マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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祝詞使いたかったんですけどよく分からないのでもどきになった。許してほしい。


えげつない切札

「九十九さん、八束さん、水上さん、お願いします」

 

その言葉を合図に俺たちは動き出す。

 

「数には数で、ってな」

 

奏は咲耶と水上先輩の側に立って、式神を出現させる。その数はおよそ20程であろうか、獣の姿をしたもの、人型のものが半々程度。現れたそれらは意気揚々と化け物の数を減らすために突貫していく。

 

「『嫉ましい、妬ましい。汝らの力が妬ましい。それだけのお友達がいるのだから、力は必要ないでしょう?』」

 

水上先輩は呪詛を放つ。祟りが、黒い靄として化け物どもの足元から噴き出したかと思えば、その体に纏わりつく。

 

「おらっ!!」

 

俺は手に持った刀を牽制代わりに思い切り正面にいる化け物に投擲して、化け物の群れの中へと飛び込んでいく。

 

投擲した刀は慌てた様子の化け物どもに弾かれはしたが、注目をこちらに集められたのなら問題はない。

 

手放した刀の代わりに、包丁サイズの短刀を生み出して、動揺する前方にいた妖__その姿から河童の類であろうそれの腕を斬りつける。

 

「■■■■__ッ!!?」

 

斬り落とすことは出来ず、けれど緑色の肌の奥、深く抉られ、削がれた肉の隙間からは赤い血が噴き出し、河童の口からは苦悶の声が溢れる。

 

それを気にすることなく、怒りのままに振るわれた腕を片腕で止める。

 

どうやら、きちんと水上先輩の呪詛は効果を発揮しているらしく、思った以上に軽く、すんなりと振り払うことに成功して、思い切りその腹を蹴り飛ばす。

 

後方の妖も巻き込みながら吹き飛んでいくのを確認せず、別の妖怪の元へとまた突撃する。

 

殲滅ではなく、時間稼ぎが目的。奏がいるのだから咲耶たちの方は気にしなくても良い。

 

だから、俺はこのまま、ただ暴れていればそれでいい。

 

「掛けまくも畏きコノハナサクヤヒメ」

 

咲耶の朗々とした声が耳に届く。ゆったりと、けれどはっきりとした口調。

 

声を背に、二足歩行する化け狸の片腕を斬りつけ、そのままの勢いで走り抜けながら側にいた餓鬼を蹴りつける。

 

燃え盛る猫、恐らくは火車がこちらに飛びかかってくるのを、短刀で殴り飛ばすような形で迎撃し、その影から飛び出してきた鼠を大きくしたような妖怪、旧鼠であろうそれをもう片方の手で殴り飛ばす。

 

「富士に座す、いと尊き美しい御方」

 

しゃん、しゃん、と鈴の音が聞こえる。

 

尾が二つある妖狐が鳴き声をあげ、火の玉を浮かべて俺に向けて放ち、四つの足から鎌のようにも思える刃を生やした鼬、鎌鼬が旋風に乗りながら前脚を振るう。

 

飛んで来る火の玉を、肌を鋼に変質させて強引に耐えながら前進する。着弾と同時に爆発する火の玉を無視し、焼けるような熱さを、奥歯を噛み締めて耐え、斬りかかってくる鎌鼬の鎌を腕を盾にして防ぎ、突き飛ばすように腕を振るう。

 

しゃん、しゃんと、音が聞こえる。

 

フヨフヨと浮かぶ、鬼の顔の煙のような妖怪、縊鬼(いつき)がニタニタと笑いながら俺の体に纏わりつく。

 

作中でも出てきたが、こいつはこれといった戦闘能力はない妖怪であっただろうか。

 

「首を括れ、首を括れ」

 

気味の悪い笑みを浮かべながら、しゃがれた声で囁きかけてくるそれを俺は無視して、妖狐を蹴り飛ばす。首を括るように囁きかけてくるだけなら不快なだけで、気にする必要はない。

 

妖狐を蹴り飛ばした後、またこちらへと向かってくる鎌鼬に短刀を叩き付けて吹き飛ばし、近くにいた大百足への方へと吹き飛ばす。

 

「我が身に宿り給いし、諸々の禍事」

 

しゃん、しゃんと鈴の音とともに、朗々とした声が聞こえる。

 

式神が吹き飛ばした人のものだろう。不思議と血が滴っていない頭がこちらへと飛んで来て、痛みに顔を顰めながらも煽るようにムカつく表情を浮かべるその顔に短刀の柄を叩きつける。

 

首無しであろうそれの頭はクルクルと回転しながら吹き飛び、顔に目のない妖に激突する。

 

顔のない妖怪、のっぺらぼうが顔に手を伸ばしてくるが、その腕を掴んで止め、強引に投げ飛ばして地面に叩きつける。

 

その隙を狙って倒れ込んでくる塗り壁の身体を咄嗟に両手で支え、力任せに持ち上げ跳ね飛ばす。

 

「祓い給いし、清め給う力、授け給えと申す事を、聞こし()せと」

 

人の頭に直接手足をつけたような妖怪、五体面が勢いよく転がりながら突撃してくるのを飛んで回避しようと考えて、思い留まりその場に立って、その身体を受け止める。

 

余りの勢いと質量に吹き飛びそうになるが、踏み留まり、止まった隙を突いてその顔面に膝撃ちをかまし、蹴り飛ばして、その影から奇声を上げて肉切り包丁を振り上げながら飛び掛かってきていた鬼のような形相の老婆、山姥に叩き付ける。

 

(かしこ)(かしこ)みも申す」

 

しゃん、と鈴の音がなり、柔らかな風が吹く。

 

先程まで血気盛んにこちらに襲いかかってきていた化け物達は後退り、あるいは動けなくなったのか、その場に留まったまま、視線を一点に向ける。

 

その視線は俺や、他の化け物を足止めしていた奏の式神ではない。

 

その奥、声の主へと向けられている。

 

何かを察したのか、纏わりついていた縊鬼が俺から離れ、咲耶の方へと乗り移ろうとするのを、短刀を顔に叩き込んで、勢いのまま斬りつけ、鋼色の肌に変わった掌で殴り飛ばすことで阻止する。

 

動かなくなったそれを見て、警戒するように妖の方を見ながら、チラリと咲耶の方へと視線を向けた。

 

その手首を赤く濡らし、血を滴らせている咲耶は、手に神楽鈴を持っている。

 

その服装はいつの間にか巫女服に変わっており、その髪は萌黄色に染まっていた。

瞳には薄桃の、桜の花弁のような模様が浮かび上がり、淡い輝きを放っている。

 

「『珍しいわね、呼び出しなんて。けれど、契約者の頼みですし、対価も頂きましたしねぇ……』」

 

困ったように頬に手を添えたそれは、明らかに人と違う気配を漂わせている。

 

ゲームでも咲耶は数度しか使わなかった、ヨリシロにとっての奥の手。

 

「『特別サービスよ。一時(ひととき)の夢を見せてあげましょう』」

 

咲耶の体に降臨した正真正銘の神、コノハナサクヤヒメは口にして、真っ直ぐに手を伸ばす。

 

そのまま手の平を下にして、ただ振り下ろす。

 

ただそれだけで、水上先輩の呪詛は弾け飛び、化け物の群れは雄叫びを上げる。

 

一瞬にして脅威が膨れ上がり、妖怪たちは漲る力を解放せんと一斉に動き出す。

 

「『おやすみなさい、じゃあこの子宜しくね!』」

 

咲耶であれば普段は浮かべない、天真爛漫な笑みを浮かべたかと思えば、コノハナサクヤヒメは緩く手を振るって、そのまま瞼を閉じ、崩れ落ちそうになる。

 

それと同時に、ぱぁんと、破裂音が聞こえたかと思えば、苦悶の声が断続的に響き、あれだけいた異形どもの姿はなく、肉片と血潮が飛び散って、酷い有様になった村の一角が存在するだけとなる。

 

「えげつねぇ……」

 

ゲームでも見たが、これがコノハナサクヤヒメの力。やったのは単純で、言ってしまえばただのバフだ。

 

コノハナサクヤヒメ自身の権能、というよりは名前の意味より引き出されたものではあるが、マガツキノウタにおいてはこの女神様は一時的な繁栄を与えることができ、この光景はそれによるものだ。

 

一瞬のみ、体が耐えられないレベルの強化を、繁栄を与えた、ただそれだけ。それにより生まれたのがこの光景。

 

崩れ落ちて、奏に支えられた、元通りの姿になった咲耶を見る。

 

「ヤツカ、他に異変は?」

 

「てきいは、もうかんじませぬ。あのからすめのけはいも、かんじませぬ」

 

ヤツカの言葉に安堵の息を漏らす。

 

最後におっかないものを見たが、どうにか切り抜けられたことをヨシとする事にしよう。


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