魔法少女リリカルなのはBlack   作:黒崎ハルナ

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ほぼオリキャラオンリー回。


Act.2 Even if there is no justice, it turns around the world. 正義は無くても世界は回る

 ロアナプラに住み着いて10年、大概、さまざまな騒ぎを見てきたと思っている。マフィアの処刑や、抗争。売春婦のいざこざに街に住む女と男の揉め事。賞金首と賞金稼ぎのチキンレース。その他etc……上げたらキリがない。

 犯罪都市に居る者の宿命だと言ってしまえばそれまでだが……8年前にコクトーこと、黒道リクトと出会ってから、自分がトラブルに出くわす頻度は年々右肩上がりに急増している。運び屋なんて危ない橋を何度も渡る商売をしている彼の銃を整備し、彼が愛喫しているタバコを売るだけの関係の筈の自分の元に、毎回のように彼が飽きることなくトラブルを持ち込んで来るのは何故だろうか。かくまってくれと仲間の女から逃げ込んで来る彼を自宅兼工房として使っている店の二階にある自室に隠したり、簀巻きにして火炙りにしてやると血眼になりながら縄を持って怒鳴り込んできた街の男たちをなだめて追い返した回数は、もはやウェンリー本人さえ忘れてしまったほどだ。

 それでも見捨てられないのは、彼が数少ない心許せる友人だからなのかーーそれとも死んだ2代目店主の爺さんが気に入っていた男だからなのか、もしくは別に理由があるのか。8年経った今でもそれは未だに分からない。分からないなら、分からないままで良いとウェンリーはそう思っている。

 ーーとはいえ。

 

「悪い。ベッド貸してくれ」

 

 夕暮れ時になろうとする時間に、意識を失ったボロボロな成人男性を引きずり、おまけに年若い女を引き連れて現れた男を見捨てられない理由となると、さすがに少々考える必要があるとは思う。

 昼間の暑さからシャワーを浴びた下着姿のまま、ウェンリーは頭をかいた。

 

「……コクトー。ウチを病院と勘違いしてるなら、一度眼科と精神科を紹介するけど」

 

「いらんわ! ていうか、仕方なかったんだよ⁉︎ 事務所は遠いし、マオ先生んトコは電話出ないしで、ここしか当てがなかったんだ」

 

 肩で息を切らしながら玄関先で地団駄を踏むコクトーに、ウェンリーは軽く首をすくめて見せる。

 

「はいはい、わかったから。とりあえず居間に運んで。私、着替えてくるから」

 

「ああ、助かる。今回ばかりは本当に助かった」

 

 勝手知ったる他人の家ーー慣れた足取りで家の中を迷わず歩いていくコクトーの後ろ姿を見て、ウェンリーはぼやく。

 

「私、毎回ウチにあんたが転がり込んでくるたびにその台詞を聞いてる気がするんだけど、気のせいかしら」

 

「いやまあ、気のせいって事にしてくれると嬉しいかな」

 

 背中を向けているので表情は分からないが、きっと苦笑いを浮かべているに違いない。その証拠にひくひくと肩が揺れている。

 

「……それで、その2人は誰なのよ。見るからに厄介そうだけど」

 

「ああ、これ?……別に、ただの指名手配犯とそれに誘拐された人質だよ」

 

 小首を傾げるウェンリーに、コクトーはさも当たり前な口調でトンデモ発言をかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血生臭い室内に、場違いに明るい声が響いていた。

 

「あなたは……」

 

「どうも、さっきぶりだな」

 

 唖然とする彼女の前で、俺はできるだけ余裕を持って声をかける。警戒心が1段階高くなる彼女を前に軽く手を振り、こちらに敵意が無いことを示す。

 

「ああ、心配しなさんな。別にあんたらの事情に興味はないから」

 

 ポケットからタバコを取り出そうとして、そういえば切らしていたことを思い出す。あまりにも格好がつかないので、そのままポケットに手を入れたまま会話を続ける。

 

「………ならなんで」

 

「特に理由は無いさ。強いて言うなら……なんか困ってそうだから、少しばかりおせっかいをと思ってね。こう見えて、ロアナプラで数少ない中立の人間なんだよ、俺」

 

 ギュっと気絶した男を抱く手が強くなった。警戒心はまだ溶けないらしい。それも冷静に考えれば当たり前である。ピンチの状況にそう都合よく正義の味方は現れない。それをわかっているだけでも彼女に対する評価は俺の中で高くなっていく。

 俺は小さく鼻を鳴らした。

 

「だから別にあんたのツレが現在大ブレイク中の次元指名手配犯だろうが俺は気にしないから安心しな」

 

「つッ⁉︎」

 

 女が息を呑む。薄っすらと冷や汗もかいていた。その反応で、見間違いなどでは無いという確信が取れたことをたぶん目の前の女は気がついていない。可愛いものだ。

 

「3週間前、第16管理世界にある管理局お抱えの研究所が何者かによって襲撃。犯人は研究所から実験サンプル及び施設内に居た民間協力者1名を連れて逃亡中」

 

 小馬鹿にしたような、それでいて見透かしたような笑顔を浮かべながら、俺は出来る限りふてぶてしく口元を歪める。

 

「目撃証言から犯人は第3管理世界出身の人物、クルツ・マートンと断定。生け捕りにして管理局に出したら賞金まで出る。そんなやつを親切心で助ける物好きなんて、次元世界探しても俺くらいだと思うがね」

 

 後ろから「嘘つけ、小悪党が」と戯言を言ってくるやつを無視し、そっとスマートに手を差し伸べる。

 

「先ずは安全な場所に案内してやるよ。ベッドくらいは用意するぜ」

 

「そこが安全である保証はあるの?」

 

「それは勿論」

 

 こともなげに言ってやると、女は眉を内に寄せた。

 

「こう見えても、俺はこの街で長いこと運び屋を営んでいてな。仕事柄、荒事専門の連中が手を出せない中立地域や安全エリアなんかを知ってるのさ」

 

「信用できない」

 

 俺の言葉を遮るように女は声を上げる。俺は、あくまで泰然とした態度のまま微笑み返す。

 

「さっきからあなたの話し全てが信用できない」

 

「その理由を聞いても?」

 

「……タイミングが良すぎる。こちらの事情を知って、それでも助けてくれる人が現れた。しかもこの状況下で、そう都合よく私は解釈はできない」

 

「なるほど……」

 

 口元に手を当て、さも意味有りげな仕草をわざと見せる。さて、ここからが腕の、否、口の見せ所だ。そう気合いを入れる。

 

「確かにそうだな。タイミングは自分でもびっくりするくらいに良すぎるよ。聖王信者じゃない俺が、天にいる聖王殿下に感謝したいくらいにな」

 

「白々しい」

 

「はは、あんた意外と気が強いんだな。益々気に入ったよ」

 

 俺は喉を鳴らす。もともとこの程度の返しは想定していた。ちょっと困ったように苦笑して見せる。

 

「まあ、タイミングが良いのは本当に偶然だ。信じられないってなら、それまでだがーー」

 

 ちらりと自然な動作で窓の外に視線を向ければ、外からは喧しいくらいに煩いサイレンの音が鳴り響いていた。

 

「今のあんたに選択の余地があるのかな?」

 

「……やっぱり信用できない」

 

 あの弱々しい見た目からは想像もできないキツい視線で睨まれる。だが、先ほどまでの緊張感溢れる視線ではない。少しだけ、申し訳程度に信頼を覗かせる瞳が俺を写す。

 

 

「でもーーあなたは信用できないけど……今はそれしか選択肢が無い。だから、信じてみることにする。とりあえず今は、あなたの言う安全な場所に彼を運びたいから」

 

「正直なことで」

 

「嘘で取り付くろうよりはマシ。それで、私たちを助けてくれるの?」

 

「勿論だ。全てを貴女の望みのままに」

 

 優雅に腰を折ると、後ろにいたディアーチェと目の前の女から同時に軽蔑の眼差しを向けられた。何故だ?

 

「……で、茶番は終わったか、コクトー」

 

「人がせっかくカッコよく決めたのに、茶番呼ばわりとか酷くね?これでも俺なりの誠意なんだが」

 

「辞書で誠意の意味を調べてから出直せ、たわけが。もしくはミドルスクールからやり直して来い、中退者」

 

「王様がセメント過ぎて辛い」

 

「黙れ色情魔。そんなことより、移動するならいい加減にここを離れた方が良いぞ」

 

「あら? もう来たのか」

 

 サイレンの音がかなり近い。たぶんもう店の直ぐ近くにまで来ているのだろう。

 パンパンと服に付いた埃を落とす。

 

「んじゃ、行きましょうかお嬢さん」

 

 裏路地に直結している出口の方に倒れた青年を担いで歩き出す。意識を失っている所為でやたら重いが、そこは我慢しよう。

 

「…………アーシャ」

 

「うん?」

 

「アーシャ・シュトロゼック。私の名前」

 

 不貞腐れた子供のようにそっぽを向いたまま、彼女ーーアーシャは自らの名前を口にする。

 

「アーシャ、ね。可愛い名前だな」

 

「馬鹿にしてるでしょ」

 

 ようやく見えたアーシャの本当の顔。少しだけ子供っぽい仕草に自然と笑みが浮かぶ。

 

 ーーこれで男連れじゃなかったらなァ……

 

「俺はコクトー。しがない運び屋をやってる。で、こっちがウチのボスの」

 

「ディアーチェ・K・クローディアだ」

 

 硝煙の臭いと余熱が残る生暖かい空気に吐息を溶かしてーー2人に気づかれないように小さく俺は、計画の順調な滑り出しにほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あんた馬鹿でしょ」

 

 ことの次第を聞いたウェンリーの第一声は、予想通りの罵倒だった。ディアーチェといい、こいつといい、ロアナプラでは俺を罵倒するのが流行っているのだろうか。地味にメンタルを抉るので止めて貰いたい。

 

「いやァ、美人の女が困ってたら見捨てられなくてなァ」

 

「……節操無しもそこまでいけば美徳かしらね」

 

 浅く息をつき、ウェンリーはそれでも呆れ顔で笑ってくれた。一階から薬箱を持ってくると、小さな椅子をベッドの横に置いて腰掛ける。

 

「そういえばディアーチェは?」

 

 薬箱から薬品とガーゼと包帯を取り出しながらウェンリーは呟く。

 

「一度事務所に戻るって」

 

「そう。ディアーチェも苦労してるわね」

 

「おいマテ、それどういう意味だ」

 

「さあ? どういう意味かしらね」

 

 首を可愛いらしく傾げるウェンリー。

 

「でも変ね。なんで指名手配されてるやつがこの街に来たのかしら」

 

「は? 変……って、なにがだよ。この街には管理局に中指立てるのが一般常識だと勘違いしてるやつなんていくらでもいるだろ。別に驚くような話じゃ、」

 

「そこじゃないわよ馬鹿。なんで、賞金ぶら下げてるやつが1人でわざわざ管理局のあるミッドチルダに来たのか、って話よ」

 

「あ」

 

 確かにそうだ。忘れがちだが、ロアナプラは第1管理世界ミッドチルダの南方にある。それはつまり、ミッドチルダに本局を構えている時空管理局のお膝元にいる事を意味している。

 考えてみれば、この街の指名手配されてるやつは一部を除いて、何処かしらの組織に飼われているやつだ。だが、この2人はーー正確にはクルツ・マートンにはそういった空気は感じられなかった。

 さらに気に入らない点がもう一つあるのだが、

 

「ま、その辺の事情は正直どうでもいいんだけどな」

 

「あんたね……」

 

「いや、本当だって。こっちとしては善意でやってるんだし、やましい気持ちなんてこれっぽっちもーー」

 

「嘘ね」

 

 ばっさりとウェンリーは俺の言葉を切り捨てた。相変わらず人の嘘を見抜くのが上手い。

 

「どうせあんたの事だから何かしら見返りがあるんでしょ?」

 

 的確なウェンリーの言葉を聞いたアーシャがベッドの反対側から睨んで来る。

 ウェンリー、それは本人の前では言っちゃ駄目なやつだろ。慌てて取り繕うとしたらアーシャは、

 

「別に、知ってたから」

 

 と返した。

 その返しにウェンリーは感心したような表情を見せる。

 

「へェ……意外と肝が据わってるのね」

 

「それほどでも。それよりも一つ聞きたいことが」

 

「なにかしら?」

 

「ここは本当に安全なの?」

 

「安全よ」

 

 アーシャの問いにウェンリーは首をすくめた後、はっきりと言い切った。

 ロアナプラは犯罪都市なんて呼ばれてはいるが、別に修羅の国でもなければ世紀末な場所でもない。一見すると無法地帯な印象を受けるこの街にも、独自のルールや決まり事はある。

 

「ここはね、ロアナプラを牛耳る4大組織が決めた数少ない中立地域なのよ。だから少なくとも、街の連中はここでは滅多に銃を抜かないわ」

 

「じゃあ、住人以外がここを襲う可能性は?」

 

「無くは無いわね。まあ、そうなったらそこにいる節操無しに頑張ってもらうから安心して」

 

 直後、アーシャがこちらをジト目で見てきた。そこまで信用無いのか。

 

「随分嫌われてるみたいね」

 

「シャイなんだよ。たぶん」

 

「そのシャイな娘にもの凄い勢いで殺気紛いの視線向けられてるの気付いてる?」

 

 いよいよ呆れた口調で呻いて、ウェンリーは詰んだ包帯の端を噛み千切った。ミイラ男になり果てた青年を見下ろしたウェンリーはしかめ面で言う。

 

「とりあえずの応急処置はしたわ。後はマオ先生のとこに運んでーー」

 

「………その必要はない」

 

 とーーウェンリーの言葉を遮るように、滑り込む声が聞こえた。

 驚き、振り向くと、しかめ面の青年が身を起こしている。包帯を巻かれた腕で身体を支え、隣にいるアーシャが心底心配そうな表情で手を貸して、やっと上体を起こしている有り様だが、警戒に細めた瞳は刃のように鋭い。

 

「クルツ、無茶しちゃだめ」

 

「アーシャ……ここは……?」

 

 慌てて肩を支えるアーシャを見た後、青年は目線だけで部屋の中を見回していた。

 ぎらつく眼光が、警戒しまくっているのをわからせる。

 

「大丈夫、ここは安心な場所だから。そこにいる人が手当てもしてくれたんだよ」

 

「そうか……」

 

 アーシャの言葉を青年ーークルツは一つずつ確認して、理解しようとしているようだった。しばしして、大きく安堵の息をつく。

 

「……なんとか、逃げれたのか」

 

「うん」

 

「アーシャは怪我してないか?」

 

「大丈夫。クルツが守ってくれたから」

 

「そうか……よかった」

 

 なにやら良さげなムードに入っていく2人に無性に腹が立ってきた。人前でイチャつくなと声を大にして叫びたい。

 

「よし。ウェンリー、ここは負けじと俺たちもイチャつこーーふが⁉︎」

 

 肩を抱いた瞬間、半眼のウェンリーが口の中に余った包帯を突っ込んできた。思わず変な声が上がる。

 不審げに顔をしかめる2人を視界に収めたまま、彼女は口を尖らせた。

 

「コクトー、今から大事な話をするんでしょ?馬鹿やってないの」

 

「いや……だってなァ」

 

「いいから静かにしてなさい」

 

「はい」

 

「……一つ聞きたいんだが」

 

 一言で切り捨てるウェンリーとうなだれる俺のショートコントに困惑しながら、クルツは呻いた。手足に巻かれた包帯を見下ろした後にウェンリーに視線を向ける。

 

「これは、あなたが?」

 

「ええ。消毒して、市販の傷薬塗って包帯巻いたくらいだけどね」

 

「いや、十分です。助かりました」

 

 クルツは痛む身体で、ベッドの上で正座に座り直してから深々と頭を下げた。後ろにいたアーシャも長い赤茶色の髪を水のように肩に滑らし、感謝の意を示す。

 その様子にウェンリーは目を丸くし、困ったように頭をかく。

 

「……この街に長いこといる所為かしらね。こんなに礼儀正しくお礼を言われたのなんていつ以来かしら。なんだか背中が痒いわ」

 

「通理を通したまでです。どんな相手でも、礼を失くす無様な真似はできないので」

 

 そう言って持ち上げた顔には、最大限に研ぎ澄ました緊張が張っている。その顔つきはまさしく通理を通しただけという態度だ。

 だが、ウェンリーに怯えた様子はない。むしろにこりと柔らかい笑みを浮かべるほどである。

 

「気にしないでちょうだい。私はそこの馬鹿に頼まれただけだから」

 

「そこでナチュラルに罵倒するのを忘れないあたり、流石だよなァ」

 

 すっと、身を乗り出すことで会話の矛先をこちらに向けさせる。

 

「先ずは自己紹介からかな。俺はコクトー、運び屋だ。一応はあんたらの命の恩人だから感謝してくれ」

 

「恩着せがましいわね……」

 

 ウェンリーがこっそり呟いているが、無視しておく。

 

「……クルツ・マートンだ。一応聞きたいんだが、もしかしてあの酒場にいたか?」

 

「まあな。悪いとは思うが、いらないお節介を焼かせてもらった」

 

「いや、本当に助かった。ありがとう」

 

 先ほどのウェンリーにしたように深々と頭を下げるクルツに、生真面目な奴なんだな。と返す。

 

「ーーで、だ。さっそくだが、本題に入るぜ。あんたら、この街になにしにきた?」

 

「………」

 

「黙んまりか」

 

「……すまない」

 

 俯き、口を固く閉ざす2人を見て、今この場で話すのは不可能だと結論付ける。

 

 ーーとなれば、やることは一つしかない。

 

「ーーーーよし、飲もう」

 

『………………へ?』

 

 仲良くアーシャとクルツの間の抜けた声が室内に木霊する。

 

「ロアナプラでは傷を治すのによく冷えた酒がいいって言われてんだ。こうして会ったのも何かの縁。酒くらいは奢ってやるよ」

 

 置いてけぼりな2人を見て、にやりと俺は笑った。




ちょっとリアルが忙しかったので更新が遅れました。ちなみに理由は新居に引越し。
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