マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜 作:鳥居神棚
「よそ見してる暇あると思ってんのかいアホ娘!」(物凄い勢いで投擲させる枕)
「きゃんっ!?」(顔面にぶつかる)
水上親子の微笑ましいスキンシップの一幕
「へい!へるぷみー!」
HRが終わってすぐに、泰斗がふざけた調子で声を掛けてくる。
既に帰り支度を済ませているらしく、バッグを肩に掛けていて、既に席を立っている。
「はいはい、っと。昼休みの時言ってたやつだろ?」
「いえすいえす!」
急かすように催促する泰斗に呆れながらも、こちらも帰り支度を済ませる。
と言っても、教科書類は課題があるもの以外は大抵置きっぱにしているため、バッグの中身は筆記具に弁当箱、それと持ち帰る必要があるものだけだったりする。
なので、帰り支度はすぐに終わった。
「んで、今から行くのか?」
バッグを肩に掛けながら問いかけると、こくりと泰斗は頷く。
「せやね。早めに返したい気持ちはあるし」
滅多に見られないような、真剣な顔つきで言う泰斗に、少しだけ俺は驚いたが、すぐに小さく息を吐いて、苦笑を浮かべて見せる。
「お前それ、交番に届けたら良かったんじゃね……?」
「……うん!よしすぐに行こうそうしよう!な!!」
「おいこっち見ろよ露骨に目を逸らすな」
「う、うるせぇ!ワイの運命の邪魔はさせんぞ!!」
下心丸出しだった。控えめに言ってクソである。
***
「んで、具体的にどのあたりでその美人さんを見たんだ?」
学園から出て、現在商店街を2人で並んで歩いていた。
田舎町であるが故に、と言うべきか。
民家に商店が一箇所に纏まっているのがこの『津雲商店街』であり、夕方にもなれば学園生を含む近隣の子供達や帰路に着く大人達で溢れかえる。
その為、この商店街はこの時間帯はいつも賑やかで、都会ほどの人が混み合うわけではなくとも、道行く人の数はとても多い。
ふと視線をずらせば、道の端に屯って談笑する学生や、道の真ん中を駆け抜けていく子供達、買い物をしている主婦達が視界に入る。
ぐるりと、辺りを見渡せば、いろんな人々が視界に入るが、泰斗の好みに合致しそうな背丈の女性は見受けられない。
「泰斗、居たか?」
そもそも、俺は泰斗が見たという女性に心当たりがない。探しても見当たらない、というか見当がつかないのは当然のことであった。
隣を歩く泰斗に視線を向けて問いかけると、ゆるゆると首を横に振られる。
「んー、居ないっすわ」
へらりと笑いながら、くるくると視線動かすのを辞めない泰斗は、きっぱりと口にする。
固まってない様子を見るに、本当に居ないのだろう、とそう感じる。
「んー、じゃあ適当に店の中とかも見てみるか?意外と駄菓子屋とかゲーセンとかいるかもだし」
「ゲーミングお姉様という可能性……ふむ、あり」
「そういう話をしてるんじゃねえよ。てかお前の探し人だろ、真面目にやれ」
「あぁん、辛辣ぅぅ……。やめて、その目はやめて。それは気持ち良くないから」
ふざけ倒す泰斗に、ゴミを見るような目……ではなく、本気で頭を心配するような目を向けてやると、居た堪れなくなったのか、一旦おふざけを止める。
はぁ、と態とらし溜息を吐いてから、丁度通り過ぎようとしていた、町内唯一のゲームセンターへと足を向ける。
両開きの扉を開けると、ゲームのBGMや人々の声が耳に届く。
楽しそうな声から、怒号まで、他の音と合わせて一度に耳に飛び込むものだから、思わず顔を顰めてしまう。
それは泰斗も同じだったらしく、眉根を少しだけ寄せていた。
「相変わらず五月蝿いんごねぇ……」
「唯一と言って良いゲーム関連の娯楽施設だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどなぁ」
言いながら、ぐるりと店内を見渡す。
そこそこの広さの店内には所狭しとアーケードゲームの筐体が並べられており、入り口付近には両替機が置かれている。
そこそこ、本当にそこそこ広い、程度の店内を2人して歩きながら、キョロキョロと見て回る。
学生や、仕事帰りのサラリーマン、また子供達の姿はちらほらと見受けられるが、泰斗の探し人どころか女性の姿自体、あまり見られない。
奥の方まで行くと、衝立が立てられており、その奥には長机がいくつか並べられている。
壁際にはカードがずらりと並べられたショーケースがあり、その下にはカードゲームのパックがずらりと並んでいて、そのすぐ側に会計カウンターがある。
カードゲーム用の対戦スペースとなっているそこには、子供達に混じって、明らかに目立つ存在がいた。
それは、黒だった。
真っ黒で、癖一つないように感じられる、肩にかかる程度で切り揃えられた黒い髪。
真っ黒な女性用のスーツを押し上げるのは豊満な胸。腰元はキュッと締められている。
ぴっちりとしたズボンは体のラインを隠さず、肉感的な肢体なのが見て取れる。
なによりも異質なのはその背丈だ。
少し離れた所から見ても、自分よりも背丈が高い事がわかる。
「泰斗、あの人?」
「タブンソウ、キットソウ、メイビー」
泰斗に声をかけると、緊張からか、ロボットみたいな返答が返ってくる。
ガチガチに固まってるその姿に苦笑して、取り敢えず、泰斗の背中をぽん、と叩く。
「ほら、いくぞ」
「あい」
促してやれば、ぎこちない動作で女性の方へと泰斗が向かい出す。
それと同時に、女性は何かに気付いたようにこちらを向く。
人形のように思える、整った顔立ちの中にある、まるで光を一切通さないような、真っ黒な瞳が俺たちの方へと向いて、女性は口を開く。
「ぽ」
たった一文字、ただそれだけなのにぞわりと背筋に怖気が走る。
空気が凍るような、そんな錯覚すら覚え、無意識の内に身構える。
横を見ると、泰斗の表情から緊張は消え失せ、気怠さが消えた目で、じっと女性を射抜く。
お互いに、じっと見つめ合い、泰斗はバッグの中に手を突っ込めば、綺麗に畳まれ、袋に入れられた質の良さそうな白いハンカチを、袋ごと取り出す。
そして、迷いなく明らかに異質なその女性へと近付くと、真っ直ぐにハンカチを差し出す。
「これ、お姉さんのですよね?」
「あら、これはご丁寧に。有難うねぇ、坊や。……ほれ、そこの坊やも、そんなに身構えなくて宜しいのよ?」
「あっ、はい」
緊迫した空気は、泰斗の一言で一気に吹き飛ぶ。
異質な空気感はなんだったのか、と言いたくなるくらいに、ガラリと変わる。
怖気も、異質さも周囲の喧騒に埋め尽くされてく中、困惑したまま、優しく頭を撫でられてご満悦の泰斗に視線を向ける。
「くぅん……」
「うふふ、可愛らしい子ね」
「お前はそれで良いのか」
何とも言えない気持ちで、小さく息を吐き出す。
ともあれ、目的は達成した、と見てよさそうだった。
『宿主その女、やばいと思うが』(妖刀アラート)
「あるじさま、おきをつけくださいませ」(脳内に直接念を送るヤツカちゃん)
<・><・>「ほぅ……?この程度なら、どうとでもなるじゃろう、のう?」
<・><・>(ニコニコしながらスパチャを送ろうとして送れない事に気付く図)