Detonationを観たら久しぶりに原点回帰したくなったので、書いちゃいました。
Act. 00 Reflection.弾は再び込められた
魔法は俺たちの身の回りのことを大きく変えた。
自分たちのいる地球とは異なる世界の存在。
魔法技術や時空世界を管理する組織の時空管理局。
ミッドチルダに古代ベルカ。
失われた世界の遺産であるロストロギア。
そして――魔法とロストロギアを巡る様々な事件。
新しい出会いや経験をたくさんしたし、それと同じくらいに痛い思いと悲しい別れも繰り返した。
フェイトと出会い。はやてと出会い。俺たちは少しずつ世の中の不条理や理不尽を知った。
現実はお伽話とは違う。悲しい物語は悲しいまま終わる。助けて欲しい時に都合よく現れる正義の味方なんて何処にもいない。誰もが笑って終わるハッピーエンドは存在しないという世界の真理。
そんな理不尽な現実を知って、それでも俺たちはそれが気に入らなかったからそんな世界と戦う道を選んだ。
人はそれを成長と呼ぶのかもしれないし、現実を知らない子供だと笑うかもしれない。或いは、世界を知って大人になったと言ったりするのだろうか。
だが、それらは全部まとめてこう言うのが適切だ。
こいつら真性の馬鹿だ、と。
とはいえ、魔導師になったからといって、なのはの性格が大きく変わったりするようなことはなかった。むしろ魔法に関わり出してから、彼女の意地っ張りな部分や、やたらとお人好しな部分が更に強調されたような気がしてならない。 その性格が原因で、何度か大怪我をしたりもしたのだが、それでも彼女は決して折れたりはしなかった。不屈の心、とでも言えば良いのだろうか。彼女は顔も知らない誰かを守ることに妥協も挫折もしない。その在り方は正しく英雄だ。
そもそもな話で、高町なのはには魔導師としての才能があった。ある意味で魔導師は彼女にとっての天職なのかもしれないと、最近では思い始めている。
反対に俺の平穏は確実に離れていく。魔導師の事件に二回ほど巻き込まれ、毎度のように死にかけて、なぜか最後には大事な場面には俺がいて。その度にまた死にかけるまでが一種のテンプレと化していた。
要するに非才の身なのだ。俺は。
客観的に見ても愛らしかった少女はこの二年ですっかり逞しくなり、それでいて、元々の可愛さは磨きがかかっている。後数年もしたら、それこそアイドルなんて目じゃないくらいの美人になると思う。
そんな彼女と常日頃から一緒に居ることは幸福かと問われたら、そうだとも言えたし、反対にそうでないとも言えた。
たしかになのはは可愛いらしい。そんな彼女がいつも側にいて、何かと身の回りの世話とかをしてくれたり、つい最近まで一緒に登下校をしていたのは嬉しいことだ。
その一方で、なのはと俺とでは魔導師としての実力が天と地ほどの差があるのも事実で、ある意味ではそれはもの凄く不幸なことかもしれない。
射撃魔法は完敗で、魔法の威力も完敗で、最近では唯一勝っていたはずの接近戦や精密射撃すら危うかったりして。そういう自分となのはとの、所謂格の違いというやつを常日頃から間近で見せつけられる状況というのは、ぶっちゃけて言えばかなり辛い。なのは本人に悪意が一切無いのが余計に辛い。
しかもなのはの才能は未だに伸び代が見えないらしく、模擬戦を重ねるごとに強くなっているそうだ。
そもそもなんで俺は未だに魔導師なんてやっているのだろう。当時は俺を含めて海鳴に二人しかいなかった魔導師が、この二年で何倍にも増えた。俺が魔導師を辞めようが、代わりどころか俺以上の素質の魔導師は沢山いる。
元々は昔から見ていた夢が原因で魔導師となった俺だが、最近ではその夢すら見なくなって、益々魔導師に対する熱は冷めていく。
根を正せば、その夢の中に出てくる女の子に会いたくて魔導師となったわけだが、よくよく考えてみれば、夢の中の女の子自体が俺の作り出した妄想という解釈だってある。事実、この二年半の間に夢の中の女の子と現実で出会えたことはない。例外的に、一度だけ夢以外で出会えたことがあったが、あれは例外中の例外だろう。
もしかしたら、夢の中の女の子は実在しないのではないだろうか。
そうなってくると、俺が魔導師を続ける理由はない。
さりとて今すぐに魔導師を辞める理由もないし、もしかしたらの可能性だってある。結果、中途半端な立ち位置のまま、気がついたら二年半が過ぎていた。
結局のところ、あの夢の中の女の子は誰なんだろうか?
以前、気まぐれでなのはにそんな話をしたことがある。
「うーん、わかんない。というか、夢の中の女の子って誰? どんな子なの? なのはにも教えて!」
そう言ってなのはは瞳を輝かせて、その女の子の話をしつこく聞いてきた。実にウザいし、鬱陶しい。歳上を敬え、小学生。
「――でも、リクト君が居るって信じてるなら、それでいいと思うよ?」
そんなんでいいのだろうか。納得できない。そもそもこの歳下の友人は魔導師としての才能が天蓋突破しているのだから、凡人の俺の悩みなどわからないのだろう。それでなくても最近はやたらと女の子の知り合いが増えた所為で、同い年の男子から冷やかしや嫉妬の念を飛ばされているのだ。このままでは中等部を卒業するころには闇討ちの一つでも起きそうな気がしてならない。以前、クラスの男子たちから、夜道に気をつけろよ、とか真顔で言われたことがある。真面目に命の危機だ。男の友達がフェレット擬きと、犬と、肩に棘がついた執務官しかいない。求む、同性の常識人。
まあ、それはそれとしてだ。
仮に夢の中の女の子が本当に実在するとして、ちゃんと出会う為にはやはり魔法が絡んでくるのだろうとは思う。そろそろ姿を見せて欲しいと切に願うばかりだ。そうしてくれないと、先に俺が魔導師の道を挫折しそうだ。
そんなことを考えていた。
今夜――
それは、特別な物語というわけじゃない。
滅びゆく故郷を救いたいとか。大好きな父親の為に奮闘する少女の力になりたかったとか。人様に誇れるような――英雄的な物語ではない。
これはもっと単純な、クソみたいな欲望にまみれた物語だ。
何かを救うのにはそれなりな理由と相応の見返りが必要で、自分に関係のない他人が不幸になることなんて知ったことかと鼻で笑う。そういう物語。
だが、人が紡ぐ物語は本来そう有るべきだ。少なくとも、俺はそう思う。
困っている人の前に颯爽と現れて、見返りも求めずに命がけで誰かを救う英雄。そんなやつは例外なく
もしも本気でそんな考えを持っているやつがいるのなら、そいつは間違いなく頭がイかれてる。気持ち悪いなんてもんじゃない。
そういうやつはどんな酷い目に遭っても、最後は人好きのする笑みを浮かべて去っていく。自分の信じた矜持を胸に、見返りも求めずに、だ。
もしも現実にそんなやつがいるのなら、俺は絶対に仲良くはなりたくない。折り紙付きで、そいつはどこかおかしい。
そんな頭のイかれた馬鹿の最期は決まってる。誰にも理解されず、誰も知らない場所で、一人勝手にくたばるんだ。
俺はそんなものにはなりたくない。
だから、これから起きる事件は断じて英雄的な物語じゃない。
沢山の人が傷ついて、流さなくてもいい涙を流した。
見えない悪意。信じていた者の裏切り。裏でコソコソ暗躍するクソ野郎。そして明かされる一つの真実。
「悲しい物語は悲しいまま終わる? ハッ! 笑わせんな。そんなのはなァ、現実から逃げた奴が作った都合の良い言い訳だろ」
もう一度だけ言おう。これは、決して英雄的な物語じゃない。
惚れた女の為に、自分の信念の為に、信じる生き方の為に、遠い昔に誓った約束の為に、命をチップにするのも躊躇わない俺たちは英雄には程遠い。
そう、これは――
「ロビンフッドがいねぇなら、ロビンフッドになればいい。泣き寝入りして文句たれて生きてるよりゃ、よっぽどマシな生き方だ!」
最低最悪のバッドエンドをどうにかしようとした、頭のイかれた馬鹿たちの物語だ。
「魔法少女リリカルなのはBLACK The Reflection」近日公開予定。
それは、誰かではなく自分の為の物語。
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* + うそです
n ∧_∧ n
+ (ヨ(* ´∀`)E)
Y Y *
なのはの劇場版を観る。BLACKlagoonの新刊を読む。書きたい衝動に駆られる。けど別サイトの小説大会用にオリジナルを書いてるから時間がない!
そんな熱を一回鎮火したいが為に書いた嘘予告風味の短編。
ちなみに作中内のコクトーの年齢は設定を色々弄った為になのはたちよりも歳上な十三歳。つまりは中二病一歩手前。