マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜 作:鳥居神棚
「よし!」
部屋にこもって3時間ほど。作業を終えた俺は作り上げた物を机の隣にそっと置く。
かなり集中出来たからか、それほど長く時間を掛けずに完成させれたことに満足しつつも、出来栄えを確認する。
「……喜んでくれると良いけどな」
個人的に満足のいくモノには仕上がった事に安堵しながらも、ぽつりと呟く。
スマホを起動して、時間を確認すればそろそろ夕暮れ時、と言ったところ。空も夕焼け色に染まっていくのが確認できた。
ゆっくりと伸びをして、立ち上がる。
……取り敢えず、買い物に行くか。
***
誰も居ない夕暮れの雪道を、足を滑らせないように歩いて、こくり堂へとやって来た。
いつぞやのように隣にはヤツカ……というわけではなく、すっかり恒例となった胸ポケットの中に入って付いてきている。
今日用事があるのは一階の食料品コーナー。
本来ならば商店街の方に行きたくはあったのだが、さすがに雪道で自転車を使うのが危険となると、あそこまで徒歩で往復するのは少しばかり辛いものがある。
そのため、そちらよりは近いこちらに顔を出した訳である。
目的はケーキ。
我が家ではクリスマスイブに先にクリスマスパーティーを開くのだ。当日に開くのが普通なのだろうがこれまでの習慣、と言うやつは直ぐには抜けないし、何か問題がある訳でもないので、例年通りに行うつもりである。
一階の隅の方に並べた菓子類のコーナー。コンビニのスイーツコーナーというよりは、デパート内の洋菓子コーナーや、洋菓子店のように、ショーケースの中にそれぞれ並べられている形だ。
ホールケーキ……は2人で食べるには多過ぎる。なので、視線はショートケーキの方へと向けられていた。
「うーん、どれが良いだろうか」
呟きつつ、ショーケースを眺めていると、背後から声がした。
「お、休みの日に会うのは珍しいやね、買い物?」
振り向けば、コートを着て、その腕にマフラーを巻き付けた泰斗が、いつもの眠たげな瞳を向けていた。
そういや、こいつも商店街よりこっちの方が近かったんだっけ、と思い返す。
「買い物以外の理由ではそうそう来ないだろ。バイト先ここじゃないし」
「それはそうやね……にしてもケーキってちょっと気が早くない?クリスマス明日やで」
「我が家はクリスマスイブにケーキ食べてクリスマスにプレゼントを手に入れて終わりなんだわ」
「あー……、親御さん建築関係の仕事してるんだっけ?」
「そうそう。何故か知らんがいつもクリスマスは夜景の一部に成り果ててるからクリスマスイブに前倒ししてるらしいんだよな」
両親共に建築業と土木工事を生業としている為か、常に忙しそうに動き回っている。
記念日やイベント、正月や盆は家に居てくれたが、基本的に朝早く家を出て夜遅くに帰ってくる、と言ったサイクルを繰り返しているのだ。それはクリスマスもそれは例外ではないらしく、枕元にプレゼントを置いてそのまま仕事に向かうのだから、団欒できるのがその前日のイブだけになる。
毎年そんな感じだった為、親元を離れた今もクリスマスイブにケーキを買うのは、イブはケーキを食べる日、と脳みそに刻まれてるからだろう。
まあ、どうでもいい話ではある。
「クリスマスの夜景になるの可哀想……。でもクリパ開いてくれるあたりいい親御さんやね」
「それは本当にそう。んで、お前は何買いにきたんだ?」
ふぅん、といつも通りの声音で言えば、小さく欠伸を漏らす泰斗。暇そうだなこいつ、だなんて問い掛ければ、はて、と首を傾げる。
「買い物以外でこんやろ」
「ブーメラン投げられたわ」
「まあわいは筆記具とお菓子類ですけどね。クリパは明日やるし」
そう言う泰斗の手にはビニール袋。既に何点か購入していたのが伺えた。
ケラケラと笑う泰斗はそのまま俺の隣でショーケースの方へと視線を向ける。
「ケーキ食いたくなってきた」
「菓子類を買うんじゃなかったのか」
「ケーキも菓子やろがい!」
「それはそう。確かにそう」
何も否定が出来ない事実だった。
「ホール、丸々1人で食べるのはロマンあるよね」
ホールのチョコレートケーキやスタンダードな苺のケーキなどを見ながら、じゅるり、と垂れ始める涎を啜る泰斗。
気持ちは分からなくもないが、公共の場でそれはいかがなものかと思う。
「そんなに入るか?」
「無理。多分半分も食べれず胸焼けしますわ」
「そりゃそうだわ」
ふざけた調子で言葉を交わしあいながら、視線はショーケースの中。
ショートケーキ2種類でいいか。
「すみませーん、苺のショートケーキとチーズケーキ1つずつください」
「わいのはガトーショコラでよろしく」
「自分で買え」
***
泰斗とこくり堂で遭遇したが、特に何かが起きたわけでもない。いつも通りにふざけたやりとりをしながらケーキを買い終えた俺は、帰路に着いた。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、あるじさま」
姿を現したヤツカは、ぺこりと頭を下げると、顔を上げてにこやかに笑う。
胸ポケットから彼女の分身が本体の方へと飛び出して、吸い込まれるように1つになる。
いつも見る光景とは言え、未だに慣れて来ない。
「はい、これクリスマスケーキ」
差し出した袋を両手で、そっと受け取ったヤツカは、こてんと首を傾げる。
「くりすます、けぇきにございますか。……けぇき、はわかりますが、くりすます、とはなんでございましょうか?」
ケーキに関しては何度か食べさせた為、理解しているようだが、クリスマスについては、案の定知らなかったらしい。
可愛らしい仕草での問いかけに、少しだけ言葉に詰まる。
細かく話そうか、どうしようかと考えて。
「良い子にいいことがある日だよ。まあ明日だけど」
そう言いながら、ヤツカの頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を細めつつも、不思議そうな表情を浮かべる彼女に、続けて言葉を投げる。
「夕飯食べたらケーキ食べよう。今日のメニューは何?」
「たつたあげと、だいこんとかぶのおみそしる、はくまいに、ほうれんそうののりあえでございます」
「お、美味そう」
にぱーと笑いながら答えてくれるヤツカに、こちらも笑って返せば、2人並んで、居間へと足を運ぶのだった。
「あ、あるじさま、おてあらいをわすれては、いけません。めっ、でございます」
「あ、はい」
迷走してる感じは否めません。力が欲しいか……ほしい……