今日は部屋でのんびりしていたら、生徒の一人である電ちゃんに呼び出されました。話を聞く限り車を買ったようなのですが…
「で、買ってきたと。」
「はいなのです。可愛いと思いませんか?」
ここはある鎮守府の駐車場。香取と電は目の前にある車を見ながら、片一方はため息、もう片方は目を輝かせている。
「何故この車を買ってきたんですか?電ちゃんならもっと可愛らしい…それこそラパンとか。」
「それだったら漣ちゃんとキャラ被っちゃいます。」
「あっ…そう言えばあの車はウサギがモチーフですもんね。」
とは言え…と言いながら香取は目の前の車をもう一度見る。モスグリーンの小さな車体に、無骨なオーバーフェンダーが付き、真っ黒な内装はどことなく殺風景なようにも思える。
「何故レビン、しかも初代なんて。」
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初代カローラレビン、通称『ニーナナレビン』はトヨタが大衆車であるカローラをベースにスポーツモデルに仕立てたモデルだ。本来1.2Lの2Tエンジンを搭載するカローラクーペに、上級モデルであるセリカ/カリーナに搭載された1.6Lツインカムの2T-Gエンジンを搭載し、足回りも強化、外装ではメッキ類が撤去され、前後にオーバーフェンダーが追加された。
元々、当時ラリー狂だったトヨタ自動車専務の一人が『セリカのエンジンをカローラに積んでみたい。』という発言で開発されたマシン。バランスなんぞ取れている筈もなく、フロントヘビーで乗り手を選ぶじゃじゃ馬だった。しかし、この車が世の中、そしてトヨタにもたらした影響はとてつもなく大きいものであった。
世界ラリー選手権(WRC)では、兄貴分に当たるセリカに変わり出場するようになり、販売終了後の1975年、この年の1000湖ラリー(フィンランド)においてトヨタ初のWRC総合優勝を果たした。国内ラリーでも上位を独占する事が多かった同車はその性能の高さからWRCでは3代目が登場した'79年までワークス出場する程であった。最終型は151Eと呼ばれる4バルブ(2T-Gは2バルブ)のスペシャルエンジンを搭載し、1.6Lで180psという当時としては異例のポテンシャルを発揮した。
市販車に置いても新車価格81万円強で、国産最速クラス(200km/h)が買えるとあるだけあり、大衆に広くツインカムの高性能エンジンが普及する切っ掛けを、これまたセリカ/カリーナと共に作ったとも言える。TE27から数える事4代、AE86型は漫画での活躍もあり、『ハチロク』という愛称は車が好きではない人達にも広く知れ渡る存在となった。挙げ句の果てにトヨタの新型スポーツカーの車名が『86』となった程、根強く支持されている。
そんなレビンの初代に当たるTE27だが、5ヶ月と3日しか製造されていない前期型が存在する。今回、電が購入したのはそんな'72年4月登録の初期型である。後の後期モデルと比較すると、ドアから前のフロントパネル一式、テールレンズ、オーバーフェンダーに違いが見られる他、後期型では排気ガス規制に対する対策が取られたこともあり、マフラー等排気系に互換性がないのが特徴である。
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「前期モデルを探してたのですが、中々見つからなくて…この間やっと見つけて買ったのです!」
「中古市場でも1.2回しか見た事ない前期モデルを当てるなんて、強運の持ち主ね。」
電が買った初期型レビンは、ホイールこそワタナベ・エイトスポークに変えられ、社外品のエアクリーナーが付いているが、それ以外はフルノーマルをキープしているコンクールコンディションな一台だ。
「腐りやすいとされる前後フェンダーの裾も腐りどころか錆一つなし…一体いくらしたの?」
「120万なのです…提督さんの知り合いって言ったら値引きしてくれまして。」
「え、提督さんってそんな繋がりあったりするの?」
提督と車業者の意外な繋がりに驚く香取。そこそこの頻度で秘書艦になるにも関わらず、そう言った類の話を一切聞かなかったからだ。
「提督が若い頃はこの型のレビン/トレノは80万位で買えたそうですよ。」
「それでも新車価格なのね…凄まじきニーナナの人気っぷり。」
後継になったTE37/47型のレビン/トレノは馬力はそのままに、レビンがHT、トレノがクーペとボディデザインを変えたのだが、重量が50kg増し、見た目も大人しくなった為、そのテの層からの関心を失ってしまった。更に追い討ちを掛けるかのように、搭載する2T-G/2T-GRエンジンが昭和50年排ガス規制に対応出来ず、僅か7ヶ月、256台の製造に終わった経緯を持つ。
その後、約1年の時を経て、排気ガス規制に対応させた2T-GEUエンジンを搭載し、クーペボディに統一されたTE51/61が登場。その後もTE55/65、そしてモデルチェンジしたTE71と続いたのだが、排気ガス対策がされて牙を抜かれたエンジン、そして、TE71ではボディ剛性の高いカローラLBの方に人気が集中した為、表立って競技で目立つ事はなかった。
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「レビンという名前の由来、知っていますか?」
「確か…旧英語で『稲妻』でしたっけ。」
「そうなのです!字は違いますが私と読みは一緒なのです。」
レビンは旧英語で『稲妻』、トレノはスペイン語で『雷鳴』と呼ぶ。字は違えど、レビンの読みは電と同じなのだ。小さい車体ながら、世界を股に掛けて活動したレビンを見て、自分を重ねたのかもしれない。ニーナナレビンが発売されたのは'72年3月15日。自動車業界が排気ガス規制による暗黒時代に突入する直前、一瞬光る閃光の稲妻のように当時の人たちは感じたのだろう。後継モデルでは味わえなくなったアンバランスと軽さ故のじゃじゃ馬っぷりは今でも色褪せない。
「私の竣工と発売日が近い事も選んだ理由の一つなのです!」
「えと、確か3月7日だっけ?」
「そうなのです!末っ子って意味でも一緒なんですよ。」
2T-Gが初めて搭載されたカリーナ/セリカに続き搭載された末っ子という面でも、このTE27と電に近いものがあるのかもしれない。
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今度、いつもの4人で出掛けに行く為に、これから明石の工場に持ち込んでクーラーを装着するという。好きで買ったなら兎も角、夏場に人を乗せるにはあまりにも向いていないからだ。
それを聞いた香取は少し疑問に思う。
「そういえば、雷ちゃんや暁ちゃん、響ちゃんは車を買う予定とかあるの?」
「うーん、暁ちゃんは買うと躍起になってるんですけど、残りの二人はそこまで興味は無さそうなのです。」
「へぇ〜。響ちゃんとか興味持ちそうな感じするけど…」
電自体もそれは思っていたらしく、疑問に感じているらしい。聞く話によると、響は最近サバゲーにハマっているらしく、車に構う余裕がないようだ。雷は…恐らく提督の世話焼きに夢中なのだろうと香取は自己完結した。が、まだ後一人…
「そもそも暁ちゃん、免許持ってるの?」
「…多分持ってないと思うのです。」
「あぁ…」
レディ(?)の将来を憂いつつ、曲者揃いの鎮守府ガレージにまた一台、曲者が追加された事を喜ばしく思う香取であった。
電×TE27
外装:フルノーマル
内装:フルノーマル
エンジン:エアクリーナー変更
駆動系:純正OPのLSD
足回り:ワタナベ8スポーク(14インチ、F/R共5.5J)