陸と海の狭間で   作:稲村

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皆さんこんにちは、一航戦の赤城です。

記念すべき一話目は鳳翔お母さん。お母さんの愛車は日本のレース史に名を刻む名車なのです。


第一話:鳳翔×SKYLINE 2000GT-R(PGC10)

カランカラン…

 

「赤城さんいらっしゃい、あら?今日は一人なんですね。」

 

ここは鎮守府某所にある『居酒屋 鳳翔』。昼夜問わず艦娘が出入りする人気店であるが、深夜0時を過ぎたこの時間は本来であれば閉店時間である。

 

「どうも鳳翔さん。これから店仕舞いですか?」

「ええ、今日はもう閉めて久々にお出掛けしようかと。」

 

扉の立て看板を準備中に変えて、店を閉めた2人は、そのまま裏手にあるガレージに足を向けた。

 

「ここに来るのも久々ですね。」

「赤城さんが最後に来たのは…もう結構経ちますね。」

 

そう言って、古びたシャッターを開けてそばにあったスイッチを入れると、銀色の古めかしいセダンが姿を表した。

 

「鳳翔さんのスカイラインも久々です。最近は動かしてないんですか?」

「まぁ…食材の買い出しの時に少し動いて貰ってる感じってとこかしら。」

 

そう言ってキーを取り出し、ドアを開ける。鍵を捻ると『カチャ』っと軽い扉が開き、傍にある三角窓を開きながら運転席へ座った。手招きされた赤城も助手席に乗り込んだのを確認した鳳翔は、電子ポンプのスイッチを入れ、2.3度アクセルを踏み込んだ後キーを捻った。

 

『ジー…コッコッ…キュルキュルキュルブォンババババババ…』

 

少々重いクランキングの後、エンジンは目覚めた、アクセルを煽るとタコメーターは踊るかのように針を上下させる。約1週間エンジンを掛けていなかったと言うが、鳳翔の愛車は絶好調らしい。

 

「それじゃ、出ますよ。」

 

ゆっくりとクラッチを繋ぎガレージから車を出した後、一度車を止めてシャッターを閉めて、そのまま鎮守府を出た。静まった海岸線を古びたセダンが走り去っていく。

 

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「私しか正規空母がいなかった時、鳳翔さんにはこうやってよくドライブに連れ出して貰ったものです。」

「軽空母はよく集まったけど、ニ航戦の面々が来るまで貴女は一人だったものね。」

 

ノンパワステかつ重いクラッチの車を、普通に操りながら喋る余裕がある。普段から買い出しに使っているのもあるが、流石艦娘と呼ぶべきなのか、はたまた鳳翔が力持ちなのか…

 

 

ここで少し鳳翔のクルマに付いて触れよう。

 

鳳翔が乗る『スカイライン 2000GT-R』通称:『箱スカ』は1968年に登場。先代の『プリンス・スカイライン2000GT-B』に代わり、レーシングカーであるR380に搭載されたGR8型譲りのS20型エンジンを搭載し、当時のライバルであったいすゞ・ベレットやトヨタ・1600GTを叩き潰した、公式発表で49連勝、通算57勝を記録した当時のレース史を語る上で絶対に外せない一台である。

 

箱スカのGT-Rはモデル途中で細かな変更やボディ形状の変更(4ドアセダン→2ドアHT)の変更があったが、鳳翔のモデルは68年2月の最初期モデル。4ドアセダンで、フロントグリルが三分割、フェンダーに生えるミラーが銀メッキである事が特徴である。

 

鳳翔曰く「キャブレターをウェーバー45φに、足回りのショックをカヤバ、ホイールをワタナベ・エイトスポークに変更した以外はノーマルですよ。」と言うものの、当時のOP品であるオイルクーラーが見えたり、左上にR(リバース)が来るレース用のオプション4ミッションをシレッと搭載していたりするので、どう考えても色々手をつけているのは明らかである。

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リクライニングのしないフルバケットのシートに揺られる事1時間弱、二人は海辺の駐車場にやってきた。既に深夜一時を過ぎているのもあり人気はない。エンジンを切り車を降りた二人が見たのは月明かりに照らされる浜辺だった。

 

「夜は良いですね…」

「ふふっ、川内ちゃんみたいな事を言うのね。」

 

夜戦夜戦と毎晩煩い某軽巡の名を挙げつつ、二人は浜辺に足を向ける。普段は釣り人や海水浴客で賑わうこの浜辺も、夜になれば静かに波音が響くだけである。

 

「そういえば、赤城さんはクルマ買ったんでしたっけ?」

「いえ、免許は取ったんですけど、ピンと来る車が見つからなくて。」

 

鎮守府に来た当初は車に興味のなかった赤城も、鳳翔の箱スカを見たり、横に乗ったりする内に車が欲しくなったようだ。

 

「悩んでる時間が一番楽しいらしいですよ。私は悩む事が殆どありませんでしたからわかりませんが…」

「元々欲しかった車なんですか?」

「そんなところかしら…」

 

鳳翔がこの鎮守府に初の空母として就任してもう15年も経つ。聞けばあの箱スカは当時、ここの鎮守府に配属されてた提督のものだったという。就任当初、赤城と同様車に興味のなかった鳳翔だったが、当時の提督は随分と車にお熱だったらしく、頼んでも無いのに酒の席で色々教えられた。

特に自身の愛車であるハコスカについては毎晩のように語っていたらしい。

 

「『このクルマは戦闘機の生まれ変わりだ!』ってのが彼の口癖だったんです。この車のエンジンは実際に、設計に戦闘機のエンジンを参考にされた箇所もあるそうです。」

 

セダンであるPGC10、2ドアのKPGC10、そして次代に当たるKPGC110(ケンメリ)に搭載されたS20エンジンの源流は、零戦に搭載された『栄』エンジンの製造&改良、そして紫電等に搭載された栄の発展版である『誉』エンジンである。この二機を設計した旧中島飛行機の技術者、中川良一氏が手掛けたレーシングエンジンがプリンス・R380に搭載されるGR8型であり、それをベースに公道仕様にしたのがS20型なのだ。

 

「当時の提督は車だけでは無くその他乗り物の沼にも浸かっていて、色々な事を教えてくれました。その内にこの車の事がどんどん好きになって、自分でも買おうとお金を稼いでいたんです。」

 

そうして、目当ての箱スカを探す内に、今まで料理や家事、掃除関連の本が数冊だけ置かれていた鳳翔の自室には膨大な数の中古車雑誌が鎮座するようになった。

 

「そうこうしているうちに二年ほど経った春でしたかね、提督が…」

「ゴクリ…」

 

 

 

「『増車しちゃって収まらないから、鳳翔さんが良ければ箱スカ貰ってくれないか?』って言われたんです。」

「…え?」

「ふふっ、びっくりしましたよね。でも実際彼は増車してなかったんです。」

「というと…?」

 

その当時、提督の父親が病で倒れ、家業を引き継ぐ為に鎮守府を離れる事になったが、その家業とやらの業績はあまりよろしくなかったようで、箱スカを維持できないと判断し鳳翔に譲ったという。

 

「それを知ったのが彼がこの鎮守府を去って暫くしてだったんですよね。」

「そんな過去が…知りませんでした。」

「貴女が入ってきたのがその直後ですから、知らないのも無理はありません。話した事もありませんしね。」

 

膨大な予備パーツ、そして当時の希少なレーシングオプション等全て譲ってもらった鳳翔だったが、初めは工具の使い方すら分からなかった為、明石や夕張に教えてもらいながら手を加えていったと言う。

 

「今の提督さん、彼の旧友みたいで…時折お話を聞く限り、元気にやっているそうです。」

「提督も車好きですもんね〜。そのせいか鎮守府には変な車がいっぱい…」

 

この鎮守府には鳳翔の箱スカを含め、まだまだ『変な』車がいっぱい居るが、それは次以降にご紹介していこう。

 

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その後も浜辺で二人喋っていると、空が霞んできた。そろそろ夜明けの時間だ。朝の点呼までには戻らないとと慌てて箱スカに乗り込み、夜明けの海岸線を走る。ふと、思い出したかのように鳳翔が喋り始めた。聞くと、鳳翔は箱スカを維持する上で一つ大事にしている事があるという。

 

「このクルマは、乗る時間が無くても週に一度はエンジンを掛けるようにしてるんです。」

「そうだったんですか。でもどうして?」

「提督に酒の席で、『Rは乗ってナンボ、置物にするなんて罰当たりや。』って言われたんです。このテのクルマは乗らないと調子崩しちゃいますしね。」

 

近年、箱スカに限らず国産旧車が世界に評価されて値段が釣り上がっている。故に投資目的で購入する人も増えたのだが、そういった目的で購入する人は走らせることを躊躇う。が、機械である以上、可動部はできる限り動かさないと調子を崩してしまう。況してや、純レーシングエンジンを積んだR、走らさずに物置にするのは勿体無いと言いたかったのだろう。

 

そんなこんなで鎮守府に戻る頃には日が登り始めていた、また新たな一日が始まる。ガレージに箱スカを仕舞った二人は、それぞれの部屋に戻り、朝礼の準備を開始するのであった…

 

 

 

 

 

 




鳳翔×PGC10

外装:フルノーマル

内装:大森製メーター(スピード、タコ、水温、油温、油圧、電圧、燃料)、オプションバケットシート、同4点式シートベルト

エンジン:K4改ヘッド(ワークス最終期のヘッド。水路の拡張、燃焼室形状の変更が為された。)ワークス用ハイコンプピストン、同チタンコンロッド、日産オプションカムシャフト、同バルブ、同バルブスプリング、同オイルクーラー、クランクシャフトフルバランス取り、軽量フライホイール、オイル循環方式をドライサンプに変更、キャブレター変更(ソレックス40Φ→ウェーバー45φ)、明石特製フルデュアルマフラー

駆動系:純正OP4ミッション(レース用クロスミッション)、ORC強化シングルクラッチ、R31用R200デフ

足回り:F.R共に純正OP品のMK63ブレーキキット、ワークス富士仕様サスペンション改(明石作)

ワタナベマグホイール(14インチ、F7.5J/R8.5J)

月刊『アオバワークス』20xx年4月号 特集『鎮守府のお母さんが駆るのは零戦の生まれ変わり!?』より
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