マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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バトルって難しい……


魔窟の主・2

それは正しく、風の刃とも呼ぶべき代物であった。1つ、2つと鬼一が無造作に葉団扇を振るう度に不可視の斬撃が生まれていく。

 

それらを、奏は取り出した符で防いでいく。その度に金属の擦れ合う音を立てて符は散って行く。

 

「ふぅむ、面倒だねぇ。陰陽師ってぇのは、もう少し不器用だった記憶があるのだけどねぇ」

 

何処となく面倒臭そうに鬼一は呟くと、葉団扇を無造作に振るいながらも、折り畳んでいた黒い翼を広げると、バサリとはためかせる。

 

そうして、黒い羽根が舞うと同時に、それらは銀色に色を変えて、その全てが俺らの方へと向く。

 

「そぉら、何処まで対処できるかねぇ?」

 

にたりと、厭らしい笑みと共に射出された100は超えていそうな銀の羽根の群れが弾丸の如き速度で射出される。

 

動こうにも動けない、というべきか。対処しようにも、自分を守るので手一杯になり、攻勢に出ることはおそらく出来なくなる。

 

奏は鎌鼬の対処のみに集中しているところを見るに、加勢できない、或いはする気がない。

 

だから、これは、『彼女』に任せよう。

 

視線を動かして、怯えながらも、逃げ出そうとはしなかった彼女の姿を見る。震える手を強く握り締めて、口を開く。

 

「『あぁ、妬ましい嫉ましい』」

 

いつもの水上先輩の声に重なるように、ドスの効いた女の声が聴こえる。言葉と共に、その肌は指先から赤く染まり出す。

 

「『汝を嫉む。汝を妬む。汝を疎む』」

 

その額には小さなツノが2つ生えて、黒い髪はその端から色素が抜け落ちていき、それと同時に、目に見えて、襲いくる銀の羽根の速度が落ちていき、こちらに届く前に全てが地に落ちていく。

 

「『空を自由に舞う、黒い翼。飛ぶだけに飽き足らず、敵を穿つ鏃にもなるだなんて、嫉ましいわ。呪いたくなるくらいに』」

 

それは呪詛だった。鬼のような姿となった水上先輩の扱える異能と呼べるもの。

 

オリジナルほどの効果はなく、他者を呪い殺せるほどの影響力は持たないそうだが、今のように、既に放たれた武具の威力や勢いを削ることは可能で、本人曰く意外と応用が効く力。

 

先祖返りによって濃くなった『宇治の橋姫』の血を励起させた彼女が、今日までである程度使えるになった、唯一の武器、であるらしい。

 

少なくともゲームにおいては一切登場しなかったことであるが、今回の依頼に臨むにあたり、予め俺と水上先輩は自分のできることについて話し合っていた。

 

だからこそ、彼女に任せる、という選択肢を俺は取ったし、取れた。

 

「宇治の鬼女(きじょ)……その子孫かい。笑えるねぇ、あの若造りにも番が出来たのか、数奇なもんだねぇ」

 

驚いたように目を見開く鬼一。原作においてもこの鬼一という鴉天狗は長寿の枠組みに入る。

 

それこそ、天狗の伝承が語られた頃から存在し続けているとんでも妖怪だ。厄介なのは、歳を重ねたことで得た経験と知識であろう。

 

だから、少しとはいえ驚愕に目を見開いた隙を逃す訳にはいかない。少しでも距離を詰めるため、一気に鬼一に向けて駆け出す。

 

原作知識を持つ身としては、ここでこいつに勝てる気はしないが、やるしかない。

 

「援護してあげますよ。……この程度なら、自分が主軸でも充分ですし」

 

咲耶の声が耳に届きて、何かが割れる音と共に、力が漲るような感覚を覚える。ヨリシロとしての権能、その一部で、咲耶が俺に対して強化の術をかけてくれたことを理解して、心の中で感謝する。

 

作り出した刀をしっかりと握り締めて、斬りつける、というよりはすれ違い様に叩き付けることが出来る様に構える。

 

「うん?お前さんも陰陽師の一種かい?それにしては……」

 

飛び込んできた俺を視界に入れた鬼一は、怪訝そうな顔をして、避けることはせず、翼を自身と刀の間に、盾のように挟み込む。

 

いけると、そう思った。思ってしまった。

 

吸い込まれるように刀は黒翼へと沈み込み、肉を裂くような感触が一瞬、掌に伝わったかと思えば、表情を変えた鬼一が思い切り翼を広げる。

 

「うっそだろ!?」

 

勢いよく吹き飛ばされた俺は、どうにか受身を取りながら地面を転がる。体は痛むが、大怪我を負った感じはしない。

 

だからすぐに立ち上がる。

 

「驚いた、よくない、よくないねぇ。まさか妖刀とはねぇ、それも特級の曰く付きじゃあないか。そんなもので斬られたらひとたまりもない」

 

顔を顰めた老年の鴉天狗は、ふるふると頭を振るうと、先程まであった余裕を残しながらも、その顔からは油断が消える。

 

勘付かれてしまったのが、最大の失態であった。最大のチャンスを不意にしたことに、内心で舌打ちする。

 

「手を止めて良いのか?敵はそいつだけじゃないんだぞ」

 

鬼一が葉団扇を振るうのを止めたからだろう。真っ直ぐに飛び込んだ奏は、鬼一の真正面から、真っ直ぐに刀を振り下ろす。

 

「なんだいなんだい、お前さんはそんな曲芸も出来るのかい?器用な陰陽師なことだ、けれどねぇ」

 

奏の声に、鬼一はようやく彼女の接近を許したことに気付いたのだろう。その視線を奏に向けて、するりと翼を盾にする。

 

「生憎、その程度でやられるつもりはないんでねぇ……、大人しく下がってなさい」

 

そうして、先程と同じように翼が一気に広げられる。たんっ、と軽快な調子で奏はその勢いを利用し自ら後方に飛ぶと、体勢を整えて安全に着地する。

 

「埒があかないねぇ……、非常に面倒だ。そこの刀憑きはここで始末したいが、儂が直接やらなくても構わないしねぇ……、相手をしてる方が馬鹿らしい。

 

お暇させてもらおうとするかねぇ……」

 

「逃す訳ないだろ」

 

「追い付けるなら追い付いてみると良いさ」

 

ふむ、ふむと頷きながらじりじりと後退りをする鬼一に、一歩踏み込みながら言う奏。

 

嘲笑するように鴉天狗が告げれば、ばさり、と翼をはためかせて飛び上がる。

 

それと同時に、俺は刀をそこへ向けて思い切り投擲しようとして、中断する。

 

唸り声、金切り声、不気味な呻きが耳に届き、俺らを囲うように現れた異形の群れに気が付いたからだ。

 

「す、漱くん、これってどうなって……」

 

「鬼一、ってあの鴉天狗の仕業だと思いますけど……奏、木暮さん、これってヤバくないか?」

 

「……やばいな。正直、術符の数も足りてないんだ僕は。あそこまでの大物が出るとは思ってなかったし」

 

ジリジリと迫り来る化け物共に体を向けて、自然と、4人で、背中合わせのような形で身を寄せ合う。

 

現状を確認するように、口々に喋ると、咲耶が小さくため息をつく。

 

「九十九さん、式神の方は用意ありますか?」

 

「そんなに多くは持ってきていないが、あるにはある。けれど、この数は厳しいぞ?」

 

「水上さん、あの化け物たちにも呪詛は効きますか?」

 

「やってみないと分からないけど……、試してみる」

 

「八束さん、まだ動き回れますか?」

 

「誰かさんのスパルタ訓練のおかげでどうにか、って感じだな」

 

3人にそれぞれ言葉を投げ掛ければ、返答に対して、小さくよし、と彼女は口にして、はっきりと、有無を言わさぬ口調で言い切った。

 

「5分……、いや、3分程時間を稼いでください。現状をひっくり返せるようにしますので」

 

どうにかする為の手段がある、と。




ヤツカちゃんとのイチャイチャ幸せライフ書きたい(発作)

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