魔法少女リリカルなのはBlack   作:黒崎ハルナ

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リメイク版プロローグスタートです。


#0 プロローグ
プロローグ


 悪徳の都ーー

 その港湾都市(まち)はロアナプラと呼ばれていた。ミッドチルダ南方の最果てにある小さな街。元々は片田舎にある開拓地として存在した港町であり、現在は犯罪都市などと呼ばれている場所だ。

 今から50年ほど昔まではただの寂れた港町でしかなかったこの場所にマフィアやギャングといった犯罪者連中が住み着いたのはかれこれ20年ほど前になる。正確な年数は住人たちも知らないので、30年以上前だと言う連中もいるが、少なくともただの港町が犯罪都市などと呼ばれるようになったのは20年ほど前に起きた盛大なカーニバル(マフィア同士の全面抗争)が原因だ。

 連中は自分の領域(テリトリー)部外者(他所のマフィア)がいるのがなによりも気に入らない人種である。そんな連中が何をトチ狂ってこんな片田舎に集まったのかは未だに謎ではあるが、20年ほど前のロアナプラはそれは酷いものだったらしい。

 夜だというのに炎の所為で昼間みたいに明るかったり、昨日まであった筈の建物が翌日には瓦礫の山になっていたりなんて当たり前。夜中に銃声で叩き起こされるのなんて日常茶飯事。終いには便乗して次元指名手配されている犯罪者連中まで集まる始末。

 当時の時空管理局が丸投げしたのも納得できるというものだ。

 

 

 

 そして現在。

 ロアナプラはいくつものマフィアやギャング、次元指名手配されている犯罪者、果ては違法な武器商人や時空管理局の連中までもがのさばり、暴力に対して暴力を持っての武力均衡が保たれる中で複数の犯罪組織が共同支配する「悪徳の都」として繁栄していた。

 

 

 

 頭上に浮かぶ月が街を照らす。時刻はすでに真夜中に近く、日付けが変わろうというのにロアナプラの酒場では騒ぎ、笑いながら、彼らは他愛ない会話を楽しんでいる。

 酒の肴にする程度の退屈を紛らすだけの意味のない話題。何処かの馬鹿がギャングのボスをブチ切れさせただの、娼婦の誰かがマフィアの女になっただの、この街ではありふれた話。

 その中で一際話題に持ち上げられる話がある。ロアナプラで知らないやつなど1人もいない有名な運び屋の話。

 

 

 屈強な身体の男が自慢気に言う。彼らはただの荷を運ぶ運び屋ではない。どんなにヤバい組織だろうが連中に喧嘩を売ったら最期、手練れの魔導師だろうが、選りすぐりの武器を用意した百戦錬磨の部隊だろうが意に介さず、彼らの暴れた後にはチリ一つ残らない。

 時空管理局すら恐怖するほどの圧倒的な戦力を有しながらも何処の組織にも属さず、何処の組織だろうが報酬が見合えばどんな仕事も引き受け、必ず仕事を完遂する一流の運び屋。

 噂では凄腕の殺し屋が率いているらしく、たった7人であの時空管理局すら落とすことのできるほどの化け物の集まりだと。

 

 ーーそれで?

 

 退屈そうに話を聞いていた娼婦の女が言う。

 犯罪都市ロアナプラ。この街で化け物や人外なんて珍しくもない。

 

 たとえそれが伝説の暗殺者だとしても、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月になったばかりの夜、事前に連絡もなく彼女ーーユーリ・エーベルヴァインがやってきた。

 

「こんばんは。コクトー」

 

 突然の来訪者は玄関口に立って、思わず見惚れてしまいそうな綺麗な笑顔で挨拶をする。

 

「ワインをお裾分けで貰ったのでよかったら一緒にと思って。ーーあ、これディアーチェからです」

 

 ブーツの紐をほどきながら、手に持っていたビニール袋を渡してきたのでそれを無言で受け取る。中身は王様手製の生ハムやチーズ、あとは日持ちのするパンなどが詰められていた。ユーリ曰く、面倒くさがりの俺の事を考えてのチョイスらしい。

 俺が緩慢な動きでビニール袋の中身を確認している隙に、ユーリは靴を脱ぎ終えて室内に上がっていた。

 ロアナプラのそこそこ治安の悪い場所にある安いボロ部屋が俺の家だ。

 ちなみに、ミッドチルダでは珍しい靴を脱いで部屋に上がる習慣は、俺が地球にいた頃の名残りのようなものである。

 玄関から1メートルもない廊下の先、寝室と居間を兼用した部屋に辿り着く。昔と違って遠慮が無くなったなァ、とさっさと部屋へと歩いていくユーリの後ろ姿を目で追いかけながら、俺も自室へ移動した。

 

「コクトー」

 

 部屋に戻るなり、部屋の隅にある小型冷蔵庫を開けたユーリから声が出た。

 ユーリは俺にも見えるように冷蔵庫の扉を全開にする。

 

「冷蔵庫の中、水とお酒しかないじゃないですか。駄目ですよ、ちゃんと食べないと」

 

「心配しなくても、メシならちゃんと食ってる」

 

「酒場のツマミを食事とは言わせませんからね」

 

「へいへい……」

 

 何時の間に読心術を体得したのだろうか、しかも自前のではなく酒場のツマミであることまでお見通しときた。

 俺の予想通りな態度になんとも言えない微妙な表情を見せたユーリは、持ってきた食料を空っぽの冷蔵庫にブチ込み始める。手持ち無沙汰になった俺は部屋の窓際に陣取る簡易ベッドに腰を落とし、タバコを口に咥えたまま体を横に倒した。

 なんとなく俺はそのまま、小柄な体の彼女を観察する。

 彼女、ユーリ・エーベルヴァインとの付き合いはかれこれ10年以上になるが、未だにどうして俺みたいなロクデナシの側にいるのか不思議でならない。

 ユーリは盗みや暴力行為を極端に嫌う、この犯罪都市では珍しい善人に位置するやつだ。

 暗闇でも目立つ金色の髪は絹のように細く、ふんわりとかかった天然のウェーブはその魅力を更に引き立てる。

 飾り物もしないし、男漁りもしない。身長は150に届くかどうかの小柄な体躯と童顔。だが、それに相応しくない女性を強調する2つの果実は、男なら一度はむしゃぶりつきたくなるだろう。

 きちんと服や化粧を見立てれば、それだけでミッドチルダ首都クラナガンのトップモデルやアイドルをごぼう抜きしてしまうかもしれない。少なくとも俺はそう確信している。

 

「…………あ」

 

「コクトー、ベッドの上でタバコは危ないから止めてくださいね」

 

「別に吸うつもりねェよ。口寂しさに咥えてただけだ」

 

「それでもです」

 

 咥えていたタバコをユーリが奪う。ベッドに横になっていたので、必然ユーリがしゃがみ込む形になり、髪色と同じ金色の瞳が俺を写した。

 どうでもいいが、シャツから見える谷間はかなりの絶景である。

 

「……あー、わーったよ」

 

 ユーリからタバコを奪い返し、もそりと体を起き上がらせる。赤マルの箱にタバコを戻すと、ユーリは何が嬉しいのかにこにこと笑みを浮かべていた。

 

「んだよ?」

 

「いえ、なにも」

 

「あっそ」

 

 ベッドから離れて、彼女が持ってきたワインを取る。視界に入ったので、ワインの銘柄を見たが学のない身ではそれがどんなワインかなんてわからなかった。

 そこでふと、大事な事を思い出す。そうだ、ウチにはコルクの栓を開ける道具がない。

 

「あッ⁉︎」

 

 ユーリが声を上げる。たぶん俺と同じ事を考えていたのだろう。申し訳なさそうにこちらを見てきたので、たぶん素で忘れていたのだ。

 まあ、それは仕方ない。普段からワインやシャンパンを飲む王様たちと一緒にいるユーリからしたら、そんな物は常備しているのが当たり前だ。彼女は悪くない。

 

「ごめんなさい」

 

 シュン、と耳の垂れた仔犬のようになるユーリに「大丈夫だ」と声をかける。

 冷んやりと冷えたワインを右手に持ち直し、俺は左手に力を込めた。

 側から見たら馬鹿丸出しな行為。素手でコルクの栓を開けるなんて格闘家でも難しい。

 だが、俺はできる。格闘家ではないが、できる。

 何故なら俺は紛いなりにも魔法が使えるから。

 左手に魔力を通す。

 コルクを摘む親指と人指し指に鈍い銀色の魔力光が滲む。

 そしてーー

 

「ふんッ!」

 

 力強くコルクを引き抜いた。

 キュポン、と心地よい音が狭い室内に響き渡り、その後にユーリから拍手が飛んだ。

 

「ほら、飲むからグラス出してくれよ」

 

 そう言ってワインの開け口をユーリに向けると、ユーリは元気よく。

 

「わかりました」

 

 と、笑った。

 

 

 

 

 

 初めて魔法を知ったのは9歳の時。

 きっかけはお節介で、世話焼きで、困っている人をほっとけない幼馴染みの少女がたまたま首を突っ込んだ魔法関連の事件に何故か半ば無理矢理に関わることになったから、とか。

 そんな感じで。

 世の中には自分の意思ではどうしようもないこと、所謂成り行きのようなものがあるわけで、自分の意思とは関係なくその物語に関係することもある。ジュエルシード事件と呼ばれたそれは、間違いなくその類いのものだった。

 はっきり言って、かなり迷惑な話である。

 

 それから色々あって、その事件は一応のハッピーエンドを迎え、これで魔法に関わることもないだろうと思っていた12月。

 

 今度は何故か魔法関連の連中に幼馴染みが襲われた。

 どうやら幼馴染みはトラブルを引き寄せる天才らしい。

 理由も脈絡もなくいきなり襲われた幼馴染みを助ける為に、前の事件で知り合った友人たちと俺はまた魔法関連の事件に関わることになりーー

 

 その過程で誰かを助ける為に犠牲になるなんて寝言を言った銀髪をちょっとした気紛れで助けた。決してその銀髪のナイスなボディに惑わされたのではない。……絶対だ。

 あの時の幼馴染みがこちらをゴミを見るような目で見てきたのは忘れられない。

 ともあれ、これで今度こそ終わったと思っていた。そう、思っていたのだ。

 

 

 だが、俺の受難はそこで終わらなかった。

 

 事件も無事に解決したというのに、何故か俺はその後も幼馴染みやその友人たちと一緒に魔法に関わっていくことになったのだ。

 

 ほんと、どうしてこうなったんだか。

 

 

 そして俺は彼女たちに出会った。

 今後の長い人生を付き合うことになる彼女たちと。

 

 

 初めて魔法を知ったのは9歳の時。

 きっかけは幼馴染みの手伝い。

 あれから14年。

 23歳になった俺は魔法世界ミッドチルダの隅っこ、犯罪者の楽園ロアナプラで小さな運び屋をしながら生きている。

 黒道リクト。渾名はコクトー。

 酒とタバコと女が好きで、自由を愛する運び屋だ。




ここまで読んで頂きありがとうございます。
誤字がないことを祈る作者です。
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