マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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夜の語らい

保護者目線のようになったが、別に俺自身は木暮咲耶、という少女とは特に関わりはない。同学年でもクラスは違うし、自然な事ではあろう。

 

全く関わりがないわけではなくとも、必要に駆られて何度か言葉を交わしたことがある、程度の仲でしかない。ほぼ他人のような知り合い、と言うのが一番正しい。

 

それでも、俺は彼女の事を知っている。ゲーム内での彼女を思い返すとやはり先程の光景が微笑ましく思える。

 

感慨深いな、と思いながらも思考を過去から今に切り替えることにする。

 

テーブルの上、自分の皿の隣に置いておいた紙コップを掴んで、その中身の少し冷めて温くなったお茶を一口飲んで、奏の方を向く。

 

「んで奏、出て来てる化け物って妖怪の類だと思う?」

 

尋ねると、奏は露骨に顔を顰める。

 

急に顔を顰めるな、俺に話しかけられたのが嫌みたいじゃねえか、泣くぞ。いや、顔を顰めたくなる理由もわかるのだが。

 

「あの風、多分縄張りの主張と警告だろうしなぁ、そっちの可能性のほうが高そうだ。近代以降に発生した怪異なら領域の中に入って来た奴に襲いかかりはしても警告なんてしないし」

 

「賢い奴っぽいよな」

 

「正直面倒な予感しかしないんだよな」

 

面倒臭そうに奏が言えば、俺たちは同時に溜息を吐く。

 

学園で俺と水上先輩が遭遇したような化け物、近代以降に発生した怪異譚ベースのものは警告する、という思考をしない。領域に踏み込んだものを襲い、嬲り、殺して楽しむが、縄張りを主張するように侵入者を追い出すなんてことは考えもしないのだ。

 

だから、十中八九、あれはそれ以前に生まれた化け物であろうと予測が立てられる。

 

「それと懸念事項はもう一つあるけど、これは明日の朝話したほうがいいだろ」

 

そう言った奏は、玄関の方に視線を向けていた。

 

 

***

 

 

女子2人が風呂から上がったあと、奏、俺の順で入浴を済ませれば、明日に備えて、ということで全員それぞれに割り当てた個室へと向かった。

 

2階に部屋は四つ、それぞれの個室には簡素なベッドと机と椅子が一つずつ。どの部屋も内装にこれといった差はない。

 

そのうちの一つ、今回の依頼中は使用する事になる個室に入れば、かちゃりと鍵をかけて、ベッドに腰掛ける。

 

「あるじさま、おつかれさまでございます」

 

目の前には普段と変わらない姿のヤツカが、いつも通りに労いの言葉をかけてくれる。

 

そう、いつもと変わらない、同じ大きさ。

 

「あれ、ヤツカなんで大きさ戻ってるんだ?」

 

確かに、先程までは胸ポケットに入る、小さな人形サイズだった筈である。困惑したまま尋ねれば、こてり、と可愛らしく首を傾げる。

 

「……?あるじさまいがいの、ひとのめが、ございませんので、おへやにいるあいだは、あるじさまのおせわをしようかと、ほんたいから、このわけみに、ちからをいくぶんか、うつしただけで、ございます」

 

「ん……?それって大丈夫なのか?」

 

「ええ、もちろんで、ございます」

 

どうも、離れていても分身と本体間で力を移し替えることが出来るらしいヤツカは、ふんす、と意気込んで見せていた。

 

(相変わらず、ヤツカ殿は宿主にべったりだな)

 

その姿に反応するように、脳内で可愛らしい声が響く。眼前には居ない筈なのに、ヤツカの隣に白い髪の少女が見えるような気さえしてくる。

 

「……なまくらがたなめ、きやすく、あるじさまにかたりかけるでない」

 

(ははは、そのように神気を向けないで欲しいな、ヤツカ殿)

 

鈍刀が黙ってろ、と脳内でケラケラと笑う妖刀に念じるが、黙る気配がない。服従するんじゃなかったのか、しないなら体から出ていけ、と心の底から思う。無理なのだが。

 

いつも俺に向けてくれる声音から一転して、底冷えするような声音で妖刀に反応するヤツカ。

 

……妖刀が聞かせているのか、ヤツカには聞こえるのか、それとも何らかの手段で聞いているのかわからないが触れない事にする。

 

「あるじさまのにくたいに、ねづいていなければ、めっしたものを」

 

「やっぱ分離って無理そう?」

 

(一連托生って言っただろうが宿主!!許さんからな!!)

 

「もうしわけございません、あるじさま。わたくしには、なまくらかたなと、あるじさまを、きりはなすことは、かないませぬ」

 

「そうだよなぁ……、まあ仕方ないか。」

 

はぁ、と嘆息し、申し訳なさそうにするヤツカの頭を撫でながら、苦笑を溢す。

 

視界の端でぷんすことキレ散らかす妖刀の姿を幻視するが、スルーする。

 

(無視するなァ!!)

 

聞こえなーい。聞こえなーい。

 

今まで黙っていたくせにここぞとばかりに騒ぎ出す妖刀を無視しながら、ベッドの上にヤツカと2人並んで腰掛けて、視線を窓の外に向ける。

 

闇を照らすのは淡い月の光。何処か幻想的にも、不気味なように見える。

 

ちらりちらりと青白い、あるいは赤い光が外を飛び交うのを見て、ただ無言でカーテンを閉めると、ヤツカと顔を見合わせる。

 

「ヤツカ、もしかして」

 

「……ひるまは、そうでもなかったのですが。けはいと、ゆがみが、おおきく、なっておりますね」

 

奏の懸念と、食事中の忠告はこういう事なのだろう、と理解する。

 

窓の外の飛び交う光、不規則に動き回っていたそれに、引き攣った笑みすら浮かんでしまう。

 

(散々我を無視しおって……!!今宿主が見たものを先んじて警告してやろうとしたのに!!何かあっても忠告してやらんからな!)

 

脳内で喚く妖刀の叫びと、困ったように眉根を寄せたヤツカに、天井を仰ぎ見る俺。

 

完全に、虚の庭に重なってんじゃねえかよ、嘘だろお前。

 

(事実だよ馬鹿野郎!!)

 

思った以上に、事態は深刻なようだった。




「ところであるじさま、あんまは、いかがでしょうか」
「お願いするわ……」

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