マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜 作:鳥居神棚
「無防備であるのう……、もう少し警戒せねばならんであろうに」(見てる皇女殿下)
「ふふ、可愛らしい寝顔ね」(何処ぞのやべーロリ)
「漱くん今日はなんかいつもより調子良さそうやね」
ヤツカと一緒に昼寝をした翌日。
本日は普通に登校……今更だが、この場合登園の方が正しいのだろうか?ともかく、学園に訪れていた。
と言っても学生であり、来るのは普通のことで、皇女殿下からの依頼とか、化け物に遭遇して怪我をした事とか、そっちの方がイレギュラーな訳だが。
依頼の件に関しては自分から逃げる選択肢を消したところがあるので仕方はないが、それにしても非常事態に遭遇する頻度が高い気がする。
ともあれ、昼休み、弁当を突いていると、机を向かい合わせにして、カップ焼きそばを啜っていた泰斗がそんなことを口にした。
「んー。実際いつもよりは調子が良いのは事実だな」
一旦箸を置いて、ぐるぐると肩を回しながら身体の調子を確かめる。
ヤツカと昼寝したのが関係しているのかはわからないが、普段以上に快調だ。
めちゃくちゃ身体が軽いし、昨日の訓練での疲れも一切残ってない。夢見も良かったし、夜もきちんと寝れた上に朝もスッキリと目覚められた。お陰で普段は眠くなるような授業でも欠伸の1つもせず受けることができた。
まあ真剣に授業を受けたか、と言われたら首を傾げるけれども。
「ほーん。良い安眠枕でも買った?」
「いや、めっちゃ快眠だっただけだぞ。爆睡した」
「ばぶちゃんかな?」
「昼寝1〜2時間程度に8時間睡眠だぞ」
「うーん健康的、健康的か??」
健康的だろ、多分。
自分で言った言葉に首を傾げる泰斗から視線を外すと、また箸を手に取って弁当に手を伸ばす。
ヤツカも料理のレパートリーが増えて来ており、基本的に和食ばかりだった食卓に洋食や中華料理なども出てくるようになった。
その影響もあり、今日の弁当にはミニハンバーグにオムレツ、と言った洋食と、白菜のお浸しに切り干し大根と牛蒡のきんぴらといった和食がそれぞれ置かれている。
「きんぴら美味しそう……」
「美味いぞ、食ってみるか?」
「いいんすか、わぁい。んじゃ少しだけ」
弁当箱を泰斗の方に寄せてやると、箸で少し摘めば、そのまま口の中へと放ると、もぐもぐと、味わうように目を閉じてゆっくりと咀嚼していき、暫くしてから嚥下する。
「うっま」
目を開けたかと思えば、驚いたように目を見開いた。
「だろ?」
ヤツカのことが褒められるのは自分のことのように嬉しく感じて、自然とドヤ顔になってしまう。
心なしか、胸ポケットの中のヤツカも誇らしげである。
「こいつ、ドヤ顔だ……」
「褒められて悪い気はしないからな」
「それはそう。家族仲が良いなら親とか兄弟が作ってくれたのでも誇らしいもんね」
俺の言葉に泰斗はこくりと頷く。俺が作ってないと断定するような口調だが、実際調理実習の際に俺の料理の腕がそうでもないことを知ったが故にこう言ってるのだろう。
別に料理が下手というわけではないが、ヤツカが作るものの方がはるかに美味いし、見た目もいい。
箸も進むというものである。
ぱくぱくと適当に雑談をしながら食事を進めれば、弁当の中身はすっかり空っぽ。
「ご馳走様っと」
手を合わせて口にして、弁当を片付ける。
「そういや漱くん、ちょっと相談乗ってほしいことがあるんじゃが、いっすか?」
同じように、食べ終えた泰斗がビニール袋に焼きそばの容器を突っ込んで、袋の口を縛りながら尋ねてくる。
いつも通りの口調だが、どこか真剣な様子を感じた俺は、少し考えて頷く。
「別に良いけど、内容によるし力になれるかもわからないぞ」
「へーきへーき、難しい内容じゃないし」
へらりとした笑みさえ浮かべて見せて、泰斗は『相談事』を口にする。
「ナンパに付き合ってクレメンス!」
「やだよ」
何を言ってるんだこのバカは。そんな気持ちしか浮かばず、冷めた目で眼前の馬鹿を見る。
そもナンパをやるような性格でもないだろお前よぉ、とは思ったが、あえて黙ったまま泰斗を見る。
「即答って酷くない??」
酷くない。
***
「なるほどねぇ」
キッパリ拒否した俺だが、事情を含めて泰斗が話した事で考える余地はできた。
なんでも以前見かけた背丈の高い、好みドストライクの女性を見かけたがあまりにも好みすぎて声を掛けることが出来ず、そのままその女性は去っていったらしい。
去り際にその女性はハンカチを落としたが、気付かず何処かへと去っていった、らしい。
「んでお前は落とし物を持ち主に返したい、ってことか?」
「せやで。けどわい1人だとまた上がって声掛けれなさそうだから手伝って欲しいなって」
つまり、だ。ナンパもしたいがメインの目標としては落とし物の返還、ということらしかった。
こいつ、好みの女性の前だとあがり症やどもり症を発症するし、実質的なコミュ障みたいなもんになってしまうので、1人だと不安、というのは理解できる。
「まあ……そういうことならいいぞ。落とし物をお前が返した後は別に帰っても良いんだろ?」
「せやで。あわよくばお近付きになりたいとは思うねんけど」
「あんまり期待しない方が良さそうだよなぁ」
「諦めたらそこで終わりなんやで。まあわいの場合冷たい目で見られてもご褒美にしかならんのやけど」
けらけらと笑う泰斗に、少なくとも今この場においては実質的に無敵みたいなもんだよなぁ、と苦笑しながら俺は思う。
M気質複合とか手に負えないのである。
「んで、そのお姉さんは何処にいるんだ?」
「うーん、わいもわかんねえのよね。前あったのも偶然みたいなもんだったし」
問いかけに、うーんと首を捻りながら考え込み、ゆるゆると首を横に振る。
けれど、何かを思い出したかのように顔を上げると、俺と目線を合わせると、口を開く。
「でも、そこの商店街にいるの見たことあるし、多分そこメインに探そうかなって。
でもあの人ほんと大きかったし、見つけるのも簡単だと思うで」
うんうん、と頷きながら自己完結する泰斗に、はあ、と呆れたようなため息がつい溢れる。この口振りから、よく商店街の方で見かけるんだろう、とそう感じる。
「いつもはどのくらいの時間にいるのを見るんだ?」
「夕方やね。学校終わってからだからちょうど良いなって。初手で断られるとは思わんかったが」
「初めから真面目に言わないのが悪いわ」
皮肉混じりに口にした泰斗の言葉をバッサリと切り捨てる。
「んじゃ、詳しい話はまた後で聞くわ。そろそろ授業始まりそうだしな」
がたごとと、向かい合わせにしていた机を元の場所に戻して椅子に座ると、ちょうど良いタイミングで教師が姿を表す。
ノートを開いて、教科書を開いて、残りの授業もきちんと受ける用意をする。
とりあえず、午後の授業もしっかりこなしてから、泰斗の頼みのことを考えようと、そう思ったのだった。