マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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レジェセウスに夢中になって手がつかなくなりそうになってた馬鹿は私です


魔窟の主・1

近隣を歩き回って、道のない木々の間にも分け入って、虱潰しに探索してみたものの、特に化け物の姿は見当たらず、棲家らしきものも見当たらなかった。

 

縄張りの主張らしきものがあった場所も調べ直してみはしたものの、これといって収穫らしい収穫はないまま、時間が過ぎて、現在六日目。

 

肉体的、というよりは精神的に疲れた俺たちは、探索中に見つけた原っぱで休息を取っていた。

 

「カイキしてるのは明白なんだけどなぁ」

 

座り込んでボヤくように呟けば、空を仰ぐ。

 

本当に、なんの収穫もないまま時間だけが過ぎていった。村人の姿は変わらず見受けられるものの、何も起きてない、と考えるには楽観が過ぎるだろう。

 

ある程度近くで見た村人の様子は、誰も彼も怯えた様子であったし、ごく稀に見る子供たちもそれは例外ではなかった。

 

確実に何かはある。それだけは確かなのだ。

 

けれど、その正体を未だ、見つけることはできていない。

 

「夜、外が不自然に明るかったりしたもんね」

 

俺の呟きに反応したのか、水上先輩は苦笑しながら口にする。

 

彼女が言っているのはおそらく火の玉……鬼火の事だろう。あるいは火車のような妖怪等もいたのかもしれない。

 

少なくとも、辺りに街灯もないあの拠点で外に灯りが見える、というのは不自然極まりない事であるし、そも初日の夜に火の玉が飛んでいるのをこの目で確認している。

 

異常事態であることは、間違いが無いはずだ。

 

「手詰まり、ですか?」

 

咲耶は首を傾げて、奏は、はぁ、とため息を吐く。実際、俺自身はお手上げ、と言いたい気持ちだ。探せるところは探したし、ヤツカにも協力して貰った上で、引っかかるものはないのを確認した。

 

咲耶の言葉に俺が頷けば、水上先輩は唇に人差し指を当てて、何やら考え込むと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「私たちが調べたのって基本的に民家とか畑とかから離れたところばっかりだったよね?その周りももう一回調べて見ない?灯台下暗しっていうし」

 

確かに、盲点だったような気がする。初日と二日目に軽く見て回ったくらい、だっただろうか。通りはしても、しっかりと調べた、とは確かに言い難い。

 

「そうですね。ここで管巻いてても埒があきませんし」

 

追従するように立ち上がると、奏と咲耶も立ち上がる。特に何かを言う訳でもない様子で、異論はない様だった。

 

 

***

 

 

そうして、原っぱから離れて、再び人里の方へと向かう。

 

てくてくと歩いて周りを見渡しても、やはり何処となく怯えた様子で農作業に勤しむ村人の姿からは、他に異常は見当たらない。

 

時折、ヤツカに問い掛けても気配も揺らぎもない、との返答が返ってくる。

 

「手掛かりらしきものはないなぁ」

 

「そうですね。人的被害も無さそうなので一安心ですが」

 

「でも、見かけた人たちはみんな、何かに怖がってるみたいだから放っておくわけにもいかないよね……」

 

キョロキョロとあたりを見渡しながら奏が言うと、賛同するように咲耶は淡々と口にする。

 

水上先輩は、村人の事を案じてるのだろう、そんな事を言って、きゅっと拳を握る。

 

けれど、周囲を見渡しても何も手がかりは見付けられない。田畑が広がり、その先には川や公道、それに木々。視界に映るのはそればかりだ。

 

「戻って報告済ませた方がい__っ!?」

 

ぼんやりと、もう終わりにした方が良いのではないか、そう考えて廃屋の前を通りながら口にした瞬間だった。

 

ぞわりと、背筋を悪寒が走り抜ける。

 

「あるじさま!!」

 

緊迫したヤツカの声と、ひしひしと感じる寒気を与えてくる気配の方へと体を向けながらも、いつでも動き出せるように身構える。

 

そこにあるのは今にも朽ち果てそうな廃屋だけ。壁はところどころ穴が開き、柱は傾いて、扉は曲がり、屋根は崩れ落ちかけているボロ家。

 

ゆっくりと、その廃屋に向き直ったまま後退り、ちらりと横目で3人の姿を確認する。

 

水上先輩は怯えたような表情で、けれど強がるように真っ直ぐに廃屋を睨みつけ、奏は殺気だった様子でいつの間にか取り出した刀を構え、咲耶はその手に小刀を手にした姿で、能面のような無表情で前を見据える。

 

「おや、客人かい。それにしては物騒だぁねぇ……」

 

しゃがれた老人の声が耳に届き、廃屋の中から小柄な人影が姿を現す。

 

腰を曲げたそれは、年老いた白髪(しらが)の老人は、けれど明らかに人間ではなかった。

皺の多いその肌は真っ赤であり、山伏装束を着たその背中からは、真っ黒な翼が生えており、なによりその顔には人間には存在しない、立派な嘴がついていた。

 

その姿には、見覚えがある。

 

「いけない、いけない。物騒なのはいけないねぇ。まずは、その危ないものを手離して貰わないとねぇ。何の用かは知らないけれど、安心して話も聞けないねぇ……」

 

老人は手に持った、木の葉を模した団扇を振るう。

 

ただそれだけで風が吹く。初日に吹いた不自然な強風のような、生ぬるいものではない。

 

「物騒なのはどっちだよ……っと!」

 

咄嗟に奏がばら撒いた符が宙に浮かび、動きを止めたかと思えば、金属同士がぶつかる様な甲高い音を立てる。そうして、バラバラと符は引きちぎられたかの様にバラバラになって、風に舞う。

 

「なあ、鴉天狗」

 

それは、『マガツキノウタ』屈指の嫌われ者であり、同時に外道として名高い妖怪。

 

さまざまな方法で主人公の心をへし折り、地獄を作り出した存在。鬱展開の大半にこいつが関わっている、と言っても過言ではないキャラクター。

 

「おや……?おやおや、失敬な。お前さんらは人を呼ぶときに人間と呼ぶのかい?儂にも立派に名があるというのに」

 

眉根を寄せ、不愉快そうに、白々しい様子で語るそれは、名を名乗る。

 

鬼一(きいち)という立派な名前がねぇ?」

 

くくく、と不気味に笑って見せて、再度、葉団扇を振るってみせた。




と言うことで次回からはバトルですわよ!漸くでは……??

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