マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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むちむちお姉さん出現

何かを決意しようと、あるいはこの世界が例えゲームの世界だろうと、紛れもなく自分が生きている現実であるのだから、否応なく時は流れていくし、やらなければならないことはやってくる。

 

衣替えによって黒い学ランに袖を通した俺は、胸ポケットにヤツカの分け身を潜ませて学園に訪れていた。

 

本日は平日、通常の登校日である。

 

「漱くん漱くん、話を聞いてクレメンス」

 

席について窓の外をぼんやりと眺めていると、その手にホットドッグを持った美少年、友人である泰斗がキラキラと目を輝かせながら声をかけてきた。

 

基本的にいつも気怠げで、やる気がない彼がこういう風に目を輝かせる事はない。

数ヶ月友人として関わってきて、このような姿を見せるのはごく限られた内容でだけだ。

 

「お前がこの間嬉々として語ってた養護教諭の先生は既婚者だっただろ」

 

「わいの純情が弄ばれた事件やね、って違うそうじゃないんよ。昨日商店街でドストライクなお姉さん見つけたって話ですよ」

 

即ち、好みのタイプの女性を見つけた時だったりする。高身長でスタイルが抜群な美女が好みな泰斗は、そう言った女性を見かけたとき、またはそのことを話すときだけ、こうやって子供のように目をキラキラと輝かせて語り出すのだ。

 

純粋な子供のような目をしているが、考えていることは邪なのが勿体無い。顔はいいというのに。

 

「へぇ、それって古本屋の店主?」

 

「あー、漱くんのバイト先の?あの人も美人よね、でも前丁寧に振られた」

 

「いや節操なしかよ」

 

呆れた目を向ければ、泰斗は、いやん、とふざけながら身を捩る。絶妙に気持ちの悪い身の捩り方であった。

 

口をついて出そうになった罵倒は、かえって喜ばせるだけと自分に言い聞かせてどうにか抑えると、我に帰ったように泰斗が身を捩るのをやめて、こちらに視線を向け直した。

 

「今まで見たことない人だったし、多分あの人少なくとも商店街の人やないね。でもすっごく背が高くてばいんばいんだった」

 

眼福だった、そう言いながら目を閉じて、思い出に浸るように口にする泰斗。絵面だけならいい感じではあるのだが、いかんせん発言と内容が最低だった。

 

ふっ、と柔らかく微笑んではいるが、その思考の大半はそのくだんの美人な長身の女性なのだろう。気持ち悪くにやけるわけではないのがタチが悪い。

 

「包まれたい、蔑まれたい……」

 

呟く表情は段々と恍惚としたものに変わっていく。頬は赤らみ、目はとろんと蕩け、眦はいつもより下がってくる。

 

なまじ顔が良いだけに一部の人間は喜びそうな絵面ではあるが、俺にとっては少しばかり見慣れ始めた光景だ。正直慣れたくはなかった。

 

ポツポツと呟くように願望を吐き出し始めたので、いい加減止めることにする。

 

「落ち着け、少なくとも願望を吐き出すなら時と場合と場所を考えてくれ」

 

「おっと……、危ない危ない。わいの好感度が地に落ちるところやった。大きなお姉様を紹介してもらう野望が潰えちゃーう!」

 

「少なくともこのクラスに限っては手遅れだよ」

 

周囲の目はいつものことか、といったもので、とうの昔にこの男に順応していたらしく、ちらりと視線を向ければまた談笑に戻る。

 

扱い方を心得てるあたり適応力が高い気がするなぁこいつら、と思わなくもない。

 

「話題を変えるか、お前好みに入る人って学園生でいる?」

 

「変えてるようで変えてない気がするんですがそれは。んー、好みねぇ……正直学生は対象外なんですがそれは」

 

なんやかんや言いつつも、真剣に腕を組んで考え始める泰斗。

妄想中は願望が垂れ流しになるが思考を回させてやれば、油断すれば妙なことを吐き出す口も一時的には止まることはこれまでの付き合いで良く理解していた。

 

「あー、図書委員長とか、いいよねぇ……。あれで背丈が180後半だったらいうことなかったんすけどぉ」

 

「あー、あの先輩か。そういやお前が好きそうだよなぁ。でもあの人って性格的に好みから外れてね?」

 

「甘やかしも好物だからへーきへーき。でもサドッ気強い方が好みなのは確かやけどね、ところで漱くん」

 

そうして性癖混じりとは言え昼間に話すには問題ない会話の内容に落ち着いたところで、泰斗は思い出したかのようにこちらの名を呼ぶ。

唐突に話を変えて妙なことを言い合うのはいつものことであり、なんだ?と聞き返すと、教室の前方、黒板の上あたりに据え付けられた時計を指差した。

 

「図書委員長で思い出したんだけどそろそろ当番の時間じゃない?」

 

「やっべえ!!!」

 

その言葉に、俺は慌てて立ち上がり、廊下へと飛び出した。

 

ちなみに現在昼休みであった。

 

 

***

 

 

『マガツキノウタ』の舞台の一つとなるこの学園、吹寄学園にも当然のように委員会活動というものが存在する。ある程度自由な校風であるこの学園は、だからこそ生徒の自主性、と言うものは重んじられている。

 

生徒会や風紀委員会の学内での実権が強いのはその影響であり、作中では『裏』に関わる人材であった生徒会長や風紀委員長と協力し、学内に侵入していた禍ツ人や、ヒロインとも因縁深い地下組織に属するマガツキと戦うと言うイベントもあった。

 

自分が所属している図書委員会もそんな学内組織の一つではあるが、この委員会には特にこれと言った目立った特徴はなく、ごく普通の、それこそどこの学校にもあるような委員会だったりする。

 

「遅くなって申し訳ありません」

 

胸ポケットの中で揺さぶられていたであろうヤツカには申し訳ない気持ちになりながらも、出来る限り静かに図書室の扉を開ける。

 

入口の直ぐ側にはカウンターがあり、その内側に置かれた椅子には1人の女子生徒が座っていた。

 

長い、腰の辺りまで伸ばされたサラサラの黒い髪に、目元を覆い隠さんばかりの前髪を可愛らしいヘアピンで左右で固定した、どこか優しげな、落ち着いたものを感じさせる表情の女性だ。

 

少女、と言うにはあまりにも発達した身体、むちむちとした肉感的な肢体に、セーラー服を押し上げる豊満な胸に、大人びた顔立ちの人。

 

「ううん、時間通りだよ、漱くん。でも、真面目な君が時間ぴったりに来るのは珍しいかもね?」

 

図書委員長にして、『マガツキノウタ』においてやたらと酷い目に遭う先輩キャラ、『水上葵(みなかみあおい)』は、手に持っていたハードカバーの本から目を離し、こちらへと視線を向けて、柔らかに微笑んだ。




「あるじさま、あるじさま、すこしばかり、おまちを………、あーーーれーーー」(胸ポケットの中で散々揺れてぴょんぴょんするヤツカちゃん)
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