あの日私は千景と戦い、そして千景を助けることができなかった。
「――ッ!?千景!!どうして!?」
「…あなたさえいなければ、私はもっと皆から…!!!」
「ぐっ…!!頼む千景!正気に戻ってくれ!!」
「なんで私ばっかり疎まれるの!?どうして貴方ばっかり愛されるの!?こんなの不条理よ!!だったら、私が全て貴方から奪い返すしかないじゃない!!!」
真紅の殺意で染められた7本の刃が迫る。
「すまない…千景。」
―――召喚 ヨシツネ―――
「だが今は、どうか剣を収めてほしい。」
―――八艘飛び!!―――
「う…ぐぁっ!!」
「お前の悩みに気付けなかった私の失態だ、後できちんと然るべき報いを受ける事を約束する。だが今は、勇者としての使命を優先させてもらう。ヨシツネ、すまないが千景を守っていてくれ。」
「りょーかいサマナー。…嬢ちゃんも少しアタマ冷やしな。見るべき物も見えなくなってるぜ。」
―――ゾワリと肌が粟立った。
「………うる…い」
正体不明の重圧に脚が竦む。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!使命使命って!!なんで貴方は!!そうまでして戦い続けられるのよ!!!」
ドロリとした、禍々しいMAGが吹き荒れる。
「私は…!私はぁ!!……ぐっ!!」
―――召喚―――
「〜〜〜〜ッ!!!来なさい!!チェフェイ!!」
群がってきた星屑が纏めて消し飛ぶ。
ゆらゆらとたなびく9本の尾。
ガチリ、ガチリと不協和音を奏でる剥き出しの骨格。
鮮血のように、咲き乱れる彼岸花のように赤く、紅い色のMAGと共に一体の異形の悪魔が召喚された。
爛々と輝く双眸がジロリとこちらを一瞥する。
「……サマナー…。」
「おねがい、全部……全部消し去って!」
「……過ぎた欲は身を滅ぼすぞ。」
「構わ…ないわ。私には…もう…何も無いもの。」
「ならば喰らい尽くしてくれようぞ、おまえの育てたこの欲望で。そこの勇者も、あの村も、天から覗く忌々しき神々も、全部全部!!ハーッハッハッハッ!!!」
「クソッ、攻撃が跳ね返ってきやがる…!?がはっ!!」
「ヨシツネ!!おねがいだ千景!!やめてく…!―――――っ!」
遂に凶刃が届く。
「とった…!!」
その瞬間
「………え?」
唐突に変身が解け、悪魔は消えてしまった。
「う、嘘……!!チェフェイ!?何処なの!?どうしてっ!?なんで変身ができないの!?私、力が、チェフェイがいないと…!」
狼狽える千景にまだ生き残っていた星屑が迫る。
「千景ェ!」
先の負傷により、ヨシツネは暫く召喚できそうにない。
「ならば……!!」
自ら動くまで。
痛む体に鞭を打ち、千景を守るべく剣を振るう。
「…どうして私を庇うのよ…さっきまであなたを殺そうと…」
何を当たり前の事を
「決まってるだろ…っ」
そう、そんなの決まっている
「仲間だからだ!!」
「―――――」
残りはそれほど多くない。
最後の気力を注ぎ込み敵を薙ぎ払っていった。
最後の一体止めを刺し、千景の元へ向かう。
私はリーダーでありながら仲間の苦しみを、境遇を知ろうとすらしなかった
それ相応の報いを受ける必要がある
だがその前に仲間の事、千景の事をもっとよく知りたい
そう思って千景の目を見た。
「……乃木さん…」
「千景。私は――」
「――ッ!?乃木さん!!」
尻もちをついてから、私は千景に突き飛ばされたと認識する。
そして千景は――――
「――――は?」
眼の前で、赤い花が咲く。
なぜ、そんなことすら気がつけなかったのだろう。
まだ樹海化は解けていないというのに。
怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。
仲間の命を奪うバーテックス共に
千景を苦しめる世界に
何もかも手遅れになってから気が付く、愚鈍な自分自身に。
「あぁ…!あぁぁぁあああ!!!」
衝動に飲まれたまま、星屑を斬り捨てる。
早く千景を助けなければ
「ち、ちか、千景!」
半狂乱のまま千景を抱き起こす。
体の半分が齧られ、夥しい量の血があたり一面を染めていた。
「千景!!気をしっかり持て!!今すぐ病院に、いや、悪魔と契約して回復を…!だから少しだけ待っていてくれ!」
だが、呼び止める声も虚しく、鼓動も呼吸もどんどん浅くなっていく。
「……乃木さん…」
「〜〜ッ!少しの間でいい!!死ぬな!頼む!!」
「…もう、手遅れよ…」
おねがいだ千景
そんなことを言わないでくれ
生きることを諦めないでくれ…
けれども現実は非情で、どう足掻こうと助からないという事実のみを突きつけてくる。
「……私は…あなたの事が…嫌いだけれど、」
それでも震える指で端末を操作する。
あった!この悪魔なら!
「それと同じくらい、あなたに憧れて…あなたの事が好き…だった。」
「だった、なんて言わないでくれ!これからも、皆で一緒に―――」
早く、早く!!千景が死んでしまう!!!
「………あぁ、そこにいたのね…チェフェイ…」
―――――ごめんね。
それを最後に千景は息を引き取った。
「若葉ちゃん?…若葉ちゃーーん!」
「……すまない。少し、考え事をしていた。」
「ううん!大丈夫。じゃあそろそろやろっか!」
「そうだな」
禁忌とされる大妖の切り札
今こそそれを解き放つ。
恐らく、友奈の様に無事では済まないだろう
それでも
――――……。
もう二度と、誰かを泣かせるわけにはいかない
「ふー…」
深呼吸して、心を鎮める。
覚悟は決まっている。
「降りよ!!大天狗!」
全身に力が満ちる。
「……ッ」
全能感、そして僅かに湧いた暗い衝動を振り払い、端末を操作する。
―――召喚 ヨシツネ―――
切り札に加えて更に、一時はこの身に宿した仲魔を喚び出す。
「戦か!?ヨッシャあ!気合い入れていこうぜ!!」
切り札と召喚の併用。
ぶっつけ本番ではあったが上手く行ったようだ。
だが
「…あまり、長くは持たないな。」
自分の中をドス黒い何かが侵食を始める。
人に戻れる内に、ケリを着けなければ
「こっちも準備できたよ!」
鬼の力を宿した友奈、そしてその隣には仲魔のイチモクレンが控える。
「あぁ。それでは行こうか。皆を守るために―――」
もう、誰も死なせたくない
「―――生き残る為にッ!!」