マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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厄ネタ図書室ってワケ

そして時間は飛び放課後、俺は図書室に再度訪れていた。仕事の為もあるが、少しばかり気掛かりなこともあったから、と言うのもある。

 

『マガツキノウタ』の世界において学校、と言う環境はそもそも『虚の庭』と比較的繋がりやすい、という特徴がある。

それは七不思議などを例に挙げればわかりやすいが、怪異譚の舞台、あるいは土壌としての性質に加え少年少女の非日常への願望そのものが二つの世界の間にわずかにだが繋がりを作る。

 

こう言ったある種の閉じた世界において、その集団の大多数の認識、願望が現世と虚の庭を繋げる、と言う現象はゲーム内でも明かされていて、その片鱗を最初に見せたのがこの図書室だ。

 

つながり自体は揺らぎのようなもので、直ぐに消えるようなものであっても、妖怪、怪物の類はその僅かな揺らぎを利用してこちらにやってこようとする。

 

とはいえ、そう頻繁に起こることではないらしいし、その上で都合よく妖怪や怪物のすぐ側に発生することも非常に稀だ。

 

稀、なはずなのだがライターの趣味なのか、シナリオ上の都合なのか、この学園だと割と起きやすい事例だったりする。そのうちの一つがこの図書室を起点として発生する怪奇現象だったりするのだが。

 

「ヤツカ」

 

小さく、呟くようにその名を呼べば、胸ポケットの中に座り込むようにして潜んでいたヤツカがひょっこりと顔を出す。

キョロキョロと辺りを見渡す彼女は、ぶんぶんと首を横に振る。

 

「あるじさまに、がいをなすけはいは、いまのところありませぬ。よどみも、いまはかんじませぬ」

 

座敷童、と言う付喪神は家の守護の役割を持つが、その本質は『運』を司ることだ。それ故彼女は運気を感じることができる。ヤツカ曰く、運気に人外の気配が混ざると運気に淀みや乱れが起きるらしい。

 

ならマガツキやヤツカのような神霊の分身はどうなんだ、という話になるのだが、この場合においてはどちらも差して影響をなさないらしい。

 

マガツキは能力を使わない限り、この姿のヤツカも権能を行使しない限り、『人ならざるもの』としての影響は発生しないだろう、とのことだった。

 

「ありがとう」

 

その頭を人差し指で軽く撫でてやれば、ヤツカは嬉しそうに頬を緩めて、また胸ポケットの中にその姿を潜める。

 

可愛らしい姿に和みつつも、視線を並び立つ本棚へと向ける。

 

棚ごとに一列ずつ、ざっと視線を走らせていく。基本的には綺麗に整頓された本がずらりと置かれているが、時折、シリーズものの間が抜けて傾いていたり、違うものが入り混じっていたりする。

 

見当違いのところに置かれた本は抜き出して、本来の並びに戻しておく。

 

適当なところに取り敢えずで棚に入れられた本もあるようで、図鑑の棚にラノベが置かれたりもしていた。

 

いや可笑しいだろ、せめて小説の棚に置けよ。

 

そうやって内心ツッコミを入れながら本日の業務である本の整理をしていると、足音が聞こえてきた。

 

足音の方へと視線を向ければ、小走りで水上先輩が寄ってくると、少しばかり乱れた髪を手櫛で整えながら申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「ごめんね、先にやらせちゃって」

 

「いえ、気にしないでください。それをいうなら昼休み俺も遅くなりましたし、これでチャラってことで。さっさと整理終わらせましょう」

 

「はーい。じゃあ、私はあっちの棚から見てくるね!」

 

笑いながら言えば、釣られたように水上先輩も笑顔を浮かべてくれる。

 

大したことでもないのに気にし続けられるのは居心地が悪いし、切り替えが早い方がやりやすくて良い。

 

「さて、続き続き」

 

お仕事お仕事っと。

 

 

***

 

 

一通り確認を終えた後、水上先輩が選り分けていた本、恐らくは本来の分類ではないところに置かれてた分だろう、タイトルも類別もバラバラのそれはそれなりの量がテーブルの上に積まれていた。

 

俺が確認していた方はそこまで手間取らなかったが、水上先輩が見てる方だとざっと見る限り50冊近くが置かれていた。

 

上の方から何冊か取り出して、なるべく分類が同じ、つまりは同じ棚の列にありそうな本を抜き出して積み上げると、持ち抱える。

 

ずっしりとした本の重みを腕に感じるが、このくらいなら許容範囲だろう。重みを感じても特に負荷には感じない辺り、趣味が役に立った、と思いたいがこれもマガツキ化の影響だろう。

 

少しばかり悲しくなりながら、本を戻しに向かう。

 

本の背表紙に付けられた分類が書かれたシールを見ながら該当する列に次々と突っ込んでいき、無くなればまたテーブルのところに戻り、まとめて抱えて、片付けに行く。

 

そうやって往復しているうちに、テーブルの上に積まれていた本は殆ど無くなり、残りは1冊。

 

「漱くんお疲れ様」

 

いつの間にか隣にいた水上先輩は、労いの言葉をかけてくれる。

 

「お疲れ様です。まあまだ後少し残ってますけど」

 

「あはは、それもそうだね」

 

笑いながら残ったそれを水上先輩が手に取ると、その背表紙を見て首を傾げる。

ん?と不思議そうな顔を浮かべた水上先輩はそのまま本の表、裏と確認して、ますます困ったような表情を浮かべる。

 

「……?ねえ漱くん、この本シールなさそうなんだけど、心当たりある?」

 

問いかけと共に差し出された本を受け取ると、確かに背表紙に貼られるはずの分類のシールも、裏に貼られるバーコードシールもない。

どこか恐ろしげなデザインの表紙には『恐怖!怪談全集!』と記されていて、それを確認した瞬間に、ぞわりと背筋に悪寒が走る。

 

「……水上先輩、これの片付けと戸締りは俺がしておきますか__」

 

「きゃぁっ!?」

 

言い切る前に、手元の本が一人でに浮かび上がりパラパラとそのページが捲れ、それに驚いた水上先輩の悲鳴が上がる。

 

そうして、図書室が、茜色に染め上げられる。

 

『ケケケケケケケケ!!』

 

不気味な、悍ましい声が、耳に届いた。




「あるじさま、わたくしもおてつだいを」
「有難いけど大丈夫だって、そもその姿じゃ無理だろ」
「じんつうりきがございますゆえ」
「余計ダメ」

片付け中の超小声のやりとり

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