マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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共寝

共寝、同衾。男女が共に布団で寝る事であり、同衾に関してはR指定がつきそうな意味でも使われるのを見たことがある気がする。

 

共寝……、一緒に寝る……?

 

絵面的に完全にアウトな気がする。気がするじゃない、アウトに決まってる。既にロリコンという謂れのない称号を付与されているのだ、疑惑がより強まるのは不本意である。

 

だが家でのこと、誰かに見られる心配は基本的にないはずであるし、そも自分から出来る範囲なら、と言った。可能か不可能かで言えば簡単なことで、とぐるぐると思考を巡らせる。

 

「今からか?」

 

「はい、その、ごめいわくでないのなら」

 

一緒に昼寝をしたい、と言うことだろうか。のんびりとする事に否やはない。ボトルシップだって完成させた訳で、割と現在は満足しているし、すぐに次のに取り掛かりたい、と言う訳でもない。そのつもりではあったが。

 

ただ、絵面が事案な事だけが気掛かり。

 

「ごめいわく、でしょうか?」

 

つい先程見た気がする表情に、大人しく白旗をあげる。捨てられた子犬のような目をされてしまっては選択肢が無くなってしまうではないか。

 

そもそも、事案、だのなんだの考え過ぎている自分の方が意識し過ぎているのかもしれない、と気持ちを切り替える事にする。

 

「んじゃ、少しばかり昼寝しようか」

 

「はい!」

 

俺が頷くと、ヤツカは嬉しそうに表情を綻ばせる。まさしく喜色満面、と言う言葉が似合う笑顔で、思わず、釣られるように笑みが浮かぶ。

 

こうやって笑ってくれるなら、まあ自分の評価とかどうでも良くなってくるような、そんな気がした。

 

 

***

 

 

そうして、布団の中である。

 

共寝、と言うお願い通りに、ヤツカと同じ布団に入る。1人用の布団ではあるが、ヤツカが小さいこともあり、問題なく2人並んで寝転べる。

 

「わたくしのわがままを、きいてくださり、ありがとうございます、あるじさま」

 

ふにゃりと、蕩けきった表情で感謝を口にするヤツカ。心の底からの幸せそうな様子で、少し距離が近くないか、だなんて問いかけるのも野暮に思えてしまう。

 

「いつも世話になってるからな、気にしなくていいよ」

 

俺がそう言うと、甘えるように、ただでさえ近かった距離をさらに詰め、ほぼ密着するような形をとる。

 

視界一杯にヤツカの顔が広がり、同時に、ヤツカから発せられたであろう甘い匂いが鼻に届き、幼さを感じられるのに何処か蠱惑的に見えて来るヤツカの様子に、顔に熱を感じる。

 

確認は出来ないが、ヤツカの目には、きっと俺の顔が真っ赤になっているように見えているのだろう。

 

気恥ずかしい、とは違う。やたらと心臓が煩く感じて、けれどヤツカの顔から目を逸らすことが出来ない。

 

ヤツカも、俺から視線を逸らす事はせず、じっと見つめて、艶やかに笑ってみせる。

 

その姿に、より一層胸が高鳴る。まるで破裂しそうにも感じられるほど、心臓の鼓動が早まり出した頃合いで、分断するように黒くて長いものが俺たちの間に挟まる。

 

「にゃっ!!」

 

抗議するような鳴き声が一つ挟まり、先程までとは別の意味で鼓動が跳ね上がる。やましいことなどしてはいないが、見られたくないところを見られた時のようにびくりとする。

 

それはヤツカも同じだったようで、肩を跳ね上げさせると、視線を上……この場合は横と言った方が正しいのだろうか?

 

ともかく、頭の方に視線を向けると、クロがこちらに顔を向けて、不満げに鼻を鳴らす。

 

「なんだ、お前も一緒に寝るか?」

 

「にゃあ」

 

問い掛ければ、ぽふぽふと尻尾で枕を叩く。

 

「あまえんぼう、ですね」

 

ヤツカは、一瞬だけムッとしたような表情を浮べたかと思えば、瞬きをすれば、苦笑を浮かべているのを確認できる。

 

まあ、見間違いだろうと考えて、まるで間を開けろと言わんばかりにぽふぽふと枕を尻尾で叩き続けるクロに対して、俺も苦笑を浮かべながら、少し、端の方に身を寄せる。

 

すると、我が物顔でとてとてと俺とヤツカの間に入り込んだクロは、布団の中に潜り込んで丸くなる。

 

その様子を見た後、図らずも俺とヤツカは顔を見合わせて、2人同時に笑みを溢す。

 

「しょうがないこ、ですね。あるじさま」

 

「自由気ままな奴だよな、こいつ」

 

布団に潜り込んで、丸まって、既に寝入ったのだろう。気儘な黒い猫又に妙な空気は破壊され、いつも通りの調子に戻れた。

 

ヤツカも別に他意は無かったのだろう。ただ、クロのように甘えたかっただけと考えるのが普通だろう。

 

なんせ家族みたいなものだし。

 

いくら座敷童で、人に仕えることを喜びとしていても、長い間独りぼっちだったのだから、寂しさから家族に甘えたいと考えてもおかしくはない。

 

だから、俺も妹を甘やかすような心持ちでいればいい。

 

「くぁぁ……」

 

言い訳じみた思考を繰り返していると、欠伸が洩れる。徐々に襲い来る眠気に、とろんと、目が蕩けていくのを自覚する。

 

「ふぁ……、わたくしも、ねむたく、なってまいりました」

 

俺の欠伸がうつったのか、小さく口を開けて欠伸を洩らしたヤツカは、眠たげに瞳をとろんとさせると、先ほどまで俺の方にむけていた体を、天井に向けると、手を此方へと差し出す。

 

それに応えるように俺も、ヤツカの掌に自分の掌を重ねると、ヤツカと同じように体を天井へと向ける。

 

「おやすみ、ヤツカ」

 

「おやすみなさいませ、あるじさま」

 

目を閉じると、だんだん意識に靄がかかり始めていく。可愛らしい声が耳に届いた後、ゆっくりと、まるで包まれるように眠りへと落ちていく。

 

なんとなく、悪い夢は見ずに済むような、そんな気がした。




「クロめ、せっかくの、あるじさまとのじかんを……」(邪魔されたので不満)

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