マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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幕間

暗い暗い部屋、パソコンの明かりがぼんやりと1人の男の顔を照らす。

どこにでも居そうな、普通の顔立ちは、けれど目の下にくっきりとついた濃い隈と、照らし付ける青白い光のせいか、酷く不気味なものに見えた。

 

カチカチとエンターキーを押す音だけが部屋に響く。時折マウスをクリックする音が入り混ざるものの、その無機質な音は静かな部屋でやけに響く。

 

開かれたウィンドウに映し出されているのは一枚絵だ。描かれるのは夜の森。

 

半ばからへし折れた木々、抉れた地面、半ば異形と化し始めている人。

 

丁寧に描かれているが故に、その情景の凄惨さを物語っていた。

 

月の光が遮ることなくそれを照らしている風に描かれている。

 

肉体を突き破る無数の刃、飛び散る血肉に、赤く濡れそぼった金属の光沢、生々しい肉の裂け目、まるで鋼のように変色し出した肌、髪の毛一本すら余さず描く、と言う気概の感じられるその一枚絵は、鮮明に、1人の人間が怪物へと変じていく過程が描かれていた。

 

「うっわ……ぐっろ……、普通ここまでやる??」

 

鮮明なのはイラストだけではない。下の方にあるテキストボックスでは、怪物へと成り果てる様を丁寧に、臨場感たっぷりに書き連ねている。

 

その文章を見ればはっきりと脳内に情景を浮かべられそうなほどに、しっかりと書き記されたテキストに、男はげんなりとした表情を浮かべつつも、進める手は止めない。

 

「さすが『マガツキノウタ』だわ……、イラストレーターもシナリオライターも、スタッフ全員病気って言われるだけはある」

 

呆れたように男は呟く。

けれど、その声には称賛と感心が入り混じっていて、気分悪そうにしながらも、画面からは目を逸らさない。

 

そうして、テキストを読み進めていくと、イラストは切り替わる。画面は暗転し、次の瞬間には真っ赤な背景の中、肉がぼこりぼこりとまるで沸騰した水の様に沸き立つ、人型の何かのものに変わる。

 

それも次の瞬間には肉の泡は弾け飛び、鮮血を撒き散らしながらその内側から人体にはありえない冷たい光沢を晒す絵が浮かべば、それもまた暗転する。

 

そうして次に映し出されたのは人型の化け物だった。

 

肉体は全て鍛え上げられた鋼のようなものに変えられ、人ではありえない金属の光沢を放つ。月の光に照らされ、いっそのこと神々しくすら見えた。

顔にはその面影はなく、顔の上半身は幾つもの鋭利な刃で覆われ、口元、その口の端からも刃がそれぞれ伸びていた。

 

指先ひとつとっても全て鋭利になっていて、肘からは大きなブレードのようなものが生えている。

 

『そうして、少年は変生した。あるいは、転生した。人ならざるもの。妖刀に憑かれ、支配され、災禍を撒き散らす怪物、禍ツ人と成り果てた。

髪の一本、血の一滴、細胞の一欠片に至るまで余す事なく、全て全て、妖刀のものとなってしまった』

 

表示されたテキストを読みながら、エンターキーを押して次に進めると、またしてもイラストが切り替わる。

 

足から順に、下から上へと黒い学ランを着た女性が映し出される。

 

躍動感たっぷりに描かれているのは今にも斬りかからんと、刀を両手で強く握り締め振り上げ、駆け出す姿だ。

 

豊満な胸を有する、学ランを着ていてもわかる肉感的な体、顔だけならどちらとも取れる中性的な、整った美しい顔に浮かぶのは何処までも真剣な表情。嘆きと諦観が入り混じって感じられるような顔つきで描かれていた。

 

今にも動き出しそうなほどに細やかに描かれたシーンは、男の手を止めさせるほどのものだ。

 

今漸く、このシーンに至るまで立ち絵を一切見せなかった主人公の姿に、男は唸る。

 

「アペンドディスクに本気出しすぎだろ……、しかも前日譚と言える話で騙し討ちやめろ……」

 

一部でカルト的な人気を得た18禁ノベルゲーム、『マガツキノウタ』のアペンドディスクで追加された2篇のシナリオ、その片方である本編開始前の、前日譚とも呼べるシナリオを読み終えた男は背凭れに体を預け、部屋の天井を仰ぎ見た。

 

本編をクリア済みの男からすれば、この前日譚は衝撃的すぎた。一切の分岐がないのは、まあ前日譚だから、と考えると当然だ。

 

本編まで行くという未来が決まってるなら、分岐がない一本道にしたほうが分かりやすいし、力も入れやすそうだ。

 

内容自体はラストを除けばごく平穏な日常だった。中学生になった主人公と、そこでできた友人との二年間、そして高校に入学して再会してから、夏休みが終わる頃までの数ヶ月間の、心を閉ざしていた主人公が少しずつ心を開いていく過程を描いたものだ。追加エピソード、とするにはとてもボリュームがあり、読み応えもあった。

 

そう、本編開始時点でなるべく人と深い関わりを持たないようにしてた主人公の、『語っていない過去』と、『明かされていない真実』を書き出していたのが、この前日譚だった。

 

「心をへし折る過程で衝撃の事実明かしやがって……。

誰がエロゲーの主人公が『元女』なんて思うかよ」

 

深い溜息と共に吐き出された言葉は静かな部屋でやけに響いているように感じられる。

 

ヤケクソのようにベッドの方へとダイブすれば、男はそのまま目を閉じる。

 

画面には、絶望したような表情をした、おかっぱの少女。黄金色の瞳からは光が失われて、赤が基調の着物の桜模様が黒く染まっていく様子をアニメーションとしてご丁寧にも描いていた。




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