憧れの太陽へ手を伸ばす   作:まむれ

1 / 3
1話

 銃撃。

 爆発音。

 それに紛れて剣を交える音が聞こえ、弓矢が宙を翔けて敵の後衛を射抜く。

 かと思えばテレビで見たような装甲に身を包んだヒーローが決め台詞と共に蹴りを繰り出し、横合いから数年前のアニメで女の子に人気だった魔法少女が杖から魔法を発動してヒーローを消し炭にする。

 

 剣と弓、銃と魔法、更にはエルフと侍やヒーローとヒロインが刃を交えるなんでもあり(クロスオーバー)な戦場。

 (なりきる)カテゴリー不問、(なりきる)種族不問、(なりきる)善悪問わず、必要なのは楽しみ楽しませる心のみ。

 

 Augmented Reality/Multiple Survive.

 略称“AR/MS”、それが拡張現実を利用した全ジャンルごった煮のサバイバルゲームの名前だ。

 

 

 

 

 

 

「心が……心が死ぬ……」

 

 さて、そんなゲームに身も心も囚われているのが俺なんだけど、行きつけのショップで心を折られていた。

 リソース全部を注いだと思しき大剣を担いだ爺とやたらと佇まいがサマになってる第六感がヤバい中年侍、公然わいせつスレスレの性癖一体型アバター持ち美女と小柄を生かした敏捷特化近接幼女、オマケに同年代だと喜んだのも早々に試合で悪質な罠を設置して爆発物をばら撒くファッキントラッパーと、幼女とはまた違った近接特化型の役割演技(ロールプレイ)マン。

 個性が出すぎてハンマーで何度叩いても打てないメンツではあるが、実力は相応にあるやべー奴らだ。

 またなんでこんなところに……と物珍しさに負けてショップに入ったのが運の尽き。地元でブイブイ言わせてた俺はナメてかかった初戦でボロ負けし、むきになったその日は限界まで連戦してその全てに惨敗する醜態を晒してしまった。二度とこねーよこんなとこ! とスッパリ言える程プライドを捨てられなかった結果、ずるずると通う日々が続いている。

 今日は大剣爺しかいなかったから1on1で扱かれたが、かろうじうてもぎ取った一勝以外はざっくり斬られるか圧し潰されるかの結果に終わった。

 

「ひっひっひ……情けない。毎日毎日そんなこと言いおって」

「うるせークソ爺。腰の代わりに性格曲がってる若者いびりが趣味のあんたのせいだろうが」

「生意気な口が利けるなら問題ないのう。……本当に」

「んだよ、センチメンタルになっちゃって」

「三人もいなくなるんじゃ、いくらわしとて思うところはあるわい」

「しょうがねえだろ。いやそもそも俺だってこんな通うとは思わなかったわ」

 

 地元から離れたここまで来るのに交通費も時間も馬鹿にならない。一度体験してしまえば地元が温く感じてしまうもので、結局休みの日は毎日ここに来るし平日もちょこちょこと足を運んでいる。おかげでAR/MSの実力は上がったと思うが……知り合いに「なんか性格悪くなった?」って言われたのは想定外だった。

 

「というか俺はたまに来るつもりだしな。師匠にはまだまだ教わりたい」

「せくはらされたい、の間違いじゃろて」

「オールハゲにするぞクソ爺」

 

 いや別に? そんなことは決してないが?

 否定しつつも俺が師匠と呼んで慕うここの常連プレイヤーを脳裏に浮かべる。競技スーツを自分でデザインし、接近戦に入った時には自分の体を利用して合法痴女(ジャッジキル)を狙おうとする思春期男子の敵みたいな女性……ゲーム中ではそんな性格してる癖にゲーム外じゃ面倒見が良かったり気配り出来たり、何と言っても美人だから憎めないんだよな。スタイルもいいし、同じ召喚魔法をメインに据える俺を気に入ってるのか物理的に距離近いしよぉ……いやセクハラはされたくないが?

 実際、プレイスキルもえげつない。リソースの大半を召喚魔法に割り振っている癖に、発動までの動作をそれぞれショートカットして開幕に大群で敵を炙り出すなんて芸当、プロでも見た事が無い。あと投影衣装もヤバい。具体的に言うとイラストで投稿すると肌色面積が多すぎてSNSでシャドウBANされるぐらい。

 なので別にやましい気持ちは一切ない。

 

「ま、頑張ってみるよ。そのために受験だって死に物狂いで勉強したんだ」

「黒木々葉学園、じゃったか。前年は高校AR/MSで優勝した学校に行くとは」

「そうそう。知り合いっつーか幼馴染の姉ちゃん達がいるからどちらかと言えばそっちメインなんだけど」

「ふぅむ?」

 

 左右を姉ちゃん二人に挟まれて解らないところは解るまで教えられた去年を思い出す。思えばそんな勉強会から逃れるためにここへ来る頻度も上がったような気がする。姉ちゃん達は文武両道なので勉学もAR/MSも結果を出す。それ自体は誇らしいけれど、そんな二人の下にいる俺にまで同レベルを求めてくるのは無理がありすぎる。本家の格式ばった人間もねちねち言ってくるしよぉ……分家の端っこの分際でってのはわかるから姉ちゃん達に言ってくんねーかな……。

 

「白坊」

「なんだよ?」

 

 装備を片付け、家に帰る準備をしていると爺さんが椅子に座ったまま片腕を挙げて笑っていた。

 

「無理はするんじゃないぞう? ここはいつでも開いておるからな」

「……ああ、知ってるさ。あんがと」

 

 全く、ゲームじゃなきゃいい爺さんなんだけどなあ。

 

 


 

 

「ただいまー」

「おかえり」

「うげっ……なんでしょー姉が」

「居て、文句ある?」

「ないです……」

 

 日も暮れて、やっと自宅に帰ったと思えば自分の部屋に幼馴染の片割れが一人、ぽつんと座っていた。菖蒲(アヤメ)色の髪は肩にかからない程度のショートヘア、座る姿はちんまりしていて小動物を思わせる。紺色のブレザーを着ている辺り学校が終わってから自宅を経由せずに俺の家までやってきたのだろう。

 参社院 昌(さんしゃいん あきら)。普段はそんなに表情を表に出さないのに、ふとした時ににへらと笑う顔が可愛い本家の姉ちゃん。去年、黒木々葉を優勝に導いたキーマンの一人。

 同じくらいだった身長も今は昔、成長期を味方につけた俺はぐんぐんと伸びに伸び、20cm以上差が開いてしまって姉ちゃんが拗ねてしまったのは笑い種だ。俺だって良い年なんだから、いくら年上とは言え幼馴染に良い子良い子されたくないからちょうど良かった。

 疲れてたり悩んでたりすると即座に見抜いて頭を膝に乗せて気が済むまで撫でてくるのは何回受けても慣れないもので、一時期はつんけんした態度を取ったこともある。

 

「盛光は部活どこ選ぶの?」

「決まってるでしょ、AR/MS部だよ」

「ほんと? ……ならさ私が高校に入ってから一緒にやる頻度下がったから、今度は沢山一緒にやろう」

「てー姉にはちょくちょく見て貰ってるからそうでもないけど、しょー姉とは確かに中々予定合わなかったもんな」

 

 とは言えそれも仕方なし。AR/MS強豪校の黒木々葉学園でレギュラーを勝ち取るために活動し、更には二年から部長になった身分を鑑みればその通りであり、たまに予定が合えばやれ受験対策だのやれ息抜きだのと中々一緒にやる機会がなかったのである。まあ、ほんのちょっとだけ、天狗になっていた自分の鼻っ柱が折られたのが恥ずかしくて、意図的に控えていたところはあるけど。

 ……嘘。ガッツリ避けてました。過去の地元で調子に乗っていた自分を知られているから、やらないようにめっちゃ避けたよ。

 

「盛光がAR/MS続けてくれてほんとに良かったと思ってる。いつも行ってたところで戦う盛光、つまんなそうにしてるんだもん」

「そもそも辞めようとも思ってなかったけど」

「一週間くらい塞ぎ込んでた事あるのに?」

「やめてくれその話、古傷が疼くんだよ……」

 

 こてんと首を傾げるしょー姉に眉間を抑えて溜息を吐く。

 塞ぎ込んだのって例のショップで全敗かましたせいなんだけど。

 あの時はちょうど本家の横入りもあって姉ちゃん二人とも俺と会うの禁止されちゃってたからな。ただその結果さあ……いない間にAR/MSで勝手に落ち込んで勝手に立ち直って、オマケに自分たちが直そうとしていた思いあがった部分が綺麗さっぱりなくなってました、ってなってるからお姉ちゃん風吹かせてた二人は相当衝撃を受けてたみたいで。俺も俺で頑なに理由を言わないもんだから意気地になっちゃって、別の意味で遠い目になるくらいには大変だった。

 例のショップは常連しかいないし、元々が閲覧不可設定だから俺がAR/MSやってる映像はほとんどない。俺が召喚師になった事すら、秘密にしている始末。元々は近接用の刀も使っていたんだけど、俺の力量だと通用しなかったから、それならいっそと召喚師(トークン生成)に特化しだしたんだけど……そこまで考えて、あのやたらと肌をくっつけてくる露出魔OL美人師匠を思い出して顔が少し熱くなる。

 いやほんと、師匠として見れば最高なんだけどね。転換して二年、下地があったとは言え一応の合格点を貰えるくらいには上達出来た訳だし。

 

「盛光?」

「あ、いや……まあそんなわけだから。一年でレギュラー勝ち取れるくらいの力は見せてやれるさ」

「ふふ、それは楽しみっ」

 

 そう言ってほほ笑むしょー姉が可愛くて。

 ああくそっ、そういうとこなんだよなマジで。地元でイキってたのだって本当はAR/MSで姉ちゃん達と何の柵もなく並び立てると思ってたからだし、クソみたいな嫌味言われても姉ちゃん達から離れないのも猛勉強して黒木々葉に行ったのだって和風系の職を選んだのだって、ぜーんぶこの幼馴染の姉ちゃんのせいなのだ。

 しょー姉がAR/MSを始めた理由は教えてくれない。何度か聞いてみたけど、「ないしょ」と言って頑なに口を閉ざして答えない。

 だから、俺もAR/MSを始めた理由もしょー姉には秘密だ。たぶん、墓の下まで。いやバレてるかもしれないけど、言わなければ確定しない。

 

「でも、ウチの部員たちもそんな弱くないから、私たちと同じチームに入るなら覚悟してね?」

「知ってるよ。しょー姉とてー姉の活躍と同じくらい、場を荒らしてる人もいたしな」

「み、見てたの?」

「逆に聞くけど見ない理由ある? いやまあ、しょー姉が俺の知ってるしょー姉と大分違うというか」

「しょ、 しょうがないじゃん。婆様と母様に納得してもらえるように戦わないといけないんだから!」

 

 ぶっちゃけびっくりしたからな。薄ら笑い浮かべて相手の一手一手潰して詰めてくしょー姉と、無表情で切り捨て御免しまくるてー姉、インタビューでもロボットみたいな顔で受け答えしてるし、誰だこの人達……って呆然としつつ見た記憶は未だに鮮明だ。

 だけど、それ以外にも印象的と言えばもう一つ、地区大会決勝でぶつかった陽原(はるはら)高校だろう。なんらかの補助を付けた叫び声と共にアタッカーが吶喊してくる光景は相対する立場になって考えてみれば悪夢でしかなく、しかも一番槍を務める騎士職の女生徒は素のスペックが良くて危機察知能力も優秀、総じて戦闘センス高いのでクリーンヒットが与えにくく、てー姉ですら他のもう一人と協力して二人がかりで押さえつけていた。

 

戦乙女(ヴァルキュリア)、だったかな、あの人の戦い方も痺れたなー」

「……む」

「ああいうのは男としても憧れるよなあ! 王道というか騎士冥利に尽きるというか。地区大会であんなハラハラしたのは初めてだったんだよ?」

「むむむ!」

「夏に会場で会ったらサイン貰っちゃったりね! 今年はどんな風になるかな! しょー姉も楽しみだよな!?」

「ふん」

「あだっ!」

 

 手放しで敵の事を褒めていたら割と本気でしょー姉に殴られたのでごめんごめんと謝っておく。いや最終的に姉ちゃん達が勝つのはわかってたし。それくらい強さには信頼置いてるからね? いやほんとちょっと負けないよねとか心配したりしてないし。全然ね。

 それはそれとして、あの場を支配するかのような一気呵成の攻撃は俺の心を鷲掴みにしたのも確か。しょー姉とてー姉の幼馴染でなければ、参社院の分家でなければ、俺は迷うことなく陽原高校に進んでいただろう。早く同じフィールドに立ちたい、正面からあの圧力を肌で感じたいと去年の陽原高校の試合を見返したりすることもしばしば。オマケにショップの知り合いが二人、そこへ入学したと知っているならば尚更だ。

 その戦列に加わることが出来たならどれ程楽しいだろう、どれ程の栄誉だろう。そんな自分を夢想して、結局それは違うんだとしょー姉のいる学校へ出願した。

 

 内心を見破られたのか、しょー姉は相変わらず頬を膨らませてぐいぐいと腕を引っ張ってくる、正直可愛いのでそのまま放置してもいいけど、制服が伸びるのでそっと手を添えて止めさせる。

 

「ねえ、盛光はAR/MS上達した?」

「……昔よりはずっと」

「一緒に戦いたいって気持ち、私だって持ってるんだから応えてよね、お願い」

「そんなこと言われちゃったら、応えないわけにはいかないね」

 

 んでもって翌日。

 

 

 

「いちいち言われなくてもわかってるんだよそんなこと!」

「馬鹿な……!」

「油断大敵、初見殺しに引っ掛かった気分はどう? ねえねえ今どんな気持ち?」 

 

 

「諦ちゃん! も、盛光が! 盛光があんなことに!」

「ああうん、昌ちゃんもそう思うよね……前までは態度が鼻につくけど真っ当なオールラウンダータイプだったんだけど……」

「一体どこであんな」

「みっちゃんがずぅーっと教えてくれない行きつけのショップだよ。絶対にそう」

「ずるいよ盛光!!」

 

 ……黒木々葉の練習場にどよめきが走ることとなる。




ARだから髪と目の色は現実準拠だろうという希望的観測。
原作の高校だと壱岐先輩が一番彼女にしたいかもしれん。

あと原作は今最新六話までキリ良いから今が読み時なので是非!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。