マガツキノウタ〜現代異能ファンタジーエロゲ世界で何故かようじょに懐かれる件について〜   作:鳥居神棚

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正月・2

正午少し前。ジャケットのポケットに手を突っ込みながらぶるりと身を震わせる。

 

首元につけたネックウォーマーを片手で触りながら、もう少し防寒性の高いものを買った方が良いか、なんて考えながら、待ち合わせ場所まで歩いていた。

 

家を出た瞬間からチラホラと商店街の方向へと歩く人影が見えていたが、商店街に突入すると、沢山の人が同じ方向に歩いていくのが見えた。

 

道行く人の格好はさまざまではあるものの、一際目立つのは豪華な和服、振袖に身を包んだ女性たちの姿だ。

 

柄はさまざまで、皆が皆、と言うわけではないが、着飾ったその姿は目を惹くようである。

 

ちらり、と視線を向けた後、また前に視線を戻す。

 

視界の先にも人、人、人。田舎であるがそこそこの人口があり、正月、と言うことも影響しているのだろうが、人混みには少々うんざりしてしまう。

 

田舎ならもう少し人数減ってくれてもいい、だなんて考えながらも、商店街の先を目指して黙って足を動かした。

 

 

***

 

 

商店街を抜けてしばらく歩くと山の斜面が見えてくる。常緑樹と枯れ木が入り混じった山肌には、平時であれば一本、太い、灰色の線が入っているように見える。

 

それは上へと続く石造の階段となっていて、今は行き交う人の列が、まるで1匹の生き物のように動いている。

 

なんと言うか、テレビなどで似たような光景を見たことはあるが、実際にこの目で見れば、なんとも奇妙な光景だな、とそう感じた。

 

 

そうして、斜面のすぐ側、階段の所まで近付くと、視線を横に向ける。

 

階段のすぐ側に佇む、見慣れた顔。その姿に軽く手を振ると、相手はこちらに向けて軽く手を振りかえす。

 

「ちっすちっす。あけおめやで漱くん」

 

「あけおめ泰斗。んじゃ、さっさと行こうぜ」

 

「待ってたのわいなんですがそれは……。あいあい」

 

空色のダウンジャケットを着て、緑色のマフラーを巻き付けている泰斗の挨拶に返すと、呆れた顔で態とらしく肩を落とす。

 

それもあくまでただのポーズらしく、すぐにいつも通りの態度に戻る。

 

「にしても、相変わらずここ登るのだるくない?」

 

とん、とん、と後方にいる人に迷惑をかけないようなペースで、そこそこ広く、避ける余地がありそうな広さの石階段を上がりながら、泰斗は面倒臭そうに口にする。

 

斜面自体の傾斜が急だからか、この階段も傾斜はとてもキツく、上り下りは正直辛い。

 

「だなぁ、メチャクチャ膝に来るもんな。この階段」

 

泰斗の言葉に同意するようにこくこくと頷く。

 

「おじさん臭くない……??いやまあわいもそうなんですけどね?」

 

俺の言葉に揶揄うように言って見せるが、直ぐに肩を竦める泰斗。

 

言えば自分にも返ってくると分かってても口にする辺りは、彼らしい。

 

そうやって、軽口を叩き合いながらも、とっ、とっ、とっ、と、リズム良く足音を鳴らしながら無駄に長い階段を登っていく。

 

そうして5〜6分程度登り続けると、大きな鳥居と、広々とした境内が視界に入る。

 

学園よりは幾分か低い地点に大きな公園、程度の広さの境内の中には所狭しと屋台が並べられ、参拝を済ませた子供たちが一様にチョコバナナやクレープの屋台の近くに集まっている。

 

立派な社の方に真っ直ぐと伸びている石畳の上には参拝客が四つの列を作り並んでいた。

 

屋台での買い食いも醍醐味だな、とは思いつつも、初めの予定だけ済ませようと泰斗と2人、列に並ぶ。

 

「泰斗お前何お願いすんの?」

 

「どっかで神様に頼み込んだ願いを第三者に言うと叶わないって聞くから言わない。漱くんは?」

 

「その話聞くと言うの躊躇うな……。別におかしいことを頼む気はないけど」

 

一定のペースで列が動くたびにちまり、ちまりと前に歩を進めながら、隣に並んでいる泰斗に尋ねる。

 

ぶんぶん、と拒絶の意思が示され、同じように投げ飛ばされた質問に、曖昧に答えながら肩を竦めてみせると、それもそうやね、とカラカラと笑う。

 

「まあ、言わなくても叶わない時は叶わないんすけどね」

 

「あくまで神頼みだしなぁ」

 

言いながら、段々と社に近付いていくと、厳かな雰囲気を肌に感じた。

 

肌がひりつくような、神聖な気配。神様がいる、と言われれば信じてしまいそうになる。

 

それほど、なんと言うべきか、不思議な感覚を肌で感じている。

 

どうしたものか、と考えてみると、目の前の人たちは参拝を終わらせたようで、自分の番が来る。

 

社の方へと近付くと、賽銭箱に向けて5円玉を放り込み、2度、深々とお辞儀をし、パンパン、と手を叩く。

 

そうして、また、深々と頭を下げ、胸の内で願い事を唱え終えると、ゆっくりと顔を上げる。

 

隣を見れば、泰斗も顔を上げていたようで、2人して当初の目的は達成したのだった。

 

 

***

 

 

「んー、泰斗どうするよ」

 

もきゅもきゅ、と屋台で適当に購入したフライドポテトを食べながら泰斗に視線を向けると、イカ焼きを喰い千切り、咀嚼して飲み込むと、あらためて口を開く。

 

「んまい。っと、おみくじ引いてないから引いとかない??」

 

「あー、そういや引いてないな。ついでにお守りとかも買っとこうかな」

 

言い切ってからまたイカ焼きに食らい付いた泰斗の言葉に、そう返しながら、まだあったかいフライドポテトを口の中に放り込んで、もぐもぐと口を動かす。

 

「ええやんお守り。わいも買おうかなぁ……」

 

「何買うよ。俺は……無病息災のお守りかなぁ……」

 

「すっごい切実……。自分はやっぱ……、良縁祈願っすかねぇ……」

 

切実な気持ちを込めながら言えば、お互いに購入した食べ物を腹におさめきる。

 

そのままの足で、境内にあるお守りや絵馬の販売所に向かう。

 

お堂の一つを利用した販売所は、窓口が4つあり、半分がお守りや熊手など、もう半分が絵馬の販売所となっている。

 

先にお守りを購入してからおみくじを引くことにした俺たちは、宣言通りのお守りを購入すると、そのままおみくじを引きに意気揚々と小銭を握り締めた。

 

「運勢が悪い方が奢り」

 

「500円までな」

 

「オッケー」

 

なんとも罰当たりな会話であった。


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