから思わず口を手で塞いだ。今の状況にその余計な要素を付け足すととんでもないことになるからだ。

 入学早々に聖女をいじめた公爵令嬢一丁上がり、である。

 

「る、ルシアさん!」

「……はい」

「落ち込まないでください。わたしはそういうの全然気にしません」

「めっちゃ気にしてやがったです」

「口調よりその態度のほうがわたしは気になりますけど!?」

 

 シュン、と落ち込んでいる割には余計なことを言う辺り、どうやら思ったことは踏みとどまらずそのまま口にするタイプらしい。だからこそ最初の挨拶の時点でぶちかましたのだろうし、今の状況もそうだ。

 

「というかですね。なんでそんな話し方に?」

「う。めんでーし聞いてもつまんねーやつですよ?」

「そういうのはうちのメイドで慣れてるので大丈夫です」

「そ、そうなんです?」

 

 迷いなくそう言い切ったリリアを見て、ルシアも少しだけ落ち着いたらしい。あはは、と頬をポリポリ掻きながら、実は自分は教国で聖女とかいうのに突然選ばれたのだと口にする。

 ど田舎で暮らしていたのに、急に教国の首都に連れてこられ聖女としてのマナーを学ばされることになり。口調も教国共通語へ矯正されることになったのだ。

 

「うちの田舎の方言と共通語だと全然ちげー感じで、もう普通に喋るのでも大変で」

「な、成程」

「ようやく出来るようになったら、今度は王国に留学しろとか抜かしやがって」

 

 教国共通語もイッパイイッパイなのに、今度は王国共通語も身に付けろと来た。その結果、無理やり詰め込んだおかげでしっちゃかめっちゃかな口調の出来上がり、というわけである。

 

「四大国の共通語はどれも割と似通っているから、ある程度は習得出来るんでしょうけど……無理矢理矯正されてねじ曲がっちゃったんですね」

「です。もう王国共通語は自分でも直しようがねー状態で、だから無理だって言ったのに大丈夫だって押し通しやがったです……」

 

 しょんぼりしながらそう話すルシアは、どこか小動物染みていた。だからだろうか、リリアは思わず彼女の頭を撫でてしまう。お前それは主人公がヒロインにやるやつだろという評価だの、撫でポだのという単語がムダ知識発信で駆け巡るがリリアは気にしない。むしろこれこそツンデレお嬢様の本領発揮だと言わんばかりだ。何がツンで何がデレなのか一切合切不明である。

 

「向こうと同じようなこと言っちゃうのが癪ですけど。大丈夫ですよ」

「ふぇ?」

「少なくとも、わたしがルシアさんの横にいますから」

「リリアさんが、あたしの横に?」

「はい。席も隣ですし、入学初日に出来た初めてのお友達ですから」

「リリアさん、友達?」

「……あれ? ひょっとしてわたし間違えました?」

 

 ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。違う違うとルシアが述べる。

 こんな状態だから、聖女とかいう無駄な肩書があるから。だからこんな初っ端に距離を詰めてくれる人がいるとは思わなかったから。だから。

 

「いきなりそんなこと言い出しやがる人がいるなんて、ちょーうれしいです!」

「それならよかった」

 

 リリアは笑顔でそう返す。そういうものだと分かってしまえば、彼女にとってルシアの口調は何の問題もないらしい。最初にドン引いていたとは思えない掌返しだが、まあこれが彼女なので仕方ない。実際、そんなリリアの態度で救われた少女がここにいるのだから、むしろ結果オーライだろう。

 

「それじゃあ改めて。よろしくおねがいしますね、ルシアさん」

「はいっ! リリアさん、よろしくお願いしやがれです」

 

 がっちりと握手。そのままブンブンと手を振り合う二人を見て、いつの間にやら注目していた野次馬達はどうやら問題ないようだと散っていく。リリアもルシアもタイプは違えど美少女、教室内では大分目立っていたのだ。

 

「そうだ。後でわたしのお友達も紹介しますね」

「リリアさんの友達? あたしがいても問題ねーです?」

「勿論です。頭が良くて頼りになる人ですから」

 

 そう言いながら、ラケルを紹介する算段を立て始める。そういえば結局聖女のことを聞くの忘れていた、とそこで思い出したが、既に終わってしまったことなので彼女は気にしない。

 そのまま、気にしないついでに、と彼女はラケルから連鎖的に思い浮かんだ面子のことも口にした。

 

「わたしの喧嘩仲間と、まあどうでもいいんですけど一応嫌な奴も紹介しておきますね」

「嫌な奴?」

「嫌な奴です」

「なんでそんなヤロー紹介するんですか?」

「……何だかんだ、付き合い長いから、ですかね」

「何かよくわかんねーです……」

 

 多分これから分かるようになる。そうアドバイスしてくれるような奇特な人物は今現在この場におらず、若干頭にハテナマークを浮かべたまま、しかしルシアは新しい友達が出来るかもしれないとワクワクした。あの説明でそう思える時点で既に同類である。

 ほーらやっぱり新しい変人集めた。エルがいたならば勝ち誇ったようにそう笑ったであろうが、あいにく彼女は不在。ついでに言えばリリア自身はそんなこと微塵も考えていないので、残念ながら想像ですら登場しなかった。

 

 

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